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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
二章 砂時計
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赤毛の彼女

 目的地である【魔女が棲む海】に侵入したユウスケ達。ポカンと浮かんでいるように思える小さな島に上陸し、乗ってきた船から荷物を島に降ろしていく。ユウスケを除いて、みんな疲労困憊でいたが、既に陽が落ちかけている現状、テントの設営を第一優先で行う必要があり、ダルさを堪えながら協力してテントを設営した。   

 陽が落ち、夜を迎えると、火を起こす前にみんな眠りについてしまった。疲れからというのもあるが、この場所の異様な過ごしやすさに身も心も預けてしまい、安心しきっていた。

 しかし、ユウスケだけは眠る事が出来なかった。白い砂浜に座り込み、夜の中でも鮮明に見える海を眺めていた。

 

「僕にとって、初めて見る海。写真からじゃない、本物の海。研究施設にいた頃は、こんな風にゆっくりと海を眺める事になるなんて、考えもしなかったな……思えば、僕は外の世界に行く事しか頭になくて、外で何がしたいだなんて考えてなかった。憧れ、夢、希望。そんな言葉ばかりが僕を動かしていた。」


 ユウスケは座ったまま波打ち際にまで動き、穏やかに揺れ動く海に、恐る恐る触れる。冷たさと、どこか人の温もりにも似た暖かさが手の平から感じ、まるで誰かと手と手を合わせているようだった。

 ユウスケは涙を流した。初めての海の手触りに、海の心地よさに。そして、それらを感じられるのは、この世界の北崎雄介の体を借りているお陰という虚しさに。


「……結局、こうなる。前は考えもしなかった。僕が外の世界に出るのも、外の世界の物を食べて飲むのも、誰かや何かに触れる事も、全部……北崎雄介を、犠牲にしなければいけない……無力だ、あまりにも、僕は……外の夢なんて、見なければよかった…聞かなきゃよかった……!」


 外の世界を知ったから生まれた夢と希望。外の世界を知ったから犯してしまった罪の数々。過去の罪を抱え、前を向いて今を生きるには、ユウスケはまだ、若すぎた。


「どうして泣いてるの?」


「ッ!?」


 突然聞こえた声に、ユウスケは驚いた。声が聞こえた方を見ると、足首まで海に浸からせた赤毛の女が、妖しい笑みでユウスケを見つめていた。


「……誰だ?」


「セイレーン。この島に住んでいるの。船がここに近付いてきたから、最初は悪い人が来たのかもしれないって思ったけど……君を見つけた」


「僕を?」


 セイレーンは浅瀬を歩きながら、ユウスケの姿を観察するように眺めてくる。


「……君、少し変わった子だね。私が今見ている君の姿が、君自身じゃないみたい」

 

 セイレーンの言葉に、ユウスケは動揺を隠せなかった。初めて会ったはずの人物に、自身の秘密を暴かれた。何のヒントも無しに、見ただけで。

 すると、少し離れた場所にいたセイレーンがユウスケに近付いていき、彼女の白く細い手で、ユウスケの頬をゆっくりと下へ撫でていく。間近で見るセイレーンは美しく、日本人とも外人とも違う、どこか幻想的な女性だった。

 そんな美しくも不思議な雰囲気を持つセイレーンに、ユウスケは心を奪われ始めていた。


「ねぇ、良かったらお話しない? 私、この海から離れた事が無いから、外の事を全然知らなくて」


「うん……でも、僕も外の事はまだ知らない事が多くて、教えられる事は少ないよ?」


「それでもいいの。何でもいいの。だって、自分の知らない外の世界って魅力的でしょ?」 


「……食べ物が、美味しい」


「そうなのね。どんな食べ物が美味しかった?」


「一杯あるけど……やっぱり、甘い物かな。最近はアイスクリームっていう食べ物が好きになった」


「食べたらどんな気持ちになった?」


「……幸せ?」


「どうして私に聞くのよ、アハハ!」


「僕も、よく分かってないから……フフ」


 セイレーンの笑い声に影響されて、ユウスケも自然と笑みをこぼした。さっきまでユウスケが抱えていた、暗く、辛い気持ちが、セイレーンの姿や声に掻き消されていく。

 今はただ、ユウスケの眼前に広がる海のように、透き通った気持ちになっていた。


「君はいくつなの?」


「16……だと思います。君は―――」


「待って。その後の言葉には気を付けなさい? 若く見過ぎても、多く見過ぎても、酷い事態になっちゃうからね?」


「……23―――」


「んん!」


「……28―――」


「んんッ!」


「……分かんないです」


「そっか……ちなみに正解は、23だよ」


「最初ので合ってたじゃん!」


「アハハハ!」


 自分の話す事全てに真面目に答えるユウスケは、セイレーンにとってからかい甲斐があった。それと同時に、大人らしくいようと無理しているユウスケを子供らしくする事にも楽しんでいた。

 そんなセイレーンの気持ちなど知る由もないユウスケは、ただただ、セイレーンが笑う姿に見惚れていた。

 その後も、ユウスケとセイレーンは話を交わし、陽が昇り始める頃まで笑い合っていた。陽が昇り始め、夜空が徐々に青空へと変わっていくのを見たセイレーンは、ユウスケの頬に両手を当てながら囁き始めた。


「そろそろ還る時間みたい。とっても楽しかった。また、私とお話してくれる?」


「うん……でも、どこに?」


「……私……私に、還るんだ」


 その言葉を最後に、ユウスケは意識を失うように眠りについてしまった。再び目を覚ます頃、辺りはすっかり朝の景色に変わっており、セイレーンの姿は消え、目の前には水色の海が尚も広がっていた。

 突然消えてしまったセイレーンに、喪失感を抱えたユウスケは海を眺めながら、幸せだったセイレーンとの時間を思い出していた。

 そこへ、離れた場所で設営していたテントから昇が起きてきて、未だ眠気を持ったままユウスケがいる場所へと近付いてくる。


「ふぁ~、よっく寝たぁぁぁ……んぇ? 雄介? お前、テントで寝なかったのか?」


「……うん」


「ここは良いなー。俺達がいた街よりも涼しくて過ごしやすいし、久しぶりに熟睡出来たぜ。このままずっとここで暮らしてもいいかもな!」


「……うん、そうだね。僕もここに、ずっといたいよ」

次回


「海での過ごし方」

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