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光属性

いつもより少し長めです。

「よし、できたわ!!」


「なんとか間に合いましたね。ロベリア様!」


「ええ。あなたのおかげよ、ジョアンナ。私だけじゃ絶対に間に合わなかったわ。ありがとう」


 テーブルには、ランズベルト様に作ったエメラルドの目をした「くま吉」とルイーゼ様に作ったアメジストの目をした「くま吉」が並んでいた。


 それぞれ本人の目の色に合わせていて、首には同じ色のリボンも結んである。

 二体並べて眺めながら、あまりの可愛さに思わず自画自賛してしまう。


「やっぱり可愛いわね〜! お二人とも喜んでくださると良いのだけれど……」


「きっと喜ばれますよ、こんなに可愛いのですから!」


 ジョアンナに励まされ、頷くと、ランズベルト様の馬車が門に着いたと知らせが入り、急ぎお出迎えに玄関ホールへと向かう。

 完成した「くま吉」はまだラッピングが済んでいないので、夕食後に渡そうと決め、一旦部屋に置いてきた。


 玄関ホールの手前まで来たところで、急に使用人たちの騒がしい声が聞こえてくる。


(もしかして、ランズベルト様に何かあったんじゃ……!?)


 急にぞわりと寒気のようなものが走る。

 私がランズベルト様を巻き込んでしまったせいで、彼が危険な目に遭ってしまったのではないか。


 そんな焦りと共に、もしランズベルト様に何かあったら……そう思うと、なぜか無性に胸が締め付けられて、心がざわつく。


 この気持ちは一体なんなのだろう?

 彼を巻き込んでしまったことへの罪悪感?

 それとも心配?

 心配にしては、もしもを考えるときに湧き上がるこの恐怖にも似た、この気持ちは何なのか。

 この心のざわめきは一体……。


 一度考え出したら止まらず、不安な気持ちを抱えたまま、玄関ホールに到着した。



「ロベリア嬢! もう私、どうしたら良いの!?」


 ――そこには、オネエ言葉で頬を緩ませながら窮状(きゅうじょう)を訴える、ランズベルト様の姿があった。


「ランズベルト様!」


 姿を見た途端、居ても立ってもいられなくて、声を上げて駆け出していた。


「ご無事で良かったです」


 今にも泣き出しそうになっている私の様子に目を見開いたランズベルト様は、興奮状態が収まったのか、私にそっと微笑む。


「ただいま戻りました。ご心配をかけてしまったようで、申し訳ありません」


 そう言いながら目元の涙を拭われて初めて、自分が泣いていることに気づく。


「あ、いえ、その……」


 彼の笑顔に急に胸が締め付けられ、なぜか涙が止まらない私を、ランズベルト様は優しく抱きしめた。

 抱きしめられた途端、それまでの不安な気持ちが急に凪いでいくのがわかった。


 それどころか、彼の逞しい腕に抱きしめられ、胸に顔をうずめながら、ドキドキする私の心臓はめいっぱい早鐘を打ち始める。


(わ、私、ランズベルト様に抱きしめられてる!? え!? 何で!?)


 そんな心臓の動きとは裏腹に、恥ずかしいのに、周りには使用人たちがいっぱい居るのに、そんなの気にならないくらいに、心が満たされていく。


 一分にも満たない時間だったと思う。


 私を一旦離したランズベルト様は、私の顔を覗き込むと「落ち着きましたか?」と優しく聞いてくれる。

 コクリと頷くと、嬉しそうに微笑んだ。


 ランズベルト様のホッとしたような優しい笑顔に思わず見惚れていると、彼の肩にふわりと何かが降り立った。


「クマ?」


(え? 私夢でも見ているのかしら? なんか目の前に私の「くま吉」が降り立って、動いて喋ってる? え!? これは夢? そうよね、そもそもランズベルト様に私が抱きしめられるなんてところからして、やっぱりこれは夢よ!)


「早く起きて、ランズベルト様をお迎えしなくちゃ!」


「ロベリア嬢? ちゃんと起きてますよ?」


 思わず口から出てしまった言葉にランズベルト様が反応してくださる。

 クスクスと笑うランズベルト様の肩には、やっぱり「くま吉」が立っている。


「……え? くま吉? 動いてる、の……? え!? 夢じゃないの!?」


「クマ〜!」


 私の声に応えるように鳴いた「くま吉」は、ランズベルト様の肩からまたふわりと浮かぶと、私の頬にすり寄ってきた。


(え!? ええ!? どうしよう!? もふもふのふわふわの可愛いくま吉が私の頬に触ってすりすりしてる〜〜〜〜!!!)


 アワアワしながら思わずそっとくま吉に手を添える。

 すると、くま吉は嬉しそうに「クマクマー!」

と鳴きながら、さらに私の頬にすり寄った。


「きゃーーーーー!!!! 無理無理無理無理無理! 可愛過ぎて無理ー!!! くま吉―!!! ああもう、大好き〜〜〜!」


 溢れ出した思いがこらえきれず、「くま吉」を両手で抱き寄せ、顔にうずめる。


 目の前でその光景を見ていたランズベルト様も、拳を握りながらふるふる震え出したかと思うと、いつも以上にハイテンションな声が響き渡る。


「あああああああ〜〜〜〜! もう、いや〜〜〜!!!! かわいい! 可愛いの、可愛すぎるのよ!!!! もう何なのこの組み合わせ!! 最っ高過ぎて無理よ〜〜!! あなたたちもうほんとに私をどうしたいの!? 私このままだと悶え死ねそうよ……」


 そう言いながら口元を押さえて、涙目になっている。

 私でもこの「くま吉」には耐えられないのだから、ランズベルト様はもう、我慢しろという方が無理だ。


 しばらくの間、玄関ホールからは私たちの騒がしい声が響き渡っていた。


 ――そして、その光景をルイーゼ様はしっかり映像記録の魔道具に収めていたことを、この時の私たちは知る由もなかった。




 ようやく落ち着き、応接室へ移動した私たちは、テーブルの上でクッキーを持ちながら、悩ましげにする「くま吉」を緩み切った表情で眺めていた。

 もはや二人とも「くま吉」に夢中で、話ができる状態ではない。


 すると、「くま吉」が白い光を出して、持っていたクッキーを包み込む。

 そして、光の中にクッキーがスッと消えていった。


「え!? 今のは……」


 目を瞬いてよく見ても、「くま吉」の手にあったクッキーは無い。


「空間魔法? それとも吸収したの……?」


 「くま吉」をよく見ると、口元がモグモグと動いている。


「ええ!?」

「食べてますね……」


 私の驚きにランズベルト様が答えた。


「どうやら『くま吉』は魔法が使えるようなんですよ。王宮で私は例の男爵令嬢に遭遇しまして、魅了をかけられそうになったところを『くま吉』が聖魔法を放って助けてくれたのです」


「『くま吉』がランズベルト様を助けたのですか!? それに聖魔法って……」


 マジマジと『くま吉』を見つめる。

 けれど、その可愛さに頬がまた緩む。


「恐らくですが……ロベリア嬢には聖魔法の属性、光属性があるのではないでしょうか?」


「私、ですか!? いえ、生まれてすぐの魔力判定では、光属性どころか闇属性を言われていたくらいで……」


(確かゲームのロベリアは闇属性判定を受けていて、それで魅了や従属の魔法を使っていたはず……私は死ぬのが怖くて、死ぬルートに繋がる魔法は使わないと決めていたのよね)


「闇属性ですか……」

「はい。それに、闇属性も怖くて全く使ったことがないくらいです」


「では、この『くま吉』については、何か特別なことをされたりはしていませんか?」


 こちらをじっと見つめてくる「くま吉」を見つめながら考える。


「そうですね……この『くま吉』は、特に小さい頃から肌身離さず持っていて、何かあるといつも話しかけて、お願いや相談をしていたくらいでしょうか……」


 言ってしまってから、思わず恥ずかしさに俯いてしまう。


(ぬいぐるみをずっと肌身離さず持っている上に、話しかけてるとか、どう考えても危ない人間じゃない! ランズベルト様に変な人だと思われてしまう〜〜!)


「なるほど……そういうことですか」


 私の焦りとは真逆に、ランズベルト様はなぜか落ち着いた様子で納得している。


「そういうこととは……?」


 訝しむ私に、ランズベルト様は丁寧に説明してくださる。


「闇属性と光属性は表裏一体なんです。気持ちや心に大きく左右されます。特に幼少期に大きな心的変化があった場合、傾きが変わってしまうことがあるのです。そして一度大きく傾くと、それが定着して戻らなくなります」


「……ということは、闇属性だったものが、前世の記憶を得たことで、光属性に変化した、と」


「その可能性は十分あります。まあ、何より、目の前のこの『くま吉』がその証ですね」


 テーブルから「くま吉」が私とランズベルト様を不思議そうな表情で交互に見ている。

 そんな「くま吉」を見ていたら、妙に納得できてしまって、思わずクスリと笑ってしまったのだった。


お読みいただきありがとうございます。

くま吉で大騒ぎな回でした。

不穏な話については次回です。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


ブックマークや☆での評価やいいね、ありがとうございます!

大変励みになっております。

なるべく毎日更新できるよう、頑張ります!

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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