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とある星物語  作者: 黒星
56/81

第56歯 たくさんの言葉よりひとつの行動

「自分を推す…?あの女、脳みそに花でも咲いてんの?」

「宵狐」

「何?」

 涼風が熊も射殺すと噂されるその鋭い目つきで咎めても、彼より4つも歳下の宵狐は平然としている。宵狐は外套のフードを目深に被り直し、うんざりしたため息を吐いた。

「ま、誰がどう考えようとそいつの勝手だけど。そんなこと考えるだなんて、よっぽど暇なんだね」

 涼風は何も答えずに、そこで翼を広げている赤目の小鳥に目線を移した。

 翼に映し出された景色の向こうで、宵狐そっくりの顔をした彼の弟が平和を象徴するような微笑みを浮かべている。

 片やツイストクランチもびっくりの捻くれ者、片や美しいスクワットの如き素直。同じ遺伝子でこんなにも性格が違うのだから、人格形成において環境因子の影響とは恐ろしいものである。

「言っておくけど。俺は俺、姫魅は姫魅だよ?」

「何も言っていない」

「どうせ、俺はツイストクランチもびっくりの捻くれ者なのに、姫魅は美しいスクワットみたいに素直だとか考えてたんでしょ」

 宵狐はとにかく鋭くて、口数少ない涼風の考えさえも言葉なくして読み取ってしまう。

(あいつといっしょにいるんだから、そうなって当然か)

 口下手な涼風としては言葉にする手間が省けて有難いのだが、宵狐から返ってくる答えは皮肉ばかりでやや気が滅入った。

「はあ…脳筋だね、君は」

「脳は筋肉じゃねえ」

「だから。そこじゃないんだってば」

 宵狐より4つも歳上の涼風は二言目には筋肉を語り、食べたい物を尋ねればタンパク質と答える男である。

(あの人が碩士だから、彼は武の道を極めるしかなかったんだろうけど)

 元軍人というだけあって、涼風は鍛え抜かれた身体をしている。腕の太さは華奢な宵狐の2倍はあるだろうし、発達した胸筋は服の上からでもわかるくらいに厚い。

 しかし彼が軍人というならば、筋細胞に侵食された彼の脳でどうやって戦略を練るのだろうか。

 余計なお世話かもしれないが、宵狐は今も国の存亡をかけて闘っているガルディ国軍を心配せずにはいられなかった。

「はあ…涼風も長月もしっかりしてよ。俺たちはそれぞれの目的を果たすために手を組んでいるんだからさ」

 小鳥が映し出す景色の向こうでサラが照れ笑いを浮かべると、宵狐は厳しい顔つきになって頭を抱えた。

「長月は平和ボケしてきたね。魔法は以前より安定しているみたいだけど、あれじゃ虫も殺せないよ」

「おう」

「おう、じゃなくて。彼はもっと冷淡だった。あんなんでどうやって戦うの」

「自分を押し殺していたんだろ」

「なら、殺し続けるべきだ。俺たちは余計な希望を持つべきじゃない」

「世界は理不尽だ。自分のあり方くらい、自由に選べばいい」

 唐突にニートゥーエルボーを始めた涼風を見上げて、宵狐は奥歯をギリッと噛み締めた。

「俺たちの選択肢はとっくの昔に奪われている。国家警察は執拗に長月の身柄を求めているそうだよ。国をも巻き込む争いへのカウントダウンはもう始まっているんだ」

 宵狐は凍てつく海のように重い青色をした瞳で、サラの鮮血のように真っ赤な瞳を睨みつけた。

「涼風、君もそうだろ?」

 宵狐は鋭い目で振り向くと、涼風の屈強な大胸筋に手のひらを当てた。


「…というのが、サラくんの意見です」

 維千がひと通りの報告を終えると、平和維持軍本部の会議室はピンと空気を張り詰めた。

 メロウは頭の後ろをガシガシと掻きむしって、腹の底からため息を吐いた。

「んで、維千。おめえの意見は?」

「答える道理はありません。俺はもう隊長ではありませんから」

 維千は走り書きのメモをメロウに手渡すと、懐手をして壁にもたれかかり傍観者に徹した。

「おいおい…」

 メロウは困り果てた顔で会議室を見回したが、緊急招集とはいえ悲しいほどに隊長会議の出席率は低い。短期間で発展させた組織はその代償に教育と統率を欠いてしまったようだった。

(維千が頼れねえとなると…)

 メロウの視線を感じ取り、維千と師を同じくするイルカが寛容な笑顔で振り向く。彼は真新しい隊服に、サラの名前を刺繍していた。

「申し訳ありません。なかなか時間が取れなくて…」

「まあ…なんだ。お疲れさんだな」

「あはは」

 お母さん業を会議室に持ち込むなというのがメロウの本音だったが、隊長職に加え、魔法倫理学の講師に隊長候補生となったサラの指導…イルカの多忙さを思うとメロウは何も言えなくなった。

「メロウさん。サラは彼の本名ではないのですが…刺繍はサラで構いませんか?」

「あー…極力本名にしてくれ。偽名や愛称じゃあ、他の隊員との信頼関係や距離感に影響しなねないからな」

「そうですか…」

 イルカが歯切れの悪い返事をして困ったふうに笑うと、それまで静観していたチェンがやれやれと口を挟んだ。

「メロウ氏、それはやめた方がいい。サラくんは本名を呼ばれることに強い警戒心がある。彼が本名を名乗ることは、彼のパフォーマンス低下に繋がりかねんよ」

「警戒心?名前を?なんでだ?」

「まったく、君は。すべてを把握しろとは言わないが…最高指揮官なら、副隊長クラスまでの情報くらいは把握しておきたまえ」

 チェンの口調はいつにも増して刺々しい。バランスよく仕事をこなすイルカと違い、チェンは医師の仕事に重きを置いているから、緊急招集が不愉快なのだろう。

「おいおい、チェン。そうイライラしてくれるな」

「焦りもするさ。医務室は今、入隊3年目の朝顔くんひとりに任せているんだ。もし急患がきたとしても、医療魔法の使えない彼女では対応できないのだよ。僕は一刻も早く医務室に戻らねばならない」

「まあまあ、朝顔さんなら大丈夫ですよ」

「根拠は?」

「根拠も何も。顔に好奇心を貼り付けたお前に治療されるよか、安心感があるだろ」

 メロウが頭の後ろをボリボリ掻いてイルカに代わり答えると、ネルが呆れた目をして畳み掛けた。

「解体されそうなんだよ、お前だと」

 チェンは患者に安心感を与えたいだけなのだが、気味の悪い笑顔を浮かべて治療する彼は意に反して、生徒から医務室のマッドサイエンティストと呼ばれている。

「朝顔ちゃんは医務室の女神っすから!」

 浦島がすっきりした顔でうんうんと繰り返し頷くと、チェンは余程ショックだったのか、メガネのレンズがパリーンッと砕け散った。

 猫の手も借りたい現状を知りながら、平和維持軍最強戦力だった維千は相変わらず執事の職務に徹し、高みの見物を決め込んでいる。

「おい、維千。いい加減に…」

「じじいっ!北条隊長の頼れる後任がここにいるじゃないっすか!銀戌隊隊長、浦島桃太郎がパパッと事件解決っすよ!」

「おめえは一体何をワクワクしてやがるんだ…っだあー!どいつもこいつも、まどろっこしい!」

「まあまあ」

 イルカは縫い針を針山に刺して席を立つと、つま先立ちになってメロウからクシャクシャになったメモをひょいっと取り上げた。

「おやおや、不可解な事件ですね。僕もぜひ、北条元隊長の考えをお聞きしたいです。親友と…優秀な後任のさらなる成長のためにも…ね?」

 イルカが涙珠のような髪飾りを揺らし、小首を傾げてニコッと微笑む。維千はサッと表情を消して、冷ややかな能面顔になった。

「優…秀…!」

 浦島がキュンッとときめいて、キラキラした眼差しを維千に向ける。維千が白けた目をイルカに向けてお猪口を傾ける動作をすると、イルカが帽子を脱ぐ動作を返し、維千はついに観念して口を開いた。

「内通者の可能性については同意しますが、サラくんの対応はやや慎重過ぎるかと。それに人員不足で手が回りません。スピッツの関与が不明な現段階から隊長方を個人の護衛に回せば、他をイタズラに手薄にするだけです。むしろ、泳がせて敵の動向を探るべきではないでしょうか」

「よっ!さっすが北条維千!」

 あっぱれと書かれた扇子を扇ぎ、浦島が維千をよいしょする。

「…ということをあなたの口から聞きたかったのですが。浦島隊長?」

「きゃうっ」

 維千が満面の笑みになり、浦島がゾクゾクと震えあがる。浦島はメロウの背にパッと隠れると、顔半分を恐る恐る覗かせ、チワワのようにくりくりな目を潤ませた。

「ななな内通者を探りながらごごご護衛もできる方法なら、じじじ自分にナイスアイデアがあるっす!」

「ほう…それはそれは。早速、お聞かせ願います。浦島隊長?」

「うっす!」

 維千の鋭い眼光に浦島はピンッと背筋を伸ばすと、ニカッと八重歯を剥き出して笑った。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!٩( 'ω' )و

バタバタしておりまして…ただでさえ拙い文章がますます読みにくくなっているかもしれません。

ご容赦ください…ちょいちょい修正します( ;´Д`)


漫画版のネーム確認の時にでも…_(:3」z)_


さて、涼風と宵狐がついに登場しました!

嬉しいっ!٩(๑❛ᴗ❛๑)۶


そうなんですよ…蛍の回想ではいえ、あのかっこいい涼風兄様が…実は脳筋という…。

かっこいいキャラなんですけどね、筋肉要素強くて宵狐にいじられる役です。


敵なのか味方なのかようわからんお兄ちゃんコンビは、少しずつ活躍が増える予定です。サラも一応、お兄ちゃんだからトリオかな?

今後ともよろしくお願いします。

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