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お揃いのドレス②

「お揃いのドレス」後編です。

よろしくお願いいたします。

 扉の向こうには、同じサイズの部屋があり、その中央には、マネキンのようなものに飾り付けられたドレスが飾られていた。


「こ、これは……」


「驚きましたか? これはロベリアのドレスです。リアとルド、そして私とお揃いのデザインで作らせました」


「…………!」


「さあ、どうぞ。もっと近くへ」


 ランス様に促されるまま、ドレスの近くへと足を進め、じっくりとドレスを見る。


 そのドレスは、リアのドレスのまさに人間用サイズで、もちろんリアのドレスよりも面積があるので、よく見るとさらに凝ったデザインの、とても豪華なものだった。


 何より、その凝ったデザインは今ランス様が着ている衣装と完全にお揃いで、デコルテ周りには、細かい刺繍の中に何かシルエットのようなものが入っている。


 ランス様の襟元にもよく見ると、全く同じ刺繍がこっそり潜ませるように入っている……。


「これは……くま吉!?」


 口を手で覆いながら思わず声をあげた私に、後ろから見守っていたランス様が優しく声を掛ける。


「やはり気づきましたか。せっかくなので、私たちのものにだけこっそり入れてもらいました」


「すっごく可愛いです!! こんなに素敵なドレス見たことありません!!」


 興奮気味に言うと、ランス様が私を後ろからそっと引き寄せる。

 慌てて振り返る私に、ランス様が悪戯っぽく微笑んだ。


「ふふふ。喜んでもらえて良かったです。サプライズにした甲斐がありました」


 その無邪気な笑顔にもっと喜ばせたくなってしまった私は、しどろもどろになりながらも、思ったことを話してしまう。


「リアとルドとのお揃いは、もちろんですが……何より、その、ランス様とのお揃いが……一番嬉しいです……」


(ああ〜〜言っちゃった……! なんかむしょうに恥ずかしい~~~!!)


 心の中でモダモダしている私とは反対に、ランス様はなぜかその場で固まる。

 いつものオネエモードに切り替わると思っていた私は、違う反応に戸惑う。


 少し心配になって、固まっているランス様を覗き込んだ途端、彼は急にガバッと私を抱きしめた。


「ひゃっ!?」


「ああもう、なんって、なんて可愛いの!!! 可愛すぎるわよ~~~!! こんな恥じらう姿……絶対誰にも見せたくないわ!」


「ラ、ランス様……?」


 いつもとは違っていたけれど、オネエモードに切り替わったランス様に少し安心する。

 いきなりぎゅっと抱きしめられ、心臓は早鐘を打っているけれど、そのぬくもりに思わず嬉しくなってしまう。

 私を抱きしめながら、ランス様も嬉しそうに微笑む。

 その笑顔を見て、たまらなくなってしまった私は、おずおずと、彼の背中にそっと手を回した。

 すると、その動きに反応してか、ランス様の片方の腕がそっと私の髪を撫でる。


(ら、ランス様!?)


 初めてのことに、私の心臓がトクンと少し跳ねる。


 その時だった。


 なぜか視線を感じて、扉のほうを見た私は、こちらをこっそり覗く影に気づく。


 二つ……いえ、小さな影も含めると三つある。


 思わずそちらを見ると、ルイーゼ様とセバス、それにルイーゼ様の手のひらにはイルゼ様の姿が……。


 その視線に、急に恥ずかしくなってしまった私は、慌ててランス様からバッと離れた。


「え……ロベリア……?」


 ショックを隠しきれない不安そうな表情で、こちらを見つめるランス様。


「あ、いえ、その……視線が気になってしまって……」


 私の返事に扉の方向を見たランス様は、一瞬目を見開いた後、大きなため息をついた。


「母上は本当に……しょうがないですね、まったく……」


 そう困ったようにこぼしながらも「後で映像を貰わなくては」とボソッと呟く。


「ランス様……誰にも見せたくないのではなかったのですか?」


 少し拗ねたように私が尋ねると、「もう記録されてしまったのなら、いただかなくては」と笑顔で答えた。

 彼の潔さに思わず、私が笑ってしまうと、彼もそれにつられるように笑った。


 そうして笑いながら、私は目の前にあるドレスを見つめ、ランス様に懇願した。


「……あの、ランス様、早速このドレスを着てみても良いでしょうか?」


「もちろんです! 是非! 着替えはこの部屋を使ってください」


 そう言って、部屋に数名の侍女を入れ、ランス様たちは応接室へと戻っていった。



 部屋に残った私とリアは、早速ドレスに着替えることに。

 その前に、じっくりと飾られているドレスを見た。


(ああ……やっぱりこのドレス無茶苦茶可愛いわ! しかも、リアともお揃いだなんて!! 今からこれを着られるのね……!)


 そんな期待を胸に、ドレスに袖を通していく。


 まずはドレスを着せてもらい、あまりのふわふわ具合に、リアも私も大喜び。

 二人で手をつなぎ、その場でクルクル回りながら、ドレスの裾がふわふわ広がるのを楽しんだ。


 そして、ドレスでひとしきり盛り上がった後、侍女の皆さんが素晴らしい腕を発揮してくださって、髪型はもちろん化粧までドレスに合わせる形で調整された。


 彼女たちに全身プロデュースされた私とリアは、テンションがとんでもなく上がった状態でランス様たちの前に再び姿を現したのだった。





「美しいと可愛いは共存できるのですね……!」 


 珍しくランス様が、オネエスイッチの入っていない状態で、可愛いを口にしている。

 けれど、どこかうっとりと、恍惚とした表情を向けているランス様。


 するとそこへ、興奮状態のルイーゼ様が同じくうっとりとした表情でこちらを見る。


「まあまあまあまあ!! 想像を遥かに超える美しさですわ!! さすがロベリア様ですわね!! ほらご覧なさいランス、やはり裾はこのふわふわで正解でしたでしょう?」


「ええ、ええ、母上! 大正解でした!! このバランスはもはや神の領域です!! 可愛いのに美しい……とにかくロベリアは最高です!! はあ……本当に素晴らしい!!!!」


(ええ!? ランス様たちは一体何を言ってらっしゃるの!?)


 二人のやり取りに思わず顔が火照ってしまう。


「さあさ、ランス、眺めていないで、あなたも隣にお立ちなさい。せっかくお揃いで作ったのですから、並んでみなくては……」


 そう言って、ルイーゼ様がランス様の背中を押す。


 すると、私たちが並んだ途端に、控えていた使用人たちが大きな姿見を一斉にひっくり返していく。


 その鏡に映る自分たちを見た私は思わず、ため息のような声を漏らした。


「わぁ……」


 さっき隣の部屋で見た時も、可愛いとは思ったけれど、二人で並んで見ると、ドレスの綺麗さや可愛さとは別に、互いの髪や瞳の色の入った衣装をまとっていることに、なんとも言えない気持ちになる。


 嬉しいような、恥ずかしいような、でも、なんだかすごく温かい気持ちになるような……。


 ほんのり照れながら鏡を見ていると、私の手元にドレスを着たリアが、ルドに抱きかかえられながらふわふわとやってきた。


「ふぁぁぁ~~~~~~可愛い!! リアもルドも可愛すぎよ~~~!!」


 あまりの可愛さに、思わず叫んでしまう。

 しかも、リアもルドも私の反応を見て、嬉しそうに「クマ~!」「グマグマ」と鳴き始める。


 可愛いが飽和状態でもはやしんどい……。


(あれ? こんな私でさえ可愛すぎてしんどいと思えるほどの状態なのに、ランス様が静か過ぎる……)


 そんなことを思っていると、隣にいるはずのランス様から震えているような振動が伝わってきた。


「ランス様……?」


 心配してお顔を覗くと、なぜか手で口元を必死に抑えながら、瞳からは涙が溢れ出している。


「え!? ランス様!? 大丈夫ですか!? どこか具合でも……」


「……良い!!! 良いわよ!! 良すぎよ~~~!! もうほんと最っ高だわ!!! 可愛すぎると人間って震えて泣けてくるのね!! 初めて知ったわ……!! ロベリアには無限の可能性があるのね、恐ろしい子!! もう本当に私をどうしようっていうの!? ギルティどころじゃ済まないわよ、むしろ私が殺されちゃう……ああでも、可愛いで死ねるなんて最高では!?」


 ランス様の妙な賛美が止まらないまま、その状況を嬉々として映像記録の魔道具に記録していくルイーゼ様とセバス。


(あれ? いつの間にか魔道具が二台になってる!?)


 それから気づいた頃には、ルイーゼ様やイルゼ様も加わり、三人プラス三匹、合わせて六人の撮影会が繰り広げられたのだった。


 この衣装がお披露目されるのは、また別の話――。

お読みいただきありがとうございます。

番外編「お揃いのドレス」の前後編でした。

このドレスをお披露目する日も……すでに決まっているのですが、また機会があれば書きたいと思います。


また番外編、現在もう1話準備中ですので、書き終わり次第投稿予定です。

家族の顔合わせを予定しています。

次もお楽しみいただけますと幸いです。


ブックマークや☆での評価やいいねなど、いただけますと今後の励みになります。

もしよろしければ、よろしくお願いいたします。

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