第49歯 いつだってなりたい自分になればいい
「ぶったまげたな!他人に言われたから?お前、何も考えずに天下のジョニ校に通っているのか?」
アシカの的を射た指摘がずっと頭をぐるぐる巡って、サラの足元が揺らぐ。彼には自分が生きている理由すらわからないのだから、学校に通う理由なんぞあるはずがない。
(俺は…何のために?)
昨夜は悶々としているうちに気付いたら寝ていて、今朝のサラはやや寝不足気味だった。
「サラ。どちらが好きですか?」
右手に深緑の浴衣、左手に紺の甚平を掲げて、イルカは悩ましげに笑っている。
サラはまるで爆弾でも解体するかのような鬼気迫る表情で熟考したが、待てど暮らせど答えは出ない。
ずっと支配的な環境下に身を置いてきたサラは、自分の感性で選ぶことが大の苦手だった。やっと捻り出す答えはいつも感性ではなく合理性による。
「動きやすいほう」
「ふふ。サラの肌は褐色だから、緑にしましょうか。きっと似合いますよ」
「動きやすいのが…」
「絶対、似合います! 僕の目を信じてください」
「…聞いて?」
サラと祭りに行くことが余程楽しみなのだろう。イルカにしては珍しく、サラの声が耳に入っていないようだ。
「おやおや、すみません。年甲斐もなく、はしゃいでしまいました」
「もういい。緑にする」
イルカがきょとんとした顔をふにゃっと照れ笑いに変えたので、サラはフッと呆れ笑いをこぼした。
「サラは一歩も譲らなそうでいて、スマートに譲りますよね」
「イルカは押しに弱そうで、濁流さながらに押しが強い」
「そうでしょうか」
「死神も同じことを言う」
「あはは。維千にまで言われてしまっては、返す言葉がありませんね」
イルカはパパッと甚平に着替えると、困ったふうに笑った。
「サラ。髪、切っちゃいましたね」
サラに手際良く浴衣を着せていたイルカが、寂しげな頸にはたと手を止める。腰まであったサラの後ろ髪は、手繰り寄せても10センチにも満たない。
「止むを得ずとはいえ、少し残念です。しっぽのようで可愛らしかったのですが…」
「……」
有り余った魔力が無意識に流れ込むことで、感情の高ぶりにあわせて揺れていた長い三つ編みを思い出し、サラは苦虫を噛み潰した。
「願掛けだったんでしょう?また伸ばすんですか?」
「もう必要ない。きっと叶わないから」
「そうですね。サラにはもう必要ないのでしょう」
イルカに言葉を繰り返されて、サラの胸がズキッと痛む。自分で言っておきながら、サラは無意識にイルカが否定してくれることを期待していたのだ。
(…甘えだ)
サラは自分にうんざりしたが、イルカはやはり彼の期待を裏切らなかった。
「きっと夢が叶う前触れですね」
イルカの前向きな解釈にサラはハッとしたが、持ち得る希望をすべて失い、温かい記憶の残像とはまるで別人になってしまった恩師を思い浮かべてサッと表情を曇らせた。
「…無理だ。あの人とはもう笑えない」
「早計ですよ。生きている限り、状況は刻々と変わりゆく。あなたが生きていることこそが、願いが叶う可能性なんですから」
重々しいサラの口ぶりとは裏腹に、イルカはあっけらかんとしている。その様子はまるでサラの心願成就が約束されているかのようだ。
(イルカとなら、もしかしたら…)
どんな時も悠然と構えるイルカに、サラの心が揺れ動く。窓の外で楔を刺すようにカラスが鳴いて、サラは淡い期待を慌ててかき消した。
「さあ、行きましょう。祭りの準備もありますから」
冴えない顔をしているさらに、イルカがポンッと手を打ってふふっと笑みをこぼす。
「しっかり備えないと…サラの食欲で屋台が軒並み、売り切れ御免に」
「な、ら、な、い」
まるで大怪獣の襲撃にでも備えるかのように言われて、サラは恥ずかしさに顔を赤らめると語気を強めて否定した。
「おやおや、まあまあ」
サラがらしくなく必死なので、イルカはおかしそうにクスクス笑っている。サラは諦めた笑いを浮かべて、先を行くイルカに寄り添うように肩を並べた。
サラは満開の桜を見上げて、途方に暮れた。祭会場となる寺の境内には、子供たちの笑い声があふれている。
(…何がどうしてこうなった)
サラはイルカといっしょに祭りの準備を手伝おうとしたのだ。ところがふたりが寺に踏み入るなり、イルカは年寄りたちに連れ去られてしまい、サラはサラで子供たちにもみくちゃにされてしまった。
サラはそのまま、親についてきた子供や祭りの始まりが待ちきれず早くに来た子供たちの子守をしている。
(まあ、いいか)
自分が幼いからか子供には好かれる性分だし、自分は子供好きだから文句はない。
「お兄ちゃん!」
「うぐっ!」
サラの背後から子供たちが抱きついて、そのままぶら下がろうとする。首に絡みついた細い腕に子供とはいえそこそこの重さが加わるものだから、サラは苦しくなってジタバタともがいた。
「は…な…して…」
鍛えられたサラの身体も、さすがに首ひとつで子供数人を支えるようにはなっていない。
しかし、子供たちのほうはサラが反応したことが嬉しいらしく、次から次へと容赦なく彼に飛びかかった。
「おいおい、そのくらいにしてやれ」
「わあっ!ガサツ大魔王だあ!」
「ハッハー!我こそはガサツ大魔王であるぞ!」
「わわっ!こっちに来た!逃げろー!」
蜘蛛の子を散らすように逃げ出した子供たちを突如現れたガサツ大魔王…アシカがイタズラっぽい顔で追いかけ回す。
(大丈夫かな…)
手加減のない彼女の気迫にとうとう泣き出す子供まで現れて、サラは駆け寄ってきた子供たちをやれやれと背中に隠した。
「おはよう、サラ。イルカはどうした?」
「祭りの手伝い」
ふたりの視線を感じ取って、向こうでイルカがニコニコと手を振っている。
アシカの腰のあたりからヒョコッと顔を覗かせたのは、5歳になるアシカの息子クジラだ。彼は爛々と目を輝かせると「いるかさん」と大きく描かれたスケッチブックをイルカに向かって掲げた。
(今の俺と少し似てる…)
クジラは声が出ないのだという。機能的にではなく、心理的な問題によるそうだ。
その姿は心理的な理由で魔法を使えない今のサラと少し重なるが、筆談用の筆記用具を掲げる彼の表情はサラと違ってキラキラしていた。
(…だなんて、クジラくんに失礼か)
サラが苦々しく顔を歪めると、クジラはもじもじと恥ずかしげにサラを覗き込んだ。
「おはよう」
クジラに目線の高さをあわせ、サラがニコッと微笑む。アシカもクジラもサラが笑うとは思ってもみなかったので、ハッと目を丸くして驚いた。
「なんだ、お前。寝ぼけてなくとも笑えるのか」
昨日の出来事が思い出されて、サラがうっと苦虫を噛みつぶす。
「…職業病」
「なんだそれ」
しまったと顔をしかめ仏頂面に戻ってしまったサラをアシカは無遠慮に笑う。サラが恥ずかしくなって下を向くと、クジラが「わらったほうがいい」と書かれたスケッチブックを掲げていた。
いざ笑えと言われると笑えなくなるものだ。サラがぎこちなく微笑むと、アシカはますます声を大にして笑った。
「サラ。お前、具合は?もういいのか?」
「は?」
「いや、イルカが気にかけていたんでな」
イルカの鋭い観察力には到底かなわない。正直なところ、サラは時々目が霞んで身体はだるくて仕方がなかった。
「…大丈夫」
「本当かあ?」
「大丈夫」
アシカが半眼になってサラを覗きこむので、サラは身体の倦怠感を悟られぬよう足にグッと力を込めた。
「ったく、イルカの奴…私に様子伺いさせるくらいなら、そばにいてやれってんだ」
「いい。付き合わせているのは俺のほうだから」
サラが心苦しそうに言うのが気に食わず、アシカは「はあん?」と彼にガンを飛ばした。
「雲みたいな奴だな」
「雲…?」
「お前は風任せに形を変えて、芯がない」
アシカの鋭い指摘にサラはぐうの音も出ない。
彼女の言う通り、サラは反射的に意見を折ってしまう。それはスピッツという抑圧的な環境下で支配的になってしまったガリヴァーノンと過ごすうちに、サラが身につけた癖だった。
「どうして君らはそう、ひとりで抱えようとするのかねえ」
アシカはチラッとイルカを見やり、長嘆息を吐いた。
最愛のひとを失ってから、弟はあの人の代わりになろうと彼女の理想を必死に追い続けている。あの人が蘇ったかのような微笑みがまさにそれだ。
イルカの心はもっと深いところにある。彼の傷はまだ癒えていないのだろう。
(傷というよか…ありゃ、呪いだな)
アシカは頼りない表情を浮かべているサラに苦虫を噛み潰して、彼の頭をガシガシと撫で回した。サラと出会ってからというもの、イルカはあの人の生き写しではなく自分の表情で笑うことが増えた。
「頼むぞ、サラ。お前が頼らなきゃ、あいつはお前を頼れないんだから」
「なんで俺?」
「さあ?イルカに聞いてみな」
アシカは腰に手を当てて、はたはた困ったと言いたげにため息をついた。サラは駆け回る子供たちをぼんやりと眺め、小首を傾げると頸にそっと手をやった。
「…イルカじゃ頼りないか?」
サラはパッと顔をあげると、ブンブンと横に首を振った。
「俺と関われば不幸になるから」
「なんだそれ。自意識過剰だぞ、サラ」
アシカは茶化すように言ったが、サラの表情は硬いままだ。
「…両親も、あの人もそうだった。未来でさえ、俺は1歩間違えれば不幸を撒き散らしかねない。イルカは好きだ。失いたくない」
「なんだ、お前。あいつのこと、そんな風に思っていたのか?てっきりあいつが愛を押し売っているのかと…」
アシカは素っ頓狂な声を上げたが、サラは自分の素直な気持ちに彼女よりも驚いていた。少し遅れて恥ずかしさが込み上げると、サラは頬をほんのり赤くした。
「安心しろ。あいつは強い」
アシカがサラの不安を鼻で笑い飛ばしても、サラはまだ浮かない顔をしている。
「サラ。恐怖や不安は大切だが、手綱をしっかり握っておけ。それらに心を委ねれば感情に支配され、いずれ自分を見失うぞ。失ったものを数えるより、見えないものに目を凝らすより…今、その手にあるものを全力で愛せ」
「手にあるもの…」
サラが真剣な眼差しで手のひらをじっと見つめるので、アシカはふんふんと満足げに頷いた。
「そう。今、手の中にあるものを…」
「…なにもないけど」
サラはきょとんとした顔で小首を傾げたので、アシカはズルッとずっこけた。
「…例えだ、例え。お前、天然か?」
「イルカにはよく言われる」
サラはどうもピンと来ていないようだったが、アシカの言葉を一言一句聞き漏らすまいときれいな顔を真剣にしている。
「真面目か」
「それもよく言われる」
「イルカが何でお前にこだわるのか、わかった気がするよ」
「何で?」
「それはイルカに聞け」
アシカは照れくさそうに目を逸らすと、サラの頭をポンッと軽く叩いた。
「がんばれー!」
「もうちょっと!」
ふいに子供たちが賑やかしくなって、サラとアシカがパッと振り返る。
寺は小さな山の麓より少し高いところにある。本堂の裏は傾斜のきつい下り坂になっているため、転落防止を目的とした柵が設置されているのだが、その柵に子供たちが人垣を作っていた。
嫌な予感がしてふたりがすぐさま駆け寄ると、柵の内側に生えた大木が坂の下に向けて伸ばした枝先で白猫が不安げに鳴いている。
「だんご?」
それを助けようと柵を乗り越え、必死に手を伸ばしているのは…。
「クジラ…!」
だんごの弱々しい鳴き声に、咄嗟に駆けつけたのだろう。柵の内側に書きかけのページを開いたままのスケッチブックが放り出されている。
「あのバカッ!」
震えるだんごをぎゅっと抱き寄せて、クジラがホッと安堵の表情になる。声援を送っていた子供たちから拍手が湧き起こり、皆がひと安心したその時。
クジラの足元がザザッと崩れて、彼の身体は宙に放り出されてしまった。
「クジラ!」
アシカが顔面を蒼白にしてタッと駆け出す。
サラはサッと彼女を追い抜いて、軽々と柵を飛び越えると、クジラの手首を掴んでその身体をアシカ目掛けて放り投げた。
「サラ!」
アシカは半べそのクジラを受け止めるなりパッとその場に下ろしたが、すぐさまサラに向かって伸ばした手は間に合わず空を切ってしまった。
「大丈夫」
サラはにっこり微笑んでピッと親指を立てると、崖に近い急坂をまっ逆さまに転がり落ちていった。
「んな…」
アシカは腰に抱きつくクジラの頭を撫でながら、わなわなと肩を震わせた。
「んな訳、あるかーいっ!」
先の見えない暗がりに、アシカの声が虚しく反響した。
「折れてはいない、か」
乱れた浴衣をザッと整えて、サラは拾った枝を右手首に添えた。懐から取り出したおやつ袋の紐を抜いて、左手と口を器用に使い右手首を枝ごと縛り上げると、ズキッと痛みが走ってサラは生きていることを実感した。
『ピューイ?』
「うん、大丈夫」
心配そうに覗き込むポチの顎を掻いて、サラはふふっと小さく笑った。あれだけサラに噛みついてきても、やはり自分が気になるらしい。
「魔法は好きじゃないけど…ないと不便だね」
サラは滲み出る汗を拭うと、生い茂る木々の隙間からわずかに覗いている空を見上げた。
「ツクモならひとっ飛び…」
チラッとポチに目をやって、サラはこれ見よがしにため息をついた。
「…とはいかないか」
潤んだ瞳でサラを見つめ返すポチは、猫ほどの大きさしかない。魔力を分け与えられない今のポチでは、とてもじゃないがサラを運ぶのは不可能だった。
「ちっさ」
ポチは気を悪くしたらしく、『ピィ!』とひと鳴きするとサラの右腕にガブリと噛みついた。
「いっ!?」
サラは言葉にならない声をあげてポチを引き剥がすと、腕を庇うようにしてうずくまった。
「君は俺なんだろ?!自分を粗雑に扱うな」
ポチはサラの胸元に潜り込むと、プイッとそっぽを向いてしまった。
ツクモは己の心だという。イルカの白虎が悠々堂々としているのに対し、サラの黒龍が幼稚でサラを無下に扱うことがあるのは、認めたくはないが心の未熟さの表れだった。
(つまり、俺が幼稚で自己軽蔑している惨めな奴ってこと)
サラは苦虫を噛み潰して項垂れると、大きなため息をついた。
「自力で登るしかないか」
『ピィ…』
「大丈夫だよ」
サラはポチの頭を撫でてやると、あちこち痛む体に鞭打って立ち上がった。
しかし、サラの視界はすぐに霞んでしまい、フラッと立ちくらみもして、サラはそのまま崩れるようにしてしゃがみ込んでしまった。
「…まあ、いいか。直にイルカが来る」
捨てた命と自暴自棄になっていることもあったが、イルカが血眼で探している姿を容易に想像できたから、サラにはこれっぽっちの不安も焦りもなかった。
「って…それじゃ、ダメなんだって!俺たちはいずれ消えなきゃならないんだから」
サラが頭を抱えて急に大声を出したので、少し離れたところで羽を休めていたカラスがビクッと身体を震わせた。
苦情を申し立てるようにカァッと鳴いたカラスをサラがキッと睨みつける。
「あーもう!うるさい、うるさい!わかってる、わかってるよ。少しくらい夢を見たっていいだろ?!」
カアカアと食い下がるカラスに、ガルルルとポチが牙を剥く。ポチが珍しく怒りを露わにしたので、サラはハッとなって心を落ち着かせた。
「後悔するって?君は手にしていた物を失ったから、再び得るのが怖いんだろ?俺はなかった物を手にして、手放したくないんだよ」
サラはそう言ってポチの頭を撫でてやると、何かを拒むように目を閉じて歌を口ずさんだ。
「早いね、イルカ」
歌を何周かして、サラはゆったりとした足音に目を開けた。
「もう少し聴きたかったのですが…早く連れ帰らないと、皆が心配のあまり山狩りを始めそうなので」
「心配?俺を?」
「ええ」
イルカは渇きを潤す慈雨のような声で答えると、にっこり微笑み返した。
「サラ。お怪我はないですか?」
「大丈夫」
「おやおや」
イルカが苦笑いを浮かべて、サラの固定された右手首に手を伸ばす。サラの襟元から『ピィ!』とポチが飛び出して、イルカはその勢いを受け止めきれずに尻餅をついた。
「おやおや、ポチ」
ポチはピューイピューイと甘えた声で鳴いて、イルカに全身を擦りつけている。その嬉しくてたまらない様子にサラは顔をしかめた。
「俺より手懐けてる」
「ふふふ。それだけサラは僕のことが大好きということですね。ポチはあなたの心ですから」
「…これだから、九十九は好きじゃない」
サラは耳まで赤くなると恨めしそうにイルカを睨んだ。サラを覗き込むイルカは、喜色満面にあふれている。
「魔法を使わずして、手首を捻るだけで済むとは…さすがは緋色の逆鱗」
「死ぬかと思った」
サラがボソッと漏らした呟きに、イルカは目を点にした。
「何?」
「サラからそんな言葉がでるなんて。僕はこのまま、サラが喜んで死んでしまうのではないかと冷や冷やしましたよ」
イルカが泣きそうな顔で言うと、サラはハッとした顔でポンっと手を打っていそいそと逃げようとした。
「こらこら」
子猫を咥える母猫のようにイルカがサラの襟首を掴んで引き戻すと、サラは観念したように両手をあげてふっと笑った。
「イルカ。俺はもう死のうと思わない。それでも消えなきゃいけない理由があるんだ」
「生きたいなら生きてください。命ある限り、絶対なんてありません。未来を選ぶのはあなたですよ、サラ」
イルカの物憂げな微笑みに、サラの胸が締め付けられる。サラは迷いを深いため息といっしょに吐き切ると、意を決して口を開いた。
「残酷だね。大切なものが壊れていくのはもう見たくないから。だからすべて手放すと決めたのに、そうと決めたら希望が舞い込んで…」
「サラ?」
「俺、みんなが好きだ。イルカが大好きだ」
儚い笑顔を浮かべるサラにイルカはしばしポカンとしていたが、やっと理解が追いつくと頬を赤くして狼狽えた。
「サラ。お前、あれだけ拒絶しておいて…」
「拒絶しているのに、イルカが離れないからだよ」
サラがこれ見よがしにため息を吐くので、イルカは「おやまあ」と眉を下げて笑った。
「イルカ。もし許されるなら…俺、医療魔法を学びたい。もう誰にも俺と同じ思いをさせたくないから」
「サラ!」
感極まってバッと抱きついてきたイルカを、サラが右手を庇いながらのバク転でサッと交わす。サラが2回転して着地を決めると、そこに現れたタマが彼の肩に前足をかけた。
「心の密度を高めれば」
イルカがパチンと指を鳴らすと、白虎の重さはズシッと2倍に増した。
「お…重いっ」
タマから抜け出せずにもたもたするサラをイルカがぎゅっと抱きしめる。
「サラくん。魔法は心のエネルギーを利用しますが、ツクモは心の動きを反映します。これを…」
「ツクモとの共鳴」
「正解。では、今あなたのツクモを形成している心と基本感情はなんですか」
サラがうっと黙りこんで、イルカは眉を下げてにっこり微笑んだ。
「サラくんは暗記科目と実技は申し分無いのですが、明確な答えのない科目に…」
「特に魔法倫理にめっぽう弱い。よりによって、苦手科目の担当がイルカだなんて」
「幸か不幸かといえば、間違いなく幸でしょう。医療魔法を学ぶのなら、魔法倫理学は避けて通れませんからね」
イルカの腕から逃れようとずっとじたばたしていたサラだったが、華奢な腕のどこにそんな力があるのかイルカはびくともしない。
サラは目を半眼にして、諦めのため息を吐いた。
「イルカ。いざとなったら、俺のことを殺して。俺はイルカに殺させないって約束する」
「うんうん。わかった、わかった。よしよしよしよし」
「本当にわかってる?」
「まあまあまあまあ」
イルカが嬉しそうに目を細めて、サラの頭をぐしゃぐしゃに撫で回す。
ホッとしたら急に空腹が襲ってきて、サラはぐうううと腹を鳴らすと頬を赤く染めて恥ずかしそうに俯いた。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます╰(*´︶`*)╯
長い長い下書きをギュッと圧縮したので、サラが自分の意思を取り戻していく過程がわかりにくいですね(´・ω・`)
自分を受け入れてもらえる安心感を得て、心を休めることもできて、少しずつ自我や希望を持ち始めたという流れ。
ちょいちょい書き直すかもしれませんが、ストーリーは変わりません。
人生の転機って良くも悪くも大事件が起きて、気付きを得る…ってこともあるのですが。
案外、日常のあちこちにヒントが散りばめられていて…忙殺されて見えなかったものが、ふとした時に見えて前に進めるなんてこともあります。
いっぱいになったところに新しいことは入りませんから。一度すっからかんにする必要がある…何もしないをするって大切ですね。
のんびりまったり行きましょう٩(๑❛ᴗ❛๑)۶
歩幅や歩く速度は人それぞれ、見てきた景色も見える景色も人それぞれですから。
マイペースな作者と登場人物たちを今後ともよろしくお願いします。




