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魅了

「――私は一体何をしていたのかな?」


 覚醒したお父様の第一声は、まさに何かしらに操られていた人のソレだった。


「おや、ハーティス公爵ではありませんか。ご無沙汰しております」

「ええ。お久しぶりです。アラベスク侯爵」


 先ほどまでとは違い、穏やかな声で話すお父様に、公爵様はほっとした様子で、優しく返事を返す。


 私もお父様の優しい声にホッと胸を撫で下ろす。元々厳しい方ではあったけれど、さっきのような理不尽な怒り方をするような人ではない。


(やっぱり誰かに操られていたのかしら……)


「ところで……どうしてハーティス公爵が我が家に?」


「王宮の庭で落ち込まれているロベリア嬢にお会いしまして……聞けば、王太子殿下に婚約破棄を言い渡されたと言うではないですか。それで私が何かお力になれればと、お屋敷まで送るついでに参ったのですが……」


 公爵様が婚約破棄の話を始めた途端、お父様は何かを思い出したのか、「そうだ」と一言ボソリと漏らした後、表情がどんどん厳しくなり、何やらぶつぶつと呟き始めた。


「侯爵? どうされました?」


「…………証拠も何も揃っていない、完全に冤罪だ! なのに、なぜ陛下はそれを認めて婚約破棄などと……しかも、話し合いの場に浮気相手を連れてくるようなあんなバカ王子、こっちから願い下げだ! うちの大事なロベリアをあんな奴のところへなど、誰がやるものか!」


「え? お父様??」


「ああ〜〜いかんいかん。陛下の御前で殿下に苦言を呈したまでは覚えているんだが、それ以降の記憶が曖昧で……イタタタッ」


「大丈夫ですか!? お父様!」


 頭を押さえながら何かを必死に思い出そうとするお父様。けれど、その都度頭痛が起きるようで、何度も頭を抱える。


「お父様、婚約破棄を承諾した上、私を修道院へ送るとおっしゃっていたのは覚えていますか?」


「何!? 修道院だと!? どういうことだ!?」


「お父様が婚約破棄を承諾した後、陛下たちとお決めになったと。それで、もう少ししたらその修道院からの迎えが来ると……」


「は!? 何を馬鹿げたことを!」


 声を張り上げて訳がわからないといった様子のお父様に、公爵様が何やら思い当たることを口にする。


「アラベスク侯爵のその症状は、魅了や従属の類のものでしょう。魔法や魔道具が用いられた可能性が高いです」


「魅了や従属……」


「あの甘い香りから、魅了香が用いられた可能性が高いと思います。そして、ご子息のレイノルド殿も、魅了の宝石がついたペンダントを着けておられました」


「では、公爵様がさきほど使われていたスプレーは……?」


 思わず私が公爵様の方を見て尋ねる。

「これですか?」と公爵様は内ポケットからスプレーを取り出した。


 先ほどはその効果に気を取られていたけれど、よく見るととても精巧に蝶の模様の細工が施された美しい瓶だ。


「これの中身は状態異常無効化の効果のある聖水のようなものです。主に精神操作系の魔法や魔道具の対処に使用します」


(なんかサラッと凄いことを言われている気がするんだけど……しかもなぜ公爵様はこんなものを持ち歩いているの?)


 深く突っ込んではいけない気がして、そっと好奇心をしまいこむ。


「では、もうお父様とレイノルドは大丈夫なのですね!?」


「はい。ひとまず、身体に入ったものは無効化されていますので、問題ありません」

「良かった……」


 私と公爵様の話を横で聞いていたお父様は、公爵様にお礼を言うと頭を下げた。

 私には何度も「不甲斐なくて申し訳ない……」と謝り続けていた。


 お父様の記憶に残る浮気相手の令嬢は、マリア・ケルビン男爵令嬢で間違いないだろう。


 お父様に使われた魅了香は、ゲームの中では“悪役令嬢であるロベリア”が王太子に使用するもの。


 そして、レイノルドの持っていた魅了の宝石は、使用用途が少し違う。あれは本来、従属魔法を付与し、奴隷扱いするために使用するもの。


 魅了の宝石ではなく、従属の宝石――そう、ゲームの中では“悪役令嬢であるロベリア”が弟であるレイノルドに使用するものだ。


 まあでも結局のところ、自分の意のままに操ることには変わりない。

 私が転生者だし、色々ゲームとは違う流れを作ってしまっている可能性は否めない。


 マリア・ケルビン……一体何を考えているのか。



 結局、あの後、修道院からの迎えは定刻通りにやってきた。


 どうなるのかと思っていたら、お父様がキラキラ光るものの詰め合わせを渡して、丁重にお帰りいただくことができた。

 聖職者も所詮は欲に弱いということか。


 本当は侯爵家にこのまま居ても大丈夫なのかもしれないけれど、やはり念には念をということで、私は「修道院を嫌がり家出した」という体で、ハーティス公爵家でしばらくの間、身を隠すことになった。


 ようやく、公爵邸でのゆるキャラライフが始まろうとしていた――。

お読みいただきありがとうございます。

種明かし回でした。

やっと次回から公爵邸です!

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


ブックマークや☆評価など、ありがとうございます!

とっても励みになっています。

なるべく更新を途絶えることなくお届けできるよう、頑張ります!

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。


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