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侯爵邸の変貌

 私は今、馬車という密室の中でイケメン(公爵様)と向かい合って座っている。


 想像もしたことのないこの状況と、これから先に待ち受けているであろう現実を想像して、私はとびきりぎこちない笑顔を浮かべていた。


 その様子を公爵様は心配そうに覗き込む。


「アラベスク嬢、大丈夫ですよ。侯爵には私が話をつけます。あなたは荷物を取りに行くだけです」


 ね、と最後に付け足しながら、こちらに向かって軽くウィンクを飛ばす。


(イケメンのウィンクの破壊力――!!!!)


 王太子の婚約者だったとはいえ、彼はそんなサービス精神が旺盛な人ではなかった上に、前世でも恋人などいたことのなかった私は、そんなイケメンのファンサに耐性など持ち合わせていない。


 二人きりになった途端、いきなりの大ピンチである。


(中身はオネエだってわかっているのに、何でこんなにときめいちゃうの!? あ、でもオネエでも恋愛対象は女性かもしれないわね……)


 動揺して返事のない私の様子を公爵様はさらに心配そうに見ている。


 とにかく今は平常心を保たなくては。


「……公爵様の御手を煩わせてしまい、申し訳ありません」


「私が言い出したことなのだから、気にしなくて大丈夫です。それに、私もあなたと暮らせることがとても楽しみなのですから。そのためにも、早く済ませてしまいましょう」


 ときめきですっかり気持ちが浮き足立っていたけれど、これから向かう侯爵家では私を修道院へ送り込む準備を整えている可能性が高い。


(きっとまたゲームの強制力が働いているに違いないわ)


 そう思うと、ほんの少しの間忘れていた不安が勢いよく蘇ってきて、無意識にくま吉を震える手でギュウギュウと握りしめる。


(どうか、上手くいきますように!)


 祈りながら握りしめたくま吉は、心なしか、一瞬ニコッと微笑んだように見えた。





 馬車はあっという間にアラベスク侯爵邸に到着した。


 ハーティス公爵家の家紋を見た門番は慌てて門を開き、御者台にいたヘルマンとのやり取りの末、玄関口へと馬車を寄せる。


 そして、私と公爵様が馬車から降りると、その姿を見た侍従たちは打ち寄せる波のように徐々に騒がしさを増していった。


 間もなく慌てた様子で家令のヨーゼフが姿を見せ、恭しく出迎える。


「ハーティス公爵、突然のおこしでしたので、主人の準備が整っておらず、申し訳ございません。後ほどご挨拶させていただきますので、一旦応接室でお待ちいただけますと……」


 公爵様の隣にいるはずの私に、全く声をかけない様子からして、婚約破棄の話は既に侯爵邸内で知れ渡っているのだろう。


 公爵様に対応しつつも、「厄介なことを……」という心の声が聞こえて来そうな視線を時折私に向けてくる。


(確かに面倒なことには違いないわね……)


「ああ、突然で申し訳ない。侯爵にはご令嬢のことで話があると伝えてもらえるだろうか」

「承知いたしました」


 ヨーゼフは公爵様に一礼すると、屋敷内へと足を進めた。


 家令の後ろをゆっくり歩いていると、公爵様は険しい顔をしながら私に近づき、家令には聞こえない小さな声でそっと囁く。


「どうやら侯爵邸にあなたの味方は居なさそうですね。念のため、私も部屋の前までご一緒しましょう」

「え!?」


 思わず漏れた声にヨーゼフが訝しげな表情を露わに振り返る。


 その視線を遮るように、私の前に手を添えた公爵様は、険しい顔つきのままヨーゼフを睨みつけた。


「すまないが、先にアラベスク嬢を部屋まで送ってから、彼女と共に応接室に向かうことにする。したがって案内は必要ない」


 有無を言わせない彼の言葉に圧倒された家令は、一瞬顔を顰め、そのまま一礼して去っていった。


 本来であれば、自分の家の令嬢と成人男性を二人きりで部屋に向かわせるなどあり得ないにもかかわらず、それを咎めもせず去っていく家令。


 侯爵家における自分の立場が今朝までとは大きく異なっていることを、嫌でも気付かされることになってしまった。


お読みいただきありがとうございます。

ひとまず、侯爵邸にやってきました。

断罪から時間が経っているので、屋敷のみんなにまで知れ渡ってしまっているのがわかる回でした。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。

よろしくお願いいたします。

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