10.椿寺へ
京都・椿寺のマップがモニターに表示されている。
「敵の目的は不明ですが、このまま群敵が集中した後、京都・椿寺を群敵もろとも隔離、放棄してしまえば。でもなぜ……」
こんのすけは端末を操作して詳細を調べ、表示された数値や図形を確認した。
「待ってください! 京都・椿寺はシステム上では『本丸』と認識されています! だから、群敵は京都・椿寺に総攻撃を!?」
「ふーん。そういうことしちゃうんだ。わかったよ……」
加州清光はモニターに表示された椿寺のマップをすわった目で眺めながら言った。
三日月宗近は門前で敵をおびき寄せて消えた。同じように敵が椿寺におびき寄せられているなら、三日月宗近がそこにいることは間違いない。
「……出陣の許可を。出陣先は、京都・椿寺」
こんのすけはしばらく考えこんでから専用端末を操作しはじめた。
「……仕方ありませんね。正規の遡行経路は既に時の政府により隔離、放棄の為の遮断フェーズに入っているようです。その上で京都・椿寺へ向かうとなると……一振りが限界でしょう。単騎出陣のみ可能と判断します」
「捨て置け! 三日月には折れてもらう!」
いきなり審神者が怒鳴った。
加州清光とこんのすけは驚いて振り返った。
審神者はかんかんに怒っている。
「これはぜんぶ三日月宗近が仕組んだ茶番だ! このまま椿寺で折れてしまえばいい!」
加州清光は思わず怒鳴り返した。
「三日月宗近は仲間だ! この本丸に折れていい奴なんていない!」
加州清光は審神者とにらみあった。相手が主君だろうと引き下がるつもりはまったくなかった。
こんのすけは困り果てたようすで二人の顔を見上げながら、その間をオロオロと行き来している。
緊急事態下のため、執務室の音声はこんのすけの端末から本丸中に共有されていた。いさかいを聞きつけた刀剣男士たちが何事かと執務室に集まりはじめた。
加州清光はさっとこんのすけを抱き上げ、足音を荒く立てながら執務室を出ていった。
「いったい、どうしたの」
謙信景光が心配そうに審神者に声をかけた。他に集まってきている者たちも一様に心配そうに見ている。
審神者は謙信景光たちの顔を見るとばつが悪くなった。彼らから目をそらし、首を横に振った。何も言いたくなかった。ただただ心配している彼らの視線がどうにもいたたまれず、目のやり場に困ってなんとなく端末のモニターを見た。
モニターの画面は、審神者が操作していないのに勝手にどんどん切り替わっていく。通常の選択画面から出陣選択画面へ、出陣先を選択する画面へ、戦国の記憶から京都・椿寺を選択する画面へ。審神者は目を見張った。
そのとき加州清光は三日月宗近の救出へ向かうべく、正門の前にいた。
こんのすけがその隣で端末を操作している。審神者の命令に背いて門を開くつもりだ。
「時間跳躍のため門を開きます。出陣先は、京都・椿寺」
「加州清光、出る」
審神者は自分の許可なく門が開かれたことを知り、歯ぎしりした。
「……のクソが!」
審神者は怒りにまかせて走り出した。
「行くなっつってんだるぉお!」
刀剣男士たちは審神者の後を追った。
審神者が息を切らして正門に駆けつけたときはすでに遅く、神妙な顔をしたこんのすけが正門の柱の脇にぽつねんと残っているだけだった。
審神者は恐ろしい剣幕でこんのすけをにらみつけた。こんのすけはビクッと身をすくめた。
その場に駆けつけた歌仙兼定はこんのすけをかばい、袴の後ろに隠して審神者から見えないようにした。
審神者は声を枯らして怒鳴った。
「誰でもいい! 加州清光を連れ戻せぇ!」
「断る。仲間を見捨てることは認めない」
同じく駆けつけた山姥切国広が断固として言った。
蜂須賀虎徹もそれに続いた。
「俺たちは誰であろうと犠牲になんかさせないよ」
「雅じゃないね。きみの個人的な怒りは鎮めたまえよ」
と歌仙兼定は厳しい顔つきで忠告した。
「主、わしらは三日月をこのままにしておけん」
と陸奥守吉行が場を取りなすように言った。
「……いま椿寺には、ぎりぎり一振りしか出陣できません。これ以上は、無理です……」
こんのすけが歌仙の後ろからおずおずと、震える声で言った。
審神者は怒りのあまりわなわなと震えていた。言葉が出なかった。
「主、三日月の行動には必ず理由がある」
と山姥切国広が穏やかに言った。
陸奥守吉行がつとめて優しく言う。
「三日月がなんも言わんでもわしらは信じちゅう」
「無論、主が怒るのも無理はないと思う。けど、今は待とう」
と蜂須賀虎徹もなだめるように言った。
歌仙兼定は優しい表情でうなずいた。
「ああ。必ず真実が明らかになるときが来る。そのためにも、三日月には無事に帰ってきてもらわなければ」
審神者はなんとか怒りを抑えると、仕方なく何度かうなずいた。




