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迷惑な親子喧嘩(アーサー視点)

更新がまちまちで申し訳ありません。

よろしくお願いいたします。

 目の前にいる闇属性の魔法を使う男爵令嬢。

 思っていた以上に魔力量も少なければ、魅了魔法の威力も弱い。


 なぜこんな令嬢のこんな魔法に躍らされた上、国王を、国を危険に晒しているのか。

 国を守るために存在するはずの魔術師団が……その長である魔術師団長が責務を忘れ、我欲に走るなどあってはならない。

 私を認めてすぐさま隠れた息子への怒りが、止めどなく溢れてくる。


 そんな私の殺気を感じないのか、単なるお花畑なのか、男爵令嬢は私の笑顔に喜びながら向かってきた。

 そして、魅了魔法が効かないことに気づき、慌ててクレリオを探しているようだった。


「お探しの人物でしたら、玉座の裏に隠れているようですよ? ねぇ、クレリオ?」


 令嬢のことなど知ったことではないが、私が呼びかけると、クレリオが彼女を守るためか、転移魔法を使おうとするのを感じた。


「私の速さにお前が敵うわけがないでしょう?」


 令嬢を縫い止めるべく、聖魔法を一帯に全展開させ、それに合わせて彼女の足元に浮かぼうとする転移魔法を無効化する。


 転移などさせてたまりますか……!


「ち、父上……」


 クレリオは玉座の後ろでガタガタと震えながら、こちらの様子を隙間から伺っている。


「悪い子にはお仕置きが必要ですからね。国を傾かせるような事態を引き起こすなんて……それもこんな拙く魔力も少ない娘の闇属性などにまどわされて……情けないにもほどがあります」


 ため息をつきながらそう告げると、恐る恐るクレリオが玉座の裏から姿を現した。


「ち、ちち、父上、話を聞いてください! ちゃんと理由があるのです!」


「聞く耳など持つ必要がありませんね。あなたは長の責務を放棄したのです。国を危険に晒すなど、万死に値します!」


 怒りによって無意識に私の魔力が漏れ、クレリオを威圧する。

 クレリオも必死に防御魔法を展開して受ける圧を減らそうとしているが、苦しそうに声を上げる。


「ま、魔術師団棟は守ったではないですか!」


「棟だけ守って何になります! 国を守らねば、魔術師団棟などあったところで意味などありません! 少し考えればわかることでしょう!? お前は国を危険に晒したのですよ!」


「で、ですが父上! 闇属性の魔法だって、何か国の役に立つかもしれないじゃないですか! だから、研究しておく必要があるかと思って……」


 あまりにもバカげた言い訳に、無意識に私の威圧が増して、クレリオから悲鳴が漏れる。


「ゔぁっ!」


「それで、陛下たちを魅了魔法から守りもせず、様子を見ていたと? お前はどこまでバカなのです!」


 魔法と言葉で攻め続けられたクレリオは胸を抑え苦しそうにガタガタと震えながら、必死に防御魔法を展開して耐えている。


 やはりクレリオに師団長はまだ早かったのかもしれない……そう思わざるを得なかった。


 ため息を吐きながら、ふとクレリオの手前にいる国王を見ると、先ほどまではなかった黒い靄が、身体からじわじわと燻り始めている。

 よく見ると他の宰相や大臣たちからも同様の現象が起きていた。

 その様子に、苦しんでいるはずのクレリオがほんのりとワクワクとした目をそちらに向ける。


「お前は……全くこりていないようですね……」


 私は威圧と同時に風属性の攻撃魔法を展開して、クレリオに向かって思いっきりぶつけた。

 すると、玉座の後ろの空間が軽く吹き飛び、国王たちの控えの間に通じる風穴が開く。

 

 クレリオは、防御魔法越しにその穴を見て、目を見開いた。

 ワクワクをはらんでいた瞳が再び恐怖の色を帯びる。


(このままでは闇属性に取り込まれてしまう可能性がある……浄化を急がなければ!)


 私はクレリオの反応に呆れながら、攻撃魔法を放っていた手を一旦止め、代わりにその手に聖魔法を込めた。


 威圧が止んだことで、再び好奇心を抑えきれなくなったクレリオは靄を真近で見ようと国王へとゆっくり近こうとする。

 そんなクレリオの行動など気にすることなく、私は国王と大臣たちめがけて、一気に聖魔法を放った。

 途端に国王たちを含めた一帯が浄化され、消えた靄の代わりにキラキラと小さな光の粒が彼らの周りに舞う。


 ぼーっと一点を見つめていた国王は、玉座にゆっくりともたれかかり、そのまま規則正しい寝息を立てて眠り、大臣たちも同じくその場にゆっくりと倒れ込み、皆スヤスヤと穏やかな寝息を立てた。


 それを目の当たりにしたクレリオは、物凄く残念そうな表情になり、恨めしそうに私を見た。


 その時だった。


 私越しに何かを見たクレリオは、先ほどの比ではなく、驚愕の表情になると、ガックリと肩を落とし、おもちゃを取り上げられた子供のような、今にも泣きそうな顔になる。

 クレリオの反応に私も後ろを振り返ると、アラベスク嬢の聖霊たちが男爵令嬢の封印を完了していた。

 どうやら私たちがやりあっている間に封印が完了したらしい。

 元凶である闇属性が封印されれば、取り込まれることはもうない。

 ホッと胸を撫で下ろす私を、クレリオは恨めしそうに見つめる。


 そんな顔をしたところで、私が赦すわけはないとわかっているくせに……。


「悪い子にはお仕置きが必要だと言いましたよね? クレリオ?」


 湧き上がってくるクレリオへの苛立ちと、彼を純粋に育てすぎてしまったがゆえに犯罪者にしてしまった自分への苛立ちに、私の手が自然と震えてしまう。


 どう考えてもこれは、反逆に加担してしまっている。

 操られていたわけでもなく、自ら進んで手を貸し、そして、魅了魔法にかかった国王や重鎮たちを救うどころか、実験対象として観察していたのだ。

 罰せられることは明確である。

 下手をすれば、家門が取り潰しになる可能性もある。

 お仕置きなど、そんな可愛いもので済むはずがない。


 頭を抱えつつも、拘束魔法でクレリオを縛り上げ、魔法が使えないように、魔力封じの魔道具を腕にはめる。

 恨めしそうな表情で半べそをかきながらも、大人しくされるがままになっているクレリオを見ると、多少はやったことの大きさを理解しているのかもしれないと思えた。


 

 それからしばらく待っても騎士団どころか、警備の兵さえ現れず、結局私とアラベスク嬢、二人がかりで王宮全体の浄化作業を行うことになってしまった。

 男爵令嬢のあの少ない魔力量で、よくぞここまで広範囲に魅了を充満させられたものだ。

 そこにうちのクレリオの入れ知恵や魔道具が関与していないことを祈るばかりである。


 王宮全体の浄化が終わり、魅了にかかっていた者たちが解放された頃には、王宮のあちこちから安らかな寝息が聞こえてきた。

 けれど、この状態は王宮の警備上、非常によろしくない。

 私は魔術師団棟の魔術師たちに、急ぎ念話を送る。


「(緊急用の防御魔法を王宮全体に展開! 強度は最強! テンペスト級!)」

「(はっ!)」


 すでに私は魔術師団長を辞した人間で、その私の指揮下で動く魔術師団はどうかと思ってしまうけれど、緊急事態なのだから、仕方がない。

 果たしてこれからクレリオはどうなってしまうのか……。

 私は、防御魔法の展開を見守りながら、大きくため息をついた。

お読みいただきありがとうございます。

迷惑な親子喧嘩でした。

そろそろ終盤に差し掛かってまいりました。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


ブックマークや☆での評価やいいね、ありがとうございます。

なるべく年内に最後まで行けるよう頑張ります!

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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