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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
二章 砂時計
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夏の日常とアイス

 季節は夏を迎えた。白桃を思わせる美しき桜は緑となり、虫達が声を鳴らして姿を現す。過ごしやすい春とは違い、夏の日差しが地上を照らし、着ている服が自然と薄着になっていく。生き物も環境も、まるで姿を変えたように。

 そんな夏の日常に、ユウスケは目を輝かせていた。季節が変わるだけで、見えていた外の世界が別物になっていく様に。

 しかし、そんな夏の日常を楽しんでいたのはユウスケだけであった。学校のクラスメイトはおろか、道行く人達も皆、この夏の日常に嫌気がさしていた。

 というのも、今年の夏は過去に類を見ない程の猛暑となっており、今まで過ごしてきた夏の過ごし方がまるで通用していなかったからだ。


「暑い~…!」


「僕…溶け……」


 水で濡らしたタオルを顔に覆わせながら、マモルとレイカが溶けたアイスのように椅子にもたれかかる。暑さだけでなく、全身から湯水のごとく湧き出てくる汗の所為で二人の着ている夏服が肌に密着し、気持ち悪さまで感じていた。


「今、気温何度よ……いや、やっぱいい、聞きたくない……」


「34度だ」


「聞きたくないって言ったでしょ雄介……!」


「雄介君…雄介君は、暑くない、の……?」


「心地良いよ。何も感じられなかった時に比べれば、生きた心地がする」


「えぇ……」


「ハハ…頭ぶっ壊れてんじゃん……」


 ユウスケの的外れな回答に苦笑いを浮かべる二人。すると、教室の扉が勢いよく開き、全身汗まみれの昇が三人のもとへ駆け寄ってくる。手には四人分のアイスが入った袋があり、袋から漂ってくる冷気を感じたレイカとマモルは、水を得た魚のように勢いよく立ち上がった。


「か、買ってきた…ぞ! ア、アイズゥゥゥ……!」


「遅い!!! もっと早く買ってきなさい!!!」


「む、無茶言うな…! この暑さでどこも売ってなくて…三件、回ったんだぞ…!」


「遅いよ昇君!!!」


「マモル、お前もか…!?」


「ご苦労、昇。濡れタオルで汗を拭け」


「雄介~! お前だけだよ、俺に優しいのは!」


 汗水たらして頑張ったにも関わらず、二人に愚痴を言われる中、ユウスケからの優しさに、昇は思わず涙を流してしまう。昇は依然として涙を流しながらシャツを脱ぎ、ユウスケから受け取った濡れタオルで体を拭いていく。


「それで? アイスというのは?」


「あんたアイスまで忘れたの? 人が生み出した食べ物の中で最高傑作と言える物よ」


「ほほぅ」


「雄介君は何食べる? 氷系か、クリーム系」


「残った物でいい。それに、最初に決めるのは昇だ。彼の手柄だからな」


「ゆ、雄介~!!! 神様~!!!」


 ユウスケの溢れ出る優しさに、涙腺が崩壊した昇は半裸のまま、ユウスケに抱き着く。ユウスケは特に気にはしていなかったが、昇の汗の臭いに少しだけ顔を歪ませていた。


「昇!!! 早く決めて!!! じゃないとアイスが溶ける!!!」


「昇君!!! 裸のまま雄介君に抱き着かないで!!! 雄介君が汚れる!!!」


「お前らなぁ!!! 少しは雄介の優しさを見習えよ!!! 俺はお前らの奴隷じゃねぇんだぞ!!!」


「ジャンケンで負けた奴が買いに行くって言い出した癖に!!! ジャンケンで負けたあんたが悪い!!!」


「お前ら全員パーを出すからだろ!?」


「「じゃあチョキを出せ!!!」」


 夏の暑さの所為か、いつもより怒りやすくなってしまう三人。その様子を観察していたユウスケは、袋の中から適当にアイスを取り出し、三人の首にアイスを当てる。


「「「冷たっ!?……アハァァァ……」」」


「議論は後に。今はアイスとやらを堪能してくれ」


「そ、そうだな~」


「冷たくて気持ちぃ~」


「あたしが生きてきた中で、一番幸せかも~」


 三人は首に当たっていたアイスを手に取り、袋から中身を取り出して噛り付いた。


「冷える~」


「冷た~い」


「とろける~」


「冷たい? とろける? あ、味が無いのか? このアイスって物は?」


「そうじゃねぇよ。食ってみろよ、雄介も」


「と言っても、氷アイスしか残ってないけどね」


「しかもカップ系のね」


 三人に勧められ、ユウスケは袋の中からカップ状のアイスを取り出した。カップの蓋にはペンギンが描かれており、文字で「冷たくて美味い」と書かれてある。蓋を開けると、中には細かく刻まれたレモンがアイスの中に埋まっていた。


「ほう、白いな。中にあるのは、レモンか?」


「そうそう。それ結構美味いんだぞ?」


「それで、どうやって食べるんだ?」


「どうって、そりゃスプーンで……あれ?……あ……貰ってくるの、忘れちゃった……テヘ!」


 昇は舌を唇の端から出し、ユウスケにウインクをした。スプーンを貰ってくるのを忘れた事が原因か、はたまた昇の顔にイライラしたのか、レイカとマモルは昇の顔面にパンチを放った。


「ぶへぇぁ!?」


「この大馬鹿野郎!!! なんでスプーンを忘れる!!!」


「雄介君が食べれないでしょうが!!!」


「夏の暑さの所為だよ!」


「環境を言い訳にするなぁぁぁ!!!」


「ごぼぁ!? 二、二度も殴ったな!?」


「殴って何が悪い!!! むしろ殴られて当然でしょうが!!!」


「雄介君! 雄介君も昇君を殴っていいよ!」


 そう言いながらマモルがユウスケの方に振り向くと、驚愕の光景を目にした。ユウスケがカップもろともアイスに噛り付いていたのだ。まるで、リンゴを丸かじりするように。


「……うん! 美味いね、これ!」


「ワ、ワイルドだ…」


「まるでリンゴみたいに食ってる…」


「雄介君が美味しいって思ったなら、いいけど…」


「ん? なんだ? スプーンが無いなら、こうするしか方法がないだろう?」


 三人の視線を気にする事なく、ユウスケはカップに口をくっつけて、舌を器用に使って中身を食べ切った。

 ユウスケがアイスを食べ終えると、ポケットに入れていた携帯から着信音が鳴り、画面を見てみると、アキラからの通話であった。


「すまない、少し離れる。君達も、早くアイスを食べた方がいい。溶け始めてる」


「「「あ!」」」


 ユウスケに言われて溶け始めていたアイスの存在に気付き、三人は急いでアイスを口に咥えた。

 三人を教室に残し、ユウスケは廊下に出て、アキラからの通話に出た。 


「アキラ、どうした?」


『別に。この暑い中、どうしてるかなって思っただけさ』


「どうもしてないさ。今、彼らとアイスを食べていた。知ってるか、アイス?」


『知ってるに決まってるだろ。外の世界の生活に関しては、お前より先輩だそ? まぁ、食べた事は無いけどな』


「あれは美味い、病みつきになる」


『そうかい。楽しそうで何よりだよ』


「……それで? 変異体について、何か分かったか?」


『おいおい、ルールを忘れたか? お前は学生生活に専念して、化け物関連は俺の役割だって事を』


 二人はルールを決めていた。ユウスケは【北崎雄介】として高校生活を過ごす。アキラは変異体についての問題の解決。それぞれの役割を決め、お互いの役割には干渉しないというルールだ。 


「忘れてはいないよ。だが、情報交換というものも必要だろう。さっき君が、僕の学生生活を聞いたように」


『そうかい。だが、期待しているような情報は無いぜ。奴ら、上手い事隠し通しているみたいだ』


「そうか。僕が言っていた店には行ってみたか? カエル男の店に」


『行ったが、誰もいない。というか、空き家だったぞ』


「勘付かれていたか」


『そういうこった。まぁ、懲りずに調べていくさ。それじゃ、また連絡する』


「ああ。今度も頼む」


 通話を切り、ユウスケは教室に戻っていった。教室に戻ると、昇が食べていたアイスのアタリ棒を巡って、三人が再び口論を始めていた。

 馬鹿馬鹿しく楽し気なその光景に、ユウスケは思わず笑みをこぼした。


「三人共! 喧嘩もいいが、僕はアイスをもう一度食べたい。だから、みんなでアイスを買いに行こう」

次回


「遠征計画」

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