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甘い誘惑

 満足した夫人が自室へと引き上げていき、応接室には生気を吸い取られ尽くした二人が残された。


「夫人のパワーは凄いですね……」


「私もまさかあそこまでおかしなテンションになるとは思ってもみませんでした……すみません」


 ソファーに向かい合って、互いに背もたれにグッタリと項垂れる。


「とはいえ、あの歓迎ぶりは頭が痛いですが、反対されなくて良かったです。気に入らなければ大変面倒な人なもので……」


「気に入っていただけたようで良かったです」


 言いながら思わず顔が引き攣ってしまう。


(気に入られても大変面倒だと思う、なんてとてもじゃないけど言えないわね……)


「まあなんにせよ、しばらくは我が家でゆっくりなさってください。今日のところはゲストルームをご用意いたしますが、可愛いお部屋作りましょうね!」


 やる気満々のランズベルト様に思わず笑ってしまう。


「ふふ。そうですね!」


 話が一段落着いたところで、ヘルマンがお茶を淹れてくれる。


 よくよく考えてみると、今日はずっとバタバタしていて、お茶をゆっくり飲んだり、落ち着く暇などまったくなかった。何気に食事すらしていないということを思い出す。


(思い出したら微妙にお腹が空いてきてしまったかも……)


 私のそんな気持ちが顔に出てしまっていたのか、ヘルマンがお茶の横にお皿をスッと置く。その上には、可愛らしい色とりどりのマカロンが積まれていた。


「出過ぎた真似とは存じますが、本日何もお召し上がりになっていらっしゃらないのではないかと思いまして……」


「あ、ありがとうございます」


(できる側近だわ、ヘルマン!)


「気が利かなくて申し訳ありません。そうですよね。お昼からずっとあの流れでは……どうぞ召し上がってください」


「え? それはランズベルト様もではありませんか?」


 それを聞いたランズベルト様はキョトンとした顔になる。


「そういえば、そうですね」

「そうですよ」


 顔を見合わせて、二人して笑う。


「ふふ。色んなことがありすぎてすっかり忘れていました。では、私も一緒にいただきましょうかね」

「はい」


 マカロンの載ったお皿を見つめる二人に、ヘルマンは取り皿とトングを持って指示を待っている。


「先にロベリア嬢からどうぞ。どれにしますか?」

「ん〜全部可愛くて悩みますね……では、このピンクのものを」


「可愛いですよね。では、私はこのグリーンのものを」


 取り分けられたマカロンが目の前に置かれる。

 マカロンからはベリーの甘い香りがふわっと漂う。


 ランズベルト様から「どうぞ」と勧められ、マカロンを手に取った。持ってみると思った以上に重量がある。


(これ、絶対美味しいやつー! でも絶対カロリーも凄いんだろうな……こんな時間に良いのかしら? なんだか背徳感がすごいわ……)


「今日は色々ありすぎましたから、こんな日は自分を甘やかしても大丈夫です、ね」


 そう言って、私の葛藤を見透かしたようにランズベルト様が微笑む。


「では、お先に失礼して」

「どうぞ」


 なるべく控えめに口を小さく開けて、マカロンを頬張る。


 パクッ。


「美味しい……!」


(え!? 何コレ!? めちゃめちゃ美味しい〜〜! 今まで食べたマカロンの中で一番美味しいかも! 外はサクッとしてるんだけど、途中からしっとりしてて、中のクリームも甘過ぎなくて、外とのバランスが最高!)


「お口にあったようで何よりです」


 パクッ。


 パクッ、パクッ。


 パクッ、パクッ、パクッ。


(どうしよう!? 美味し過ぎて止まらない〜〜〜!!)


「ふふふふ。そんなに美味しいのかしら?」


「!? 私ったらはしたない真似を……申し訳ありません! ……え? ランズベルト様?」


「どうしたの? 夢中になって食べる姿がとっても可愛いわ〜〜! ほら、もっと食べて!」


「え?」


「だって、一生懸命頬張る姿があんまりにも可愛いんですもの〜! だからね、ほら、もっと食べて! 可愛いところを私に見せてちょうだい!」


「ええ!?」


(ちょっと待って待って! どういうこと!? ランズベルト様の可愛い基準ってどうなってるの!?)


「さあさあ、早く! ね、もう一個。ほら、口を開けて」


 満面の笑みで、自分の分のグリーンのマカロンを手に取り、私に向かってずいっと差し出す。


(ランズベルト様!? それは俗に言う「あーん」とかいうやつではありませんか!? ……でもでも、こんな楽しそうな状態に水をさしてしまうのは……ええい、ままよ!)


「い、いただきます!」


 パクッ。


(ああ、ランズベルト様の手ずから食べてしまった……!)


「ん〜〜美味しい……!」


(これはピスタチオかしら? ああもうこっちも美味しい〜〜〜! も、もう一口!)


 パクッ。


 パクッ、パクッ。


 パクッ、パクッ、パクッ。


(ハッ! どうしましょう!? あまりの美味しさにランベルト様の手からそのまま最後まで食べてしまったわ!!!) 


「ふふふ。やっぱり可愛いわ〜。ほっぺがもきゅもきゅ動いててほんともうたまんない!! ねぇ、もう一個ど〜お?」


「ら、ランズベルト様! ……これ以上は、もう! それにこんな時間にたくさん食べてしまったら……」


(恥ずかし過ぎてこれ以上は耐えられない……!)


「あら、残念。でもとっても可愛かったわ。ふふ」


 微笑みながらそう言うと、ランズベルト様もマカロンを食べ、目を見開く。


「これは……美味しいですが、思っていたより甘かったんですね。申し訳ありません」


(いえ、マカロンよりもランズベルト様の言動の方が甘過ぎですから!)


 思わず心の中でツッコミを入れてしまう。


「いえいえ、私にはちょうど良い甘さでしたから、問題ありません。とっても美味しかったです」


(マカロンの甘さで正気に戻ってくださって良かったわ。あのままだと居た堪れなさすぎて……)


「それなら良かったです。ロベリア嬢の前だとどうにもタガが外れやすくなってしまって……気をつけますね」


 正気に戻って自分の言動を悔いているのか、ランズベルト様はしゅんとする。

 まるで怒られた犬が耳をぺしょんとさせるようなその表情に、胸がキュンとなる。


「いえいえ。大丈夫ですよ! 私たちは同志ですから! そんなこと気になさらないでください!」


 満面の笑みでそう返すと、ランズベルト様は嬉しそうに笑った。

お読みいただきありがとうございます。

色んな意味で甘い誘惑でした。

次回もお楽しみいただけますと幸いです。


ブックマークや☆での評価やいいね、ありがとうございます!

これからも更新頑張ります!

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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