初対面(ランズベルト視点)
折角イルゼを出したので、他のくま吉と出会ったらどうなるのか……。
ご要望をいただいたので、書いてみました。
初対面と仕立て屋のお話2本です。お楽しみいただけますと幸いです。
アラベスク侯爵邸を訪れた帰り際、ロベリアとの別れを惜しんでいると、彼女から母上にくま吉を贈ったことを告げられた。
それも母上のことを考えながらラッピングしていたら、無意識に魔力を込めてしまったというのだから、ロベリアらしい。
けれど、それは即ち聖霊を増やしてしまったということ……個体が増えることで、ロベリアの魔力消費も増える。
私がそれを懸念すると、ロベリアはこともなげに「そこは問題ではなく、動くことでお義母様の負担にならないかが心配で……」と言う。
負担どころか、あの母上であれば、動くくま吉に悲鳴を上げて狂喜乱舞するだろう。
さらに甲斐甲斐しく世話をする母上の姿が容易に思い浮かぶ。
「そんなに心配する必要はないと思いますよ。あの人も可愛いものには目がないので。なにせ、私の母上ですから」
「ふふ。確かに」
私の言葉にロベリアは良い笑顔で納得する。
(ああもう、本当に可愛い……)
ここであっさりと納得されてしまうと複雑な心境ではあるけれど、ロベリアが気にしなくて済むなら良しとしましょう。
「ということは、邸に帰ったらその『くま吉』に会えるということですね」
「そうですね。あ、先にお伝えしておきますが、その子は、リアやルドと違って無意識に聖霊化してしまっただけなので、魔法が使えません」
魔法が使えない……それがどういうことなのか、私は本当のところを理解していなかったのかもしれない。
ロベリアの魔力負担が少ないに越したことはない、くらいに思っていた。
◇
公爵邸に帰宅してみると、予想外なことが起きていた。
「あら、ランス、おかえりなさい」
脇に小さなカゴを抱え現れた母上は、玄関で何かの到着をソワソワと待っていた。
その待ち人が私ではないことは態度を見れば一目瞭然。
しかも母上の持つカゴの中では、何かが布に包まれた状態で、ゴソゴソと蠢いている。
その何かがひょこっとこちらに顔を出す。
「くま吉!?」
アメジストの瞳をしたくま吉がひょっこり顔を覗かせ、じっとこちらを見る。
「可愛い〜〜!」
自信なさげにもじもじと様子を伺う様がなんとも言えない可愛らしさを醸し出している。
これはリアにもルドにもない可愛らしさだ。
「ふふふ。わたくしのイルゼは可愛いでしょう?」
ドヤ顔で自慢する母上。
(これを作ったのはロベリアでしょうに。なぜ母上がそんなに自慢げなのか……まあ、気持ちはわかりますが)
「イルゼというのですね」
「ええ。ロベリア様が名付けてくださいましたの」
そんな話をしていると、リアと遊び疲れて私の胸ポケットで眠っていたルドが顔を出す。
「……グマ?」
そして、興味津々にイルゼをじっと見る。
「あらあら、ルドちゃん。そんなところにいましたの? イルゼと言いますのよ。仲良くしてあげてくださいな」
母上の言葉に一瞬首を傾げつつも、コクリと頷くと、ふよふよとイルゼの元へと飛んでいく。
イルゼのカゴの前に着くと、挨拶なのだろうか、右手をあげて威勢良く鳴いた。
「グマー!」
「マグー!」
仲間だと認識しているのか、すぐにイルゼも同じようにカゴの中から手をあげて鳴く。
しかも、そこでぽふぽふと手を合わせてハイタッチし始めた。
その姿に思わず声が出る。
「か、かわ、かわ、可愛い〜〜〜〜!!」
「可愛いですわ〜〜〜〜!!」
「ああもう、可愛すぎよぉ〜〜!! ぽふって、ぽふって、今の何なの!? 何よ、あの可愛い動き!? ちょっと今の見まして!!」
「ええ! ええ! 見ましたとも! ……いつもリアちゃんにギュウギュウ抱きついていましたから、あんなスキンシップをするなんて、予想できませんでしたわ! なんて! なんて可愛いの!!」
さすが親子。息がぴったりすぎる。
叫びどころもタイミングも、刺さるポイントまでもバッチリ合ってしまう。
そんなヒートアップする私たちをよそに、イルゼとルドは、ぽふぽふハイタッチの後、嬉しそうに何やら会話している。
「グマグマ?」
「マグ、マグマグ!」
「グマ!?」
「マグマグー!」
そんな二匹の様子をわなわなする口元を押さえながら、必死にこの目に焼き付ける。
(可愛い……可愛すぎるわ……)
一瞬目が合った母上も同じような心境のようだ。
目を爛々とさせながら、口元を必死に押さえている。
それでなくても理性を保つのがギリギリな私たちの前に、更なる試練が押し寄せる。
「マグ! マググ!」
「グマ……?」
どうやらルドがイルゼに押されているのか、何やらルドがたじろぎながら困った表情になっていく。
そして、しばらく考え込む。
その間もイルゼは「マグ……マググ!」となぜかルドに対して圧が強い。
(え? こんなところまで持ち主に似てしまうのですか!?)
そわそわと見守っていたら、とうとうルドが諦めたようにイルゼを背中に乗せ、ふよふよと浮遊を始める。
「ええ!? ルド!? 大丈夫なのですか!?」
「まあまあまあまあ! ルドちゃん! イルゼのために! なんて良い子!」
どうやらここは私と母上の見解は一致しなかったらしい。
母上は嬉しそうに、恍惚の表情で二匹を眺めている。
私はというと、可愛い光景ではあるものの、ルドが心配な気持ちでいっぱいだ。
「ルド……無理はしないでくださいね」
「……グマ」
ルドの声からなんとも言えない哀愁が漂う。
「マグ! マグマグ!」
そんな中、容赦のない声がイルゼから放たれる。
きっとイルゼは背中ではなく、お姫様抱っこしろと言っているのだと、なんとなく感じるけれど、それはリア以外にしたくないのだろう。
ルドは断固として拒んでいるようだ。
その気持ちが痛いほどわかるだけに、私は心の中でルドにエールを送った。
お読みいただきありがとうございます。
後編、仕立て屋話に続きます。
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