同志
いつもより少し長めです。
オネエが炸裂して止まりませんでした。
どうぞよろしくお願いいたします。
それから、夜のうちに公爵様が乗って来られた馬車で、そのまま一緒にハーティス公爵家へと向かうことになった。
私が用意を整え、いくつかのトランクを持って玄関へ向かうと、ヘルマンが満面の笑みで待ち構えていた。
「お嬢様! そんなにたくさん! 荷物は私が運びますので、そこに置いてください!」
たくさんの荷物を抱える私に、慌てて駆け寄ってきたヘルマンは、私から荷物を受け取ると驚いた顔になる。
「!? え? 軽い……?」
それもそのはず。大きな荷物の大半はぬいぐるみなどの自作のゆるキャラグッズ。サイズに対して非常に軽いのだ。
自分がすべて運ぶと言い張るヘルマンを言いくるめて、一緒に馬車へと荷物を運んでいく。
その間、公爵様はというと――。
公爵様は、お父様とマリア・ケルビン男爵令嬢の対策について話し合いをしていた。
お父様とレイノルドのあの様子を見る限り、国王陛下と王太子殿下も魅了に侵されている可能性が非常に高い。
彼女の目的が一体何なのかわかっていないけれど、陛下と殿下が魅了に侵されているのは国としての一大事。さすがに知らない振りを決め込むわけにはいかない。
下手をすれば、宰相様や国の中枢も魅了に侵され、掌握されている可能性すらある。
何やら公爵様には策があるようで、お父様に先ほどのスプレーの中身の説明を改めてしながら、今後の対策について、提案をしているようだ。
(これで解決すれば良いんだけど……解決しない限り、私は侯爵邸に戻れないから、公爵様にご迷惑をかけてしまうわ……)
荷物を座席に詰め込みながら、考え込んでいると、公爵様の声が聞こえてきた。
どうやら話し合いは終わったようで、玄関先でお父様と挨拶を交わしている。
慌てて私も玄関へ向かい、お父様に出発の挨拶をすることにした。
(しばらくはこのお屋敷ともお別れかあ……)
「お父様、色々ご心配をおかけして申し訳ありません」
「何を言っている。娘の心配をするのは親として当然のことだ。それに……守ってやれないどころか、私がお前を追い込んでしまった。本当にすまない……」
頭を下げるお父様に、胸がぐっと締め付けられる。
(お父様は操られていただけで、何も悪くないのに……)
「気にしないでください、お父様。私は無事でしたし、お父様も何もなくて良かったです」
「ロベリア……」
「また安全になったら戻ってきますわ。きっとすぐです」
「ああ、早く解決できるよう尽力しよう」
力強くそう告げるお父様の目はやる気に満ちていた。
今はお母様がちょうど領地に行っていていないけれど、それまでに解決しなければ、きっと大変なことになってしまう……。目が合った私とお父様の思いは一緒だった。
見送るお父様が、公爵様へ私を託す。
「娘をよろしくお願いいたします」
「はい。丁重にお預かりいたします」
「何かあればいつでもすぐにご連絡ください」
「何もないことを祈りますが……承知いたしました。では」
「お父様、行ってまいります」
こうして馬車に乗り込み、公爵邸へと向かった。
◇
その道中――馬車内。
「ちょっと! この絶妙に可愛くておっきなクマちゃんは一体何なの!? しかもこの手触りは何!? 可愛くて気持ち良いなんて反則よ! もうギルティだわ! ギルティ!! ああもうでもでも、可愛い~~~! ぎゅーってしても良い?? 良いわよね??」
「あ、公爵様! そんなに強く抱きしめたらダメです! 形が戻らなくなっちゃいま――」
「あらぁ、こっちにはワンちゃんも居るわ! え? 何この子! 垂れ下がった目元と眉が最高のバランスね! このちょっとブサイクな感じがたまらないわ~~!! え!? どういうこと!? ちっさい子まで連れてるの!? いやだわ、どうしましょ!! もう、どれが良いかなんて選べないわ~~~~」
馬車の中では、荷物を開けた公爵様による、ゆるキャラのぬいぐるみの品評会が行われていた。
テンションの上がりきった公爵様は私の制止を振り切って、次から次にぬいぐるみと戯れていく。
(公爵様のぬいぐるみを作るために、好みを聞こうとゆるキャラグッズの入った袋を開けたんだけど……もうどれを見てもテンション上がりっぱなしで、どうしたらいいのかわからない……)
そんな中、公爵様が奥にあった子犬ほどの大きさのクマのぬいぐるみを手に取ると、じっと見つめる。
「この子……アラベスク嬢がさっき持っていた『くま吉』よね?」
公爵様の肩越しに手元を覗き込む。
「はい。私が持ち歩いている『くま吉』の少し大きいサイズのものになります」
「やっぱりそうね! このフォルムがたまらないのよね~~~うっとりするわ。大きくなると、フォルムの可愛さがさらに引き立つのね!」
「わ、わかっていただけますか! そのフォルムの良さ!! この絶妙な丸みがたまらなく良いんですよ! 思わず撫でたくなると言いますか、もふっとしたくなると言いますか、この手にフィットする感じがなんとも言えなくたまらないんです! しかもこう、顔の表情なんかも、小さいサイズだと表せない絶妙なバランスで目と鼻を配置調整していて、こっちを見てるような見てないようなっていう、ちょっととぼけた感じの表情がほんっともう、最っ高、なんです!!!」
初めて思いを分かち合えそうな人に出会えた喜びに、気づけば一気にオタク全開で早口でまくし立て語ってしまっていた。
(ああ、やっちゃった~~~~! これは絶対引かれたわ……ああ、今世の私、終わったかもしれない……)
そう思って落ち込んでいると……。
「それよ!!! それ!! もうほんと、そうなのよ!! 言語化できなくて、もどかしかったのだけれど、そうなのよ! そのモフッとした感じ! そういう表現がピッタリだわ! あとやっぱりこのお目目が小さいサイズでもこのサイズになっても変わらず愛らしくてたまらないのよね~~~!! 目と鼻のバランスはほんっと、これ、最っ高に絶妙なバランスよね。よくこんな素晴らしいバランスで配置できたものだわ!!! まさにこれはもう、ある種の魅了に近いわよ。あらやだ、大変だわ!? 私たち魅了されつくしちゃうんじゃないかしら! アラベスク嬢、どうしましょう!?」
予想をはるかに超える同意の言葉が返ってきた。
今までこの世界で誰にも理解されることのなかった想い――。
(え、どうしよう!? 嬉しい……! もう完全に同志だわ……!)
「公爵様!! 私……どうしましょう……!!」
「え? あら、やっぱりアラベスク嬢もそう思う?」
違う、そうじゃない、その同意じゃないとぶんぶん頭を横に振る。
「あら? 違うの? って、あらららら、どうしたの?」
気づくと私は大粒の涙をこぼしていたらしい。
私の涙にせっかくテンションの上がっていた公爵様が元に戻ってしまう。
「すみません……やっぱり気持ち悪かったですよね。泣かせてしまって、大変申し訳ありません……」
「あ、いえ、違います! すみません! そうじゃありません! そうじゃなくて……」
「どうされたのですか?」
(どうしよう……本当に涙が止まらない~~~)
「あの……その、同志が居たことが嬉しくてたまらなくて……」
「……ああ! そういうことでしたか。それは私もです。見せていただいたゆるキャラ?のぬいぐるみたちは、全部が全部本当にとっても可愛いです。思わずタガが外れてしまうほどに。こんなに好みが合う方には初めてお会いしました」
そう言って、再びあのレースが少しだけ入ったハンカチを差し出されるかと思っていたら、さらにレースががっつり入った、より可愛さ増し増しのハンカチを手渡された。
「ふふ。このハンカチはとっておきなんです」
そう言って口元に立てた人差し指をそっと添える。
そのハンカチの四つの角には、それぞれ小さくウサギの刺繡も入っている。
「可愛いウサちゃんですね」
「でしょう?」
そう言って微笑む公爵様につられて笑ってしまう。
涙はいつの間にか笑い声に変わっていた。
「せっかく同志だとわかったことですし、『公爵様』ではなく、私のことは『ランズベルト』とお呼びください。長ければ『ランス』でも構いませんよ」
「良いのですか? では、私のことも『ロベリア』とお呼びください」
「では、ロベリア嬢。同志として、これからよろしくお願いしますね」
「はい。ランズベルト様もよろしくお願いいたします」
馬車の中で二人頭を下げ、再びぬいぐるみ談議に花を咲かせる。
――そうして馬車は、ハーティス公爵邸に到着した。
お読みいただきありがとうございます。
オネエ炸裂回再び、でした。
そして、公爵邸にまだたどり着けませんでした。申し訳ありません。次こそは!
次回もお楽しみいただけますと幸いです。
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どうぞよろしくお願いいたします。