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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
二章 砂時計
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奪還作戦

 人間の友人達の前で自らの正体を明かした安原。このまま人間だと偽ったまま、昇達が大人になっていくのを見守りたかったが、ここで終わりにする事を選んだ。命がけでユウスケを救い、彼らに返す事が、自身の最期に相応しいと信じて。

 

「……コレガ、オレダ……ホントウノ、オレダ」


「本物だ!」


「……エ?」


 しかし、そんな安原の一生の決断を琴音は軽く受け止めた。


「魚人だよ! みんな、もちろん知ってるよね!?」


「い、いや、知らないです」


「僕も……」


「分かんない」


「海の化け物と言ったらこれでしょ!?」


「……タブン、チガウ」


「え、魚人じゃない? じゃ、じゃあ新種の化け物って事!?」


「イ、イヤ……あー、もう! 話し辛い!!!」


 変異化の所為で言語能力が衰えたままでは、今の琴音を落ち着かせる事は不可能だと察し、安原は人間の姿に戻った。 

 だが、それは悪手であった。鱗が剥がれるように人間の姿に戻っていく様を目にした琴音は、更に興奮し、地面に落ちた皮膚をピンセットでつまみ、小瓶の中に保管した。しばらく小瓶の中にある皮膚を興味深く観察していると、皮膚は溶けていき、粘度のある液体と化した。


「溶けた!? こ、これってどうなってるんですか!?」


「一旦落ち着こうか、琴音ちゃん。それと俺の話は聞いていたか? これでも、結構な覚悟で話したつもりなんだけどね」


「聞いてたけどこっちの方が興味深いです!」


「そっかそっか。それじゃあ、あれだ。テントの中で調べてきなさい。好きなだけ」


「やったー!!!」


 おもちゃを貰った琴音は、突風のようにテントへ入っていった。琴音がいなくなった後の静寂は、まるで台風が過ぎ去った後のよう。


「……まぁ、そういう事だ」


「いやいやいや! どういう事ですか!? ちゃんと説明してくださいよヤスさん!?」


「いや、もういいでしょ? なんか、思ってた反応が来ないから拍子抜けしちゃったよ」


「琴音先輩は置いといて、あたしらは全然呑み込めてないんですけど……」


「でも、琴音先輩の気持ち、ちょっと分かる。なんか、変身って感じでかっこよかった!」


「それは確かにそうだ。俺も同じ気持ちだぞ」

 

「……ちょっと怖いって思ったのは、あたしだけなの?」 


 安原の変異化に対し、みんなから意外にも受け入れられていた。そうして、四人は椅子に座り、いつものような賑やかな雰囲気に戻っていた。そんな想定外の結果に、安原は平静を装いながらも、心の中では安堵していた。

 

「あーあ、拍子抜けだ、本当に……ハハ」


「あたしはまだ驚いてるんですけど……」


「そうなの? それじゃあ、気分を落ち着かせる為にも何か飲むかい? インスタントのホットコーヒーか、ホットミルクならすぐ作れるけど」 


「……カフェラテで」


「俺、コーヒー!」


「僕は、ミルクで」


「カフェラテ、コーヒー、ミルクね。雄介君はどうする?」


 四人は一斉にユウスケの席に目を向ける。しかし、当然ながらユウスケはそこにおらず、ユウスケがいない事を目にした四人は、何故ユウスケがいないのか一瞬分からなかったが、すぐに雄介が行方不明になっている現状を思い出した。


「「「「そうだったー!!!」」」」


 思い出すや否や、四人は慌ただしく本題に戻った。


「ヤスさんが変な事するから忘れちまってた!?」


「俺の所為なのか?」


「そうです、ヤスさんの所為です! あんなの見せられたら、考え事が吹き飛んじゃうに決まってるじゃないですか!」


「マモル君まで」


「あんたら少し落ち着きなさい。確かにヤスさんの所為で吹き飛んじゃったけど」


「レイカちゃん、君もかい……まぁ、この際どうでもいい。とにかく、本題に戻ろう。といっても、今から話す事は、到底信じられないと思うけど」


「カエルの化け物になる所を見せられた後じゃ、大抵の事は信じられますよ」


「そうか、そうかもな……それじゃあ、雄介君は今、あの海の中で赤ん坊にされている」


「ごめん、あたしがさっき言った事は訂正させて。やっぱ信じられない」


 ユウスケが赤ん坊にされたという事を信じられないレイカ。マモルと昇はというと、安原の話を信じてはいるものの、上手く呑み込めていないようで、苦い表情で眉間を指でつまんでいた。

 一向に話が進まずにいると、テントの中に入っていた琴音が慌ただしく安原のもとへ駆け寄ってくる。


「安原さん、一つ聞きたい事が! この液体、皮膚って! 液体になる前からこの状態なんですか!?」


「ああ……それが、なんだい?」


「となれば…………北崎君を救う方法、分かりました!」


「……マジで?」


「大真面目です! 安原さんの皮膚はゴムのような性質があります。針で刺してみたところ、簡単に刺さったのですが、抜く事は叶いませんでした。穴を塞ぐように、大勢の民衆が一人の罪人を押し尽くすように。これを利用すれば、海の中にいる北崎君を救えます!」


「話を聞こう。琴音ちゃん、君が考えた作戦っていうのは?」


「私の船には、巨大な海生物を吊り上げる装置があります。その先端にある金具を化け物状態の安原さんの一部に刺し込み、その状態で安原さんは海の中に潜って北崎君を奪還。装置のワイヤーを強く引っ張って、それを合図として、船の上にいる私が装置を起動して一気に船の上に二人を上げる……どうですか?」


「……やれるかもしれないが、その後が重要だ。雄介君を奪還した後、アレが素直に諦めてくれるとは思えん」


「そこからは船を全速力で進めるしかありません……ここが鬼門です、この作戦の」


「……やるしかない。逃げる択しかないのだからな……よし! みんな、貴重品だけを持って船に乗ってくれ! この作戦が終わった後、ここには戻ってこれないからな!」


 安原がそう言うと、四人は頷き、素早く荷物をまとめて船の方へ駆けていった。最後に残った安原は、自身が完全に変異化しても自我を保っていられるように、大量の砂糖を使った砂糖水を作り、それを一気に飲み干した。嫌になるような甘さが体内の隅から隅まで広がっていき、今感じている嫌悪感を覚えておく。


「よし……失敗するなよ、安原……俺がやらなきゃ、みんな海の藻屑になるぞ……!」


 使命感を強く持つ為、自分に言い聞かせる安原。若干の不安を残しつつも、覚悟は決まり、中年の姿からは想像出来ない機敏な動きで船へと走っていった。

次回


「命がけの逃走」

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