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第一話【ラーメン屋なんて、できるわけない!】

父の死をきっかけにラーメン屋を引き継ぐ事になった三姉妹。試練を乗り越える事は出来るだろうか。

 冷たい空気が街を包み込む、とある夕暮れ時。一人の女子高生が、街角にあるラーメン屋の前で立ち尽くしている。かつて地元ではそこそこ評判であったその店は、豚骨スープの香りや、チャーシューを仕込む甘辛い匂いが通りを漂わせ、多くの人に愛されるラーメン屋であった。

しかし先月、この店の店主が亡くなってからというもの、シャッターは閉じられたまま、その香りも街から消えていた。店の名前は「麺屋ふくろうめんやふくろうてい」その看板をじっと見つめているのは、高校三年生の花宮亜子はなみやあこの姿である。看板には小さなふくろうのイラストが描かれていて、それは、亜子が幼い頃に描いたものであった。

「お父さんのラーメン、本当においしかったな……」亜子は寂しげに呟き、看板を見つめながら、優しい父の笑顔を思い浮かべていた。

「どうしてもやりたいの?」背後から声がして振り返ると、スーツ姿の長女、花宮結月(はなみやゆづき/26歳)が立っていた。結月は真剣な表情で、亜子を見つめている。「うん。私、やりたい。ふくろう亭…。お父さんのラーメンを残したい」亜子の声には、強い決意が込められていた。

「でも、ラーメン屋は簡単じゃないわよ。」

そう言って口を開いたのは、結月の隣にいた大学四年生の次女、花宮美咲(はなみやみさき/22歳)だった。

美咲は少し困ったような表情を浮かべている。「それでもいい!私、やりたい!絶対にやる!」亜子の瞳は、決意に満ち溢れていた。そんな気迫ある亜子の姿に、結月と美咲は思わず言葉を失った。

結月は静かにため息をついた。

「……正直、私は反対よ。お父さんがどれだけ大変だったか、私たち全員が知ってるはずでしょ、男のお父さんでさえあんなに苦労してたのに、私たちだけでどうにかなると思う?」結月の冷静な言葉に、亜子も美咲も押し黙る。しかし、亜子の目は真剣そのものだった。「誰が何と言おうと、私はやりたいの!」

結月は目に少し涙を浮かべながら亜子に向かって叫んだ。「ラーメン屋なんて、私たちにできるわけないっ!ふくろう亭はお父さんじゃなきゃできないんだよ!」

亜子は店の看板に目をやりながら姉二人に問いかける。「お姉ちゃん達、聞こえないの?」結月と美咲も同じ様に看板を見上げた。

「お店が泣いてる声が聞こえるの…、ふくろう亭が泣いてる声が…」亜子の頬を一筋の涙が光る。そんな亜子をじっと見ていた美咲が、腕を組みながら口を開いた。

「……、どうせ止めたって亜子は一人でも始めちゃいそうだよね。一番のパパっ子だったし。」

「美咲どっちの味方なのよ……」

不安そうな結月。美咲はやや強い口調で続けた。「だったらさ、みんなでやらない?ふくろう亭をさ! 三人で力を合わせれば何とかなるんじゃない? 確かに結月姉ちゃんの言う通り、私達だけでは厳しいかもしれないけどさ、でも最初から諦めるのもなんだか寂しくない? それに結月姉ちゃんだっていつか自分の店を持ちたいって言ってたじゃん! 」「私はラーメン屋じゃなくてカフェをやりたいって言ってただけよ…」

「カフェの方がよっぽど難しいと思うけどなぁ」その美咲の言葉に結月は両手で顔を覆い、どうしたら良いかわからないと言った仕草をする。

対照的に亜子は勢いよく両手を挙げ、満面の笑顔で美咲に抱きつきながら「やろう!やろう!ふくろう亭!」

その無邪気な亜子の姿に、結月と美咲は苦笑しながらも、どこか温かい気持ちが込み上げてくるのであった。

なんだかんだ言って、三人とも「麺屋ふくろう亭」の味と父のことが大好きだった。

 

亜子は店の屋根を指差した。

「あっ!ふくろう!」

結月と美咲も同時に見上げてハモる


「鳩じゃん」

 

二匹の鳩がピッタリと寄り添い、大きな一匹の鳥に見える。その二匹の鳩が薄暗い夕暮れ時に静かに鳴いた。

廃業か継続か、決断の期日が迫る中、こうして無謀とも言える三姉妹のラーメン屋奮闘記が幕を開けるのだった。果たして彼女たちは父の味を守り、店を再び軌道に乗せることができるのだろうか。


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