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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
第一部 一章 食人狂
9/93

変貌

 本田さんの家に招かれてから三日経った。あれから本田さんは学校に来ていない。その事に気付いているのは僕だけだ。他の人達、先生も含めて、本田さんの事を気にする素振りを見せない。

 まぁ、僕も最近本田さんの事を知ったし、これが普通なんだろう・・・それでも、なんか嫌な気分になる。自分の知っている人が、誰からも見向きもされていない事が嫌だ。


「はぁ・・・本田さん、どうしたんだろう?」


「呼びました?」


 本田さんの声だ。


「あ、来たんだ・・・えっと・・・誰?」


「ふふ。初めて話した時と同じだね」


 そう言いながら、目の前に立っている少女は微笑んだ。長い綺麗な黒髪、整った顔立ち、静かだけど明るい印象を受ける雰囲気。

 うん、知らん。こんな綺麗な人、僕の知り合いに一人も・・・いや、一応一人はいたな。でも、宮内さんとは別のタイプの美人って感じだ。あっちは大人っぽい美人で、この人はまだ少女が残っている美人って感じ。


「・・・ほんとに、分からないの?」


「ごめん、分からない」


「あ、あはは・・・そんなに変わったかな、私・・・」


 すると、目の前に立つ美人さんはポケットから眼鏡ケースを取り出し、中に保管していた黒縁の眼鏡を着けた。

 眼鏡を着けた彼女の姿を見て、僕はようやく彼女が誰なのか分かった。


「・・・あ、本田さん?」


「良かった! 憶えててくれてたんだ!」


「あー、うん・・・その、変わった・・・ね」


 いや、いくらなんでも変わり過ぎだ。言い方は悪いが、前は暗くて自信が無さそうな子だったのに。それがどうやってこんな美少女に・・・。


「まずは見た目から変えようと思って。色々調べて、髪とか変えてもらったんです」


「自分で・・・へぇー、凄いじゃん」


「凄い?」


「自分から変わろうと努力したんでしょ? 凄いよ、ほんと」


「いえ、私は―――」


 その時、僕は多数の視線を感じた。見ると、クラス中の人達が僕ら・・・いや、本田さんを見ていた。男子は頬を染めて固まり、女子は困惑していた。

 やがて、一人の女子が本田さんに近付き、本田さんを指差しながら言った。


「あなた・・・誰?」


「え・・・えと、その・・・」


 返答に困っている本田さんが、僕に助けを求めるような視線を向けてきた。代わりに僕が言ってもいいけど、それは本田さんの為にならない。

 だから僕は、ただ頷いた。そしたら、本田さんは安心したかのように微笑むと、着けていた眼鏡を外して、指差してきた女子に顔を向けて言った。


「本田です。本田美也子」


「本田、美也子・・・え、本田さん?」


「はい」


『・ ・ ・ ・ ・ ・ えぇぇぇぇぇ!?!!』


 うるっさ! 全員いっぺんに驚くなよ・・・まぁ、驚くよな、そりゃ。今まで見ていなかった本田さんが、こんな美人に変貌したら。

 すると、ゾロゾロとクラス中の人達が本田さんに集まり、順番なんか知らずに本田さんに質問攻めし始めた。

 それに対し、本田さんは多少驚きながらも、笑顔を崩さなかった。


「・・・凄いな」


「? 北崎君、何か―――」


「僕は邪魔みたいだからどっか行くよ」


「え・・・」


 せっかくクラスの人達から認知されたんだ。これで本田さんは沢山の友人、果ては恋人も出来る。そしたら人食いなんて考えも無くなって、幸せの人生を歩み始めるはずだ。

 廊下に出た後、振り返って教室の人だかりの中心にいる本田さんを見ても、彼女は笑顔を崩していなかった。


「・・・僕もあんな風に変われたらな」


「雄介君は変わらなくていいよ! 今のままで十分魅力的なんだから!」


 本田さんの変貌を羨ましがっていると、いつの間にか背後にいた宮内さんに抱きつかれてしまった。突然僕の近くに現れる事にはもう慣れたけど、慣れたからといって受け入れた訳じゃない。相変わらず鬱陶しいだけだ。


「他人の為に身を引くなんて優しいね、雄介君! 今日も家に行っていい?」


「え~? 今日もですか?」 


「うん! 今日も!」


「嫌ですよ。だって宮内さん、僕の部屋でずっと買ってきた服を自慢するだけじゃないですか」


「雄介君の事はよく知っているけど、女性の好みとか服の好みはまだだからね。早く知っておきたいんだ!」


「僕の好みなんてどうでもいいでしょ? 自分の好きな服着とけばいいのに・・・」


「雄介君の好きな私でいたいの! だから、ね?」


「嫌です」


「え~!」


 別に服を見せるだけなら付き合ってあげてもいいけど、この人僕の目の前で着替えるから気まずいんだよ。この三日で宮内さんの下着姿を何度見た事か。それでいて、下着姿を僕に見られると「もぉ~! 雄介君のエッチ!」なんて言うし。目を離さないでって言われるから、僕はそうしてるだけなのに。


「それで・・・あの子?」


「は? 何が?」


「雄介君が羨ましがってる子」


「あー、はい。本田美也子さん。宮代さんも一度会ってますよね、図書室で」


「あら、やっぱりあの時いたんだね? やっぱり私から逃げてたんだね?」


「まぁまぁ・・・それで、どうですか? 本田さん、結構変わりましたよね?」


 僕がそう言うと、宮代さんはもう一度本田さんの姿を確認した。


「・・・雄介君さ」


「はい」


「あれの何が変わったのかな?」


「は? いや、全体的に変わったでしょ? 見た目とか、性格とか」


「ふーん・・・そっか」


 宮代さんから見ると、本田さんは何も変わっていないのか? 元の素質を見抜いていた、とかか。

 まぁ、そんな深い所まで見抜けるのは宮代さんだけでいいだろう。他の人には、今の本田さんの事を知ってもらえれば、それだけでいい。


「ん?」


 今、本田さんがこっちを見た・・・いや、睨んだ? 一瞬だったからよく分からなかったな。でも、睨まれても文句は言えないよな。沢山の人に囲まれて困っていたのに、それを助けもせずにいなくなるなんて。

 ほんと、酷い奴だよ。僕は。


「ねね、雄介君! ちょっと場所を変えて話さない?」


「あともう少しで始業のチャイム鳴りますよ? 昼休みまで待ってくださいよ」


「えー!? やだやだやだやだ! 今話したいのー! 雄介君と今からずっと話してたいー!」


「あーもう! うるさい! 駄々こねないでくださいよ!」


「屋上行こうよー! 授業サボろうよー!」


「それ優等生が喋る事か! って、引っ張らないでくださ―――力、強過ぎ!?」


 まるで注射を嫌がる犬を強引に連れていく飼い主のように、宮代さんは僕を引っ張っていく。駄々こねてんのは宮代さんだというのに!


「分かりましたから! サボりますから引っ張らないでくださいよ!」


「嫌-! 引っ張りたいー!」


「引っ張るなー!!!」


 こうして、僕は強制的に午前中の授業を全てサボってしまった。その間、僕は永遠と宮代さんと他愛のない会話を交わし、キリの良い所で帰ろうとすると、宮代さんに駄々をこねられて拘束されていた。

 あー・・・まさか、退屈な授業を求めてしまう日が来るなんて。あの眠気と暇が交互に飛び交う授業が恋しいよ・・・。

次回


「お茶会」

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