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とある魔女のいたずら

作者: ルティカ
掲載日:2023/06/03


 気を付けよ、人は獣である。獣故に闘争からは逃れられぬ。さりとて、獣ならざる人に価値は無い。

                                      ―ある咎人の遺言―


 ―すごく、簡潔な言葉だと思う。付け加えるなら、「欲からも逃れられぬ」が必要だろう。そうじゃなかったら、今私は檻の中にはいない。


(どうして‥‥‥?)

 ひとつの大きな、空に浮かぶ島。都市があり、元は由緒ある建造物が多くあるので有名な観光地であったが、イウス教国家のものとなってからは、監獄島へと堕ちた。

 その中の檻に、今いる。別に犯罪者でもないし、両親も善良であった。

「いいなあ、鳥は」

 外で陽を浴びながら、飛び続けているであろう鳥を、見てもいないのに羨む。

 若返りや不老不死を現実のものとするといわれる<原初の魔力>。私にそれがあるらしいが、使えたためしはないし、ましてやそんな力を感じた事は一度もない。

 それさえ持っていなければ、ずっといい人生を送れるはずだったのかな?

「出ろ、時間だ」

 看守に命令され、鎖に繋がれたまま歩かされる。

「どこに、行くの?」

「貴様が知る必要はない」

 暗く、石から成る冷たい廊下を進むこと数分。外へ出て、久々に陽を拝めても、ちっとも嬉しくない。

 たぶん、自由が無いからだろう。清貧な教徒達の欲望によって犠牲になるから。ありもしない力を出せと、拷問でもされるのは目に見えている。

「グズグズするな!」

 背を鞭で叩かれる。

 早く行けと、死にに行けと急かしてくる。

(この街も、嫌なところだな‥‥‥)

 黄色く劣化したコンクリートと石でできた闘技場。少し高い丘に作られたその建造物は、一体どれ程の血を見て来たのだろう?

 石と木が調和した住宅街は、どこか懐かしさを感じさせ、その中にある噴水には、これまた見事な、人魚がくつろぐ姿の彫刻が置かれていた。

「おい、あまり魔法を使うな」

 でも、私はそれらを双眼鏡から覗くようにしか見れない。

 ただただ島の端を沿って、飛行船の港まで歩くだけ。千里眼の魔法で、この活気のない街を見納め出来たのは、果たして幸福だったのか。

 昔は、賑やかで人も多く、誰もが笑顔だったのだろう。だが今は、人も少なく、街も傷つき治されず、犯罪と抑圧が蔓延っている。

「最悪な人生だったよ」

 誰にも聞こえないように、ボソリと呟く。

 普通に生きたかっただけなのに、教徒は原罪(それ)だからとあざ笑う。

「ほら、さっさと乗れ」

 面倒そうに命令する看守。港に立つ彼らの前には、太くずんぐりとした白い気嚢(きのう)に、茶色の帆船の船体をぶら下げた飛行船が停泊している。

 それは所々塗装が剥げ、おんぼろと言うべき古い船で、罪人を運ぶには丁度良い船であった。

 でも、私は罪人なんかじゃない!

 何が神だ。お前のせいで私は家畜に成り下がるのだぞ。

「ん?」

 一瞬、何か大きな影が天を横切る。

 そして、そいつは足で気嚢を握り裂き、船体を陸地から突き出る桟橋へと叩きつけた。

慌てて後ろへと走り滑らなければ、残骸と共に地の底へと落ちていただろう。

「グルルル‥‥‥」

「黒い、ワイバーンだと!?」

 薄灰色の灯台。その光を灯す灯篭を踏み潰し、兵士らを見下げる。

翼の鱗は逆立ち、光沢を放つ。牙は綺麗に並ぶが、鋭く、噛みつかれれば蜂の巣にされるだろう。

「グアアーーー!!」

 彼は天を仰ぎ、灰色の翼膜を広げ、咆哮を轟かせた。

「なんでワイバーンが!?」

「クソッ、ガイエル帝国の差し金か!」

 塔の金がけたたましく鳴り、ボウガンと鉄の甲冑を装備した兵達が慌ててワイバーンを囲い、対峙する。

「攻撃、始め!」

 隊長の命令により、一斉に矢が放たれた。

 が、全身を覆う鱗は鉄よりも硬く、全ての矢を弾く。

 そして、お返しとばかりに尾を鞭の如く振り払って兵の骨を折り、口から蒼く熱い炎を吐いては鎧ごと兵を溶かす。

「うっ、撃てー!」

 今度は大砲を四つ同時に撃つ。とはいえ、施条は無く、ただ丸い鉄球をぶつけるだけで精度はよろしくはない。

 四発の内、二発は背と右翼に命中したが、大したことではなかった様子。

「グルルッ!」

 とはいえ煩わしかったのか、ワイバーンは砲台へと飛び掛かり、大砲を足で掴んでは投げ飛ばし、火を噴いて近くに置いていた火薬を爆ぜさせたりと、混乱と破壊をもたらす。

(今なら‥‥‥逃げられる?)

 急に戦場と化したものだから、誰もがたった一人の虜囚(りょしゅう)の存在に気をかける暇などない。

「こっちだ、ついて来い!」

 唯一無視しなかったのは、看守のみ。

 焦っているが、どこか偉そうに言う。私はそんな言葉に、耳を貸す必要はなかった。

「うるさい!」

 手を振りほどき、隙をついて走り出す。「おい!」と止めようとした看守も、直後にワイバーンの尾で飛ばされ、絶叫する羽目になった。

(ありがとう!!)

 不思議なことに、ワイバーンは私に目もくれなかった。彼の気まぐれか? それとも彼は本当は私を哀れんだ神様の使いなのだろうか? 

 何故か後者だと思い、心の中で神に謝った。

「ハア、ハア‥‥‥」

 街中へ走っていくうちに戦闘音は遠くなり、しかし警戒心は解かず、暗い路地裏へ踏み込む。

「どう、しよう?」

 壁に手を当て、下を向きつつ荒い呼吸を繰り返す。

 逃げ切ったはいいものの、両手足に鎖は繋がれたまま。行く当てもなく、ここは孤島であるからまた捕まるのも時間の問題だ。

「君、ちょっといいかい?」

 背後から女性の声が聞こえた時、私は観念した。しかし、ハッと驚いて振り返ると、どうやら追手ではないらしい。

 何故なら、彼女は灰色のローブを着込み、顔もフードを深く被って隠していたからだ。

「聞こえているのか? いや、それとも―の体系が‥‥‥?」

 衛兵や看守の類ではないことと、透き通った声からして女性であるのは間違いない。

 けれどもおかしいのは、発音に違和感を感じるところだ。言語自体は合っているが、たまに聞いた事のない単語が混じっている。

「あの、誰ですか?」

「良かった、我輩が‥‥‥―を喋っているのと思ったよ」

「ええと、今なんて?」

「ん? 変な発音だったかな? ふむ、少し“頭”を貸してくれ」

「えっ?」

 両手でグッと頭を掴まれたと思うと、彼女は何かをブツブツと言った。

「う!?」

 すると、頭から血を抜き取られるような感覚に襲われる。

「なるほど、「間違った」の単語自体が変わっていたのか。これ以外もかなり多いな。しかし君、名前はおろか一部の記憶まで‥‥‥待て、これは!?」

 口は布で隠していたから、金の瞳だけがその驚きを如実に表していた。

「はあ、イウス教の愚者共め。既に五九一年経ったというのに、やはり何も進歩していないとは‥‥‥全く嘆かわしい」

「あの、お姉さん?」

 一瞬キョトンと黙り込んだ後、彼女は涙を浮かべて大笑い。

「アーハッハッ! 我輩が、お姉さん!? お姉さんとは」

(何で?)

 本当に、彼女が腹を抱えて笑う理由に理解出来ない。

「いやあすまない。我輩はそこまで若くないのでな。「お姉さん」と呼ばれたのは一周回って新鮮だったのだよ」

 私の頭を撫でまわし、気が済むと用を伝えてきた。

「そういえば、ここに図書館があっただろう。その本を‥‥‥チッ、建物ごと燃やされたのか」

忌々しそうな舌打ち。

 このオスリア島がイウス教圏に組み込まれた直後、この島にあったあらゆる本という本が燃やされたのは有名な話だ。

「曲学阿世の徒め! これだから馬鹿者は!!」

 よっぽど大事な物だったのか、憎たらしく悪態をつく。

「まあいい、君を攫(さら)って行くとしよう」

(はあ!?)

 突拍子もない話を聞き、呆然と立ち尽くすしかない。

「ここに残ってもつまらんだろ。確かに我輩もアトリエが無事か知らんが、壊れていても直せばよい話だ」

落ち着いて考えてみれば、鎖に繋がれた生活なんかに比べれば、雲泥の差であることは明白。

「それで、どうする?」

「行きます!」

 意を決して応えた。

 そして、彼女は円をなぞるように指を振る。すると、手足の枷は粉々に砕け散った。

「それは不必要だろ。我輩は弱者を虐げる趣味はないのでな。服がないのは勘弁してくれ」

 嬉しい。その一言しか頭に浮かばなかった。

「ところで、どうやってここから出るのですか?」

「我輩は一隻の飛行船を持っている。それでアトリエまでひとっ飛びだ」

 そう言って、私が走って来た道を歩み始める。

「ちょっと、そっちにはワイバーンが‥‥‥!」

「丁度いい、素材と食料としてうってつけだ」

 本気で言っているのか!? 下手な小国なら滅ぼされてもおかしくない脅威なのに‥‥‥

「心配するな。我輩は負けん」

 呑気に鼻歌を歌いながら闊歩し、その後ろを私は怯えつつ、ついて行く。

「増援はまだか!?」

「ある訳ないだろ!」

「撃て、撃て!!」

「隊長、魔導士がいなければ勝ち目はありません」

「むう‥‥‥」

 二百いた兵は既に半数が死に、残りも傷を負っているのがほとんど。

 にも関わらず、ワイバーンにはかすり傷すら付いていない。

「君達、お困りのようだね」

 そこへのこのこと現れたローブ姿の女。

「貴様、誰だ?」

「あっ!? お前は!」

 ある兵は彼女を見るまでもなく、私が逃げおおせていることに驚いた。

「この子は貰っていく。代りにワイバーンを討伐してみせよう」

「はあ? そんなん出来るはずが‥‥‥」

「メテオリート」

 それは一瞬の出来事。

 直後、何かが降ったと同時に、衝撃と共に粉塵が舞い上がる。

「お、おお‥‥‥!?」

 誰もがその現象を恐れ、ただ一点を注視している。砂煙が治まると、そこには、頭部を砕かれ、横たわるワイバーンの遺体があった。

「勝った‥‥‥のか?」

「お前は、何者なんだ?」

 隊長の問いに、黙ってローブを脱ぎ捨てる。

「ハァ‥‥‥!!」

 その美しさに、思わず声を漏らした。

 蒼く、星の様に煌めく長髪。月を彷彿とさせる目。そして、大海の如く深い色合いのドレス。

「我が名は天爛(てんらん)の魔女レイレーネ! 通りすがりの、ただの学者だ」

 私と彼女以外の顔からは、サッと血の気が引いた。

「貴様は! 数十年前に我らが勇者に封印されたはず!?」

「おのれ悪魔め! 無辜の民を虐殺した外道め!!」

「言い掛かりはよしてくれ。不衛生で疫病が流行ったから、君達が都市ごと民を燃やしたのが事実だろう。それを我輩のせいにして、こちらもたまったものではないのだが」

「言い訳は聞かん! 撃て!!」

 事実を述べた事を理由に、次々とボウガンや弓から矢の雨を降らせてくる。

 だがしかし、一本たりとも矢が肌に触れることさえ許されない。

 天爛が目を閉じる。それだけで、矢はひれ伏すように地面に落とされた。

「‥‥‥本気で敵対するつもりか?」

 目を見開き、少しばかり殺気を浴びせた。

それだけで、兵は腰を抜かし武器を手放すばかりか、恐怖で発狂する者まで出る始末。

「よろしい。さて、征こう」

 龍の爪で裂いたのかの如く、空が切り裂かれ、そこだけに星空が輝く。

「あ、あれは‥‥‥!?」

 船が現れた。一隻の葉巻型の鋼鉄艦。

 全身が鉄の装甲に覆われ、気嚢と船体が一体化した先進的なフォルム。武装は無く小さいが、イウス教国家が持つあらゆる飛行船をも凌駕する性能を誇っている。

「フィールグリュックというんだ。今からあれに乗る」

 言うや否や、レイレーネは私を抱き抱え、階段を上るように空を歩く。

 その光景に目を疑い、まぶたをパチクリさせていた。

「まずは君から入りたまえ」

 船の上に立つと、ハッチを開け、そう促される。

ハッチの中は艦橋となっており、中央に操舵輪、左右に色々なレバーがあり、その右後ろに羅針盤が備わっている。

「下手に機器を動かさないよう‥‥‥言うまでもないか」

それらの機器にも興味はあったが、何よりも、窓から見る絶景に惹かれていた。

「これは貰って行こう」

 いくつかの先端に鏃(やじり)の付いたロープが船底から放たれ、全てがしっかりとワイバーンの亡骸へと突き刺ささる。

「出航!」

艦尾にある二つの木製プロペラが回り出し、船は自由へと羽ばたいた。


―ヴィテカン教皇庁―

 全てのイウス教徒とイウス教国家を束ねる教皇。彼が聖務を執り行う居城にて、騒乱がもたらされた。

「それは‥‥‥事実なのですかな?」

「うむ、天災が、レイレーネが甦った」

 白く贅を尽くされた議場にて、教皇のそのたった一言がその場の静寂を打ち破った。

「そんな、馬鹿な!?」

「おのれ、このような時に‥‥‥」

 枢機卿らを大いに悩ませた。単純にレイレーネが脅威であるというよりも、自らの汚点を隠したいから。

 しかも、彼女に対抗する戦力もあるとは言えない。

「かの天災が現れたオスリア島ですが、その島に黒いワイバーンまでもが現れたとか」

「何と!?」

「ガイエル帝国か」

「帝国が我々に敵意を向けているのは、もやは明白ですな」

「教皇猊下」

 その言葉に、教皇は頷く。

「ピウス四世の名において、抗議文を送るとしよう」


―大和国―

 極東の、さらにその果てに存在する島国。

 首都にある宮廷にて、巫女の様に白衣(はくえ)と緋袴(ひばかま)をまとった、黒長髪の女が吉報に耳を傾けていた。

「して半蔵よ、その話は事実なりや?」

 目の前にひれ伏す、一人の黒衣の忍に問う。

 彼は、この国の大君(おおきみ)である、劫火の魔女ヒノカグツチに事実を包み隠さず報告する。

「私自身がオスリア島に赴いておりましたので、間違いなく天爛は甦っております。しかし、例の書物に関しては、やはり既に燃やされておりました」

 劫火は右袖でそっと口を隠し、不敵な笑みを浮かべた。

「これは面白くなってきおったわ」

「如何なさいますか?」

「そうよの‥‥‥」

 しばし上を見上げ、考える素振りをしてから、ひとつの命を下す。

「雲水と狂風にも伝えよ。慈地は既に知っておろう」

「承知」

 元から居なかったかの如く、彼はパッと姿を消した。


―学術都市バゼル―

 白い漆喰と、焦げ茶の木の柱と、赤茶色の煉瓦から成る、古き良き都市。

 都市といえども小国並みの規模を持ち、中立を宣言し、芸術と学問を熱心に探求する学徒達の楽園。

 西の国境沿いにある図書館にて、青い肌と吸盤が付いた八つの触手の足を持つ学者がいた。

「ネロソフィス殿、お客様です」

「あら、どなたかしら?」

 黒いモルタルボードとローブを着た彼女は、本を閉じ、その客へ会いにロビーへと向かう。

「お久しぶりです」

「黒田ちゃ~ん! 元気にしてた?」

 若い青年を出迎えたネロソフィスは、何を隠そう、雲水の魔女その人。

 そして彼女のもとへ出向いた青年もまた、只者ではない。

「そうね、せっかくだしカフェにでも行く?」

「すみません、自分にはあまり時間がないので」

「ん? 何かあったの?」

 首をかしげるネロソフィスに、黒田は一言だけ伝える。

「天爛が復活致しました」

「ワオッ! マジか!!」

 驚いてはいるが、笑顔で嬉しそうでもあった。

「なるほど、そりゃあご多忙になるわ」

「別の任がありますので、自分はこれで」

「じゃあね~」

 彼を見送った後、図書館の机に置いていた私物を急いでまとめにかかる。

「ネロソフィス殿?」

「司書ちゃんゴメン、急用ができちゃった。天体観望会はまた今度出るから」

「議会に報告ですか? 政治顧問も大変ですね」

「でもここが無くなるのは超イヤだし、意見は言った方がいいでしょ」

片付け終わると、すぐに扉から出て行く。

「じゃあまたね!」

「いってらっしゃい」

 八つの足を器用に動かして、疾風の如く走り去ろうとした。

「Hallo!」

 急に流暢な発音の挨拶をかけられ、驚いて止まり、声の主の方へ振り向く。

 そこには、黒のシルクハットと服、そして銀の柄のステッキを身につけた、いかにも紳士らしい若い男が立っていた。

「ちょっ、ウィンジェントウィンジェント(狂風の魔女)!? 今までどこほっつき歩いていたのよ!!」

 金髪に碧眼の、男でありながら魔女と呼ばれる彼は、風そのものかと思わせるほどに掴みどころがなく、事実、誰にも連絡をよこさず旅を続けていた。

「さあ? 気の赴くままに歩いていただけだよ」

「あー、ヒノちゃんも手を焼いている訳だ。あんた、どれくらいの間、行方不明になっていたと思ってるの?」

「五日ぐらい、かな」

「三十六年と四ヵ月よ。それ程長い間誰にも知られずに旅を続けるって、それ出来るのあなたぐらいよ」

「そんなに長かったんだ」

 呆れてものも言えない。

 彼の居場所を特定することは不可能に近いが、イウス教圏では魔女であるという理由で指名手配されている。

 過去に大和国の忍者がその名誉にかけて情報を集め続けていたにも関わらず、足取りでさえ分からなかったのだ。

「まあいいわ。それより、レイちゃんが目覚めたって!」

「やっぱりか。私の勘はよく当たるね」

「なんだ知ってたの」

 ビックリさせようとして空振り、そして落胆。

「それと、ピウスはガイエル帝国に抗議文を送るってさ」

 それどころか、逆に目をまん丸にして驚かされる。

「はっ!? 何で?」

「黒いワイバーンはエルデリーベエルベリーデ(慈地の魔女)の差し金だろうってさ」

「‥‥‥嵐が来るのかしら」

 これから起こり得る最悪のシナリオを思い浮かべ、背筋がゾッと凍てついた。


―ガイエル帝国 帝都総統府―

「―以上が教皇庁からの抗議文であります」

 中にある議場にて、半円状に用意された机と椅子に議員が座り、その目線の中心には、ひとりの国家元首が佇んでいた。

 紫がかった漆黒の翼に、紅く縦に黒い筋が入った眼。肌は白く、腕や脚は両翼と同じ色の鱗が覆い、髪はくすんだ長いパープル色。

(忌々しい!!)

 抗議文の内容は要約すれば、「オスリア島にワイバーンを送ったのは貴様らだろう」、「そのせいで被害を被ったから弁償しろ」、「あと犯罪者が脱獄したから、君達が責任を持って捜索してこっちに送還しろ」と、上から目線で命令してくるものであった。

 確かに、ガイエル帝国軍はワイバーンを戦力化している。が、それは赤いレッドワイバーンであり、黒いワイバーンなど聞いた事もなく、ましてや、オスリア島に差し向けた覚えもない。

「総統閣下、ここはやはりこちらも抗議文を‥‥‥」

「無駄だ」

 副総統の提案はあっけなく却下される。

 事実、過去に証拠もなく、全く関係のない――黒死病(ペスト)流行だとか、貿易の大赤字だとか、挙句にはイウス教側自身が行った虐殺まで、全てガイエル帝国のせいにされてきた。

 その都度証拠を並べて、我々は無関係であると立証してきたのだが、聞く耳持たず。

「もはや、口で言っても理解せんでしょうな」

「然り」

 外務大臣の発言に、宣伝大臣は同意の意思を相槌で表す。

「本当に腹立たしいですな」

「どうすれば分かって頂けるのでしょうな!!」

 その二言をきっかけに、議員は次々にイウス教圏に対する不満を吐く。

 荒れた、しかしひとつにまとまっている議会に一喝したのは、当然我らが総統(マインフューラー)であった。

「諸君! 分かっているだろうが、野蛮人共と会話は不可能である!!」

 総統は、軍服を着ていた。灰色の軍服をだ。

 それが意味する事は、たったひとつしかない。

「師団二百個、超弩級戦艦十二隻、戦車及び航空戦力をそれぞれ三千。ドックに兵站と輸送網などもだ。これらを含む軍備を五年以内に整備せよ」

 これ程の軍事力の実現は、普通なら不可能。

 しかし、ガイエル帝国は格が違う。土地と資源に恵まれ、膨大な人口を治める官僚組織。そして、それら全てを指導する総統がいる。

 つまり、それを可能とする条件がそろっているのだ。

「「「帝国万歳!!」」」

 エルベリーデは座ったまま、他は全員立ち上がり、万雷の拍手が呼び起こされる。

 大遠征は決定事項。

 もう許す気などない。イウス教徒を皆殺しにし、国々を蹂躙する覚悟は、彼ら自身の手によって育まれてきた。

今更、立ち止まったりするものか!!


―魔女のアトリエ―

 それは少し大きな、絶海の孤島に存在していた。

「ええと、あれがアトリエ‥‥‥ですか?」

「まあ、そうだな‥‥‥」

 赤い屋根に白い肌の塔があり、その塔に食い込む形で、同じ色の三角屋根の長方形の建築物が付いている。

 ‥‥‥のであるが、全体にツタが多い、漆喰は剥げ、ガラス窓はいくつか割れていた。

 完全に古びておんぼろになっていたのである。

「三十年も放っておけば、こうなって当然か」

「レイレーネさん?」

 こめかみに拳を当て、一見落ち込んだかの様に見え、私は心配して顔を覗く。

「‥‥‥決めたぞ、ここに街を作ろう!」

「はい!?」

 突然の決断に驚くのも無理はない。

「でも、どうやって? 人も私達だけですよ」

「人材には当てがある。土地はこの島は我々のものだ。資源は探せば見つかるかも知れん。なければ作物でも作って交換すればいい。道具は確かあの中に使えそうな物があるはず」

 出来るか不安になりかけた。しかし、彼女のキラキラと希望に満ち溢れた表情を見て、何故か私にも、それは現実になると、根拠もなく自信が湧いてくる。

「そうと決まれば、まずは住処を建てよう。最初は貧相かも知れぬが、ゆくゆくは立派なものを建てて見せようではないか」

 これからまた、歩み出せる。

 自由と、未来を持った人生を。

 これはとある魔女が起こした、歴史の一ページでしかなかった。それは、魔女と私だけが知る秘密の始まりだった。


とある魔女のいたずら・終



―あとがき―

 注意・この小説は奈良大学文芸部の「新入生勧誘企画増刊号」(平たく言えば新入生歓迎号)用に執筆し、それを一部修正したものです。

 なので新奈良大生向けに語り掛けている部分が存在するのはその為です。ご了承ください。


 奈良大学に入学せし同志諸君! 

 ようこそ奈良大学へ! 歓迎するぞ!! 


 どうもルティカです。‥‥‥いやぁ、もう一年経つのか。そんで後輩ができるかもしれないのか。

でもその後輩の入学式までが、いつも以上に長く感じられるんだよな。

 だって春休みが長ーーーーいから。冬季休業とかとの差が激し過ぎんのよ。

 まあ、その間モ〇ハンアイス(ラ〇ズじゃないよ)でアルバにシバかれまくったりシバいたりして(全属性+即死とか鬼畜か!!)、どうにか装備一式を揃えたり、この小説を途中モチベ失っても取り戻して書き上げれたから良かったけどね。

 アルバはマルチじゃなかったら絶望待ったなしだったよ、冗談抜きで。

 前置きが長いな、本題に入ろうか。

 さて、この小説、実は以前に部活動で「きき小説」という、誰がこの小説を書いたか? という企画をやりまして、その時に私は「とある魔女の憂鬱」を提出。その続編的なのが本作品となります。

‥‥‥続編というか、部活の活動時間内にやるので、短くする為に内容変更したから、新入生歓迎号という機会にと、元々考えていたを書いたというのが実のところなんだよね。

 とはいえ、主人公はショタにして、レイレーネとのおねショタにするのは止めた。

 何でかって? 「誰かこの小説ゲーム化してくれねえかな~。そしたら主人公はキャラメイク制にしたいな~。プ〇ステでスローライフいいの見当たらねえんだよな~。というかファンタジー〇イフ続編出るってマジか!?」

 とか思いつつ書いたら。

 だから主人公は読者の想像に任せます! これが、あえて主人公の描写を無くした理由です。

 ゲーム化するなら、街づくり(建築)に農作、魔法、銃に物づくりはもちろん、遠出して素材を集めたり、ドラゴンとかと砲撃戦ができる飛行船をカスタマイズして乗ったりと、色々ブッ込みたい。

 こんな事考えたきっかけは、前々からスローライフ系ゲームやりたいと思い始めたから。

 そこで、スローライフ系ゲームを探していた時、ファンタジーラ〇フが続編出るって知って「えええぇぇーー!?」って思った。

 だって担当した部署だか何だかが独立したって聞いてたから(うろ覚えだけど)、もう出ないって思ってたし。

 あのゲームは本当に楽しかった。武器は素材集めたら、ミニゲームみたいなので自分で制作したり(上手くできたら性能アップ)。王国兵士とか錬金術師とか、選択できる職業が十二もあったり、買った家の中に家具とか置いてアレンジ出来たりと、最高の3〇Sの神ゲーだった。

でも今のゲームは素材と金集めたらはい完成だもん。前者のそういう要素なかなかないんだよ。自分でゲーム作るなら、こういう物づくり要素も絶対に入れたい。この小説がゲーム化した時にも入れるね。

さて、そんな訳で続編書けと言われても難しい(主に主人公どうすんだよ?)ので、設定とか色々書いておきます。

まずは魔女達の名前の由来から。

・レイレーネ「天爛の魔女」

 →ゲームで使ってた名前(そのゲームはもう止めた)。なんか東ローマ帝国女帝の「エイレーネー」と名前が似てるけど、それは偶然。


・ヒノカグツチ「劫火の魔女」

 →日本の神話から。


・ネロソフィス「雲水の魔女」

 →ネロ=ギリシャ語で「水」。

  ソフィスト=古代ギリシアの知識集団の総称。そこから「ト」を抜いた。


・ウィンジェント「狂風の魔女」

 →ウィンド(風)とジェントルマン(紳士)の掛け合わせ。なんで彼だけが男かというと、少数派とはいえ男も魔女狩りで殺された人がいるから。

  でも彼は死なないよ。だって凄腕スパイみたいなキャラだから。


・エルベリーデ「慈地の魔女」

 →ドイツ語のLiebe(愛、慈愛)とErde(大地)の、後者をローマ字読みにして掛け合わせた。


 属性はシンプルに火、水、風と天と地。それぞれの魔女が一属性ずつ司っています(あれっ、これパ〇ドラとほとんど変わってなくね‥‥‥? せめてもう一個付け加えるか)。


次に勢力

・イウス教圏

 →ほぼヨーロッパ。でも旧教新教問題とかがきっかけで真っ二つに分断する。


・大和国

 →明治期大日本帝国が魔法使えるようになった的な感じ。軍事レベルは日露戦争の頃ぐらい。けど経済力は上回る。

  ガイエル帝国から色々と技術を貰い、見返りに帝国からの輸入品には関税を免除したりしてい   る。


・学術都市バゼル

 →ナチスも連合国も等しくシバいた重武装国家スイス的なところ。学術に没頭しているから戦争吹っ掛けられても魔法と正論でやり返す。


・ガイエル帝国

 →フロリアン・ガイエルという人(現実にいた人物)が名前の由来。世界最先端の技術力を持ち、ルノーFtや金剛型戦艦(竣工時)みたいな戦車や軍艦を大量生産し、多くのワイバーンを従え、イウス国家を片っ端から粉砕しようと目論む。


 最後に、テーマは「宗教戦争」。それこそキリスト教や仏教などの世界宗教から、神道やスパゲティモンスター教のようにそれ以外の宗教まで、色んな宗教が対立したら? 的なイメージ。

 ぶっちゃけ他を異端扱いするイウス教VSガイエル帝国と巻き込まれた(大和国などの)ところで決戦。巻き込まれなかったところは中立決め込むか、漁夫の利を得ようってなりそう。

 ここでイウスは「ウ」をひとつ後ろにしたら分かるし、大和国は神道。出てないのもあるけど、じゃあガイエル帝国は何? って頭を傾げるかと思います。

 言えば簡単ですよ。そう、「独裁」です。

 はあ? 独裁が宗教だって!? と思うでしょう。

 実際そうじゃないか。だってスターリンとかは個人崇拝を推進してたんだから。一種のカルトかなんかだろ。

 ‥‥‥あれっ、これゲーム化したらしたで炎上するかも? まあ、各勢力が全員得しない形で済めばどうにかなるか(適当)。

 結構長くなりましたが、締めに新入生を歓迎して、一言お送りいたします。

 オール・ハイル・ニュースチューデント!!

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