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後日譚②

番外編後半です。

よろしくお願いいたします。

 応接室に案内されると、中ではなぜか、お父様とヘンリー王太子殿下が待ち構えていた。


「お父様、これは一体どういうことです?」


 思わずお父様を睨みつけてしまう。

 けれど、お父様は平然と私の質問を無視して、ランス様に挨拶をする。


「ハーティス公爵、ようこそお越しくださいました。そして、長い間娘がお世話になり、ありがとうございました」

「アラベスク侯爵、堅苦しい挨拶は結構です。それよりも、これは一体どういうことか、ご説明いただけますでしょうか?」


 笑顔でそう訴えるランス様の圧が強い。


(この笑顔の圧、ルイーゼ様にそっくりだわ……)


 その圧に、ちらちらと殿下を見ながら様子を伺うお父様。


「わかった。では、私から説明しよう」


 奥のソファーに腰を下ろしていた殿下が立ち上がり、徐にこちらに向かって歩いてくる。

 殿下の動きに合わせるように、ランス様が私を庇おうと手を伸ばす。


 ところが殿下は、私の目の前まで来ると、ぴたりと足を止め、突然頭を下げた。


「ロベリア、いや、ロベリア・アラベスク嬢。今日はこれまでのことを謝罪しに来たのだ。魅了に侵されていたとはいえ、婚約者である君を蔑ろにし続けた上、大衆の前で罵倒し、冤罪で修道院送りにしようなど……本当にすまなかった」

「い、いえ、あの……」

「何も言わなくていい。ただ、私が謝りたかっただけだ。本当に申し訳なかった」

「殿下……」


(そうだ、この方は……殿下は、元々はこういう実直な方だったのだ……)


 私は七歳の時、抗ったにもかかわらず殿下の婚約者に決まり、それをゲームの強制力だと思い込んだ。

 自分の運命から逃れたくて、死にたくなくて必死で……彼の婚約者として、彼に寄り添おうとしたことなどなかった。

 どうせ王立学園に入れば、ヒロインに夢中になるのだから、と深く関わることを避けた。

 にもかかわらず殿下は、そんな私に「何か悩みがあるのではないか?」と声をかけ、寄り添おうとしてくれた。

 なのに、私は自分の殻に籠り、ただただ死亡ルート回避だけを目指し続けた。


(私があの時、殿下に話せていたら、もしかしたら未来は変わっていたのかしら……? けれど、きっとあの頃の私は、そんな選択を選べない……)


 考えに耽り、黙り込む私を殿下はじっと見つめ、思い出に浸るように微笑みながら告げる。


「君は昔からそうだったな。いつも何か思い悩んでいるのに、私には決して話してくれない。ずっと苦しそうに何かに怯える君を救ってあげたいと、幼心(おさなごころ)に思っていた」


「殿下……」


「けれど、そんな君を救えるのは、どうやら私ではなかったようだ」


「え……?」


 衝撃の告白に驚きつつも、殿下の視線につられて少し振り向くと、ランス様がとても心配そうな表情で、じっと私を見つめている。


「ハーティス公爵は、君を救ってくれそうか?」


 優しく述べられた言葉に、一瞬戸惑い、それからゆっくりと頷く。


「……ええ。もう救われましたわ」


「そうか。なら、私の用はもう終わった。邪魔をしてしまったな」


 そう言うと、殿下は清々しい表情になり、応接室を出ていこうとする。

 慌ててお父様が立ち上がって追いかけようとするが、手で制されてしまい、ヨーゼフだけが殿下の見送りに向かっていった。



「殿下は……元はまともな方だったのですね?」


 ランス様の言葉に、私はこれまでの殿下を振り返る。


 傲慢な振る舞いをするようになったのは、確かに、マリアに出会ってからだった。

 私は乙女ゲームの仕様なのだとしか思っていなかった。


 けれどもしかしたら、魅了や闇属性の魔法にかけられたことで、いつまでも心を開かない婚約者に、ヤキモキし続けた思いが表に出てしまっていた可能性もある。

 そんなことを考えると殿下に対する申し訳なさが募り、俯いてしまう。

 

 すると、私を心配して側で様子を伺うランス様に、お父様が告げた。


「殿下は……ロベリアが初めて王宮に上がった際に、一目惚れをされたのですよ。それでどうしてもとせがまれ、嫌がるロベリアを無理やり婚約させたのです」


「そんな経緯があったのですか……」


 私も知らなかった事実に思わず顔を上げて、お父様を見る。


「お父様、そんなお話今初めて伺いましたわ!」


「お前はずっと嫌がり続けていたからな……。それに、いくら魅了にかかっていたとはいえ、あれだけのことをしでかしてくれたのだ。さすがにもう一度お前と婚約したいなど……許すはずがないだろう」


「え!? そんなお話が出ていたのですか!?」


「あ、ああ」


 驚いているのはなぜか私だけで、お父様だけでなく、ランス様も知っていたかのような反応をしている。


「え……ランス様もご存じだったのですか?」


「はい。実は侯爵から昨日お手紙をいただいておりました。ただ、断ったと伺っていたので、まさか今日ここに殿下がいらっしゃるとは思いもせず……」


 ランス様の言葉に、お父様が申し訳なさそうに経緯を説明する。


「お帰りいただくようお願いしたのですが、婚約の話ではなく、ただ、きちんと直接謝罪をしたいということで、お通ししたのです」

「なるほど……」


(謝罪をしたい……本当にそれだけだったのかしら?)


 殿下の言葉が、頭をよぎる。


 ――『ハーティス公爵は、君を救ってくれそうか?』


 彼は私を救おうと、私を心配して、婚約を断られても様子を見に来てくださったのだ。

 私は殿下に全く心を開かなかったのに……。


 そのことを思い、俯いていると、ランス様が心配そうに私の顔を覗き込む。


「殿下から再び婚約の話が出ていると伺ったときは、正直、はらわたが煮えくり返りましたが……先ほどの殿下の様子を見るに、殿下なりにロベリアを想われてはいたのですね……」


「ええ……」


「ですが! 殿下がロベリアを傷つけたことも事実です。それに、私はロベリアを誰にも渡す気はありません。これから私と一緒にもっともっと幸せになるのですから!!」


 そうランス様が意気込むと、入り口の方から楽しそうな声が聞こえてきた。


「クマ~クマ~~」

「グマグマ~!」


 リアとルドがほんのり光った状態で、こちらに向かってふわふわと近づいてくる。

 二匹を見たランス様は私に微笑むと、さらに付け加えた。


「ロベリアが生み出す可愛いものたちを一緒に愛でて、楽しく幸せに暮らしましょう」


(この方はもう、本当に、私をよくわかっているんだから……)


「……ふふふ。そうですね、ランス様!」


 私たちのやり取りの隣で、このゆる~い二匹の空気にお父様の口があんぐりと開いたまま固まっている。


「あ、お父様にご紹介しようと思っていたのです。これがお伝えしていた、聖霊のリアとルドです! 可愛いでしょう?」


「…………手紙では聞いていたが、これが光属性の魔法……?」


「はい。どうも私光属性の魔法が使えたみたいで……」

「子供の頃から鑑定や魔力関連のものを嫌がっていたのは、てっきり魔力がないからだと思っていたが、まさかこんなことだったとは……」


「申し訳ありません……」


「光属性と闇属性は特殊な属性だから、仕方あるまい。それにしても……なんとも緩いな。締まりがない。それにどこかで見たような気が……」


 お父様の言葉に思わず吹き出しそうになる。


(ゆるキャラだなんて知らないはずなのに、お父様の感覚が意外と鋭いわ!)


「そこが良いのです。私はこの二匹にとても癒されております」

「ハーティス公の好みは変わっておられるのですね。まさかロベリアと一緒とは……ふははは。それなら、娘はこれからも楽しくやっていけそうですな」


 お父様の笑い声が優しくて、この和やかな空気の中、書面を交わし、婚約は無事に成立した。




 その後、王宮から戻ってきたレイノルドと共に、四人で晩餐となった。

 先日とは別人の、すっかり元に戻ったレイノルドとの再会に、私は思わず泣きそうになってしまった。


 レイノルドの話によると、今王宮では魅了をかけられていた人々への対応に追われているらしい。


 魅了は厄介なことに、人によっては感情を操られていた間の記憶が残っていることもあるため、その記憶や闇属性魔法の後遺症に悩まされるのだとか。

 その為、国王陛下をはじめ、大臣などには、聖魔法を優先的に施し、なるべく後遺症が軽くなるよう、失脚したクレリオ様の代わりに魔術師団長に復職したノルン辺境伯が対応しているそうだ。


 クレリオ様は、父親である辺境伯の活躍により、かなり減刑はされたものの、魔力拘束を受けた状態で辺境の塔への幽閉が決まった。

 幽閉と言ってはいるが、結局のところ、ノルン辺境伯領の仕事を彼がする形になったそうな。


 そして、重鎮以外の魅了をかけられていた人々は段階に応じて、週一回のカウンセリングなどを受け、それに合わせて聖魔法を施されているらしい。


 今日レイノルドが王宮に行ったのは、事情聴取のためだった。

 レイノルドの場合、魅了自体はランス様のおかげで早い段階で完全に解けていたため、今はマリアの罪状を固めるための捜査に協力しているのだとか。


 ちなみに王太子殿下にも、もちろん優先的に聖魔法が施された。

 けれど、そもそも殿下はリアの強い聖魔法の浄化を受けていたため、他の人たちよりもかなり軽度だったそうだ。



 ようやく全てが解決し、私とランス様の婚約も整った。

 晩餐のあと、ランス様は婚約誓約書と「グマ~~グマ~~」と叫び狂うルドを必死に抱え、泣く泣く帰って行った。


 私は部屋のベッドで、リアをかかげて仰向けに寝転ぶ。


「リア、これからもずーっとよろしくね!」

「クマ~!」


 あんなに苦しんでいた日々がついに明けた……。

 幸せを噛み締め、もうしばらくだけ続く侯爵邸での生活に、明日は何をして過ごそうかと、思いを馳せるのだった。

お読みいただきありがとうございます。

こちらでひとまず、すべて完結になります。


また楽しいエピソードが浮かべば、番外編を書いたりすることがあるかもしれませんが、今はひとまずここまでです。

クマ吉以外にもぬいぐるみがたくさんいるので、騒ぎ出す可能性ももしかしたら……。

その時はまた楽しんでいただけますと幸いです。


ブックマークや☆での評価やいいねなど、いただけますと今後の励みになります。

もしよろしければ、よろしくお願いいたします。

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