第55歯 悩みの答えはすでに心に持っているもの
「は?」
サラは何が起きているのか理解が追いつかず、頬に米粒を一粒つけてポカンとした表情を浮かべている。
「あ、サラさんだわ」
突然のサラの登場に、蛍が驚くことはない。彼はいつだって突然現れて、あれやこれやに巻き込まれるのが常なのだ。
(この人、本当によく食べるなあ)
サラが手にする巨大おにぎりに、姫魅は至って冷静だ。度肝を抜く大食漢も慣れてしまえば繰り返す日常の一部である。
しかし、サラのほうは自身の大食いを気にしているようで、頬をほんのり赤らめるとおにぎりを包みに戻して枕の下にサッと隠した。
「なーんだ、もう…パパラッチかと思ったよ。イタズラに驚かさないで欲しいな」
ふいに女性の声がして、蛍と姫魅がキョロキョロと声の主を探す。蛍は足元に目線を落とし、その光景にギョッと身を強張らせた。
「イヤアアアアア!!!」
「ウワアアアアア!!!」
蛍が飛び上がり絶叫して、姫魅もつられて叫び声をあげる。サラのベッド下から長い髪を乱した女が這い出して、ぬっと伸ばした白い手で蛍の足首をガッと掴んだ。
「ヒィッ!オバケ!オバケエエエエエ!!」
蛍はひとたまりも無く、知り得る中で最強の男に泣きつく。シャツの肩がずり落ちるほどしがみつかれて維千がにっこり笑うと、あたりの空気は不気味にヒヤッとした。
「俺は半人半妖です」
「チッガアアアアアウ!!!アンタじゃない!!アレ!!!アーレッ!!!」
「あれは人間です」
「そうっ!ニンゲンが!人間…人間?へ?」
維千は肌けたシャツを整えて、呆れた笑いを浮かべた。
「なはは。次はホラー映画に挑戦してみようかな」
すくっと立ち上がった女はパタパタと服の埃を払い、テカッと額を光らせて眩しい笑顔になった。
「さ…咲蘭さん!?どうして…」
咲蘭が主演を務める映画「愛駆ける君に」とその原作の大ファンである蛍にとって、この遭遇は予期せぬ幸運だが…休日の医務室に何故、彼女がいるのか。
「咲蘭さんがジョニー校生って噂、本当だったのね…」
「それにしたって、今日は学校休みだよ?」
蛍と姫魅はこそこそ話をしながら、ゆっくりとサラに目線を移した。サラはどこ吹く風といった表情だが、思い当たる節があるとすれば彼しかいない。
「彼、しばらく授業を休んでいたから。いっしょに勉強会をしていたの。ここなら人目につかないでしょ?」
咲蘭は得意げな顔をしたが、チェンの顔には迷惑千万と書かれている。人目につかない場所と聞いて主治医の城を提案したのは実はサラのほうだったから、サラは気まずそうにそそそっと目線を落とした。
「…で、何?」
「何?じゃないぞ、サラくん。君はもう隊長候補生だ。傍観者でいることは許されないよ」
チェンはそう言ってサラの頬についた米粒をつまみ取り、パクリと食べてしまった。
「隊長候補生っ?!」
姫魅と咲蘭が素っ頓狂な声を揃える。
「聞いてないよっ!君、本当に何者なの?!」
咲蘭が両手でパンッとサラの頬を挟み、ムニムニと捏ね回す。サラは迷惑そうに目を細めて、まるで好き勝手に撫で回される飼い猫のようだ。
ひとり置いてけぼりを食った蛍はピンとつま先を伸ばし、維千に耳打ちした…つもりが、彼のあまりに高い背丈に耳打ちならぬ胸打ちとなってしまった。顰めた声は意味をなさず、蛍の無知が周囲にダダ漏れになる。
「維千さん。隊長候補生って何ですか?」
「抜きん出て優秀な生徒は現役隊長2名以上の推薦を受け、試験に合格することで、平和維持軍の隊長を養成する特別教育を受けることができます。とはいえ、隊長候補生は講義よりも現役隊長の直接指導が優先され、生徒ではなく隊員の位置付けになります。仮所属とは違い、扱う任務を選ばず危険が伴うので、どんなに優秀でも希望してなれるものではありません」
「それってつまり…」
「サラくんは一騎当千の実力者ってことです」
「ほへー…」
「敵に回したくない相手ですね」
「敵…」
維千の言葉にサラが元々はスピッツ側であったことを思い出して、蛍はそこでムニムニとこねくり回されているサラに背筋をゾッとさせた。
「さて。例の植物人間について、君の見解を聞かせてはもらえんかね?」
チェンの懇願するような眼差しに、サラは意を決して重々しく口を開いた。
「俺もスピッツの全てを知っているわけじゃない」
「構わんよ。君が感じたことをそのまま話してくれたまえ」
チェンに手渡されたバインダーに目を通し、サラは額に手をやると沈思黙考した。
「1件目はティースの閑静な住宅地で目撃されるも、形を保てずに自ら崩壊している。2件目も同様だ。どちらも生物として未熟、あるいは無理な形態変化によって壊死したんだろうね。人形の植物となれば当然、魔法による形態変化を疑うのだが。それには魔法をかけられたなら必ずあるはずの、残留魔力がなかったのだよ」
「3件目の発生場所はティースの繁華街です。意図的か否かは不明ですが…通行人には目もくれず、俺たちを攻撃してきたことが少し気がかりです」
維千はサラが手にしているバインダーを覗き込んでふむふむと頷いている。チェンは子瓶に採取した植物人間の欠片をサラに手渡した。
「維千くんが持ち帰ったものだ」
サラが顔を寄せると小瓶の中の欠片はニュルニュルと体積を増やし、あっという間に小さな植物人間になった。それはサラに見つめられ、恥ずかしげにくねくねと身を捩っている。
「驚異の生命力はまんま植物だ。維千くんが放つ冷気は堪えるようだね。完全に凍結したところは死んでいたよ。炎にも弱いようだ」
「…ジョニーさんに似ている」
サラがぽつりと呟いて、チェンはニヤッと不気味に笑い、維千は抱腹絶倒し、姫魅はぷるぷると肩を震わせ笑いを堪え、慰鶴はぷりぷりと腹を立てた。
「笑っちゃダメだ、笑っちゃダメだ、笑っちゃダメだ…」
「おい、揚げまんじゅう!じーちゃんに失礼だぞー!」
「揚げまんじゅう…」
サラがポッと頬を赤らめて、少し嬉しそうに表情を和らげる。
「そこ、喜ぶとこっ?!」
サラの思いがけない表情に不意打ちをつかれて、咲蘭が思わず手に力を込めると、彼女の両手に挟まれていたサラの顔はそれこそ潰れた揚げまんじゅうのようになってしまった。
「サラくん。確かに感じたことをそのまま話せとは言ったが…大草原だな」
「しかし、この動き。確かにそっくりですよ?ジョニーさんと入れ替わったら、俺は見抜く自信がありません」
「なはははっ!君、ほんっと天然なんだから!」
咲蘭は照れ隠しにサラの背をバシバシ叩き、目に涙を浮かべ笑っている。サラは顔をくしゃくしゃにして笑う彼女をじっと見上げ、ほんのり頬を赤くするとそろそろと目線を逸らした。
(え…?これにそっくりって…)
うねうねと悶絶する糸ミミズの集合体のようなそれから、星中の尊奉を集める大魔法使いの姿なんか想像できるはずもない。ジョニーを知らない蛍はすっかり取り残されてしまった。
「…俺の考えだっけっどっ」
ようやく口火を切ったサラだったが、咲蘭に背中を叩かれて声におかしな強弱がついてしまい、グッと眉根を寄せると黙り込んでしまった。
「……」
「ごめん、ごめん」
咲蘭が両手をあわせて謝ると、サラはため息を吐いて静かに話し始めた。
「それの目的が不明確なうちは、スピッツの関与について断定はできない。もし3件目で意図的にこちらを狙ったのだとしたら、スピッツが関与している可能性は高い。そうだとしたら、相手はこちらの動きを何らかの手段で把握しているはず…念の為、君たちの行動を把握していた人間は洗い出した方がいい。ただ…俺が知る限り、スピッツには『融合』の固有魔法で人間と植物を合成できる者はいるが、魔法を使わずに植物を変化させる者はいない。3件目の攻撃が偶然だったとしても…初めの2件が試験段階だったなら、3件目は繁華街に場所を移し、より大きな被害を狙っているように思える。何にせよ、3件目に攻撃を受けた人間は行動範囲を限定し慎重に行動すべきだ。可能なら1人につき1人以上の隊長をつけて。護衛と発生メカニズムの解明に人手を割く分、パトロールの強化と捜査は国家警察との連携を検討すべき…」
サラは捲し立てるように一気に話すと、ふうっとひと息吐いて小瓶をチェンに返した。
「…少し疲れた」
いつも口数少ないサラがペラペラと饒舌に喋ったので、周りはポカンと開いた口が塞がらない。慰鶴は話についていけず、パカッと開いた口からもくもくと煙を吐き出している。
維千だけがサラに試すような眼差しを向けていて、サラはその鋭い眼光にゴクリと息を呑んだ。
「国家警察と協力することについては、イルカさんが何と言うかわかりませんが…まずは提案してみましょう」
維千は襟元のジョニックスに触れて画面を開くと、何やら打ち込んではため息を吐き、再度ジョニックスに触れて画面を閉じた。
「それでは。俺は隊長方に緊急招集をかけますので、これにて失礼します」
「まったく。隊長職を離れても忙しないね、君は。ワーカホリックかね」
「ご冗談を。あなたこそ」
「一緒にしないでくれたまえ。僕は使命感を持って適にサボるが、君のは恐怖心から来る過度な依存だ」
維千はにっこり微笑んで、チェンの指摘を歯牙にもかけない。チェンはやれやれとため息を吐き、早々に匙を投げてしまった。
「リフレッシュも仕事のうちなんだがね。もういい、さっさと行きなさい」
「なにを他人事のように…あなたも隊長でしょう。さっさと行きますよ?」
「な、何をする?!」
維千がじたばたするチェンをひょいっと肩に担いだ、ちょうどその時。検査室のドアがカチャッと開いて、朝顔がひょっこり顔を覗かせた。
「チェンさん。維千さんの検査結果ですが、前回より数値が…」
「朝顔くん」
「は、はい?!」
「医務室は君に任せた」
「はいいい?!」
「怨むなら、この仕事中毒者を怨んでくれたまえよ?」
「へ?へえええ?!」
「待って。彼らの護衛は?」
「何を仰いますか。あなたがいるでしょう?隊、長、候、補、生さん?」
ぐるぐると目を回してパニックを起こす朝顔と、サーッと青ざめるサラを置き去りにして、維千はチェンを担いだままとっとと医務室を後にした。
「もう!チェンさんったら、ほんっと人使いが荒いんですから」
朝顔は口を尖らせてぷりぷり怒ったが、ふわふわした雰囲気が抜け切らず今ひとつ迫力に欠ける。
「行っちゃった…」
維千の写真を撮ることができなかった蛍は白いページの目立つノートをパラパラと捲り、首から下げたカメラをサラと咲蘭に向けて構えた。
パシャッ
蛍がシャッターを切ると軽い音がして、カメラは被写体をパッと白く照らし出した。
「ちょっとちょっと!写真はNGだよ!事務所を通して」
謎の生物を模したカメラの上歯と下歯の間から、ぬっと出てきた写真を咲蘭がパッと取り上げる。
そこには不意打ちでも華麗にポーズを決める咲蘭と、警戒心丸出しの仏頂面を貼り付けたサラが写っていた。
「なはは!君、ひっどい顔ー!」
「……」
咲蘭に笑われてもサラはすまし顔で残りのおにぎりを頬張っている。否。よくよく見ればきゃっきゃとはしゃぐ咲蘭に、僅かに眉間を寄せて少し迷惑そうだ。
蛍は憧れの人から注意を受けて、しゅんと丸く縮こまった。
「すみません。今、課題で『大好き』を集めていて…」
「大好き?私が?」
咲蘭が満更でもない顔で聞き返すと、蛍はキラキラと目を輝かせて熱弁を始めた。
「感動を誘う名演技、小さなランウェイを歩み続けてきた実力派モデル!私は映画から知りましたけど、雑誌の堂々とした姿にありのままの力強さを感じて…私、咲蘭さんの大ファンなんです!」
「大…ファン…」
大ファンという言葉を耳にして、咲蘭が小さく動揺する。それは喜びというより、何か不安を感じているようだった。
「なんだー?蛍はサラって奴の大ファンなんだろー?蛍のにーちゃんに似てるとか何とか、言ってたじゃねーか」
「うるさいわね。スイーツ漬けのあんたと違って、私には大好きがたくさんあるのよ!」
「…俺はあそこまで無口じゃない」
サラがあたかも蛍の兄を知っているかのような口ぶりで答えたので、蛍はピタッと動きを止めた。
「あそこまで?」
「…君のお兄さん。無口って聞いたから」
確かに話したことはあるが…。蛍は何だかモヤモヤして色々と問い詰めたかったが、サラはすまし顔で答えるとそのまま口を閉ざしてしまった。
「んで?残像ってやつは撮れたのか?」
「残像?」
「あんた、逃げ足はえーんだろ?ふたりが写真を撮っても、残像しか写らないんじゃないかってさ」
「……別に逃げない」
「あはは…」
サラの苦々しい表情に、姫魅は弱々しく笑い返して場を濁した。
蛍がカメラを構えたら、サラは疾風迅雷の速度で逃げてしまうのではないか?と言い出したのは姫魅だ。そこから話は発展し、終いにはサラを撮っても残像で見切れるか、心霊写真のオーブのように光として映り込むだけではないかという憶測を呼んだ。
「サラさん、いつも他人を避けてるみたいだったからつい…よかった!サラさんはイルカさんを通さなくても写真OKなんですね!」
「…イルカは事務所じゃない」
蛍がはち切れんばかりの笑顔で飛び跳ねて喜ぶので、サラは苦々しい顔をしまい込みふっと目を細めて笑った。
「慰鶴。あんたこそ、お菓子ばっかり撮ってないで…他に何かないの?好きなもの」
「ねーよ。くっだらねー」
「それなら。お花、もっと撮りませんか?」
「あー?」
「慰鶴くん。お花も好きでしょう?」
「あー…んんー…」
しばらく渋っていた慰鶴も朝顔が柔らかに微笑んで植木鉢を手にすると、観念して彼女ごと花を写真に収めた。
「きれいに撮れました?」
「んー…まあ…」
慰鶴はうやむやに答えて俯くと、写真はすぐにポケットにしまいこんだ。
蛍は自分のノートと手にした写真を見比べて、困惑した表情を浮かべている。
「せっかく撮ったけど…やっぱりダメかしら…」
サラはおにぎりを食べ終えて、蛍の手からひょいっと写真を取り上げた。
「君、きれいだね」
「ぬあっ!?」
サラがポツリとこぼした一言に、咲蘭はチークで色付いた頬をますます赤くして狼狽えた。
「あ、ああ、ありがと!よ、よく言われる」
(咲蘭さんって正直だわ…)
(わあ…褒め言葉、素直に受け取れるんだ。僕はすぐに否定しちゃうから、少し羨ましいな)
(あいつ、戦場で真っ先に死ぬタイプだな)
(咲蘭さん、すてきです)
咲蘭が照れ隠しでサラの背中をバシバシと叩く度に、サラの眉根がじわじわと寄ってくる。放電までのカウントダウンが始まった気がして、蛍と姫魅はサッと身を強張らせた。
「今日は君がいるからかな?恋する乙女より輝くものはないんだから!」
(…って、サラさんのことが好きってことよね?!きゃーっ!これはスキャンダルよ?!咲蘭さんったら、正直すぎるわ!)
(え…ええっと。聞かなかったことにした方がいいのかな…)
(何言ってんだ、あいつ。じーちゃんの歯の方がずっと眩しいぞ?)
(きゃっ!咲蘭さん、大胆!)
咲蘭は気恥ずかしさで頭がいっぱいなのか、自分が口を滑らせたことに気づいていない。そわそわと落ちつきない周囲の視線がサラに集中した。
「君、恋してるの?」
サラのすっとぼけた顔に、その場がしんと静まり返る。咲蘭はようやく自分のうっかりに気付いたようで、ギクッと身を強張らせるとそのままフリーズしてしまった。
いつもは大人しい姫魅もこれには思わず突っ込んでしまった。
「いやっ!どう考えたって、サラさんに」
「なあああああ!ほ、蛍ちゃんがほら!恋する乙女みたいに輝いてるから、私も輝いちゃって!相乗効果ってやつ?なはっ…なはははは」
「へ?わ、私?!輝いてますか?!」
墓穴を掘った咲蘭が姫魅の指摘に苦し紛れの言い訳を被せると、真に受けた蛍がパアアッと目を輝かせる。
慰鶴は興味なさげにその場を離れると、医務室の冷蔵庫を開けて一心不乱にシャッターを切り始めた。どうやら彼の大好きはどうしても食うに限るらしい。
(人は見かけによらないなあ)
姫魅は雑誌や画面越しとはまるで違う咲蘭に、親しみを覚えて微笑んだ。スラリと背が高く小顔の咲蘭は大人っぽい雰囲気に近寄りがたさすらあるのだが、蓋を開けてみれば彼女は素直で褒め言葉に弱く、嘘がつけない無邪気な少女だった。
(サラさんは…相変わらず)
そそくさと荷物の片付けを始めたサラに、姫魅は乾いた笑いを浮かべた。彼の仏頂面は初めて会った頃より幾分か柔らかくなった気がするのだが、マイペースさは相変わらずで咲蘭が口を滑らせても彼が彼女の恋心に気付く気配はない。
「蛍。せっかくだから、その写真はふたりにあげたら?」
「ええ?だけどこれ、サラさんが威嚇する猫みたいな顔してるわよ?」
「どんな顔?!さすがにそこまで酷くはないと思うけど…あ、本当だ」
ふたりのやり取りに咲蘭はそわそわしたり、デレデレしたり落ち着かない。サラはどこ吹く風でおにぎりの包みを折りたたみ兎を作ると、ベッドサイドのテーブルにちょこんと乗せた。
蛍と姫魅の押し問答はしばらく続き、ついに痺れを切らしたサラは鞄を肩にかけるとバッサリ言い切った。
「いらない」
医務室に緊張が走り、慰鶴が冷蔵庫を漁る音だけがガチャガチャと響く。蛍と姫魅はゴクリと息を呑み、おずおずと咲蘭を見上げた。
「もーっ!贅沢だよ。本物が隣にいるから、写真はいらないって」
「そんなことは言ってない…」
「まあ?実物のほうがずっと美人だから、写真が紙切れに感じるのも無理ないかもしれないけど?」
「……」
きっとこれまでに何度もこういったやり取りがあったのだろう。お調子乗りの咲蘭に、サラは目を半眼にして呆れ果ている。
「咲蘭さんって、スーパーポジティブね…」
「それか、すごくナルシストだね」
大人気モデルを仕事にしているのだから、容姿に自信があって当然といえば当然なのかもしれないが。
咲蘭はおでこをテカッと光らせ、でれでれと情けない笑顔を蛍に向けた。
「あのさ、蛍ちゃん?」
「はい!」
「さすがに不意打ちの写真はまずいから…それ、私にちょうだい。代わりにもう一枚、3人で撮ろうよ」
「私も?!いいんですか?!」
「お友達と撮った写真なら問題ないでしょ?事務所には私から話しておくから」
「お…お友達?!」
「うん、お友達。課題、応援してるね!」
「わあ!ありがとうございます!」
咲蘭は髪をまとめあげると、ニカッと白い歯を見せて笑った。咲蘭の優しさに感極まった蛍はうっと涙を堪えると、ぎゅっと彼女に抱きついた。
まるで仲のよい姉妹のようなふたりに、サラはふっと目を細めて微笑んでいる。
蛍は姫魅にカメラを渡して、いそいそと前髪を念入りに整えた。
「あ、でも。大好きを集めてるのに、私が写っていいのかしら…」
「いいんだよ!どんな時もいちばんそばにいてくれるのは自分なんだから。むしろ、いっちばんに載せなきゃだよ」
「でも、私…」
仮初の自信で突き進む蛍は、咲蘭のように根っから自分に対して前向きにはなれない。強がりは自身のなさの裏返しだ。
自分は愛華のように智勇兼備ではない、涼風のように率先垂範でもない。維千のように天下無双でもないし、サラのような一騎当千でもなく、姫魅のように温良篤厚でもなければ、咲蘭のような沈魚落雁でなく、朝顔のような和顔愛語もない。
無力でちっぽけな自分は思い描く理想から程遠い。蛍は自分のことがあまり好きではなかった。
「ほら、笑ってごらんよ!」
「ええっと…」
憧れの咲蘭に促されて、蛍が思い切った笑顔を作ってみせる。窓ガラスに映り込んだ自分はぎこちない笑いを浮かべていたが、蛍は不思議と気持ちが軽くなって自然と明るい笑顔になった。
「いつもそばで見守ってくれて、自分をいちばんに理解して、求めればすぐに最高の笑顔をくれる…こんなファンサ、世界中の誰にもできないよ?推しにしなくちゃ、絶対損だよ」
咲蘭はテカッと額を光らせて蛍とサラをまとめて抱きしめると、「君もだよ」とサラに笑いかけた。
「いっくよー」
姫魅がパシャッとシャッターを切って、ぬっと出てきた写真を丁寧に引き出す。時間をかけてゆっくりと色付いた写真には、はち切れんばかりの笑顔になった蛍と裏表のない咲蘭の無邪気な笑顔、そしてほんのりと頬を赤くして照れ笑いを小さく浮かべるサラが映っていた。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます٩(๑❛ᴗ❛๑)۶
とある星物語、実は恋愛模様の複雑な話でして…各キャラの恋心がついに動き出しました!
ヤキモキする話ばかりですが、ハッピーエンドにしたいと思っております。拙い文章ではございますが、お付き合いいただければ幸いです。
今現在、片思い中だとか、両思いだけど大きな壁にぶつかっている真っ只中だとか…そのような読者さんがいらっしゃれば、応援や励みになれば嬉しいです。
推しカプがございましたら、ぜひ教えてください笑




