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とある星物語  作者: 黒星
26/81

第26歯 遠回りでも自分で選んだ道が最善

平和維持軍本部の第一会議室。つい先日、祖国奪還、薔薇色のキャンパスライフへの第一歩を踏み出したこの部屋で、蛍は早くも終わりを迎えようとしていた。

「ふっごーかく」

「維千、おめえ。なんでそんな嬉しそうにしてんだ」

嬉々として凶報を告げる維千に、メロウはぽりぽりと頭を掻きむしって呆れ果てている。

「やだなあ、メロウさん。俺はいつも通りですよ?嬉しいのではなく、結果に興味がないだけです」

「ったく、おめえは。蛍ちゃんを応援する気、あんのか?」

「応援して何になりますか?労力の無駄遣いですよ。どの未来のためにどう行動するのか、決めるのは蛍ちゃん自身です。他人が何をしようが、他人を変えることはできませんから」

「応援されたら力が湧くだろ」

「賛同しかねます。勝手に期待されても迷惑なだけでしょう。それに俺は、彼女を信じると言っただけですよ」

「おめえなあ」

メロウは苦虫を噛み潰して、この冷酷無慈悲な男から共感を得るのは辞めにした。残念ながら、これが維千のいつも通りである。

「きーっ!あんのっ、悪魔!何が不合格よっ!合格させる気なんて、なかったんじゃないの?!」

「おやおや、まあまあ」

維千の鼻歌に混じって聞こえてくるのは、暴れ馬のように怒り狂う蛍の咆哮とそれをなだめるイルカのせせらぐような声だ。

フンスッフンスッと鼻息を荒くする蛍に、維千が不思議そうに首を傾げる。

「試験官の職務は合格させることではありません。適切な採点、そして不正を見逃さないことです。むしろ、俺の働きは褒められて然るべきでは?」

「その減らず口…1発、殴らせろーっ!」

「おやまあ、おやまあ」

維千が火に油を注いで、蛍が憤怒の化身と化す。さすがのイルカも猛り狂う彼女を持て余しているようだった。

「姫魅!あんた、最強の魔法一族なんでしょう?!あんなヘラヘラした奴に何で負けてんのよ?!」

蛍に胸ぐらを掴まれも、姫魅はうんともすんとも言わない。されるがままブンブンと振り回される彼はまるでもぬけの殻だ。

「アハハ…退学かな…ネルになんて言おう…このままビーモくんとして生きようかな…ハハッ…それもいいね…」

「よくないわよっ!」

蛍は姫魅の口から抜け出た魂を押し戻して、封でもするかのように彼の唇をギュッと摘んだ。

混沌とする会議室に一石を投じたのはサラだ。

「準備期間が短過ぎる。彼女は十二分に努力した」

いつも寡黙な彼が凄みを利かせた声で言うので、その場にいる全員が彼の険しい表情に注目した。

「なんだ、小僧。怒ってるのか」

「うん」

サラはズカズカと維千の前に歩み出て、その高身長をずいっと見上げた。片や185㎝超、片や165㎝超。ましてサラはどちらかといえば女顔なものだから、彼がいくら小柄に不釣り合いな迫力を出しても猛獣にたち向かう小動物の印象は拭えない。

「怒りの矛先を間違えていませんか?俺は職務に忠実、不正を働いたのは彼女です。せっかく努力した自分を裏切ったのは彼女自身ですよ?」

「達成不能な課題が彼女を追い詰めた。果敢に挑んだ彼女を無下にするその態度、腹が立つ」

「いっしょに落ち込めば、ご満足いただけますか?」

いがみ合うふたりに大荒れの予感がして、会議室の空気がぴんと張り詰めた。

嵐の前の静けさの中、イルカだけが潤んだ目元を袖でぬぐい、すすり泣きをしている。

「サラが他人を想って、あんなに感情を剥き出しにするなんて…」

「さっきから何、泣いてんだ?おめえは」

「嬉しいんですよ、メロウさん。ずっと自分を押し殺してきたサラが…はっきりと意思表現をしているんですから」

「よくわかんねえが…喜んでいる場合じゃねえだろ、イルカ。維千にびびらねえたあ、大したもんだが…吹雪も落雷も、俺はごめんだぞ」

「おやおや」

「おめえ、飼い主だろ。さっさと何とかしてくれ」

やれやれといった表情で両手をあげるメロウに、イルカは「はいはい」と眉を下げて笑う。イルカは維千とサラの間に割って入ると、ふたりの頭にぽんっと手のひらを乗せ、後光さす微笑みをにっこり浮かべた。

「まあまあ、おふたりとも」

頭に乗った温かい手をひんやりと冷たい手で退けて、維千は不機嫌としか捉えようのない冷ややかな表情をイルカに向けた。

イルカはそれをちっとも不快には思わない。これが維千の困り顔で、彼が真剣に悩んでいる証であることを知っているからだ。

「そうは言っても…イルカさん。俺は間違っていますか?」

「維千さん。あなたは間違っていないかもしれませんが…言葉に思いやりがなければ、正しいことでも良いことにならないときがあるんですよ」

「はあ、難解ですね」

「ええ、とても」

肩をすくめて途方に暮れる維千に、イルカはふふっと笑みをこぼした。

「サラは蛍ちゃんのがんばりをずっと見てきましたから、維千さんの態度に腹を立てるのは無理もありませんが…情とは切り離して考えないと」

「…ごめんなさい」

サラの三つ編みがしゅんと悄気て、イルカが彼の頭を優しく撫でてやる。意地悪な笑いを浮かべた維千がいっしょになって撫でてみたが、そちらのほうはすぐさま振り払われてしまった。

「ったく。どいつもこいつも血気盛んで、おじさんは参っちまうよ」

「ご無理をなさらず。おじいさん」

「おじさんだっ!」

維千の余計な一言に、メロウの太い声が乱暴に返した瞬間。会議室の扉がバンッ!と壊れる勢いで開いた。

「姫魅!!退学って…お前、何をやらかした??!」

「ネル?!」

「ネルさん!」

飛び込んできたのは頭から血を流し、足を引きずる満身創痍のネルだ。彼の伊達メガネはレンズが砕け、フレームがひしゃげ、かろうじてメガネの形を留めて鼻に引っかかっている。

それまでスライムのようにぐでっと憔悴していた姫魅は、ネルを見るなりビクッと飛び起きて青白い顔で震え上がった。

その隣ではうっとりした蛍が花吹雪を散らすかのようにハートを飛ばしている。

「いや、お前がどうしたっ?!」

メロウは強面をさらに険しくして突っ込んだが、頭に血が昇ったネルの耳にはこれっぽっちも入らない。腹を抱えて大笑いする維千の口をイルカの平手がバシッと叩きつけるようにして塞いだ。

ネルは一身に受ける視線などお構いなしにズカズカと突き進み、子羊のようにガタガタ震えている姫魅の目前で仁王立ちになった。

「姫魅…!」

「ネル…」

ネルが声を荒げて、彼の頭頂部から鯨が潮を噴くようにピューッと血が吹き出る。

サラはわたわたとネルに駆け寄って、彼の全身状態をすばやく確認すると早速手当を始めた。

その手際の良さにメロウが「おお」と感嘆の声を漏らす。

「小僧。医療魔法が使えるのか」

「少し。病院にかかれば、足がつくから。スピッツでは自分の怪我は自分で治すか、信頼に足る誰かに治してもらうしかない」

サラは当然のように答えて、あとは黙々と手を動かしている。それも荒れ狂う闘牛のようになったネルの目には見えていないようだった。

「姫魅。お前ってやつは…」

「お前ってやつは!落ち着け!」

ネルを追いかけてきたサンが、サラが治したばかりのネルの頭頂部に鋭い一撃をお見舞いする。ビューッと先ほどより高く血潮が上がり、ネルは泡を吹いてその場にぱたりと倒れた。

サラは信じられないといった表情で、舞い上がる血飛沫と得意げなサンを交互に見つめている。

「サン。隊長試験、お疲れさま」

「おうっ!維千」

「その様子だと…彼は合格ですか」

「だな!」

サンが八重歯を見せてニカッと笑う。

(いや…どう見たって、不合格でしょ?!)

半死半生、虫の息でそこに倒れているネルに、姫魅とサラは同時に心で叫んだ。

「課題は?」

「僕からこいつを守り抜くこと」

そう言ってサンが放り投げたのは、姫魅に酷似しているがやたら歯のでかいぬいぐるみである。

「始めはまあ、ゴリ押しで立ち向かってきたが…最後には無事、逃げたな」

「逃げ…?」

ぽかんと呆気に取られる姫魅をサンの鋭い目がギロッと睨んだ。

「当然だ、ガキ。部下を率いて、勝てない相手に挑むバカを隊長なんかにできるか」

言われてみれば納得だが、情けない合格になんだかスッキリしない。しかし、現役隊長のメロウとイルカが拍手を送り、隊長経験のある維千が何も言わないのだから、これでいいのだろう。

「そちらさんは?」

「嬢ちゃんが坊主を替え玉にしてな…不合格だ」

メロウがため息混じりに答えて、蛍がぎくりと身を縮こめる。

サンは身構える蛍を責めるでもなく、呆れるでもなく、大口を開けて声高らかに笑った。

「あっはっは!替え玉とは大胆に出たな、水色頭。ジョニ校史上初じゃないか?だろう?メロウ」

「笑い事じゃねえぞ、サン」

「くっ!あはは!よくやった、小娘!こいつは大物になるぞ!」

サンは蛍の頭を鷲掴みにして、力任せにガシガシと撫で回した。蛍は頭を鳥の巣にして、褒められているのか、バカにされているのか、訳がわからずポカンと呆けている。

「で、小娘の試験担当者と当事者がお揃いってわけか…ん?なんで、緋色のガキがいる?」

正鵠を射た指摘をされ、ネルに包帯を巻いていたサラの手元が狂う。傷口をギュッと締め上げられて、ネルは「ぎゃっ!」と飛び跳ねた。

(なんでって…俺が聞きたいくらいだけど)

その答えはサラ自身にもわからない。

自分は平々凡々に講義を受けていたのだ。

突如である。疾風のごとき勢いでガラッ!と開いたドアの向こうに、後光さす微笑みを浮かべたイルカを見つけるやいなや、「サラをお借りします!」と有無を言わせぬひと言で彼の肩に担がれ、気がつけば自分はここにいたのである。

「…津波に流された」

「津波?まあいい。それで?これからどうする?」

「どうするもこうするも…ジョニーは銀河の果てに出張中だ。こいつらの処遇については俺たちに任せる、とよ」

メロウのため息に蛍はビクッと飛び上がり、姫魅はカチコチに身をこわばらせる。

「どうか退学は…」

今にも消え入りそうな声で懇願するのはネルだ。

「ネルさん。誰も退学なんて言っていませんよ。メロウさん、俺からひとつ提案が」

そう言って維千が手を挙げたので、メロウはこれ見よがしに嫌な顔をした。

「なんだ?どうせ碌でもない…」

「再試験、というのはどうでしょう」

「なっ?!!」

維千の思いもよらないひと言に、メロウが口をあんぐりさせる。イルカはニコニコしたまま、事の行く末を見守る姿勢だ。サラはジト目になって、維千の真意をはかりかねている。

「維千さん!」

蛍が涙目になって維千を崇めるので、維千はそれを蔑んだ目で見やった。否、これは彼の困り顔である。

「サラくんが言う通り、こちらの課題設定にも落ち度がありました。パンピが初めての魔法習得に要する時間は早くとも3ヶ月」

「3っ?!」

それを1週間でこなせと言うのだから、無茶もいいところである。蛍は怒りを通り越して、すっかり呆れてしまった。

「ですから、適切な課題で再試験をしませんか?」

「試験はおめえに一任している。おめえがそう言うなら異論はねえよ」

「ありがとうございます。それでは、詳細は追ってご連絡いたしますので…」

「こうしている場合じゃないわ!」

何にせよ、首の皮一枚繋がったのだ。蛍はスクッと立ち上がると、そこでへたり込んでいる姫魅の首根をガッと掴んだ。

「善は急げよ!ほら、さっさと動く!サラさん、ありがとう!みなさん、ごっきげんよーう」

蛍は清々しい笑顔でズルズルと姫魅を引きずり、維千の笑顔とメロウの苦笑に見送られながら会議室を後にした。

「維千さん。再試験ではなく、本試験でしょう?」

いつまでも言い争っている蛍と姫魅の声にニコニコと手を振りながら、イルカがそれとなしに訊ねる。

「さあ?」

「ふふ。維千は優しいね」

「ご冗談を」

維千はヘラッと笑って、相変わらず飄々としている。

「蛍ちゃんはパンピ以上に魔法を知らない…それどころか、負の印象すらお持ちでしたから。試験の予行練習、でしょう?そんなことを明かしたら、本気で取り組めませんものね」

「なんだ、維千。おめえ、初めからこうするつもりだったのか?」

「あはは。みなさん、買い被りすぎですよ」

ネルの手当てを終えてひと息つくサラの頭をぽんぽんっと軽く叩き、維千はくるっとメロウを振り向いた。

「俺は蛍ちゃんの底力を信じているだけですから」

維千はネルの額に「祝ボス」と落書きして、爽やかな笑顔で満足げに頷いた。


あのかっこつけネルさんがめっちゃカッコ悪いw

維千がすべてかっさらっていきましたね。ご愁傷様です…(´⊙ω⊙`)


ムカつくほど無敵の維千さんが、イルカの平手は受けています。

ふたりは親友なんで、あえて受け止めているのですが…彼らの出逢いについて、いつか番外編でお話しできたらいいなあ_(:3 」∠)_


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

次…いや、次の次かな?トークショーで大事件発生です笑

苦手な恋愛感情や戦闘の表現があるので、心してかかりたいと思います٩( 'ω' )وエイエイオー

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