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6.大侵寇

 青野原の調査任務が始まってまもなく、調査に成功した本丸からの報告が審神者たちの間で共有された。


 調査部隊は低空を飛び去る不気味で巨大な影を目撃した。

 地面にはおびただしい足跡が残っていた。大量の敵が暴れ回ったことがうかがえたが、すでにどこかへ移動してしまっていた。

 巨大な影のその下には無秩序な破壊があった。西軍も東軍も死者となり果て、時間遡行軍がどちらの味方をしていたのか分からないほどの状態だった。


 そうした情報を元に、色々な疑問や推測が審神者たちの間を飛び交った。


「西軍も東軍も大量に殺戮して、時間遡行軍は歴史をどう改変するつもりだったのだろう」

「もしかするとあの地点での目的は歴史の改変ではなく、大量殺戮だったのかもしれない」

「あの低空を飛び去っていた巨大な影は時間遡行軍の新兵器で、それの実験だったのでは」



 この本丸の審神者は調査を断念して以降、他の本丸からの情報や推測を集めていた。

 そんな中で、時の政府から新たな指令がもたらされた。

「政府からの入電を確認しました。読み上げます。これは……」

 こんのすけは緊張したようすで審神者に告げた。

「敵に大きな動きあり! 観測史上最大、空前の規模にて進行。攻勢に転じる動きもみられるとのこと。政府は現時点よりこれを『大侵寇』と命名。各位警戒を強め戦力拡充、配備せよ。以上」

 広間に刀剣男士たちが招集された。そしてこんのすけから、青野原の調査終了と大侵寇に備えて強化プログラムが開始されるという告知が行われた。

 審神者は淡々と「強化プログラムにはほどほどに参加して、多少は練度の向上を目指す」と言った。あまりやる気がないようすだ。

 解散となり、主はこんのすけを連れて執務室へ戻った。刀剣男士たちは広間からそれぞれの持ち場に散ってゆく。

 三日月宗近は最後に広間から出た。

「…………」

 廊下からぼんやりと庭を眺めて立ち尽くしていると、加州清光が声をかけてきた。

「敵さん、景気はいいけどさ。大侵寇ってなに? 規模がどんどん拡大しているって」

「今のところ、我々は政府のいうことを聞くしかあるまい」

 と三日月宗近は答えた。

「だったら、今のうちに主抱えて隠れちゃうってのは?」

 加州清光は半分本気で言った。このまま手をこまねいているのは不安だった。いつ本丸が襲撃されるか分からないのに、肝心の主はあまりやる気がなさそうだ。緊急事態に備えて何か特別なことをする気配がまったくない。

「急いては事を仕損じる。読み違えれば、守るものも守れぬ。それこそ、星の数ほどあるからな。ははは」

 三日月宗近はのんびりした調子だ。

「星の数って、何が? 俺たちの主は一人だけだけど」

「俺たちが守るべきものは、主だけではない。あまりに多くのものだ。だからこそ、見極めなければ」

「…………」

 正直不満はあったが、三日月宗近の意見に従おうと加州清光は思った。三日月宗近の言いたいことは分かる。一時的に主を隠しても解決はしない。主のために歴史を守ることにはならない。



 審神者の言葉通り、強化プログラムへの参加はほどほどに行われた。

 大侵寇に備えて忙しくなった印象はまったくなく、いつも通りのペースの生活を送る日々が続いた。

 刀剣男士たちは皆、どことなくそわそわしていた。審神者は大きく構えているというよりは、大侵寇自体を軽んじているようにしか見えない。危機感をつのらせているのは男士たちばかりだった。

 三日月宗近だけはいつもと変わらず泰然としている。それは守るために機を待っているのだ、と加州清光には分かっていた。

 だが、審神者はますます三日月宗近への疑念を深めているようだ。

「三日月だけは、これから何が起きるかを知っているんだろうね」

 審神者は執務室で陰口を叩いた。

 加州清光もこんのすけもこっそり目を合わせて黙っているしかなかった。

 強化プログラム開始から数日後、政府から大侵寇と強化プログラムの進行について連絡があった。 

「政府からの入電を確認しました。読み上げます」

 こんのすけは審神者に告げた。

「大侵寇の勢力、拡大しつつあり。規模、十億以上と推定」

 審神者は顔をしかめて「十億?」と聞き返した。

 こんのすけは「はい」と答えた。

「私たちは審神者に就任するときに、時の政府から敵の規模は『号して八億四〇〇〇万』と聞かされている。私は二〇一五年から就任した。それから数多の本丸が何年もかけて敵を打ち倒してきたはずだ。なぜ増えている?」

 審神者の詰問にこんのすけはたじろいだ。

「私は、現時点で政府から知らされている以上のことは………」

 審神者に鋭くにらみつけられ、こんのすけは身を縮めた。

 加州清光が両者の間に割って入った。

「主……!」

 加州清光がたしなめると、審神者は面白くなさそうに視線をそらした。

 また数日後、再び政府から大侵寇と強化プログラムの進行について連絡があった。

 大侵寇の調査が進み、通常の敵よりも強力な『大型の敵』の出現が想定されるとのことだった。それに備え、強化プログラムでも訓練としてたびたび大型の敵が出現するようになった。これまで合戦場で出た大太刀の優に三倍はある。

 こんのすけは言った。

「大侵寇において起こり得ることを全て予測することは困難です。今は、できることを」



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