求婚
本日でラスト2話更新いたします。
よろしくお願いいたします。
魔術師団棟の地下深くにある封印牢。
文字通り魔力を封印された重大な魔法犯罪者が収監される牢獄。
マリアは、リアとルドが封印を施した後、さらに魔術師団の精鋭数名に封印を何重にもかけられ、その上に魔力封じの腕輪を付けられた状態で、この地下牢に収監された。
どうやらすぐに処刑されるわけではないらしい。
移送される前、腕輪をはめられている最中に意識を取り戻したマリアは、驚くほど元気に大暴れした。
自分はヒロインなのに、なぜこんな目に遭わなければならないのかと、泣きながら叫びまくる。
少し離れた場所でその様子を見守っていた私を見つけると、呪いでもかけそうな目で睨んできた。
「全部……全部あんたのせいよ! あんたが死なないから、あんたが話通り死なないからよ!! さっさと死になさいよ!!」
魔術師たちがマリアを黙らせようと抑え込みにかかる。
それと同時にランズベルト様が私を隠すように自分の方へと引き寄せた。
視界にはランズベルト様しか見えない。
「ラ、ランズベルト様っ」
「あんな妄言、聞かなくていいです」
そう言って私の耳を塞ぐように自分の手を当てる。
ランズベルト様の手の温もりが、じんわり耳や頬に伝わってくる。
遠くの方で叫んでいるマリアの甲高い声が響いていたようだけれど、思わぬ距離に自身の心臓の音が煩くて、何も聞こえない。
(きょ、距離が……!)
すると、ランズベルト様はゆっくりと私の顔を覗き込む。
彼の心配そうな瞳には動揺している私が映っている。
しばらく見つめられた後、耳に当てられていた手が外され、そのままなぜか彼の腕の中に抱きしめられた。
動揺する私の耳元に、ランズベルト様の安堵の声が聞こえる。
「あなたに危害が加えられなくて、本当に良かった……。光属性のあなたの力に頼らなければならず、自分の無力さを呪いました。私は盾になることくらいしかできませんでしたから……」
「ランズベルト様……」
抱きしめる腕の力が緩み、再び私の顔を覗き込んだランズベルト様は、「弱音を吐いてしまってすみません」と慌てるように言う。
身体が離れたことで辺りを見回すと、既にマリアの姿はなく、魔術師たちが引き連れて行ったようで、残されたのは私たち二人だけだった。
「あれだけ魔法を使ったらお疲れでしょう。ひとまず、公爵邸に戻って休みましょうか」
「そうですね」と返事をしかけて、ふと私が公爵邸でお世話になっている理由を思い出す。
(私もうハーティス公爵家で匿っていただく必要がなくなったのだわ……)
すると、そんな私の心を見透かしたように、ランズベルト様がもう一つの提案を追加する。
「……それともアラベスク侯爵家に戻られますか?」
ランズベルト様の表情はとても切なげで、捨てられた仔犬のように見えてしまう。
その表情に期待してしまい、胸がざわつく。
「いえ。ルイーゼ様にも直接ご報告したいですし、お礼もしたいので、一旦公爵邸へ戻ります」
「……一旦」
「え?」
「あ、いえ、すみません。では、公爵邸へ戻りましょう」
そうして、私はランズベルト様と共に公爵邸へと向かった。
◇
公爵邸へ向かう馬車の中。
向かい合って座るランズベルト様の様子がなんだかおかしい。
落ち着きがないというか、ソワソワしているというか、何か話そうとしては躊躇うという動作を繰り返している。
(きっと私に侯爵邸へ戻れと言い出しづらいのね……でも理由もなくずっと公爵邸にいる訳にはいかないし、どう切り出そうか悩んでらっしゃるのだわ)
納得して、ランズベルト様が話し出すまで待つことにした私は、隣のカゴの中でぐっすり眠っているリアとルドを覗き込んだ後、カーテンの隙間から外の景色を眺める。
王宮の門を出たばかりで、王宮と同じ白い建物と石畳が続いている。
王宮から真っ直ぐ伸びる大通りに入ると、馬車の揺れが少しおさまった。
そのタイミングで、ランズベルト様がなぜか急に私の足元に片膝をつく形で跪いた。
「ランズベルト様!?」
「ロベリア嬢。このようなところでどうかと思ったのですが、二人きりでお話ができるのはここを逃すと次いつあるかわかりませんので……」
「はい……」
「まだあなたと出会って間もないですが、共に過ごした日々がとても楽しく、あなたが居てくれるだけで心が満たされている自分に気づきました。これからも私のそばにいてくださいませんか?」
「……え?」
私は今何を言われたの……?
驚きのあまり、目を見開いたままランズベルト様を見つめる。
ランズベルト様は、そっと私の手を取ると、さらに言葉を続けた。
「私と……私と結婚してください」
「!?」
その瞬間、私の中で何かが弾けたように、胸いっぱいに温かな気持ちが溢れ出す。
どうしよう……言葉が出てこない。
途端にゆるむ頬や口元を握られていない反対の手で覆う。
けれど、私のその行動が、ランズベルト様を不安にさせたのか、彼は慌てたように手に力を込め、さらに懇願する。
「あなた以外考えられないのです! どうか……!」
それはあまりにも切なげで必死で、そんなに私を求めてくださることが嬉しくて……
思わず胸がキュッと締め付けられる。
溢れ出す思いで瞳に涙を浮かべながら、私は必死にコクコクと頷いた。
「ああ、ロベリア!」
勢いよく立ち上がったランズベルト様は、掴んでいた私の手を引いて、体ごと引き寄せると、そのまま膝に抱えるようにして座り直した。
一瞬の出来事に、驚きで目をぱちぱちさせてしまう。
(え? 今何が起きたの……? って、ちょっと!? 私、ランズベルト様のお膝の上に座ってる!?)
その状態でさらにランズベルト様は私をギュッと抱きしめる。
「やっと私のものだ……」
甘い言葉を耳元で囁かれ、こめかみに口付けを落とされる。
真っ赤になりながらあわあわしていると、その様子を「可愛い」と嬉しそうに眺められ、さらに頬や手に口付けを落とされる。
(甘い……ランズベルト様が甘すぎる!)
嬉しさと恥ずかしさで大パニックを起こす頭を懸命に律していると、馬車はようやく公爵邸に到着した。
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ついにここまで辿り着きました。
次回最終回です。最後までお楽しみいただけますと幸いです。
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