決意
夜の11時を回り、ユウスケは家から少し離れた場所にある【流れ星公園】という、丘の上にある公園に来ていた。公園といっても、【流れ星公園】という看板が入り口にあるだけで、遊具やベンチといった公園にあるべき物は存在しない。
丘を歩いていくと落下防止の柵に当たり、そこからは街の風景を一望出来た。ユウスケは柵に寄りかかり、家から折りたたんで持ってきた一枚の写真を開いた。その写真は、北崎雄介が赤子の時に撮られた写真であった。
写真に写っている赤子の北崎雄介を見て、ユウスケは二つの事実を知った。この世界には【北崎雄介】という人間が確かにいたという事。そんな彼の中に、何故か自分が入り、自分が【北崎雄介】という人間になった事。
しかし、それだけ分かってもユウスケには多くの謎が残っており、その謎を【追求したい】と必死になっている自分に困惑していた。
「どうして僕は、ここまで必死になってるんだ……」
『償って、変わって、外の世界で生きよう』
「……そうか。君が原因か」
ユウスケは、以前の世界の雄介に言われた言葉を思い出した。真っ直ぐで、優しかった言葉。その言葉がユウスケの心に根付いて、自分自身でも気付かぬ内に影響されていた。
「僕は償おうとしているのか? 今まで実験に使っていた被検体と人間の罪に? 勝手に北崎雄介という人間の人生を奪った事に対する償い? そんなの、何になるっていうんだ。例えこの謎を解明したとして、この体の主が元の場所に戻ってくるなんて確証も無いのに……」
ユウスケは口ではそう言いつつも、もしもこの体の本当の主が戻らなかった時の事を考え、不安になっていた。そして不安を覚えている自分にまた困惑し、気持ちを整理しようと能力でタバコを作り出そうとした。
しかし、能力は発動しなかった。ユウスケが考えていた通り、【北崎雄介】という人間に自分が入っているだけ。その為、ゲートや能力といった特異的な力は使えない。ユウスケは、普通の人間になっていたのだ。
「普通の人間か……随分、融通が利かないものだな」
「あれ? 雄介?」
後ろから声が聞こえ、ユウスケが振り返ると、北崎雄介の友人であるレイカと昇とマモルが公園に来ていた。
「こんな夜遅くに何やってんだ? 警察に見つかったら後で面倒な事になんぞ?」
「いや、それアタシらもだから…」
「雄介君、病院に行ったんだよね? どうだった?」
「……」
「おいおい、無視かよ。それとも俺らの事、また忘れたってのか!?」
「心配するな、憶えている。道雄 昇。住処 マモル。レイカ。北崎雄介の友人達だろ」
「なんか、凄い他人事みたいに言うね。まぁ、アタシらの事、憶えてたならいいけどさ。てか、あんたは何でここに来たのよ?」
「…分からない。気付くと、この場所に来ていた」
「そっか…記憶喪失になっても、ここでの出来事は根付いてるのかもね」
「ここでの出来事?」
すると、レイカ・昇・マモルの三人は柵に寄りかかり、ここであったそれぞれの出来事を語り始めた。
「アタシさ、昔、というか今もだけど…家が嫌いなんだよね。それでよく家出してここに来てたんだ。それで、小学校の5年生くらいだったかな? その時に、あんたに会ったんだ。変な奴だったけど、なんか楽しくって、それからここで会う約束をし始めたんだよね」
「俺も俺も! 雄介から急にさ「夜に流れ星公園に行かない?」と言われてさ! いつも急に言い出す奴だったけど、大抵面白い出来事ばっか起きるからさ、喜んで行ったよ」
「初めて雄介があんたをつれてきた時、あんたアタシにビビってたよね?」
「ビ、ビビッてねぇし!?」
「ぼ、僕は、中学校の頃……飼ってた犬が死んじゃって、それでここに来たんだ。独りで泣いて、死んだっていう事実から目を背けてた所に、雄介君が現れたんだ。雄介君は泣いてた僕に優しくしてくれて、僕が泣き止むまで一緒にいてくれた……あの時の事は、今でも感謝してるんだ」
「そんで後日、俺らと出会ったんだよな!」
「最初は二人共怖い人だと思ってたけど、話したら優しかったし、それに昇君が面白かったから」
「やっぱ俺の事を馬鹿にしてるよな? マモルー!」
「ヒ、ヒェェェ!!! ごめん昇くーん!!!」
「否定は肯定と取るぞー!!!」
そう言って、昇は泣きながら逃げるマモルを追いかけていった。あっという間に捕まったマモルは、昇に体を持ち上げられ、物凄い勢いで回されてしまう。そんな彼らを見て、レイカは呆れつつも笑みを浮かべていた。
「またあいつらは……それで、雄介。結局あんたはどこまで憶えているのよ?」
「自分が北崎雄介になったという事だけは分かっている」
「なった? ま、まぁ、いいわ……この公園。特に夜の流れ星公園は、私達にとって大事な場所で、それぞれ決意を決めた場所なのよ」
「決意、というと?」
「昇は自分が思う漢らしい人間になる事。マモルは大切な人を守れる人に。アタシは早く大人になる事。みんな子供らしい理想ばかりだけど、この場所、あんたがいなきゃさ、そんな決意を持たなかったんだよ」
「……同じだな」
「同じ?」
「僕の知ってる北崎雄介も、人に優しさと希望を与える奴だった。例え自分の体や心がボロボロになっても、折れない奴だった……そうだな、僕も決意を持とう」
ユウスケは夜空を見上げ、偶然流れていった流れ星に決意を口に出した。
「真実を突き止める。そして、必ずこの体を北崎雄介に返す。それまで、僕は【北崎雄介】になろう」
「返す? 北崎雄介になる? え~っと、う~ん……まぁ、いいんじゃない? フフ、記憶喪失になっても、あんたはあんたらしいね。変な奴だけど、なんか惹かれるっていうか」
「レイカ。それと昇、マモル。君達にも手伝ってもらう事があるかもしれない。その時は、頼む」
ユウスケは深々と三人に頭を下げた。三人はユウスケが言った言葉の意味をよく理解出来なかったが、友人である北崎雄介の決意を快く受け止めた。
その後、四人は時間を忘れて昔話を語り合い、朝日が昇ってきたのを目にし、慌てて自分達の家へと帰っていった。
次回
「高校生活始動」




