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とある星物語  作者: 黒星
36/81

第36歯 どんな出逢いも自分次第で糧にできる

 汽車は走る路線を地上に戻すと、金切音を鳴らして寂れた無人駅で停車した。

「やっと着いたわーっ!」

 蛍は頭上で手を組んでグッと腕を突き上げると、身体をゆっくり傾けて体側を伸ばした。

「きゃっ!」

「わっ!蛍、止まらないでよ」

 蛍の凝り固まった背中に、姫魅がトンッと軽く追突する。

「あはは。ずっと座っていたからな」

 ネルがふたりの背中を押して数歩前に出ると、その後ろから浦島が山のような荷物を抱えて現れた。

「俺。荷物持ちじゃなくて、試験監督なんすけど」

 浦島が口を尖らせぼやいていると、年季の入った汽車の窓がガタガタと音を立てて開いた。

「蛍ちゃん。姫魅くん」

 せせらぐような声に呼ばれてふたりがパッと顔をあげると、イルカとサラが車窓から身を乗り出してこちらに手を振っていた。ふたりの目的地はベジタブランドのひとつ先の駅「ウララカ」である。

 名残惜しいが、彼らとは一旦ここでお別れだった。

「幸運を祈ります」

 イルカの穏やかな微笑みが、蛍と姫魅の心にかかった不安の霧をスゥッと晴らしていく。

「大丈夫」

 サラがパチンと指を鳴らして、姫魅のポケットをスッと指差す。

 蛍と姫魅がパァッと目を輝かせてポケットを覗き込むと、そこにはなかったはずの飴玉がふたつ入っていた。

「あはっ!手品!」

「魔法を使わずにどうやって?」

 サラがチラッと浦島を見やり、蛍と姫魅をちょいちょいと手招く。そろそろと近寄ってきたふたりをサラはぎゅっとまとめて抱きしめて、彼らの耳元で「合格したら教えてあげる」とささやいた。

 ご褒美ができて姫魅は俄然やる気が湧いたようだが、蛍はこのささやきがご褒美になってしまい、真っ赤にした顔の穴という穴から蒸気をあげて今にも昇天しそうだ。

「なに?なんすか?」

 浦島が荷物の山からひょっこり顔を出して、サラがしっと人差し指を口元に立ててみせる。それが癇に障って、今度は浦島がキイーッと犬歯を剥き、ふたりの不仲は埒が開かない。

 ネルは頭を抱えてため息をついたが、蛍と姫魅はふたりの様子がおかしくてクスクス笑いあった。

「もうすぐウララカでお祭りがあります。再試験が終わったら、みんなで遊びましょう」

「はいっ!」

「はい!」

「うっす!」

 蛍と姫魅、そして何故だか浦島が爛々とした目で溌剌(ハツラツ)とした返事をする。

 引率のネルだけは移動距離と滞在日数が増えることにげんなりしていた。

「浦島くんは何でそんなに嬉しそうなんだ…」

「あったりまえじゃないっすか!お祭りっすよ、お、ま、つ、り!わっふーッ!」

「こらっ!帰るでが再試験だぞ」

 一体、誰の引率なのか。小躍りしながら改札を抜ける浦島に、ネルの忠告は全く聞こえていない。

『ピイイィィ』

「あっ!」

 サラの腕を抜け出して、ポチが車窓からパッと外に飛び出す。4人との別れが辛いのか、ポチはまんまるの赤目から大粒の涙をポロポロこぼして号泣した。

「おやおや、サラ」

「…俺じゃない」

 サラは気まずそうにして、イルカの笑顔から逃げるようにスッと顔を背けた。

「ポチはこっち」

『ピギャッ!』

 サラがポチの尻尾を乱暴に掴んでそのまま鞄に押し込んでしまうと、姫魅と蛍はニタニタと意地悪っぽい笑みを浮かべた。

(あっ…寂しがってくれてる)

(サラさんが物理的に本音を隠したわ)

「…いってらっしゃい」

 サラがポッと頬を赤らめて、ボソボソと呟くように言う。蛍と姫魅は「行ってきますっ!」と元気よく声を揃えた。


 寂れた無人駅を出て、何もない農道を進み続ける。目に映るのは見渡す限りの畑とその向こうに連なる山々、抜けるような青空を悠々と飛び回る鳥たちの姿だ。

 ベジタブランドなんてテーマパークのような響きをしているから、姫魅はもっとわくわくするような光景を思い浮かべていたのだが…とんだ期待はずれだ。

 しかし、この何もない風景が蛍には真新しく映っているようで、彼女は頻繁に足を止めては畑の作物に目を輝かせ、ネルに魔法とは関係ない質問を繰り返している。

「ネルさん。これは…葉っぱを食べるのかしら?それともこれから実がなるのかしら?」

「ああ、ジャガイモだよ。食べる部分は地中に埋まっているんだ」

「ジャガイモが地中に?!」

「地中じゃなきゃ、どこになるの?」

 蛍が素っ頓狂な声をあげて、早く先に進みたい姫魅はわずかに苛立ちを滲ませた。

「どこにって…」

 蛍が眉間に皺を寄せ、うーんと頭を悩ませる。彼女が知っているジャガイモはどれも調理済みで、果実のように白くて丸くて柔らかい。

「木?」

 姫魅は愕然としたが、もしかしたら蛍が生まれ育った土地にはジャガイモ畑がなかったのかもしれないとすぐに思い直した。

 それでも料理や買い物をしていれば、市場のジャガイモには土がついているし、古くなれば芽だって出てくるから、木に実ると答える人間は極々少数派だろう。

(蛍の出身ってどこなんだろう)

 ジャガイモだけじゃない。

 このご時世にこんなにも魔法を知らないだなんて正直なところ信じがたい。

 ずっと気になってはいるのだが、姫魅自身が出身を訊かれると困ってしまうので、何となく聞くに聞けずにいた。

 こうしている間にも蛍は作物の名をネルや浦島に次々と尋ねている。好奇心が強いのは彼女の長所だがさっきからこの調子で、ネルも浦島も表情に疲労の色が見えた。

「ほーたーるー、早く行こうよー」

「ねえ、姫魅?」

「なにー?」

「人間も畑で育つのかしら?」

「何言ってるの。そんなわけ…」

 姫魅が億劫そうに顔をあげると、確かに蛍の目の前に人間の腰から下が生えている。

「何それ?」

「わからないから訊いてるのよ」

 蛍が恐々として突くと、それはビクッと驚いて急にバタバタと動きを激しくした。

「うわっ…」

「生きてるわ…」

「だはははっ!何すかそれ!」

「だからぁっ!わからないから訊いてるんです!」

「このサロペット…この間抜けな鶴のマークはもしかして…」

 ネルは嫌な予感がして苦虫を噛み潰すと、そこでゲラゲラ笑い転げている浦島に目配せをした。

 浦島はまだ笑いが収まらず、ヒーヒー言いながらそこに生えている右足を両腕で抱き抱える。ネルは左足のほうを掴んで「せーのっ」と掛け声をかけると、一気にそれを引き抜いた。

「ぷっはーっ!」

「お…?」

「おお…?」

「大きな男の子が抜けたっすー!…って、そんなことあるかーいっ!」

 バラバラと土を撒き散らしひっこぬけたのは、太陽のような髪色をしたタレ目の少年だった。姫魅や蛍と差して変わらぬ年齢に見える彼はふたりよりもずっと背が高く、体格の良さからやや大人びて見える。

「…やっぱり君か」

「わあっ!ネルさんに浦島さん。そっちのおふたりさんは…ま、何でもいーや。やっほー!」

「や、やっほー…?って誰?」

 蛍は「知ってる?」と姫魅に顔を向けたが、彼もまた同じように愕然としていて心当たりはなさそうだった。

「ん?知らない?慰鶴くん」

「知らないわよ」

 蛍が冷たく返してもちっとも気に留めることなく、慰鶴は身体についた土をパタパタと払っている。

「そっか。んー…ま、初対面だもんなっ」

「えっと、もしかして…君、とっても有名人?」

「いんや?」

「ええー…」

(何なの、こいつ…)

 姫魅がオロオロと戸惑っても、蛍がヒクヒクと顔を引き攣らせても、慰鶴はポケットから取り出したチーズケーキを何食わぬ顔で頬張っている。

「慰鶴くん。畑に突き刺さって、なにをしてたんすか?」

「えー?見てわかんない?」

「さっぱりわからないっす」

「んーとね…あれ?なにしてたんだっけ?」

「えええー…」

(ほんっと、何なの?こいつ!?)

 慰鶴は引き気味の視線を浴びてもヘラヘラしていたが、ハッと何かを思い出すと戦場にでもいるかのような鬼気迫る面持ちになった。その気迫に蛍も姫魅も、浦島でさえもゴクリと唾を呑み、背中にゾワッと悪寒を走らせる。

 慰鶴は残りのチーズケーキをゴクリと丸呑みにすると、重々しく口を開いた。

「そうだ、俺。ドンさんのお客さんをお迎えに来たんだった」

「へ?」

「は?」

「わふ?」

 慰鶴が低くした声に不釣り合いな言葉を発して、固唾を呑んだ3人はすっかり拍子抜けしてしまった。

 どこをどう間違えれば客の迎えで畑に上体を突っ込むのか。その客というのはモグラの類か、あるいは地底人なのだろうか。

「そんなことだろうと思ったよ」

 ネルは髪をかきあげて長嘆息を吐くと、責めるような目を慰鶴に向けた。

「慰鶴くん。お客さんというのは、俺たちのことじゃないか?」

「んんっ?」

 なにも難しいことは訊かれていないのだが、慰鶴はニカッと笑顔になるとそのままフリーズしてしまった。

 時が止まったような静寂をネルのため息が破った。

「君のことだ。どうせまた、話を聞かずに飛び出したんだろ。大体、お前は…」

 ネルがぶつくさ言いだして、姫魅が「始まった」と呆れ顔になる。

 慰鶴はすっとぼけた顔をしたが、徐々に記憶が鮮明になると、笑顔を強張らせてダラダラと冷や汗をかき始めた。

(そういや…ドンさんがご褒美にお菓子くれるって言うから、急いで飛び出してきちゃった…お客さんって何人で、どんなひとだったっけ?えーっと、えーっと…)

 いくら考えたところで、そもそも聞いていないことを思い出せるはずがない。慰鶴はパッと吹っ切れた顔をして、頭の後ろに手を組むなりくるっと踵を返した。

「ドンさんに会いにきたんなら、こっちだよ!」

 慰鶴の清々しい笑顔に、蛍は不信感を募らせる。

「ネルさん。あれ、ついて行って大丈夫なんですか?」

「うーん…まあ、彼は野生動物さながらの方向感覚を持っているから、適役といえば適役だな」

 ネルは見渡す限りの畑に目を細めて苦笑すると、遠くで大きく両手を振っている慰鶴のほうへ歩き出した。

「早い!?いつの間にあんなところまで…」

「慰鶴くんの瞬足は野生動物っすから。ほら、急がないと置いてかれるっすよ」

 浦島は乾いた笑いをこぼすと「これじゃ野外訓練じゃないっすか」とブツブツぼやき、目に絶望の色を浮かべてさっさと足を早めた。

「待ってよ、慰鶴くん!」

「んー?おせーぞ、もやし」

 慰鶴が禁句を口にして、空気がサーッと凍りつく。

「もやし?もやしって言…」

「ちゃんと食わねーと。力が出ねーぞ?ほら」

 爆発寸前の姫魅の口にポケットから取り出したケーキをぶち込んで、慰鶴は人懐っこくニカッと笑った。 調子の狂った姫魅は大人しくケーキを頬張って、彼の不機嫌面はその幸せの味に気がつけばホクホク顔に変わっていた。

「なあー?ところてん、あんたも食うー?」

「ところてん…?」

 蛍の長い髪がサァッと風になびいて、蛍はそれが自分を指しているのだと理解する。

「いらないわよ!毬栗あたま!」

 蛍は怒りで顔を紅潮させ、ありったけの声で叫んだ。慰鶴は「俺、栗だって!うまそー!」とヘラヘラ嬉しそうにしている。

「…変な奴」

 サラからもらった飴玉を口に放り込んで、蛍はガクッと肩を落とした。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!٩(๑❛ᴗ❛๑)۶


慰鶴くん、どんな子かおわかりいただけましたでしょうか…そう、彼はアホなんです!

アホなのですが身体能力と勘は野生動物さながらに鋭い…カッコイイ慰鶴くんもいずれ出てきますので、楽しみにしていてくださいヽ(^o^)


あっさりした内容になっちゃいました…拙い文章がいつにも増して読みにくいかもしれません。

わかりにくいところ、おかしなところがございましたら教えていただけると幸いです。


次歯はイルカとサラのイチャイチャです笑

癒しをお届けできれば、と思います╰(*´︶`*)╯

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