表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/50

一筋の光(ランズベルト視点)

遅くなってしまい申し訳ありません。

本日分の更新なんとか間に合いました。よろしくお願いいたします。

 晩餐の準備のため、ロベリア嬢を部屋に送り、一旦自室へと戻る。


「ああ、あの動く『くま吉』はなんて可愛らしい! その『くま吉』がとても嬉しそうにロベリア嬢の頬にすり寄る姿……あまりの可愛さに昇天しそうになりました……!」


 部屋に入るなり、テンションを上げる私に、ヘルマンが慣れた手つきで着替えを促す。

 脱いだ服を受け取りながら、ヘルマンが私の顔を覗き込む。


「で、落ち込まれているんですね」


 さすがは子供の頃から一緒にいる側近。

 無理をしてテンションを上げていることがすぐにバレてしまう。


「……やはり命が狙われているなど、彼女に告げるべきではなかったのでしょうか……」


ため息をつきながらそうこぼすと、ヘルマンはやれやれといった様子で優しい笑みを向ける。


「言ってしまったものを後悔しても仕方がありません。それに、ランス様がお守りになるのでしょう?」

「無論、そのつもりです。ですが、彼女の様子がどこかおかしい気がして」


 ヘルマンの表情が変わり、考え込むように頷く。


「確かに。先ほどのロベリアお嬢様は、命を狙われていると聞いても、怯えた様子はありませんでしたね」


 普通、命を狙われているなんて言われたら、悲鳴を上げたり、顔面蒼白になって体を震わせたり、何かしらの怯えている状態になるはずだ。けれど彼女にはそんな様子がなかった。


「ええ。ずっと考え込むだけで、怯えている様子はありませんでした。まるで狙われることを覚悟していたかのような、納得したような表情をされていて……」


 王太子の元婚約者なので、もしかしたら命を狙われることが過去にあったのかもしれないけれど、そういう様子ともまた違う。

 むしろ、自分の命が狙われているということよりも、私が告げたあの男爵令嬢の言葉自体に反応していたような気がしたのだ。


 あの男爵令嬢の言っていた『シークレットルートが開かない』とは一体どういう意味なのか。

 そして、その意味をロベリア嬢が知っているのだとしたら……。


(王太子殿下との間での暗号か何かなのでしょうか? いやでも、それならロベリア嬢はもう関係がないはず……では一体何を意味する言葉なのでしょう)


「もしかしたら、ロベリア嬢は何か大事なことを隠しているのかもしれませんね……命を狙われるような、そんな大事な何かを……」


(そのうち話してもらえるのだろうか……)


 そんなことを思っていると、部屋の外から大きな物音が聞こえ、一斉に屋敷内があわただしくなる。ヘルマンが慌てて様子を見に出ていった。




 五分もしないうちに物凄い勢いで戻ってきたヘルマンは、なぜかその肩に「くま吉」を乗せ、慌てた様子で声を張り上げた。


「大変です! ロベリアお嬢様が、何者かに連れ去られました!」

「なんだと!?」

「部屋の前でジョアンナが倒れていて気付いたようです。部屋からは微かに薬品のような匂いがしておりまして、おそらく薬をかがされて連れ去られたのではないかと。部屋の中には――」


 頭の中が真っ白になった。

 ヘルマンが詳細の説明をしてくれているけれど、全く頭に入ってこない。


 つい先ほど、私はロベリア嬢に「命に換えても、この私が守ります!」と言ったばかりだ。

 その言葉を言ってから、まだ一時間も経っていないというのに。嘘つきにもほどがある。


「――どうも追跡魔法や魔道具の類が効かないので、どうしようかと悩んでいたのですが、なんと! この『くま吉』様がロベリアお嬢様を追えるというので、お願いしようと思います」


「……え? 今なんと言いましたか?」


 自分のおかした愚行で頭がいっぱいになっている中、唐突に「くま吉」の提案と、「追える」という言葉が聞こえてきて、思わず反応してしまう。


「ですから、『くま吉』様がロベリアお嬢様を追跡できるそうです」

「本当ですか、『くま吉』!?」


 勢いよくヘルマンの肩に乗る「くま吉」に向かって詰め寄る。

 端から見たら、まるでヘルマンに壁ドンをしているような状態になってしまった。

 空いたままの扉から、他の使用人たちがじっとその様子を見守っている。


 詰め寄った私に若干怯えているヘルマンと、全く微動だにせず、笑顔のままでこちらを見た「くま吉」。


 すると「くま吉」はヘルマンの肩から私の肩に飛び移る。

 肩の上をとことこ移動して頬の側まで来た「くま吉」は、小さな手で優しく私の頬を撫でた。


「クーマ」


 心配そうにこちらを見つめて優しく声をかける「くま吉」に、涙が出そうになる。


(泣いている場合ではない。急いで彼女を助けに行かないと!)


「ありがとう、『くま吉』。私をロベリア嬢の元まで連れて行ってくれませんか?」


 そっと「くま吉」を撫で返し、お礼と共に懇願する。

 私の言葉に頷いた「くま吉」は、「ついて来て」とでも言うかのように浮かび上がり、チラチラとこちらの様子を見ながら進むと、そのままロベリア嬢が使っていた部屋へと向かう。


「クマクマ」


 部屋に入ると、「くま吉」はテーブルの脇に置かれていた箱を指さす。

 その箱を開けてみると、中にはエメラルドの目をした「くま吉」とアメジストの目をした「くま吉」が入っていた。


「これは……私と母上がお願いしていた『くま吉』ですか?」

「クマ!」


 私の質問に得意げに頷くと、エメラルドの目の「くま吉」を指さし、持てと言わんばかりに指示を出す。


「クマ、クママ! クマ!」

「これを持って行けというのですか?」

「クマ!」

「よくわかりませんが……とりあえず、連れて行きますね」


 返事をして、王宮に行った際に「くま吉」を入れていた内ポケットにエメラルドの「くま吉」をしまい込む。

 それを見届けた「くま吉」は満足したのか、またこちらの様子を伺いながら窓の方へと移動する。


 開いている窓から暗くなった夜空が見えている。


 すると、その夜空に向かって、「くま吉」の体から白い糸のような細い光がスーッと伸びていく。


「この光を追いかけろということですか?」

「クマ!」


 私の問いかけに元気よく答えた「くま吉」は、私の肩へと再び移動する。


「東の方向ですね。ヘルマン、急ぎ馬車の準備を! 馬車で追いかけます!」

「かしこまりました。今すぐに! 私もお供いたします!」


 こうして一筋の光の先を目指して、私とヘルマンは公爵邸から飛び出した。

お読みいただきありがとうございます。

言ったばっかりで誘拐されるという、あまりにもお粗末な感じで、ランズベルト立つ瀬ない感じですみません。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


毎日更新できるよう、これからも頑張ります。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ