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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
二章 砂時計
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初戦

 ユウスケの全身を濡らしていた水分を使って現れたセイレーン。突如として現れたセイレーンに、ユウスケの思考は数秒の間止まり、自分の前にセイレーンが現れた事をようやく理解すると、すぐにセイレーンを自分から突き放した。

 

「あら……痛いじゃない」


「お前、どうやって……!?」


「この澄んだ水色の海こそ、私。この人間の体は、あなたの警戒心を解く為の仮の姿」


「……この海がある限り、不死身って事か」


「理解が早くていいわね。それじゃあ、勝算が無い事も理解出来るでしょ?」


「……どうかな」


 ユウスケは冷や汗を流しながら、セイレーンに余裕の笑みを見せてみた。現在、前の世界で持っていた【創作】能力を回帰させ、更には新しい能力まで身に着けたユウスケであるが、その二つの能力を完全に制御出来てはいない。おまけに新しい能力である【服従】は、ユウスケの体に大きな負担を抱えさせ、疲労感から手足が震えてしまっている。この状況で勝算があるかといえば、無い。

 だが、それは今この時の話である。言ってしまえば、この体が能力に慣れていない為、負担を抱えているのだ。なので、能力を使っていけば、いずれは体が慣れ、以前のように自在に、以前よりも自由に能力を駆使する事が出来る。

 問題は、その慣れが来る前に、セイレーンによって再び赤ん坊の姿に戻されてしまう恐れがある事。体験したはずのユウスケでさえ、何故自分が赤ん坊の姿に退化させられたのかが理解出来ずにいた。

 なにはともあれ、動かなければ終わってしまう事は目に見えている。最初にユウスケは、創作の能力を使い、手に持つ武器を創作してみた。今の自分が、どの程度のクオリティで創作できるかを試す為に。


「……くっ!」


「あらあらあら」


 出来上がった物は何の変哲もない黒い棒であり、作り出された直後に崩れ去ってしまう。本来であれば剣を想像していたが、やはり体が慣れていない、そしてブランクがある為か、納得のいく出来にはならなかった。


「あの変異体を操る能力の他に、何かおかしな力があるようね。その表情を見るに、失敗したようだけれど……そうだ! 私がお手本を見せてあげるわ!」


「は?」


 そう言って、セイレーンは右手を前に出した。すると、周囲の海の水がセイレーンの右手に集まっていき、やがて水で形成された巨大な鎌となった。


「なっ!?」


「こんな物騒な物を作るつもりは無かったけど、あなたのその驚いた顔を見れたからいいわ。さて、あなたが気になっている事は分かってる。水で出来た鎌なんて、たかが知れてる……なら、試してみましょ。丁度いい相手がいる事だし」


 セイレーンが水の鎌を横振ると、鎌が伸びていき、船の周囲を回っていた安原の首に突き刺さった。


(あいつ! なんで避けなかった!?)


 鎌が伸びてきていたのが見えていたはずだというのに、何故安原が避けようとしなかったか。その原因は、ユウスケにあった。

 現在の安原は、ユウスケの創作の能力で身体が魔改造されている。力はもちろんの事、以前よりも五感が研ぎ澄まされていた。

 問題は、もう一つの能力である服従にあった。この能力は自分の思うがままに他者を操る事が出来る強力な能力であり、能力者が命じる事以外の行動や思考は一切しない。強力な能力であるが、ユウスケはまだ完全には把握出来ていない。

 となれば、今の安原は、海に浮かぶ大木に過ぎなかった。


「上手く刺さったわね! このまま引っ張り上げたいところだけど、私にあの巨体を持ち上げる力はないわ。その代わり、面白いものを見せてあげる」


 すると、セイレーン左腕が水の鎌に吸われていき、伸びた鎌を伝っていく。それが安原を突き刺していた刃の部分にまで達すると、安原の首元が膨らんでいき、内からの水圧に抱えきれなくなった安原の首元が破裂する。


「あら? 叫び声を上げないのね? なんだか拍子抜け」


 セイレーンは伸ばしていた水の鎌を戻し、一度水に戻して、それを使って無くした左腕を生やした。能力を使って好き勝手にやるセイレーン。

 だが、彼女は知らない。一連の能力を観察し、そこから勝算を導き始めていたユウスケの思考回路の速さに。

 セイレーンの能力は水色の海を用いて、物や生き物を作り出し、作り出した物の性質を変化させたり、生き物に意思を宿す。更には自身の体を形成する事も可能で、不死身ともいえる。正に非の打ちどころが無い能力。

 しかし、セイレーンの能力には、一つだけ弱点があった。セイレーンの能力は水色の海を用いる。それは良く言えば水色の海がある限り無敵、悪く言えば水色の海が無ければ、何の能力も持たないただの人だという事。

 

「……覆え」


 ユウスケが呟くと、死んだはずの安原が蘇り、その身を液体に変えて船を覆う球状なった。


「今この船は安原が覆っている。お前の力の源である海の水を拒絶し、この船だけを」


「へぇー、こんな風に工夫出来るんだ。それで? 確かに今のこの状況じゃ、私は満足に能力を駆使出来ない。でも、忘れないで。私の体も、水で出来ている事を」


「忘れてなんかいない。それも計算済みだ。さっきお前が見せた、左腕を生やす際に使った水の量。丁度鎌一つ分くらいか。そしてお前自身が言っていた通り、力はそこまでなく、鎌が伸びていったのは、振りかぶった力とは関係無く、鎌の性質によるもの」


「つまり?」


「つまり、今のお前は、ただの弱い人間だ」


「……フ…フフ、アハハハハ! それが一体何だって言うのよ! まだ能力を上手く使えず、頼みの綱である変異体はバリアにして使えないのに?」


「僕はあいつ程、物覚えが良い訳じゃない。良い訳じゃないが、悪い訳でもない」


「ん? それってどういう―――」


 その時、セイレーンは自身の左腕に違和感を覚えた。何かが蠢いている。自分の体を形成している水に、不純物が混じっている。それが何かを理解する前に、事は起きた。

 セイレーンの左腕が勝手に暴れ出し、主であるセイレーンの意思とは関係無く切り離れた。切り離れたセイレーンの左腕は真っ直ぐユウスケの手元へ飛んでいき、セイレーンが作った水の鎌のように、生物のような歪な鎌となった。

  

「随分と、物騒な仕上がりだ」


「……なるほど、あの時ね」


「そうだ。あの時、鎌は安原の体を貫通し、その刃に安原の肉片と血が混じり込んだ。鎌を使って左腕を修復したのは間違いだったな」


「能力、使えないんじゃなかったかしら……?」


「瞬時に使う事はまだ出来ない。だが時間を使えば、以前のように使う事が出来る。よかったよ、お前が僕の話に付き合ってくれて」


「……フフ。凄いじゃない、ユウスケ。上位者の私をここまで出し抜くなんて」


「だが問題はもう一つある。この体では思うように鎌を振り回す事が出来ない。どう考えても、最終的には僕はお前に負けてしまう」


「そうかしら? やってみなきゃ分からないじゃない」


「いや、既に一通り計算し尽くした。その上で勝てないと言っているんだ」


「じゃあ負けを認めるの?」


「まさか。勝つ為には、もう少しだけ時間が必要だったんだよ」


「時間?……あー、そういう事。また私は、まんまとあなたに」


 セイレーンは、ユウスケの意図を理解した。そして、理解するのが遅すぎた事も。ユウスケはセイレーンとの話の中で、創作の能力に集中していた。

 作り出したのは、今ユウスケが握っている鎌の擬人化であった。鎌にはセイレーンの水が残っており、それを利用して体を形成し、左腕を鎌の刃と一体化させた姿となった。


「今のお前を殺した所で、また新しいお前が生まれるのは理解している。だからこれはリハビリだ、この体が能力に慣れるまでの。付き合ってもらうぞ、セイレーン」

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