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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
三章 正面衝突
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空白の出来事

 アキラの手にある短剣が、ユウスケを突き刺した。


「アキ……ラ……!」


「……!」


 ユウスケは突き刺したまま止まっているアキラの手を引っ張って短剣を抜こうとするが、一向に抜ける気がしなかった。元々ユウスケよりもアキラの方が力は強いが、それにしても不自然な力強さであった。ユウスケは自分の力で抜く事を諦め、服従の能力を使ってアキラ自身が抜くように命令する。

 すると、アキラの体の主導権が元に戻り、アキラは急いで短剣を抜いた。その途端に、短剣で塞がれていた傷口から血が流れだし、ユウスケの体は力無くアキラにもたれかかってくる。


「……!!!……!!!」


 アキラは必死にユウスケに呼び掛けた。声帯を取られ、声を出す事が出来ないのを知っていても、叫ばずにはいられなかった。

 金魚のように口をパクパクと動かすアキラ。ユウスケは不審に思い、右目部分に埋め込んだ琴音の右眼を使って、アキラの体を調べていく。

 すると、アキラの声帯が無くなっている事が発覚する。それは本来起こるはずがない【異常】であった。


「声を失って……いるの、か……」


 異常に驚きはしたものの、今のユウスケにとって、解決方法は容易いものであった。ユウスケはアキラの喉元に手を当て、無くした声帯を新しく与えた。


「どうだ……声を、出せるか……?」


「ぁ……ぁぁ……!」


「随分と、弱弱しいな……新しいからか……まぁ、僕も人の事……言える身じゃ、ないが……!」


 とうとうしがみつく力も無くなり、ユウスケは崩れるように倒れていく。アキラはユウスケを抱え、家の中に入ると、ソファに仰向けで横にさせる。傷口の状態を確かめようとユウスケのシャツをめくると、開いた傷口から大量の血が溢れ出ていた。このまま血が流れ出ていけば、1分もしない内に、ユウスケは死ぬだろう。

 アキラはユウスケの手を傷口に抑え込ませ、家の中から【傷口を抑える物】と【傷口を塞ぐ物】を探し始めた。タンスやメイク台、調理器具がしまってある戸棚の中を慌てた手付きで探し回すアキラの姿は、まるで泥棒だ。

 そうしてアキラが見つけた物は、包帯と消毒液、そしてホッチキスだった。その三つを手にしながら駆け込んできたアキラの姿を見て、ユウスケは怯えた表情を浮かべた。


「ま、待って……! 自分で、やるから……!」


 ユウスケは懇願するが、アキラは自分でやらないと気が済まないような表情を表していた。アキラは逃げようとするユウスケを抑え、消毒液のキャップを外して雑に傷口にぶっかけていく。


「んぎぃぃぃぃ!!!」


 傷口が刺激された事で激痛が走り、ユウスケは叫び声を上げながら悶え苦しんだ。その声が聞こえていないのか、あるいは気にしていないのか、アキラは間髪入れずに傷口を指でつまんで塞ぎ、そこをホッチキスの針で留めた。


「んぁがぁぁぁぁ!!!」


 激痛に苦しみ、暴れるユウスケ。そんなユウスケを抑えながら、慣れない手付きで包帯を巻いていくアキラ。傍から見れば、拷問であった。

 包帯を巻き終えると、疲労感から二人の衣服は汗ではりついていた。同時に、安堵のため息も吐いた。アキラはソファの前に置いてあるテーブルに座り、ソファの上でぐったりとしているユウスケに、謝罪の意を込めて頭を下げる。


「お前、それはどっちの謝罪だ? 腹に短剣刺した事についてか? それとも手荒い治療…いや拷問についてか? お前と違って、僕は痛みに慣れてないんだ! 危うくショック死する所だった―――ぐっ!?」


「っ!?」


「だ、大丈夫! 大丈夫、だから! 身を乗り出しながらホッチキスを構えないでくれ! それは人に使う物じゃない……!」


 善意からの行動とはいえ、アキラはホッチキスがトラウマになっていた。ユウスケの手からホッチキスを奪い取り、部屋の隅に投げ飛ばすと、ソファに寝転びながら頭を抱え込んだ。


「あ~、せっかくの最後の日だってのに。こんな酷い目に遭わされるなんて……」


「?」


「……その反応、何も知らないようだな。お前、ほんとにどこ行ってたんだよ……順を追って話していこう。まず、そうだな……僕が島から戻ってきた時の事を話そう。今から半年前、僕達はとある目的で島に行っていたんだ。そこで厄介な存在を連れて帰ってきてしまってね。そこから徐々に僕らの日常が非日常に変わっていった……上位者。奴らの存在を知ってるかい?」


 ユウスケの問いかけに、アキラは首を傾げながらも頷いた。


「奴らは簡単に言えば、変異体の親玉、そして神みたいなものだ。そんな連中が、この街に仲良く閉じ込められていたんだ……だが、解き放たれた……僕の所為で」


 ユウスケは寝転んだままの姿勢でテーブルに手を乗せ、小型で精密なこの街の模型を作り出した。その中の所々に旗が立てられ、旗にはそれぞれ【獣】【ロボット】【花】【炎】【祈る手】【目玉】の六つのマークが描かれてある。


「これらの旗は上位者の縄張りを表したものだ。縄張りといっても、別に争っていた訳じゃない。特に【目玉】の所の上位者は、一番の脅威と言われていたらしいが、長い間不在だった……だが、帰還した。ある日、突然な。その上位者、誰だと思う?…………【北崎雄介】さ。この世界のな。お陰で合点がいったよ、何故変異体は僕を目の敵にするか。そりゃそうだ、僕の体には、そんな恐れられていた化け物がいるんだからな……それで、まぁ不本意ながら力を引き継いだ僕は、奴らから狙われるようになった。最初の内はセイレーンが対処してくれていたが、上位者達が自ら出向くようになると、流石の上位者といえども数の差……この右眼を残して、絶命したよ」


 その右眼は、服従の能力を宿した黒い左眼とは真逆の、宝石のように美しい紫色の瞳をした眼であった。


「それから、僕は上位者達に取引を持ち込んだ。奴らの狙いは僕を殺す事じゃなく、あくまで僕の力を手にし、他の上位者を出し抜こうとしていた。お前も見てみれば分かるよ。奴ら、まるで信用し合っちゃいない。天下の機会を伺っているんだよ。だからそこを利用した。指定した日まで、休戦協定を結ばせた。一人でも破れば、自決すると脅してね」


 ユウスケは褒められたい子供のように得意げに語る。そこを空気を読んで、アキラは拍手した。

 

「ふふん! それで今日が最後の日だ。今日はクリスマスイブだろ? クリスマスに備えた、いわば決戦前の日だ。クリスマスというのは、人が阿鼻叫喚に包まれる戦場の日。そんな日に、僕らも決戦を迎える。我ながら、粋な事を企んだものだよ」


「……?」


「…………今日が終わるまで、あとどれくらいだ?」


 二人は、部屋の壁に掛けれられた時計に視線を向けた。見ると、時計の針は、あと数秒で0時を指し示そうとしている。その間、二人はジッと時計の針の動きを追いかけ、針が12に近付く度に、鼓動が速くなっていく。

 

 そうして、最後の安寧の日が、終わりを迎えた。

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