初めての(ランズベルト視点)
少し短めになります。
ロベリア嬢とマカロンを食べて、たわいもない話をして部屋に戻ると、先ほどまでの時間が幻のように感じた。
ベッドに腰掛けながら、今日一日を振り返る。
怒涛の一日だった。
けれど……
「楽しかったなあ……」
思いがふと声に漏れる。
今まで女性と過ごして、こんなに楽しい時間を持てたことがあっただろうか。
ロベリア嬢の表情がコロコロ変わるのを見ていると、なぜかこちらまで楽しくなってくる。
それと同時に、あまりにも可愛くて、愛でたい衝動に駆られる自分がいる。
ダメだと、抑えなくてはと思っていたのに、さっきは我慢ができなかった。
マカロンを懸命に頬張る彼女は可愛すぎたのだ。
最初はマカロンを無邪気に食べる彼女をただ普通に可愛いと思って見ていた。
なのに、夢中でマカロンにかぶりつく彼女を見ていたら、どんどん気持ちが抑えられなくなってしまった。
美味しそうに食べる姿をもっと見たい、無邪気に大きな口を開けて食べる姿が見たい、そこまではまだ普通だった、気がする。
気がつくと、手ずから食べさせてみたい、膝の上に乗せてじっくりその姿を愛でたい、あの小さな身体をギュッとしてみたい……そんな邪な感情が湧き上がっていた。
今まで女性に対して、こんな思いを抱いたことなどなかったのに……。
それどころか、私にとって「可愛い」と「女の子」、「令嬢」はトラウマの組み合わせだった。
「ランズベルト様、男の子なのに、なぜそんな可愛いものばかりに興味を持たれるのですか? 変ですわ!」
幼馴染の令嬢に言われた言葉に、衝撃を受けた。
それまで両親からも使用人たちからも特に何も言われたことはなかった。
けれど、それから可愛いものを選ぶたびに変だと、他の令嬢たちからも言われるようになった。
両親にそのことを告げると、困ったような顔をされ、自分は間違っているのだと、おかしいのだと思い、自分の気持ちを抑え込むようになった。
しかし、それには無理があったのだろう。
まるでその反動のように、衝動が湧き上がるようになり、可愛いものを求めるようになってしまった。
なんとか人前では隠す術を身につけたものの、気を許している相手の前では、つい女性言葉で話してしまう。
初対面のロベリア嬢の前で出てしまった時は頭が真っ白になった。
どうやって誤魔化そうかと必死に考える私に、彼女は、変だと偏見の目を向けることもなく、優しく笑顔で話しかけ、普通に接してくれた。
挙げ句の果てには「同志だ」と一緒に可愛いものを愛でてくれた。
もしかしたら、もうあの時点で、私は彼女のことが気になっていたのかもしれない。
自分ですら戸惑い続けるこんな私を、笑顔で受け入れてくれた初めての女性――。
可愛いと感じた、初めての女性。
この気持ちに気づいてしまった私は、どうなってしまうのだろう。
「同志」であり続けることは、果たして許されるのだろうか。
この気持ちを明かしたら、彼女はどんな反応をするだろう?
あたふたと戸惑う彼女を見たい衝動はあるけれど、今はまだ気持ちは明かさず、そばであの可愛い姿を見ていたい。
焦らず、彼女の気持ちを最優先に。
そう思いつつ、温かい気持ちで眠りについた。
お読みいただきありがとうございます。
甘い誘惑の後のお話でした。
次回もお楽しみいただけますと幸いです。
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