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とある星物語  作者: 黒星
50/81

第50歯 長いものに巻かれるのも悪くない

 夜空にパッと光の大輪が咲き、わずかに遅れて轟がドーンと体を震わせる。鮮やかな花火が祭りの始まりを告げて、会場のあちこちからワッと歓声が上がった。

「姫魅、早く!早く!」

「待って!待ってよ、蛍ってば!」

 蛍は絹のような髪をひとつにまとめ上げ、時々姫魅を振り返りながら人々の熱気に飛び込んだ。

 蛍を見失うまいと姫魅は必死になって人波をかき分けたが、背が低い上に華奢な彼ではなかなか前に進まない。

「ちんたらしてんなよ、姫魅」

 慰鶴は手に持っていた3本のリンゴ飴をすべて口に咥えると、ふらふらの姫魅をひょいっと肩に担ぎさっさと蛍に追いついた。

「あ…ありがとう…」

 きょとんとしている姫魅を乱暴に下ろして、慰鶴は返事の代わりにニッと笑った。

 高身長かつ体格のよい慰鶴はまるでブルドーザーだ。彼のそばにいれば、海が割れるかのごとく人波のほうが彼を避ける。

 慰鶴の後ろを余裕のある足取りで歩くのはネルと浦島だ。浦島のほうは賑わう屋台に目移りが止まらないが、ネルのほうはインプラントに帰ってからの報告で頭がいっぱいで先程からぶつくさ独り言が止まらない。

(浦島さんって、雰囲気がいつもオフだなあ。ネルもこんな時くらい、仕事から離れたらいいのに…)

 ネルのほうがやや歳上ではあるが、同じ新米隊長でこうも違うのかと姫魅は不思議がった。

「蛍ちゃん。ひとりで突っ走ったら、迷子になるっすよ!」

「じっとしていられませんよ!早くサラさんに合格を伝えな…きゃっ!」

 浦島を振り向いたまま足早に歩いていた蛍は、当然ながら勢いそのままに人とぶつかってしまった。衝突の原因は蛍の不注意だったが、先に謝ったのは相手方だった。

「ごめん」

「こちらこそ、ごめんなさい…って…へ?」

 聞き覚えのある声に蛍がパッと顔をあげると、目の前の彼は鮮やかな赤目を嬉しげに細めた。

「蛍ちゃん。合格、おめでとう」

「サラさん…サラさ〜ん!」

 兄から聞きたかった言葉を最も兄に近い存在から聞いて、蛍は感極まって泣き出してしまった。

 サラはわたわたと戸惑っていたが、最後はぎゅっと蛍を抱きしめて彼女の頭を優しく撫でてやった。

「おやおや、まあまあ」

 サラの背後からひょっこりイルカが現れ、不思議そうに首を傾げる。

「サラ。女性慣れしていないのに、自分からハグするのは大丈夫なんですね」

 イルカの余計なひと言にサラがひどく顔をしかめる。イルカは怯むどころかいたずらっ子の笑いを浮かべ、サラの両頬をむにっと摘んだ。

「元気がないときの、ぎゅっ」

「あはは。それでは僕も、ぎゅ」

 イルカは無邪気に笑うと大きく手を広げ、サラも蛍もまとめて抱きしめた。いつも険しい表情で他人を拒むサラが、今日は大人しくそれを受け入れる。

「あれ?どうしたんすか、サラくん。いつもなら野良猫みたいに威嚇してくるのに…なんか大人しいっすね」

 シャーッと猫の物真似をして訝しがる浦島に、サラは気まずそうにするとそっと目線を逸らした。

「よーしっ!自分も!」

 浦島はご機嫌に身を乗り出したが、サラは彼の腕を捻りあげると容赦なく地に叩きつけた。

「なんで…っすか…」

「ごめん。反射的に」

「おやおや」

 イルカは浦島の頭をよしよし撫でてやったが、浦島はブー垂れた顔でイルカからリンゴ飴を奪うとガリガリと噛み砕いてしまった。

「まあまあ」

 りんご飴が砕ける音に胃袋が刺激されたのか、サラは腹の虫をぐるると鳴らして頬をポッと赤らめた。

「待ってましたー!サラさん、お腹が空いたんですね!」

「待って…ました…?」

 蛍は意気揚々と腕まくりをして、フンッと鼻息を荒くした。その様子にサラが漠然とした不安を感じて表情を硬くする。

「ほ…蛍…」

 蛍の有言実行は一長一短である。姫魅は得意満面の彼女をハラハラしながら見守った。

「ふっふーん。私にまっかせてください!」

 蛍は受け皿にしたサラの手を両手で包み込んで、祈るように目を閉じた。懐かしい記憶と感情、五感のひとつひとつを味わうように思い出していくと、蛍の指の間からポウッと翡翠色の光が漏れてサラの手がずっしりと重くなった。

「どーぞっ!召し上がれ」

「…揚げまんじゅう?」

 蛍がにんまりしてパッと手を退けると、サラの手のひらに山盛りの揚げまんじゅうが乗っているではないか。

 「蛍。作りすぎだよ」と姫魅は呆れたが、サラは宝物を見つけた子供の目になって欣喜雀躍した。

「蛍ちゃん!すごい!魔法、使えるようになったんだ!」

 サラは力いっぱい蛍を抱きしめると、くるっと一回転して彼女を掲げた。

「さ、サラさん?!」

 想定を遥かに超える反応に、蛍は照れと嬉しさと驚きで大混乱している。

「努力が身を結んだんだよ!君は本当に頑張り屋さんだから。君のお兄さんもきっと男泣きして喜んでいるよ!」

「お、男泣き?しそうですけど…」

「頑張ったね!ゆっくり休ん…」

 他人を寄せつけぬサラのあまりの変わり様に、いつも執拗に揶揄ってくる浦島でさえ愕然としている。周囲の幽霊でも見たかのような顔に、サラはハッと我に返ると蛍からパッと離れて耳まで赤くなった。

「…揚げまんじゅう…ありがとう」

 サラは羞恥心に耐えきれなくなるとイルカの背後にスススッと隠れてしまった。

『ピューイッ!』

 ポチは蛍の周りをぐるぐる飛んで、引き続き喜びを爆発させている。

「おやおや、素直じゃないですね」

 イルカのほんわかした雰囲気に見守られ、サラは逃げるように俯きがちになると、誤魔化すように揚げまんじゅうを口いっぱいに頬張った。

「サラ。そんなに嬉しいなら、合格祝いに一曲歌ってはいかがです?」

「は?なに言ってんの」

 サラが揚げまんじゅうをゴクリと飲み込んで振り向くと、蛍が熱い視線を向けているではないか。その隣で何故だか浦島までもが期待に満ちた目をしている。

「合格祝いに!」

「だめ」

「聞きたいです!」

「いーやっ」

 バッサリと断られて、蛍がサッと顔に影を落とす。どんな頼みも聞き入れてしまうサラがこれだけ断るのだから相当嫌なのだろう。

「誰かに祝って欲しかったけど…無理を言ってはいけないわ。いいの。私、魔法を使えるようになったんだもの。大丈夫。ひとりで揚げまんじゅうパーティーでもしますから」

「何言ってるの、蛍。そのジョニックスは維千さんが…うぐっ!」

 蛍にブーツを踏みつけられて、姫魅が声にならない悲鳴をあげる。

 悲壮感を漂わせる蛍にサラは上を見て、右を見て、左を見て、下を見て遅疑逡巡していたが、か細い顔で頑として譲らない蛍についに根をあけた。

「…何を歌えばいい?」

「わあ!ありがとう、サラさん!」

「よっしゃあああ!」

 蛍と浦島が手を取り合い、くるくるとその場で回る。小さくガッツポーズをするイルカに、サラはジト目を向けて手のひらを差しだした。

「イルカが聞きたいんでしょ?あとでお代ちょうだい」

「しっかりしてる」

 イルカが口元に手をやりクスクス笑うと、サラはやれやれと小さく笑った。

 サラは体側を伸ばしながら少し離れた木陰に移動すると、深呼吸をしてから誰ともなく一礼した。

「さあ、始めようか」

 サラは大きく息を吸うと、眩しいほどの笑顔に早変わりした。

「はい、どうもありがとうございます。まさに立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花…そちらの美女からリクエストいただきました。まずは準備運動から参りまっしょーう!よろしければ、ご興味のあるちびっこのみなさま、足を止めていっしょに踊ってくださると大変心強いです。俺、寂しがりなんで…おっきい皆さまもね、手拍子なんかくださると俺がた、い、へ、ん、喜びます。手拍子、わかります?あはは、おばあちゃん…仏壇に手合わせるんじゃないんだから。子供の頃は大きかったものが、大人になるとね。不思議と縮こまっていきます。今夜は皆さん、おっきなちびっこです。手拍子は両腕を広げて、もっと大きく!もっともっと!日頃の鬱憤をぽいぽいぽーいっと放り投げるように!はい、ありがとうございます!さあ!思いっきり、楽しんで参りまっしょーう!」

 サラが両手を大きく振って、頭の上で手拍子をとる。

「なーんか、すっげー楽しそう!」 

 慰鶴はまさに大きなちびっこで、サラの元に駆け寄るといっしょになって手拍子を始めた。

「これは…前代未聞のキャラ崩壊だ。サラくんが饒舌じゃないか…」

「あいつ、敬語使えたんすか?」

「おやまあ、おやまあ」

 サラがリズムをとりながらくるっと一回転すると、道ゆく人がひとりふたりと足を止める。彼は子供たちを見つけると手招きして何かを耳打ちした。

「せーのっ!」

 サラが子供たちに目配せをして、誰もが知っている童謡を迫力ある歌声で披露する。子供たちはキャッキャと嬉しそうにはしゃいで、競うように大きな声で歌い出した。

「あれだけ嫌そうにしてたのに、自分で全力の前座をしているわ」

「燃える芸人魂…サラさんの意外な一面を見ちゃった」

 蛍と姫魅はポカンと開いた口が塞がらない。

「そうでしょうか?僕はこちらの方が彼らしいと思いますが」

 イルカが手拍子をしながら、ふふっと笑みをこぼす。サラは一曲歌い終えると子供たちひとりひとりにハイタッチをして、「ありがとう」と優しく微笑んだ。

「さて。リクエストいただきました曲は花筏。皆さんはご存知でしょうか。こちらは大人気恋愛小説を原作にした映画『愛駆ける君に』の主題歌です」

 子供たちと戯けていたサラが深く息をして、スッと立ち上がり目を伏せる。

「花筏とは水面に散った花びらが筏のように流れゆく様子を表します。花筏はこの切ない情景に、忘れられない大切な人を重ねた歌です」

 サラはそっと開けた目をどこか遠くに向けた。

「忘れられない、大切な人…」

 蛍の脳裏に長兄の優雅な微笑みと無骨な次兄の大きな背中が過ぎる。姫魅の閉じた瞼の裏にイタズラっぽく笑う双子の兄が思い浮かぶ。

 浦島は何かを決意するように口を一文字に結び、慰鶴はまるで痛みを堪えるように顔を険しくした。

 ネルは風に揺れる木々の緑に目を細め、イルカは散ることのない徒桜に思いを馳せた。

「出逢いがあれば必ず別れがあります。どのような別れであれ、縁あればいずれまた繋がるでしょう。人間、行き着くところは皆同じですから。それまでの寂しさをこの歌と共に…君の痛みがいつか優しさに変わること、そしていつかの再会を願って」

 サラがふーっと息を吐き切って、スッと目を閉じる。

「春風がそっと吹き抜けて

水に浮かぶは花筏

あなたの色に包まれなら

静かな時が流れる

夢に揺蕩う花の舟

流れの先で会えたなら

もう届くことのないあなたの笑顔が

今も胸で咲いている」

 響きのよいサラの歌声にまるで雷に打たれたような衝撃を受けて、道行く人々が思わず足を止める。サラの周りには圧巻の歌唱力に心奪われた人々で、あっという間に人集りができた。

 結局、サラは追加のリクエストを断りきれず、3曲を立て続けに歌い切った。

「ブラボーッ!」

 浦島が耳元で大歓声をあげるので、サラは耳を塞いでそそくさとイルカの陰に身を隠した。

「はああ…疲れた…」

「お…お疲れさまです」

 姫魅が差し出したお茶を一気に飲み干して、サラは首謀者であるイルカをキッと睨めあげた。

「身体はだるいし、目は霞むし…本調子じゃないってのに。蛍ちゃんをけしかけるだなんてずるい。もー…イルカ、お腹すいた」

 サラは余程怒っているのか、イルカの後ろで不満が止まらない。サラがこんなに不満を口にするなんて初めてのことだったから、イルカはしばらく目をぱちくりさせた。

「サラ。やはり体調が悪かったんですね?」

 イルカがやっとため息混じりに呟いて、サラがギクッと身を強張らせる。イルカの後光さす微笑みがサラにさらなる圧をかけた。

「ま、なんか食えよ。うめーぞ?」

 慰鶴はサラの赤目に臆することなく、いつの間にか手にしていたチョコバナナを彼の口に突っ込んだ。

 サラはイルカに責める視線を向けたまま、無遠慮にぶち込まれたチョコバナナをもぐもぐと頬張っている。イルカがほとほと困り果てると、サラは半分になったチョコバナナで射的の屋台を指した。

「あれ。取ってくれたら許す」

 サラの視線の先で白い虎のぬいぐるみが菩薩のような微笑みを湛えている。そこそこの大きさがあるそれは極小の的が別に用意されており、銃口から最も離れた位置に置かれていた。

 どうやら屋台の主人にぬいぐるみを渡す気はないらしい。

「なんか…あのぬいぐるみ、イルカさんに似てる…」

「あーっ!」

 姫魅の呟きをかき消したのは蛍の叫び声だ。気だるそうに客待ちをする3人の主人は、彼女がとある国に辿り着いてすぐ世話になったチンピラではないか。

「あんた達!あの時の!」

 チンピラたちは口に咥えていたラムネ菓子をポトリと落とし、立ち上がった拍子にガンッとテーブルに膝をぶつけ、涙目になって蛍をバッと指差した。

「なーっ!あんた、いつぞやのクソ生意気なお嬢ちゃんじゃねえか!こんの…」

「おやおや、まあまあ」

「おやおや、まあまあじゃないですよ!早くとっ捕まえてください!」

「それがですね…」

 イルカがふふふと穏やかな笑みを湛えると、チンピラたちが「だあーっ!」と大声をあげて何かを拒むように首を横に振る。浦島がニヤニヤするのを見て、彼らはしゅんと大人しくなった。

「一回」

 サラが射的1回分の銅貨をテーブルに置いて、チンピラたちはギクリと引き攣った笑顔を浮かべた。三つ編みがなくとも鮮やかな赤目と褐色の肌が、彼に呆気なくのされた日を彼らに思い出させる。

「おっ…兄ちゃん、やるのか?」

 サラがコクリと頷くと、チンピラたちはコルク銃と3発の弾を彼に献上した。

「……」

 サラが銃口に弾を詰め、眉根を寄せて息を止める。パンッパンッと放った玉は1発、2発と的をかすめた。

「惜っしいなあ〜」

 店主はほくほく顔…というより、ざまあみろといった表情を浮かべている。

 ただでさえ銃器が苦手なサラは手首を捻ったこともあり、3発目を当てる自信がない。

「…ナイフなら外さない」

 サラは裾から小型の投げナイフを取り出して、赤い目をぎらつかせた。

「ひいいいい!!!」

 顔面蒼白で震え上がる店主に、今度は慰鶴がポケットから取り出したマスコットの紐を引く。マスコットはみるみる間に膨らんで、重厚感のあるライフルに姿を変えた。

「ナイフはルール違反だろ。俺がやってやるよ」

「実弾もダメっす!」

 慰鶴がカチャッと構えたライフルの前に、浦島が慌てて立ち塞がる。

「力み過ぎですよ」

 しかめ面のサラからコルク銃を取り上げて、イルカは最後の1発を銃口に詰めた。

「サラが食べ物以外に欲しがるなんて…珍しいですね」

「その言い方、やめて」

「ふふ。当てたら許してくださいよ?先生とのお約束です」

 イルカはにっこり笑うと半分になったチョコバナナをサラから奪って口に咥え、コルク銃を右手に握って腕を的に向かってまっすぐ伸ばした。

 イルカからふっと笑顔が消えて、彼の呼吸がピタリと止まる。固まった空気を裂くようにパンッと音がして、的はパタリと倒れた。

「あれを…片手で当てた」

「イルカさんって、苦手とかないんすか?」

 ネルと浦島が愕然として立ちつくす。蛍と姫魅は目を輝かせて、イルカに盛大な拍手を送った。

「苦手?虫と…ネギ、でしょうか」

 イルカが手渡したぬいぐるみをサラは辟易した様子で受け取った。

「これで許してもらえますか?」

 イルカは困ったふうに笑っている。サラは不満げに小さく頷いて、ぬいぐるみを襟に差しこんだ。

「…まめイルカ」

「え。名前つけるんですか?って、それ僕ですか?」

 サラの胸元から悟りを開いたような白虎の顔が覗いている。不満げな顔はしているがぬいぐるみは気に入ってくれたようなので、イルカはふうっと安堵のため息をついた。

「サラ。あのさ…」

 突然、バチンッと音がして会場の照明が一斉に落ちる。真っ暗闇にあちこちから小さな悲鳴があがった。

「きゃっ!停電!?」

「暗くてよく見えない」

 パニックに陥る蛍と姫魅の後ろで、慰鶴は呑気に「月が綺麗だなー」と状況を楽しんでいる。彼の双眼は月明かりを受けて、ぼんやりと怪しげに光っていた。

「これじゃ、せっかくのお祭りが台無しっすよ…」

「浦島くん。君は楽しんでいていいのか?」

 保護監督側である浦島が蛍や姫魅よりも残念そうにしているので、ネルはやれやれとため息をついた。

「おやおや。サラの出番ですね」

 イルカはサッと手を振ってシャボン玉のように無数の水球を浮かべると、サラを振り向いて微笑んだ。

「サラさん。魔法、使えるようになったんですか?」

 蛍は期待に満ちた声で訊ねたが、サラは弱々しく首を横に振った。

「大丈夫。今のサラならできますよ」

 イルカはサラに背後から覆い被さると、彼の褐色の手に色白の手を重ねた。ふたりの手が呼応するようにポッと光って、溜まっていた多量の魔力がサラの身体を流れ始める。行き場を失った魔力がバチバチッと電流になって放出され、サラは苦しそうに顔を歪めた。

「サラ!溜め込みすぎです。苦しくなる前に言いなさいといつも言っているでしょう?」

「チェンさんの治験薬で、いつもより身体が楽だったから…」

「いつもよりって…苦しいときじゃなくて、元気なときと比べなさい。これでよく歌えましたね」

「プロの意地」

 サラの赤目が得意げに振り向いて、イルカはやれやれとため息を吐いた。

「サラ。ゆっくり息を吐いて、肩の力を抜いて。呼吸をあわせて」

「うん」

 サラが手に力を込めるとイルカが浮かべた水球にポッと灯が灯る。幻想的な光景に、あちこちから歓声があがった。

「魔法…どうして…?」

 ウララカに来てからというもの、サラは何もしていない。

「何もしないことで得るものもあるんですよ」

 イルカは優しい光を灯した水球を手のひらに乗せて微笑んだ。

「サラ、あのさ。よかったら、隊長候補生になりませんか?」

「はっ?」

 イルカの突拍子もない申し出に、サラの思考回路が停止する。

 隊長候補生とは平和維持軍の隊長を志し、現役隊長2名以上の推薦を受け、尚且つ試験に合格した者である。隊長候補生は専門科の生徒が軍で実習を積むのとは違い、学校での学習よりも隊長のもとで直接指導を受ける時間のほうが長く、隊員の位置付けになるので給与も出る。

 ありがたい申し出だが…隊長を目指すとなると、サラの経歴を考えれば二つ返事で答えることはできない。平和維持軍を正義とするならば、彼は悪として生きてきたのだから。

「俺じゃダメだ」

「サラだからいいんだよ」

「なんで俺なの」

「目が綺麗だから」

「は?」

「目が、綺麗だから」

「はあ?」

 予期せぬ答えにサラは顔を真っ赤にして狼狽えた。その様子がおかしくて、イルカは口元に手をやりクスクス笑っている。

「ご存知でしたか?医療魔法は知識や技術、特性、魔力量だけでなく、心の純度や助けたいという強い気持ちがないと使えないんです。簡単なものでも使える人間はそういないんですよ」

「…急過ぎる」

「急じゃありません。前々から考えていたんです。今より自由が効くから体調にあわせやすいし、より実践的な知識を得やすい…医療魔法を学びたいなら、良い条件だと思いますが」

「前々からって…いつから?」

「拾ったときから」

 イルカが後光さす微笑みを浮かべて、さらっと白状する。ずっと彼の手のひらで踊らされていたのかとサラは戦慄して、うんざりしたため息を吐くと目を半眼にした。

「本性表したな…イルカ」

「何のことやら」

 このどす腹黒い仏様は青い死神よりも厄介だ。サラが苦虫を噛み潰すとイルカはふふふと喜色満面に微笑んだ。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます٩( 'ω' )و

サラがついに隊長への道を歩み出しました!

おめでとう、サラ*\(^o^)/*

この展開、一部読者さんにはバレバレだったようで…いつもありがちな展開ですみません笑


さて、次章から朝顔のお話になります…スピッツも本格的に活動しますよ!

サラの大々的な登場はしばらくなしです…彼は巻き込まれ体質なので、ちょいちょいは出てくるかな?


どうかな…予定は未定です_(:3 」∠)_


下書きがなくなったので、これまでより不定期更新になります。

構成も組みながら書くので…どうなることやら。

これから先は未知の世界です笑


第50歯で一旦、投稿をお休みします。

少しバタバタしておりまして…申し訳ありません( ;´Д`)


楽しみにしてくださっている方がどのくらいいらっしゃるのか、わかりませんが…すぐに戻る予定です(*´Д`*)


不甲斐ない作者と先行き不透明な登場人物たちを今後ともよろしくお願いします。


以下、備忘録。

「花筏」


春風がそっと吹き抜けて

水に浮かぶは 花筏

あなたの色に包まれなら

静かな時が流れる


夢に揺蕩う花の舟

流れの先で会えたなら

もう届くことのないあなたの笑顔が

今も胸で咲いている


花明かりが導く夜は

眠りに着くか 花筏

さざめく波が囁いたなら

想い出をひとひらずつ


夢に揺蕩う花の舟

流れの先で会えたなら

もう触れることのないあなたの温もり

今も胸で咲いている


涕に揺蕩う花びらが

ひとひらひとひら流れゆく

遠くの風が運んできた

あなたの声が聞こえた


夢に揺蕩う花の舟

流れの先で会えたなら

もう届くことのないあなたの笑顔が

今も胸で咲いている


花筏 今も流れて

想い出と共に漂う

水鏡に揺れるあなたに 

ありがとう 

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