規格外の成長と新たな戦い方
食料の安定確保は、アステルたちの活動に確かな基盤をもたらした。しかし、拠点を築き、強者たちを束ねるには、食料だけでは不十分だ。アステル自身の成長が不可欠だとグランパスは考えていた。
グリモアタイタンの圧倒的な力は、まさに「動く経験値ジェネレーター」だった。セレスティンの畑を守るため、あるいは周辺の探索に出た際、グリモアタイタンがたまたま遭遇した高レベルの魔物を一蹴するたび、アステルの体内で何かが弾ける感覚があった。
レベルが目に見える形で表示されるわけではない。だが、日々、その変化は顕著だった。以前はすぐに息切れしていた長時間の作業が苦にならなくなり、重い荷物も楽々と運べるようになった。感覚も研ぎ澄まされ、森のわずかな物音や風向きの変化にも気づくようになる。
「アステル、君のレベルは急激に上昇している」 グランパスは、アステルの身体能力の細かな変化を観察し、的確に告げた。「私の鑑定では、君のステータスは驚くべき速度で伸びている。これはグリモアタイタンが倒した魔物の経験値が、君に流れ込んでいるためだろう」
だが、グランパスはそれだけで終わらせなかった。 「しかし、君は『スキル無し』だ。剣を振るう才能も、魔法を操る素質もない。正面から戦士や魔術師のように戦うのは、君には向かない」 アステルは、その言葉に内心で肩を落とした。やはり自分は「無能」なのか。
しかし、グランパスの言葉は続いた。 「だが、君には**『スキル無しの君にしかできない戦い方』がある」 グランパスは、アッと驚くべきことを口にした。「君は、その異質な能力で強者を従えることができる。ならば、君の役割は『強者たちを指揮し、最適な指示を出すこと』**だ」
グランパスの指導は厳しかった。彼はアステルに、ダンジョンの構造図を見せ、仮想の敵を想定させた。 「この状況で、グリモアタイタンをどう動かす? 敵の配置は? 味方の能力は? 考えるんだ、アステル! お前は剣を握るな。魔法を放つな。だが、お前の一言で、戦場の全てを支配しろ!」 最初は戸惑い、的外れな指示ばかりだったアステルも、グランパスの厳しい問いかけと、過去の戦術書を用いた座学によって、少しずつ状況を俯瞰する「戦術眼」を磨いていった。
そして、実戦訓練は、グリモアタイタンが担当した。 危険な森の中で、グリモアタイタンはアステルをあえて魔物の群れに接近させる。魔物が迫りくる極限状況で、アステルは恐怖に震えながらも、どう動けばグリモアタイタンが効率的に敵を排除できるか、瞬時に判断し、指示を出す訓練を繰り返した。 巨大な魔物の爪がかすめる一瞬で、アステルは危機を回避する身のこなしを無意識に体得し、次の指示を叫ぶ。グリモアタイタンは、アステルの指示に完璧に応え、驚くほどの連携を見せた。それは、まるで長年連れ添った熟練のパーティーのような動きだった。
アステルは、自分が単なる「テイマー」ではないことを、徐々に理解し始めていた。グリモアタイタンはただ彼の言うことを聞くのではない。彼の身を守り、彼の成長を促し、まるで彼を「王」として育てようとしているかのようだった。
「俺は……指揮官なんだ……」 夜空の下、鍛え抜かれた自身の身体を感じながら、アステルは呟いた。かつては「無能」と蔑まれた自分。だが、今、自分には、このグリモアタイタンが、そしてグランパスがいる。そして、その力で、自分は強者たちを動かし、新たな道を切り拓ける。
自己肯定感の底辺に沈んでいたアステルの心に、少しずつ、しかし確かに「王」としての自覚が芽生え始めていた。それは、最底辺からの脱却であると同時に、彼が真の力を手に入れ、新たな世界を築き上げるための、確かな一歩だった。




