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クレリオの理由


 それからしばらくして、聖霊たちが落ち着いたところで、ようやく本題を話し始める。

 ひとまず、現状王宮で起きていることと、マリア・ケルビン男爵令嬢の魅了について、そして、それにクレリオ・ノルン師団長が関与している可能性について、ランズベルト様が説明する。


 ルイーゼ様の手紙には詳細は書かれていなかったらしく、説明を聞いたノルン辺境伯は、先ほどまでの笑顔を消し、急に悩ましげに顔を歪めた。


「……闇属性持ちの男爵令嬢ですか。しかも、クレリオがその方に加担している可能性があると……」


「はい」


「まず一つはっきり申し上げられることは、クレリオが魅了にかかっている可能性はありません」


 力強くそう断言する辺境伯に、私とランズベルト様の頭には疑問が浮かぶ。


「魅了が効かないとはどういうことでしょうか? クレリオ殿は光属性ではなかったと記憶しているのですが……」


「ええ。あの子自身は光属性ではありません。ですが、クレリオには幼い頃から私の聖霊を付けているのです。アラベスク嬢ならご存知だと思いますが、この子達は魅了を跳ね除ける力がありますから」


「そういえば……! 私の聖霊の影響で、ランズベルト様やその従者にも魅了が効きませんでした」


「聖霊が守護する人間には、よほど強力な魅了でないと効きませんからね」


「なるほど。では、なぜ彼は男爵令嬢に加担しているのでしょう?」


 ランズベルト様が問うと、表情を緩め、少し困ったようにノルン辺境伯は答えた。


「クレリオはその……もう二十五にもなるというのに純粋すぎる子でして……元々魔法が好きすぎて魔術師になったのですが、研究に没頭すると歯止めが効かないのです。たぶん、そのご令嬢の闇属性の魔法に夢中なのだと思います」


(やっぱりそこの設定はゲームと変わらないのね。父親が光属性だから、知らない闇属性を研究したくて仕方がないというところかしら……?)


 光属性と同様に闇属性もとても珍しい。

 そんな珍しい力を前にして、研究したい衝動が抑えられなかったのだろう。


「では、自ら進んで協力されているということですか?」


「ええ。きっとあまり深く考えずに、『闇属性の魔法を研究したい!』と飛びついたのでしょう。まったく、魔術師団長に就任して責任ある立場だというのに、お恥ずかしい限りです……」


 申し訳なさそうにそう告げたノルン辺境伯は、優しい顔で拳を握りしめた。


「ロベリア嬢が命を狙われていることもあり、私たちはこの男爵令嬢を止めたいと考えています。ノルン辺境伯、お力を貸していただけないでしょうか?」


「もちろん、協力させていただきます!」


 辺境伯はランズベルト様の言葉にすぐに頷くと、だんだん表情を険しくさせていく。


「愚息のしたことです。私が責任を持って、クレリオを連れ戻し……いえ、あの子には私自らが鉄槌を下します!」


 満面の笑みでそう宣言する。

 どうやら彼は完全に息子に怒ってしまったようだ。

 険しい表情から一転、笑顔に戻ってはいるものの、その笑顔が寒々とした冷気を放っている。


 ノルン辺境伯のその凍える笑みに、ランズベルト様がこっそりと私に耳打ちする。


「ノルン辺境伯は魔術師団長だった頃、『美笑(びしょう)の悪魔』と呼ばれた方なのです」


 そう言われて、思わずノルン辺境伯の顔を見る。

 美しい微笑みを返されはするものの、その笑顔になぜか背筋がぞくっとした。


(クレリオ様……大丈夫かしら? まあ、ある意味自業自得なのだけれど……)


 まだ会ったことのないクレリオ様の命の危機が迫っていることに、私とランズベルト様は苦笑いをするしかなかった。



 ノルン辺境伯の協力を取り付け、早速王宮へと向かう相談を始めた私たち。

 またここから馬車に乗って公爵領を経て王都か……と、再び続く長旅に私は少し心が折れそうになっていた。


「ロベリア嬢には厳しいかもしれませんが、なるべく急ぎたいので、可能であれば、ノルン辺境伯にも馬車を出していただいて、帰りは公爵邸に寄らず、馬車で丸一日かけて……王都に戻った方が良いかもしれません」


「仕方がないとはいえ、行きでも公爵領であの状態でしたので、帰りは治癒魔法を使いながらが良いかもしれませんね……」


 ため息をつきながら、果たして自分の魔力で自分が癒されるのかと、考え始めた時だった。

 私たちの会話を黙って聞いていたノルン辺境伯が、不思議そうに口を開いた。


「……転移陣を使えばすぐでは? なんでしたら、アラベスク嬢もいらっしゃいますし、我が家の転移門を動かすのも良いかもしれませんね」


「転移門……! あるのですか!?」


「はい。緊急時にすぐに行き来できるように、設置しております」


 転移陣もだけれど、転移門は、魔法が普通に使われているこの世界でもチートアイテム!

 まさかそれを使用できる機会が巡ってくるなんて……!


 テンションが上がってソワソワしていると、それを察したランズベルト様がクスッと笑う。


「使ってみたいですか?」


「それは……やっぱり気にはなりますよね。何より馬車で丸一日の移動を避けられるのは大きいです」


 正直にそう告げた私に、ランズベルト様が申し訳なさそうな顔になる。

 すると、そんな私たちの表情を見たノルン辺境伯がさらに申し訳なさそうに転移陣と転移門の説明を始めた。


「転移陣は一人用が基本ですから、複数での使用となると相応の陣が転移元と転移先両方に必要になりますので、今回の場合は転移門のほうが良いかと思います。それに、光属性の魔力であれば、他の属性の半分で済みますので、私とアラベスク嬢でしたら、かなり少ない魔力で動かすことが可能かと」


「動かす魔力の属性で魔力量が異なるのですか?」


 ノルン辺境伯の言葉にそんな話は聞いたことがないと、ランズベルト様が問いかける。


「我が家の門の場合、私の魔力を登録してあるので、基本的に光属性の魔力で動くようにしてあるのです」


「なるほど……」


 さすが魔術師団長を代々輩出する辺境伯家。

 チートアイテムの転移門すら、カスタマイズされているだなんて!


「普段は備蓄魔力を使うのですが……先日クレリオがそちらを使ってしまったようでして……」


 ノルン辺境伯の笑顔が深くなる。

 どうやらノルン師団長は、色々とやらかしているらしい。


「あ、それと、転移門の到着先は王宮内の魔術師団棟になりますが、構いませんよね?」


 何も問題ないですよね?と言うように、笑顔でそう言う辺境伯に私とランズベルト様は顔を見合わせる。


「え!? いきなり敵、あ、いや、男爵令嬢がいるかもしれない本陣に向かうのですか??」


 思わず「敵」と言ってしまったランズベルト様が慌てて言い直す。

 すると辺境伯は、さらに満面の笑みを向けて言い放った。


「ふふふふ。大事な魔術師団棟を(くだん)の男爵令嬢に明け渡しているようなら、私が全て滅して差し上げます……!」


「の、ノルン辺境伯!?」


「おや、失礼いたしました。では、早速参りましょう。こちらへどうぞ」


 不穏な空気を放つノルン辺境伯の案内で、私たちは転移門のある部屋へと向かった。


お読みいただきありがとうございます。

ノルン辺境伯がお怒りです。

次は王宮に戻ります。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


ブックマークや☆での評価やいいね、ありがとうございます。

なるべく更新できるよう頑張ります!

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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