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魔力量

更新が安定せず申し訳ありません。

できるだけ週末以外も更新できるよう努めます。

よろしくお願いいたします。

 転移門の部屋は、部屋というにはおかしすぎるほど、全くの異空間だった。

 扉を開けた先には、石造りで天井の高い、神殿の中のような空間が広がっていて、思わず開いてしまった口を手で押さえる。


(うわぁ~~)


「こちらが転移門です」


 さらに進んだ部屋の奥に、重厚な石の門が聳え立っていた。


 起動していない門は、門構えがあるだけで、門の先には部屋の壁が見えている。

 それにしても、一体どれ位の人間、いや、馬車や召喚獣でも通り抜けられるようになっているのか、高さが私の身長の何倍もある。


(十メートル位あるんじゃないかしら?)


 こんなものが邸の中にあるなんて、辺境伯邸が巨大な城である理由がわかった気がした。


「では、早速魔力充填を行いましょう。アラベスク嬢、よろしくお願いいたします」

「はい。あの、ちなみになのですが、どれくらいの魔力が必要なのでしょうか?」


 肝心なことを聞き忘れていたことに今更気づく。


「そうですね……通常の属性であれば、魔術師団の中堅が丸一日注ぎ続けてようやく、というところですが、光属性でしたら、その半分、そのさらに半分というところでしょうか」


(え……? ええ!? 想像していた量より遥かに多い気がするのは私だけ??)


 予想に反する発言に、一瞬躊躇う私の表情をランズベルト様は見逃さなかった。


「中堅の魔術師が丸一日注ぎ続けてようやくって……そんなことをご令嬢に課すなど、正気ですか!?」

「はい。ですが、私と共に魔力供給する形になりますから、そんなに時間は要しませんし、すぐ済むので、大丈夫ですよ」


 責めるように告げたランズベルト様に、ノルン辺境伯はニッコリと、とっても良い笑顔で答えた。


(いや、そこじゃない!)


 ツッコミを入れたいけれど、あまりにも気にしていない様子に、どう告げれば良いか悩んでしまう。

 ランズベルト様も同じ気持ちのようで、悩ましげな表情になっている。

 そんな二人の様子にノルン辺境伯は不思議そうな顔になる。


「あの……もしかして、アラベスク嬢はご自身の魔力量を把握していらっしゃらないのでしょうか?」


 確かに私は今まで死亡ルートに至らないため、魔法をできる限り使わずに来たので、魔力測定などは避けてきた。そのため、詳しい魔力量などは把握していない。


「ええ。今まで必要がなかったので、把握していないです」


 私の答えに納得した辺境伯は、頷きながら私の肩に乗っている二匹の聖霊を見た。


「その二匹の聖霊を一日維持する魔力量は、この門を動かす魔力量に匹敵します。それを無意識に行っているのを見ると、魔力量自体は私と同等、もしくは私よりも多い可能性が高いです」


「え……!? あの、リアとルドには稼働するための魔力を注いでいるのですが……それ以外に維持する魔力が必要ということですか?」


「ええ。容器に魔力を入れて、その容器を魔力で動かしている状態ですから。聖霊が魔法を使う時は、容器の中の魔力を使う形になります」


「な、なるほど……」


(この子たち、思った以上に魔力が必要な子たちだったのね……)


 そして、そんなものを常に二体も稼働させていたなんて……しかも無意識に。

 さらに私は二体になってから、ルドに魔力を注ぎ続けていた。

 そう考えてみると、転移門の魔力なんてちっぽけな量に思えてきてしまう。


「そもそも魔力量がかなり必要なので、光属性の方でも聖霊を使役している人は稀なのです。……さらに! 私と同じように複数使役している方にお会いしたのは初めてなのですよ!」


「は、はあ……」


「しかも、アラベスク嬢の聖霊は喋るのですよ!! それがいかに凄いことか!!」


「あ、そんなに珍しいことなんですね……」


「念話をする聖霊は聞いたことがありますが、声が皆に聞こえる聖霊など、前例がないのです。まあ、その懐いている様子を見るに、アラベスク嬢の愛情なのかもしれませんね」


「はあ……」


 何やら変なスイッチが入ってしまったようで、辺境伯は大きくテンションを上げて力説する。

 そのテンションに圧倒されタジタジになる私をよそに、彼はウキウキと転移門への魔力供給準備に向かっていった。

 やはりクレリオ様の研究好きはきっと父親譲りなのだろう。


 辺境伯が楽しそうに準備を進める横で、私はゲームの設定を思い返す。

 ゲームには、このノルン辺境伯はもちろん、光属性の人間が聖霊を使役する設定などなかったからだ。


(確かヒロインは光属性だったはずだけど、聖霊なんて使役していなかったわ。もしかして……ヒロインの魔力量が少なかったから?)


 先日、マリアと対峙した際、彼女は私の聖霊に押し負けていた。

 つまりは、私よりも魔力量が少ない可能性が高い。


(あれ……? もしかして、クレリオ様さえなんとかなれば、意外とマリアを止めるのは難しくないのかしら??)


 そんな期待に思わず顔が綻ぶ。

 不意に出てしまったその表情に、転移門をじっくり見ていたはずのランズベルト様が反応する。


「何か良いことでも思いつきましたか?」


 見られていたとは思いもせず、あたふたする私に、ランズベルト様は微笑みかける。


「このまま王宮に向かって、マリア様を止められる気がしてきました」

「それは……! 頼もしいですね」

「ノルン辺境伯にクレリオ様を抑えていただければ、の話ですが……あれだけお怒りであれば、問題ないかと」


 そう言いながら、楽しそうに準備をするノルン辺境伯に視線を向ける。

 ランズベルト様も同様に辺境伯を見て、私たちの視線に気づいた彼が不思議そうにこちらを見た。


「大丈夫だと思いますよ。なにせ『美笑の悪魔』様ですから」

「ですね……!」


 催促されていると勘違いしたのか、辺境伯が「すぐ整えます!」と焦っている。

 そんな様子に私とランズベルト様は思わず笑ってしまったのだった。




 それから五分ほどして、ようやく転移門の準備が整った。

 まずは左右にある魔法石の結晶に光属性の魔力を注ぐ。

 私とノルン辺境伯は、左右に分かれて魔法石に触れる。私が右側、辺境伯が左側だ。

 左側の魔法石には、魔力貯蓄のための装置も付いているので、供給時に調整する必要があるらしい。

 私を心配したランズベルト様は、もちろん右側の、私の後ろにスタンバってくださっている。


「では、私が先に手をついて、魔力を流しますので、アラベスク嬢は私の合図の後、魔法石に手をつけてください。そうすることで、私の供給の流れと同じ流れで供給が開始されます」

「わかりました」


 私が頷いたのを確認すると、それからすぐにノルン辺境伯は魔法石に手をついて、目を瞑りながら小さく呪文らしき言葉を唱えた。

 その途端、彼の体が白い柔らかな光に包まれ、神々しく輝きだす。


 突然のファンタジーな出来事に、私の心が浮き足立つ。


(先日のマリアの魔法はもちろん、ランズベルト様やリアの魔法も、自分が窮地に陥っていたからワクワクなんてできなかったけれど、これを見ると、転生したんだって物凄く実感できるわ……!)


「さあ、今です! 手をついてください!」

「はい!」


 目を瞑りながら大きな声でそう言われ、私は魔法石に手をついた。

 すると、辺境伯同様、私の体が白い光に包まれ、それと同時に体の中から何かがズワッと持っていかれる感覚に見舞われる。


(これが魔力を引き出される感覚……!)


 初めての感覚に驚きつつも、特に気持ち悪さなどは感じない。むしろ、少しスッキリしたくらいに感じた。


 それから数分もしないうちに、辺境伯から手を放す合図を受け、そっと手を放した。

 予想以上の速さに、なんだか呆気に取られてしまう。


(中堅の魔術師が丸一日かかるというのは一体……もしかして私ってば規格外? チートだったりするのかしら?)


 そんなことを思いながら、後ろで心配そうに見ているランズベルト様に大丈夫だと微笑み、彼を連れて転移門の正面に回る。

 魔力が満ちた影響か、先程まで先が見通せていた門の中央には、見え方によって虹色に光る膜のようなものができていて、その先は見えなくなっていた。


「では、早速向かいましょうか。……あ、それとも少し休まれますか?」


 正面に移動してきたノルン辺境伯がにこやかな表情で私に問いかける。

 気遣いの取って付けた感がすごい。

 とはいえ、確かに私もノルン辺境伯も、ピンピンしている。


「いえ、大丈夫です。このまま向かいましょう」


 あっけらかんとそう答えた私に、ランズベルト様の声が飛んでくる。


「ロベリア嬢! 昨日の今日ですし、あまりご無理はなさらないほうが……」


 とても心配そうに私を見るランズベルト様。

 けれど、私はというと、魔力供給をしてスッキリしたせいか、昨夜よく眠ったおかげか、とても調子が良い。今なら何でもできそうな気さえする。


「大丈夫です。無理はしていませんし、むしろ調子が良すぎるくらいです。ありがとうございます」

「確かに顔色が先ほどより良いですね……」


 マジマジと顔色を覗かれ、その顔の近さに思わず顔が赤くなる。


「ら、ランズベルト様っ……近いです……」

「血色も、反応も良さそうですね。ただ、私があなたのことを常に心配しているということを忘れないでくださいね」

「!?」


 そう言って、頬に手をあてられ、驚きと戸惑いで心臓が跳ねる。


(え!? ランズベルト様にいったい何があったの!?)


 動揺する私を嬉しそうに見つめるランズベルト様に、余計にドキドキが止まらなくなってしまう。

 そんな私たちをノルン辺境伯は、微笑ましそうに生暖かい目で見ていた。



「それでは、参りましょうか」


 ノルン辺境伯の声掛けで、ようやく我に返った私は、転移門へと足を踏み入れたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

転移門と魔力量のお話でした。

すみません……王宮にはまだ戻れませんでした。

次こそ王宮、親子の再会予定です。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


ブックマークや☆での評価やいいね、ありがとうございます。

なるべく日を空けずに更新できるよう頑張ります!

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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