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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
二章 砂時計
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勝ち目の無い戦い

今回短いです

 静かな海の中で、セイレーンは赤ん坊となったユウスケと遊んでいた。水の魚を作って螺旋状に回らせたり、弾力のある水球を作ってその上で跳ねたり。それらは強大な力を持つセイレーンにとって、くだらない芸であったが、敵を滅ぼす時よりも生き生きとしていた。

 何より、誰かに自分の力を使うという事が一度も無かった為、新鮮さと充実感があった。宴のような賑やかさとまではいかないが、穏やかで、確かな幸せに包まれた時間が流れていく。


「ユウスケ! こっちに飛んでおいで!」


 セイレーンは腕を広げ、ユウスケが水球の上から自分のもとへ跳ねてくるのを待ち構える。ユウスケは楽し気に笑い声を上げながら跳ね、ゆっくりと回転しながら、最後には手を伸ばしてセイレーンの胸に着地した。

 セイレーンはユウスケを優しく抱きかかえながら、自分の胸で無邪気に笑う愛しい我が子の顔に微笑み、愛しさ故に抱きしめる。


「良い子ね、ユウスケ。私の可愛い子供」


(あぁ……なんて幸福感……これが、母親と子の関係でしか得られない幸せ。それと同時に感じる、独りになってしまった時の恐ろしさ……私の魔法は万能ではない。どんなに強い力でも、必ず穴がある。本人にも分からない程、小さな穴が。だから不意に、唐突に、この幸せな時間は終わってしまう。どれだけ私が拒んでも、いずれこの子は大人になってしまう。)


 いずれ来る終わりを思い、セイレーンの目から涙が流れた。その涙が頬を伝い、ユウスケの頬に移っていく。まるで、ユウスケもこの時間が終わる事を悲しんでいるかのように。

 すると、ユウスケは小さな手を一生懸命伸ばし、セイレーンの涙をぬぐった。


(……そう、いつかは終わりが来る。悲しみと虚無を連れて。涙を流すなら、その時に流せばいい。今はただ……ただ、この子との時間を大切にしよう。砂時計のような、ゆっくりと、そして静かに終わりに向かっていく、この時間を)


 いずれ来る終わりと別れに奪われぬように、セイレーンは愛おしく、恐ろしく、ユウスケを強く抱きしめた。


 その時であった。何者かがこの空間に侵入してきた。とても大きく、確かな敵意をセイレーンに向けた者が。

 気配がする方を見ると、前にもこの空間に侵入してきたカエルの化け物、安原であった。


「またアレか。上位者の恩恵を受けた者にとっては、この空間はただの水と同じだという事か……まぁ、問題はない。私達の邪魔をする者は蹴散らせばいいだけだ」


 そう言って、セイレーンはユウスケを抱きかかえながら、作っていた水の魚に力を宿し、こちらへ急接近してくる安原を襲わせた。

 セイレーンから力を授かった水の魚は鋭い歯を生やし、魚群となって安原の体に噛みついていく。大量の水の魚が安原の体に噛みつき、肉を噛み千切ろうとするが、完全に変異した安原の体は千切れず、噛みついた歯を抜く事すら自分達で出来ずにいた。


「頑丈ね、以前よりも」


 セイレーンは表情一つ動かさず、次の手に移った。今度は人一人分の大きさを持った水球を作り出し、セイレーンが合図をすると、水球は安原へと飛んでいく。

 飛んでくる水球に、安原はただの水の球だと思い、速度をそのままで、水球を突き破っていこうとする。

 しかし、それは誤った判断であった。セイレーンが作った水球は、ただの水の球ではない。水が本来持っていない硬さを備えた水球であった。それは最早、水ではなく、岩であった。

 そうして、安原は水球に正面から激突した。瞬間、鈍い音が響き渡り、安原の体は勢いよく後方へ吹き飛んでいく。水球によるダメージはほとんど無かったが、安原にとって大きな障害の登場であった。

 正面からの突破は困難と判断し、安原はセイレーンの周囲を回りながら、水球が飛んでくるタイミングを計る。

 そして、その時は来た。セイレーンは安原に狙いを定め、水球を飛ばした。二度も同じ過ちを繰り返さぬと、安原はその場で大きく真下に蹴りを放った。

 すると、安原はジャンプしたかのように大きく上に跳び上がり、飛んできていた水球を避けた。


「跳んじゃって……馬鹿ね」


 見事避けたはずの安原に、セイレーンは冷ややかな視線を向けた。それが意味する事は、すぐに起きた。

 突如、安原の頭上から水球が落下し、激突した安原は真下の方へ勢いよく吹き飛んだ。変異化のお陰でダメージは抑えられてはいるが、意識外からの直撃は、安原の体内を大きく揺るがす程であった。そんな中で、安原は自分の身に何が起きたのか理解出来ず、困惑していた。

 しかし、傍から見れば簡単な事であった。ただ単に、セイレーンが安原の頭上に水球を作って落とした、ただそれだけだった。そんな単純な事を安原が思いつかなかったのは、水の魚も水球も、どちらも作られる際、セイレーンの目の前であったからだ。それを目にしていた事が原因で、安原は【能力に範囲がある】と勘違いを起こしていた。

 だが、実際は違う。正しくは【この空間が能力の範囲】であった。範囲があるという事自体は同じであったが、その広さは大きく違う。


「この空間に侵入してきた時から、あなたは負けてるのよ。上位者の恩恵を受けた変異体、弱き人よ」

 

 上位者と変異体。その差は、計り知れない差であった。

次回


「試合に負けて勝負に勝つ」

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