お揃い(ランズベルト視点)
番外編続きです。仕立て屋さんが来ました。
それからしばらくして、浮遊を堪能したイルゼがカゴに戻り、疲れ切ったルドが私の胸元に戻った頃。
母上の目的の人物、我がハーティス公爵家御用達の仕立て屋がやってきた。
「奥様、お召しにより参上いたしました。仕立て屋、マダムコーネリアにございます」
先頭の老婆とまではいかない、年嵩の眼鏡をかけた女性がゆっくりと頭を下げた。
その後ろには、従業員たちが数名、材料や道具を持って控えている。
「待っていましたわよ、コーネリア! あなたにお願いしたいことがありますの!」
カゴを手に大喜びでコーネリアを迎えた母上は、奥の応接室へコーネリアのみを案内するようセバスに指示を出す。
セバスはコーネリアは自身で、それ以外の者は他の使用人たちに指示を出し、他の待機部屋へと案内していく。
「ま、まさか母上……!」
母上の思惑にピンときた私は、目を見開いて母上に声をかける。
私の言葉にウインクを返す母上を見て、確信する。
小さくガッツポーズを決めた私は、母上と共にウキウキ応接室へと向かった。
応接室に入るなり、イルゼとルドを見せられたコーネリアは、しばしの間、眼鏡の奥の瞳を瞬かせ、何度も自身の頬をつねった。
「こ、こちらは……」
「聖霊というそうですわ。今回コーネリアにお願いしたいのは、この子達の衣装ですの!」
「はあ……」
最初は二匹を見て戸惑い、言葉にならない声を吐いていたコーネリアだったが、二匹が動いて手を上げ挨拶した途端、目の色が変わる。
「グマー!」
「マグ?」
「え……? 動いて……喋るのでございますか!?」
「ええ、そうなの。ですからきちんと稼働できる衣装が必要で、あなたを呼んだのですわ」
ドヤ顔で語る母上にコーネリアはしばらくの間、イルゼたちを凝視する。
「……」
「どう? 良いデザインが浮かびそうかしら?」
「奥様! まずは奥様と坊ちゃまのご希望を伺ってからですわ! 私の仕事はそこからでございます!」
「こ、コーネリア。さすがに坊ちゃまはやめてくれ」
「おや、失礼いたしました」
幼い頃からの習性でいまだに坊ちゃまと呼ぶコーネリアに思わず指摘するものの、コーネリアと母上の様子を見るに、まだしばらくは坊ちゃま呼びが続きそうだ。
「そんなの別にどうでも良いわ。さあさ、早くあなたの希望を言いなさい。わたくしと擦り合わせましょう! ルドちゃんはリアちゃんとお揃いが良いと思うのだけれど、ランスはどう思って?」
「お揃い……!? ペアルックですか!? 私とロベリアもまだだというのに!」
「それはあなたの行動が遅いからですわ」
「母上……」
痛いところをつかれて落ち込む私に、母上が天啓でも受けたかのように、急に立ち上がると、素敵な提案を始める。
「……そうですわ! それならあなたとロベリア様、ルドちゃんとリアちゃんで全部お揃いにしては?」
「……母上……」
「あらあら? 気に入らないかしら?」
「……それ……最っ高に良いわ!! 素敵!! もう想像しただけで絶対ヤバいじゃない!! それ絶対に可愛いわ!! しかも、そんなのロベリアが大喜びするに決まってるじゃない! 最初普通に可愛いって思っているところにお揃いで現れた私たちを見て、絶対『きゃー!』ってなるわよ! というか、私がなるわよーーー!! 上がる……上がるわ〜〜〜!」
「ね!? ね!! 良いですわよね! わたくしもイルゼとお揃いにしようかしら? ねえコーネリア! できますわよね?」
「ええ、もちろんです!」
それまで私たちの様子を生温かく見守っていたコーネリアは、できないとは言わせない母上の圧をもろともせずに、目をイキイキとさせて強く頷く。
そして、メモになにやら書き留めると母上に問いかけた。
「ところで奥様。さきほどから、イルゼ様、ルド様、リア様と三名のお名前が挙がっているようなのですが……こちらのお二人とは別にもうお一人いらっしゃるということで、合っておりますでしょうか?」
「まあまあまあまあ。さすがコーネリアね! その通りよ! 先日お披露目用の衣装をお願いしたランスの婚約者の元にもう一体いるのよ。そちらはリアというの」
「なるほど。ということは……リア様とイルゼ様には、フリルの多めなドレスやワンピースなど可愛らしいお衣装を。ルド様には燕尾などのフォーマルなお衣装やビシッと決まるスーツなども良さそうですね……」
眼鏡をクイっと上げ、イルゼたちを凝視しながら、コーネリアは一心不乱にデザインラフを描いていく。
手を休めたかと思うと、気になる箇所の採寸をして、それが終わると再びラフを描くというのを繰り返していた。
それと同時に、そのラフをこちらに渡しながら、私と母上の意見も聞いていく。
「このデザインなんか、ロベリア様に似合いそうではありませんか?」
「これは……かわ、可愛い!! このふわっとしたレースが堪らないわ……!! この花びらを散らしたような袖も可愛すぎる!!」
「これをロベリア様が着るなら……ランスも少しシルバーが入ったほんのり光る素材のものを着るとお互い引き立って良いんじゃないかしら?」
「良いですね……! ああ、でも、二人ともふわっとした色味を着るとなんだか締まりがないような気も……それにロベリアをあまりに可愛くしすぎてしまうと、変な輩が寄って来ないかと心配になってしまいますし……」
「もう、あなたたちだけじゃなく、ルドちゃんたちも着ますのよ? それを想像してご覧なさい?」
「……ルドたちもみんなでお揃い……え、やだ、断然可愛いじゃない!!! え、もう絶対可愛いわよ!! しかも、みんなでペアルックってことでしょう!? え!? ちょっと待って!! 私正気を保っていられる自信がないわ!? どうしましょう!? え? 無理よ無理! 想像だけでもこんなにテンション上がっちゃうのよ? 目の前でお揃いを着たロベリアとリア、それにルドが居るんでしょう?? 私絶対無理よ……下手したら、私昇天しちゃうわよ!?」
「ああもう、情けないわね……」
一人想像の世界で全力でパニックになる私を、ため息をつきながら母上が小突く。
けれど、その表情はとても幸せそうだ。
結局この日は、夜遅くまでコーネリアにラフを何枚も描かせ、最終的に選んだ数枚を後日ロベリアとリアを呼んで、さらに厳選することになった。
母上のおかげで、これからもルドたちに衣装を着せられることになった。
きっとロベリアも喜んでくれることだろう。
そして……私はこの機会に、ルドたちとは別に、ロベリアとのペアルックを改めて依頼しようと心に決めたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
長かったので二つに分けて投稿させていただきました。
イルゼを登場させて、ルイーゼが衣装の話を妄想し出した辺りから、この話を書きたいなと思っていたところに、ご要望をいただいて、書かせていただきました。
相変わらずハイテンションな親子でした。
この後ロベリアが加わった話も書けたらなあと思っておりますが、今はひとまずここまでにさせていただきます。
また書く機会がありましたら、その時は楽しんでいただけますと幸いです。
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