ルイーゼ様は見ている(ルイーゼ視点)
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わたくし、ルイーゼ・ハーティスは、玄関ホールの影からそっと息子のランズベルトと、その恋人候補ロベリア・アラベスク様をじっと見ている。
元々はお見送りの新婚夫婦のようなやり取りを見逃してしまったことが悔しくて、お出迎えこそは!と意気込み待機していたのですけれど……。
何やら予想に反する事態になってしまったようで、使用人たちがあの可愛すぎる「くま吉」にザワついている。
わたくしもあの中に混ざって一緒に動く「くま吉」と戯れたい……!
でも、我慢よ! 我慢なのよ、ルイーゼ!
今出て行ってはロベリア様のあの涙が引いてしまうわ!
せっかくロベリア様とランスが良い雰囲気なのだもの。わたくしが行って雰囲気を壊してはいけませんわ。
実は少し前、この玄関ホールに向かうまでのロベリア様の様子を伺っていた。
ランスの帰りを知らされたロベリア様が玄関ホールへ向かう途中、急にざわついた使用人たちに一瞬顔面蒼白になられた。
それから、見たこともない切ない表情で足早に玄関ホールへ駆け出されて……。
きっと使用人たちのざわつきに、ランスに何かあったのではと思われたに違いない。
それで、あんなにも切ない表情で駆けてこられるなんて……!
ようやく意識し始めてくださったと喜んでいたら、今度はランスが無事だとわかった途端に、ロベリア様はハラハラと泣き出された。
そんな泣き出すロベリア様をたまらない表情で見つめたランスがそっと抱きしめる。
ああもう、この二人絶対両思いよ!!
なぜいまだに二人は恋人ではありませんの!?
見ているこちらがもどかしくてたまりませんわ!
……今すぐ飛び出して行って二人をハグしたい!!!
そんな思いを必死に堪える。
「奥様っ! そこで何を……」
「シッ! 気づかれてしまいますでしょ!」
柱に隠れて覗いていると、後ろから家令に声を掛けられ、慌てて小声で制しながら、口元に指を立てる。
「本当はランスたちの新婚夫婦なお出迎えをこっそり見に来たのですけれど……二人の間で段々と着実に芽生えて行っているようですわね。まだ今は掻き乱してはいけませんわ。ゆっくりそっと、二人の背中をじわじわ押さなくては!」
「奥様……ゆっくり見守るという選択肢はないのですね」
初老の家令は困ったような顔をしながら、わたくしに苦言を呈する。
「だってあの子たち……これからくっつくまでに何年もかかりそうなんですもの」
「それはそうかもしれませんが……」
少しずつヒートアップするわたくしのために、家令はそっと盗聴防止の魔道具を展開する。
さすが長年この家で仕えているだけありますわ。わたくしのことをよくわかっている。
「……ランスは良いとして、ロベリア様は学園を卒業した今が一番縁談話が出る時期ですわ。婚約破棄されたとはいえ、王太子殿下が悪いのは明白。しっかりした貴族家であれば、彼女の有能さには気づいていてよ。ここを逃したら絶対後悔します!」
「確かにロベリアお嬢様は、他家も欲しがる逸材かと思われます。しかもどうやらあのご様子では、とても珍しい属性をお持ちのようですし……」
彼らの周りで飛び回る「くま吉」へと目をやる。
ああ、なんて可愛い……!
ではなくて……ロベリア様が作られた「くま吉」は存在だけでも可愛いのに、白い光を纏いながら、生きているように動き喋っている。
「あれは……光属性の魔法かしら?」
「そのようにお見受けいたします」
「あらあら、これはランスも大変ね……早く囲い込んでおかないと。けれど、お互いの気持ちも大切よね……やっぱりわたくしが背中を押すのは必須だわ!」
意気込むわたくしに家令は、再び困ったような笑顔で肩をすくめる。
「奥様が動かれますと、ロベリアお嬢様も萎縮なさってしまいますので、少しわたくしどもにお任せいただけないでしょうか?」
「まあ、何か策があるというのですね?」
家令は自信満々に、少し悪い顔をしながら頷く。
「はい。ロベリアお嬢様のためにお部屋を整えられたいとのことで、二階の部屋を改装するよう言われておりますが、ランス様はまだ三階の部屋で寝起きされていらっしゃいますので……」
「まあ。それは……逆にちょうど良いわね」
二人して悪い顔で微笑み合う。
企み事ってなぜこんなに楽しいのかしら?
ランスが当主になり、王都のこの本邸からわたくしたちが領地へ移り住んでも、三階の子どもの頃から使っている部屋から彼は移動していない。
さすがに書斎や執務室などは引き継がれた部屋を使っているようですけれど、寝室はまだ昔のまま。
二階にある主寝室は、今は誰にも使われていない。
夫婦のために作られた寝室は、左右に個人用の部屋があり、両方から繋がる仕組みになっている。
「二階の個室を改装すると見せかけて、主寝室を中心に可愛く仕上げて、可愛さで釣るのです! ロベリア様と両方揃えば、あの子もテンションが上がって、部屋を移動するかもしれないわ」
「承知いたしました」
そんな企み事をしながらも二人をじっと見つめる。
この公爵邸の女主人の仕事を手放す日も近いかもしれない。それに初孫をこの手に抱ける日も近いかしら……夢が膨らむ。
そんなことよりも、あれだけ頑なに女性を避けていたひとり息子が、楽しそうに幸せそうに女性に微笑みかけている姿が嬉しくてたまらない。
このまま上手くいってくれることを祈りながら、応接室へと消えていく二人の背中をそっと見送った。
お読みいただきありがとうございます。
少し本線とはそれましたが、ルイーゼ視点のお話でした。
次回もお楽しみいただけますと幸いです。
毎日更新できるよう、これからも頑張ります。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。