相互不理解
またサブタイトル変えました
カエル男を退けた後、突拍子もなく何処かへ駆け出したユウスケの行方をマモルは追っていた。しかし手掛かりも無しに見つけられるはずもなく、マモルは途方に暮れていた。一人だけでは到底捜し出せないと悟ったマモルは、昇とレイカにメールを送った。
【雄介君がいなくなった!】
短い文。しかし、それだけで昇達は動き出した。メールを送ってすぐに二人から返信が返ってきて、一同は駅前で合流した。
「マモル!」
「昇君!」
「また雄介がいなくなったって、どこでいなくなったんだ!?」
「建物が乱雑に建ち並んでいる通りの、路地裏で…」
「路地裏? あんたら、一体どうして路地裏なんかに」
「そ、それが、その……!」
マモルは路地裏で見た事を三人に説明しようとしたが、言い淀んでしまう。皮と骨だけになった死体、カエルのような見た目をした化け物。それらの事を、はたして二人は信じてくれるのだろうか? そんな不安がマモルの体を震わせ、言葉が喉に詰まってしまう。
「マモル」
不安に震えるマモルの体を昇は抑え、目を真っ直ぐと見ながら微笑んだ。
「心配すんな。何があったか知らんが、俺達はお前の言葉を信じる。だから、話してみてくれ」
「…ありがとう、昇君」
「それで実際、あんたらに何があったのさ?」
「……雄介君と歩いていたら、路地裏から悲鳴が聞こえてきて、先に雄介君が路地裏に入っていったんだ。ここにいろって言われたけど、心配になってきて…それで、僕も路地裏に入ったら、雄介君の足元には、人の死体があって……雄介君が、化け物に襲われてた」
「化け物?」
「カエルみたいな顔をした、おっきい化け物……もしかして雄介君、またあの化け物に襲われてるんじゃ…!? 雄介君を捜さなきゃ!?」
二人に説明を終え、その説明から悪い方向に考えが回り、更に不安になったマモルは、一人だけ走り出そうとする。明らかに冷静さを失っているマモルの様子に、昇とレイカは、マモルの腕を掴んで引き留めた。
「マモル、落ち着け! とにかく、事情は分かった…気がする」
「その化け物ってのをあたし達は見てない。でも、危険な目に遭ったのなら、三人で動かなきゃ!」
「で、でも! 雄介君が!」
「あのー、すみません」
三人のもとへ、一人の女性が声をかけてきた。質素な服装を着た、20代後半程の綺麗な女性だ。
「今、雄介って聞こえてしまって。もしかして、あなた達は雄介のお友達かしら?」
「……え~っと、どちら様で?」
「あ、そうですね! ごめんなさい、名も名乗らず。私は園田サキ。雄介とは親戚の関係よ」
「そうなんですか? あいつに親戚なんかいたっけ……あー、ごめんなさい。俺は昇。こっちはマモルとレイカ」
「よろしくね、三人共。それで、雄介がどうしたの?」
「実は…雄介がいなくなったらしくて」
「それは大変! 手分けして捜しましょ! 昇君とマモル君はあっちを。私とレイカちゃんは逆の方向から捜していきましょう! ささ、早く!」
そう言って、突然現れた北崎雄介の親戚だと語る園田サキは、半ば強引にレイカの手を掴んで走り出していった。その速さは凄まじく、通り過ぎていく通行人が、まるで人の形を為していないように見える程であった。
そうして、二人は突風のように街を駆けていき、街にある建物の屋上で足を止めた。
「ここでいいわね」
「…ここ、屋上? なんでこんな所に?」
「高い所から捜した方が、早く雄介君の事を見つけられるでしょ?」
「まぁ、確かに一理ありますけど…でも、流石にこれは……」
レイカは屋上の柵を掴みながら、下を見下ろす。道を行き交う人々の様子は確認出来るが、ここからではユウスケを見つけるどころか、通行人が男か女か判別するのすら難しい。
「雄介がどこかにいたとしても、これじゃあ分からないわよ…」
「……ねぇ、レイカちゃん。雄介とは、どういう関係?」
「え?」
突然の質問にレイカが振り返ると、園田サキは真っ直ぐとレイカを見ていた。会った時はあんなに必死になって捜そうとしていたというのに、今は全くそんな様子を見せていない。
「突然、何言ってるんですか?」
「だから。雄介とはどういう関係?」
「友達ですよ。今そんな話をしている余裕ないと思いますけど?」
「友達? アハハ……アンタなんかが友達になれるはずないじゃない」
園田サキが乾いた笑い声を漏らすと、声色がガラリと変わった。変わったのは声色だけでなく、雰囲気や目付きも。さっきまでの穏やかなお姉さんだった人とは、まるで別人のようだ。
「ねぇ、アンタ達はさ、雄介の事をどこまで知ってるの?」
「どこまでって…そんなの、今は―――」
「知らないんだ! アハハハ! そうだね、そりゃそうだもんね! アンタらなんか所詮、蟻みたいに無数にいる人間の一人にすぎないんだから!」
「…さっきからなんですか。あんたは雄介の事が心配じゃないんですか!?」
「心配? 何で心配なんかするのよ。アンタは餌を捕食するライオンを心配するの?」
「意味分かんない! もういい! あんたに捜す気が無いなら、あたし一人で捜すから!」
レイカは園田サキの態度と言動に腹が立ち、その場を去ろうとする。通り過ぎる瞬間、突然目の前から手が迫り、レイカの首を掴んだ。
その手は細身でありながら力強く、レイカの体を簡単に持ち上げ、園田サキの目の前に持っていく。
「誰が行っていいと言った」
「ぐっ…!」
「自分が理解出来ないものは容易に投げ捨て、弱い癖に強い存在だと見栄を張る。人間ってのは馬鹿な生き物ね……そんな人間に、どうして雄介は!!!」
激情した園田サキは、自身の体を変異させ、背中から四本の腕を生やす。その四本の腕でレイカの四肢を掴み、引っ張っていく。
「がぁぁぁ…!!!」
今まで感じた事も無い激痛から、レイカは叫び声を上げた。その悲痛な叫び声を耳にし、園田サキは引っ張る力を一度緩め、すぐにまた引っ張った。
「アハハハ! 思い出した思い出した! 人間にも一つだけいい所があったわね! その声! 痛くて苦しくて上げる悲鳴だけは、人間の良い所よ! 蟻を潰すよりよっぽど楽しいわ!」
「ぐぁぁ…!!! ぐ、ぐくぅ……!」
涙を流し、激痛に苦しみながらも、レイカは意地から弱音を吐かなかった。歯を喰いしばり、目の前で笑う園田サキを睨む。例えここで無残に殺されようとも、自分の弱っている姿を見て喜ぶ園田サキの思い通りにならないという、せめてもの抵抗であった。
「…なによ、その眼は。アンタらみたいな弱者が私を睨むんじゃないよ!!!」
レイカの睨む眼に激怒した園田サキは、引っ張っていた力を怒りに任せて、レイカの四肢を引き千切ろうとする。
その時であった。どこからともなく現れた白髪の男が、園田サキの顔面を横から蹴り飛ばした。園田サキの拘束から解放されたレイカはその場に倒れ込み、痛みから解放された安堵感からか、意識を失ってしまう。
「ぐっ…! 誰だ!?」
園田サキが飛び起きると、屋上には既にレイカと白髪の男の姿は消えていた。自分の楽しみを邪魔された事で怒り、その影響で、園田サキの体の異形化がますます進行していく。幸いな事に僅かに自我が残っており、自傷行為で怒りを鎮めていき、異形化の進行を食い止め、冷静さを取り戻した。
「ぷはぁ!……ふぅ。ったく、邪魔しやがってあの野郎。せっかくのお楽しみだったのに……まぁ、雄介のお友達を見つけられただけでも十分な収穫ね。あの女の子にはこの顔がバレちゃったけど、また別の顔と人間を演じればいいだけ……雄介、あともう少しで逢えるから。待っててね」
次回
「恩人」




