公爵領
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早朝に王都のハーティス公爵邸を出発してから休むことなく走り続け、気づけばもうそろそろ日が沈もうとしている。
お尻が痛くなるかなと思っていたけれど、あまりに快適な空間に驚いた。
さすがは公爵家の馬車といったところ。
そして何よりあっという間に感じてしまった一番の理由は、この目の前でふわふわ浮いている、リアとルドの存在である。
二匹が戯れたり、お昼寝したり、魔法の練習をリアがルドに教えているところを見ていたら、むしろ時間の方が足りない!
あまりの可愛さに頬が緩み切り過ぎていて、ランズベルト様などは少し心配になる程。
(辺境領に到着する頃、凛々しさを失くされていたらどうしよう……)
私も人のことは言えないけれど、理性をなんとか持ち直さねばと思っていると、ようやく中間地点である公爵領にたどり着いた。
ランズベルト様のエスコートで馬車を降り、公爵領の本邸へと入る。
すると、王都の公爵邸以上の出迎えが待っていた……。
「おかえりなさいませ! 若旦那様! そして、ようこそお越しくださいました! 若奥様!!!!」
「……ええ!? いえ、ちがっ、あ、そのっ……」
真っ赤になりながら戸惑う私の隣で、ランズベルト様も一瞬目を丸くして私の顔を見ると、手で顔を押さえたまま黙り込む。
笑っているのか泣いているのか、その体はなぜかふるふると震えている。
「ちょっと、ランズベルト様! そんな震えてないでなんとかしてください!」
「あ、いや、その、すみません。ロベリア嬢の反応が可愛いすぎて、胸がいっぱいになってしまって……」
「可愛いって……え、ちょっと、ランズベルト様……!?」
(待って待って待って待って……!!!)
「では、ランス様、やはりその方は……!」
領地の本邸の家令らしき初老の男性が、嬉しそうにランズベルト様に詰め寄る。
「あ、いや、その……」
「奥様のお手紙にあった通り、ようやくハーティス家にも春が来たのですね!!」
「いや、だから、その…………ま、まだ違います……」
だんだんとボリュームを落としながら、消え入りそうな声でランズベルト様が言うと、家令は不敵な笑みを浮かべ、彼に何かを囁いた。
するとランズベルト様が急に慌て出す。
「ノイマン! 一体何をする気ですか!?」
ノイマンと呼ばれた家令は、焦るランズベルト様には目もくれず、私の正面までくると、優雅に微笑みながら頭を下げた。
「突然の非礼、お許しください。皆、ランス様のお相手を今か今かと待ち望んでおりましたので、気持ちが先走ってしまいました」
焦っているランズベルト様の様子が気になるけれど、きちんとした応対で返さなくては。
「いえ、大丈夫ですわ。こちらこそ、突然で驚かせてしまったわよね。アラベスク侯爵家のロベリアです」
「ご丁寧にありがとうございます。ロベリアお嬢様。本邸の家令を勤めております、ノイマンでございます。ようこそお越しくださいました」
ノイマンの挨拶に、再び使用人たちが頭を下げる。
一糸乱れぬお辞儀に公爵家の使用人の質の高さが垣間見える。
(王都のお屋敷の使用人も凄かったけど、やっぱり本邸はもっと凄いわね……)
それからランズベルト様とは別に、客室へと案内された。
ノイマンによると、前公爵様は領地の端にある別荘にこもっていて本邸にはほとんどいないらしい。
ご挨拶しなければと緊張していたから、少しホッとした。
ちなみに馬車ではしゃぎ疲れたのか、リアとルドはカゴの中でぐっすり眠ってしまっている。
本邸の人たちに驚かれなくてよかったのだけれど、別に隠しているわけではないので、起きたら大変なことになりそうだ。
そんなことを考えながら、手にカゴを下げ、後ろから付いてきているジョアンナを見る。
(このまま移動する明け方まで起きなければいいんだけど……)
辺境領に昼過ぎに着くためには、明け方には出発しなければならない。
今夜は早く眠らなければ……。
「お嬢様、こちらのお部屋になります。どうぞ」
開けてくれた扉の先は、明らかに客室というには広すぎる上に、とても可愛らしい部屋だった。
「あの、この部屋は……」
「お気に召しませんでしたか? 本邸にいらっしゃるかもしれないと伺ってから、急ぎ準備しておりました」
入り口の出迎えからわかってはいたけれど、明らかに公爵夫人のために用意された部屋。
とはいえ、別の部屋を用意してくださいなんて言えるような勇気はない。
仕方なくそのまま部屋に入り、ソファーに腰掛けた。
「では、晩餐まで、ごゆっくりおくつろぎください」
「ええ、そうさせていただくわ」
ソファーに座った途端、急にどっと疲れが押し寄せる。
朝から夕方までずっと馬車に揺られていたのだから、当然と言えば当然だ。
けれど、同じく馬車に揺られてきたはずのジョアンナは、早速キビキビ働いている。
お茶を淹れたり、荷物の整理をして、晩餐の準備を整えていく。
(デキる侍女はきっと基礎体力から違うのね……)
お茶を飲んでまったりしているうちに、どうやら私は眠ってしまったらしい。
誰かに抱き上げられたような浮遊感を感じて目を覚ました。
「ん……あれ? う〜ん……」
「お目覚めですか、お姫様」
目の前には、優しく微笑むランズベルト様のお顔があった。
「……わたし、まだ夢を見ているのかしら……?」
思わず身じろぎしてみるけれど、ランズベルト様の腕はビクともしない。
眠気も相まって、力強い彼の腕の温もりに、思わず頬をすり寄せる。
「ろ、ロベリア嬢っ……」
「ふふ。なんだかあたたかくって、気持ちが良い……」
とっても良い夢……。
慌てているランズベルト様のことなど気づきもしないで、私はもう一度目を閉じた。
お読みいただきありがとうございます。
公爵領の本邸でした。
次、ランズベルト視点の予定です。
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