高校生活始動
自分や世界に起きた変化の原因と解決方法を知るまでの間、【北崎雄介】として生活する事を決めたユウスケ。となれば、ユウスケは高校生として学校へ行き、他の学生達と同様に高校生活を送らなければならない。高校生の勉強程度なら既に身につけており、運動も元の体の持ち主に左右されるが問題はない。普通、もしくは普通以上の生徒になれる自信がユウスケにはあった。
しかし、ユウスケは知らなかった。自分自身が、他人からすれば【変人】である事に。その事に気付く事もなく、時は訪れた。
それは初めてのホームルームで行われた自己紹介であった。ユウスケは廊下側の一番前、つまり一番最初に自己紹介をする。
「北崎雄介。年齢は16で男性。身長は165、体重は50。友人の名前は道雄 昇、住処マモル、レイカ。まだこの体に慣れてはいないが、早い内に慣れて普通になるつもりだ。よろしく」
それは最初に披露される自己紹介にしては、とても細かく、そして癖が強かった。ユウスケ自身は簡略にまとめて上手く出来たと思っていたが、クラスメイトや担任の先生は唖然としている。そんな中、友人として紹介された三人は机に顔を伏せて胃を痛くさせていた。
その後、すぐに授業が始まり、そこでは特に何か起きる訳もなく淡々と時間が流れて、昼休みになった。昼休みになると、忘れていたかのようにクラスメイト達が交流し始め、中には早くもグループを作って食堂へと赴く生徒もいた。
それらを観察し、ユウスケは昼休みが昼食を食べる時間だと理解し、家から持ってきていた食べ物をカバンから取り出そうとする。
「雄介」
名前を呼ばれ、ユウスケが顔を上げると、席の前に昇が来ていた。
「昇か。どうした」
「屋上、行こうぜ」
「…マモルとレイカもか?」
「ああ。嫌か?」
「歓迎したい。それでは、行こうか」
そうして、ユウスケ達はそれぞれの昼食を手に、屋上へとやってきた。屋上には誰も人はおらず、気持ちのいい日差しと心地よい風が吹き、今の彼らが食事をするには絶好の場所であった。
「外で食事をするなんて、初めてだ。ちょっとした感動だな」
「そうか…それは、良かったな……」
「ん? どうした、顔が酷いぞ昇。それにマモルもレイカも」
三人の表情が暗い理由など知る由もないユウスケだったが、その理由を昇が熱く語ってくれた。
「雄介…お前…お前な……自己紹介の癖が強いんだよ! みんなキョトンっていうか、絶句してたぞ!?」
「だ、だが、自己紹介だろう? 名前と体の情報は基本で、交友関係も当然―――」
「いいんだよ名前だけで!!! 警察の取り調べじゃねぇんだぞ!? あと俺らを巻き込むな!!!」
「アタシ、恥ずかしかったんだけど……」
「そ、そうなのか。マモル、君はどうなんだい?」
「ぼ、僕は…雄介君に友達として紹介されて、う、嬉しかった、かな…えへへ」
「マモルはこう言っている。これで2対2。必ずしも僕の自己紹介が間違っていた訳じゃなくなったな」
「でも、みんなからの視線が、ちょっと…」
「じゃあ僕が間違ってたな。すまない」
自分の自己紹介が間違っていた事を理解し、ユウスケは三人に頭を下げて謝った。マモルはともかく、昇とレイカはユウスケに対し少なからず怒りを覚えていたが、ユウスケの非を認める速さに驚き、怒りがどこかへすっ飛んでいった。
「いや、別に謝ってほしかった訳じゃ……あー、もう! 仕方ねぇな、許してやる! レイカも許してやるってよ!」
「いや、アタシ何も言ってない……まぁ、別にいいか。バカバカしいし」
「…いいのか? 僕は間違ってたんだぞ?」
「はいはい、もういいからさ! 早く飯食おうぜ! な?」
長引きそうになるのを予感し、昇はユウスケを強引にその場に座らせ、四人は輪になって昼食を取り始めた。昇、マモル、レイカの三人は弁当箱を包んでいた布を地面に敷き、その上に弁当箱を置く。中を開くと、弁当の中身は三者三様の中身であった。
「わぁ~、昇君のお弁当凄く綺麗に出来てる。バランスも良さそうだし、どれも美味しそう!」
「へへ! 食事は日々の生活に欠かせない大事なもんだ! 自分が食う物は自分で作る、母さんの教えだ! マモルのは…相変わらず茶色一色だな…」
「だって、お肉美味しいし…」
「だからって揚げ物ばっかじゃねぇか。ご飯も入れてねぇし、せめて野菜の一つは入れろよ。そんでもって、レイカ」
「なによ…」
「なんで弁当箱にサンドイッチオンリーなんだよ…」
「なに? 悪い?」
「別に悪かねぇがよ。普通さ、その箱の見た目的に中身はご飯系だろ? これが売り物だったらクレーム待ったなしだぞ」
「アタシの弁当にケチつけんな。ぶん殴るよ?」
「すんません、ごめんなさい。レイカ様の言う通りでございます…」
仲良く会話を交わす三人。その様子を観察していたユウスケは、羨ましく思っていた。今まで誰かと食事をした事も、食事を楽しいと思った事もないユウスケからすると、今の一連のやり取りは憧れていたものであった。
「雄介、お前弁当は?」
「え?」
昇が指摘した通り、ユウスケが出していた物は、飲料が入っているであろう瓶だけであった。
「もしかして、忘れてきちゃったんですか? だったら、僕の唐揚げあげます!」
「じゃあアタシもサンドイッチあげる。味は保証しないよ?」
「じゃ、じゃあ俺は! え~っと、揚げ物とサンドイッチだから…あー……ヒジキ、やるよ」
「ヒジキって…友達が弁当忘れてヒジキだけとか…」
「ヒジキ舐めんな! 美味いし、栄養もある! お前らよか良心的だね!」
「アタシのサンドイッチが悪心的だって言ってんの?」
「違います!」
「……盛り上がっている所、申し訳ない。誤解を解かせてほしい。僕は昼食を忘れてきてはいない。これが、僕の食事だ」
そう言って、ユウスケは瓶を開けて、中身を三人に見せた。瓶の中身は、異様にドロッとした黄色の液体であった。異様なのは見た目だけでなく、瓶の中から漂ってくる臭いもだ。
「……雄介。これ、なんだ?」
「料理はまだ勉強中でな。だから家の中にあった食べ物と思わしき物を液体状にしてきた」
その瞬間、まるで時が止まったかのように、三人は固まった。表情や体を一切動かさず、視線だけをユウスケの顔に向ける。
すると、三人は一斉にユウスケの肩や膝に手を置き、ほぼ同時に口を開いた。
「「「全部あげるからそれだけは飲まないで!?」」」
結局、ユウスケは三人の弁当を少しだけ分けてもらい、持ってきた黄色の液体には口をつけなかった。三人がくれる食べ物全てが、ユウスケにとって初めての食べ物で、ユウスケは初めて食事が楽しいと感じるのであった。
次回
「甘い罠」




