魔法
「ロベリア嬢! ご無事ですか!?」
扉を蹴破ったランズベルト様が声を張り上げる。
「ランズベルト様……!!」
泣き出しそうになるのを必死に堪えながら、呼びかけると、ランズベルト様はホッとした表情になる。
後方からはヘルマンが押さえつけているのか、追いかけてくるマリアの声が聞こえる。
「あなたになんか用はありませんのよ! そこを退きなさい!」
「しつこい人ですね。いい加減に、してくださいっ!」
「ああ、ランズベルト様お待ちになって……! なぜわたくしを無碍になさるのー!」
懸命に叫んでいるけれど、ヘルマンが頑張ってくれているのだろう。
そして、マリアは魅了の魔法を使っているのか、さらに先ほどよりも甘い匂いが濃くなっていく。
けれど、ランズベルト様も私も、なんならヘルマンにも効いていない。
「ちょっと、何で魅了が効かないのよ! どうなってんの!?」
ヘルマンに食ってかかるマリアの声がずっと響いているけれど、こちらはそれどころではない。
リリアーナ様は突然現れたランズベルト様への動揺が隠し切れず、焦った様子で、視線を彷徨わせる。
「なぜランズベルト様がこちらに!? どうしてこの女をランズベルト様が助けに来るのです!?」
狼狽えながらも必死にランズベルト様に詰め寄ろうとする。
一方のランズベルト様は、問いには一切答えず、彼女の目をじっと見据えている。
まるで凄んでいるように。
「ロベリア嬢を解放していただこう」
そのまま一歩踏み出し、私に向かってこようとするランズベルト様に、リリアーナ様は眉を顰める。
「それはできないご相談ですわ。この女はわたくしにとってもマリア様にとっても邪魔な存在ですの」
そう言って胸元のペンダントを手に取ると、先端の赤い宝石が光り、私の座る椅子の下に大きな魔法陣が現れる。
魔法陣からは禍々しい黒いものが姿を見せ、私の足や手に絡みついていく。
「え!?なに!? 何なの!? イヤ!」
絡みつかれた部分がジワジワと変色して気持ちの悪い熱を持つ。
「闇の呪いに取り込まれて消えてしまいなさい!」
クスクスと笑いながら、したり顔になるリリアーナ様を尻目に、ランズベルト様が私の元へ駆け出す。
「ランズベルト様っ!!!!」
止めようとするリリアーナ様を躱し、ランズベルト様は魔法陣に足を踏み入れた。
その途端、足元から一気に白い光が湧き出し、魔法陣が浄化されていく。
「え……一体何が起きてるの……?」
すると、向かってくるランズベルト様の背中から、可愛らしい「くま吉」がひょこっと姿を見せた。
通常時を遥かにしのぐ光を纏い、部屋の中を白い光が浄化する。
光を浴びたリリアーナ様は、魅了が解けたのか、その場に倒れ込んでしまった。
「クマ〜!」
「くま吉ーー!!!」
私が「くま吉」に目を向けている間に、ランズベルト様は私の後ろに回り込み、腕の拘束具の鎖を力づくで解いていく。
(え? ランズベルト様……意外と力が強い……)
そして、手につけられていた拘束は、まさかの魔法で凍らせて破壊してしまった。
(ええ!? ランズベルト様、氷魔法の使い手だったの!?)
「ロベリア嬢、ご無事ですか!? 良かった……!」
拘束が全て解けた途端、ランズベルト様は感極まった声を上げ、私を抱きしめる。
座ったまま、強い力で抱きしめられ、じわじわとランズベルト様の温もりと鼓動が伝わってくる。
「だ、大丈夫です。ランズベルトさま……」
そう言いながら、気づくと目からは涙がとめどなく溢れ出す。
「ど、どこかお怪我を!?」
私が泣いていることに気づき、ランズベルト様は慌てて引き寄せていた体を離して顔を見る。
「いえ。怪我はないです。ただ……なんだか安心してしまって……」
ランズベルト様のぬくもりにホッとしてしまったのだ。
自分が思っていた以上に、恐怖を感じていたらしい。
「本当に申し訳ありません。あなたをお守りすると約束したばかりでしたのに……」
その場に膝をつくとランズベルト様は申し訳なさそうに頭を下げる。
「お気になさらないでください。それにこうしてちゃんと助けてくださったではないですか。ありがとうございます」
私の言葉に顔を上げたランズベルト様は、捨てられた子犬のような目でこちらを見る。
「しかし……」
「さあ、早く帰りましょう」
「……はい」
そうして、ランズベルト様の手を借り立ち上がったところへ、マリアがヘルマンを引きずりながら入ってきた。
お読みいただきありがとうございます。
先に小モノを片付ける感じですみません。
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