生まれ変わった
サブタイトル変えました
穏やかな風が唐突に放った突風に当てられ、雄介は目覚めた。視界には眩い光を放つ球体と青。雄介は空を見上げていた。
「雄介ー!」
雄介の名を呼ぶ声が聞こえ、後ろを振り向くと、そこには学生服を着た男女の4人グループが雄介を見ていた。その中心にいる褐色の肌が似合う活発な女子が、雄介の名前をもう一度呼ぶ。
「雄介ー! そんな所でなに立ち止まってんの~?」
その言葉を聞き、ようやく雄介は自分が道の途中で足を止めていた事に気付く。別に目新しい物や、珍しい物が無かったというのに。
「今日から私達、華の高校生だよ? そんなんじゃ、クラスのみんなから不思議っ子扱いされちゃうよ!」
「そんなんも何も、北崎は元から不思議っ子だろ? 恵美」
「やめなよ昇君。デリカシーが無さ過ぎて、高校でも彼女が出来ないよ?」
「てか、さっさと行かない? 初日から遅刻とか、笑えないんですけど…」
賑やかにしている4人を雄介は不思議そうに見ていた。きっと彼ら彼女らは、自分の友達なのだろうと。
というのも、雄介は彼らの事など、何も知らないからだ。姿や名前、どこで出会って、どこまでの交友関係なのか、その全てが不明であった。
雄介は4人のもとへ近付いていき、一人一人の顔や体をマジマジと観察していき、少し考えた後に、口を開いた。
「……誰?」
「「「「は!?」」」」
「いや、だから―――」
「雄介!? 何か変な病気になったんじゃ!?」
「お前ッ!? 不思議っ子ってレベルじゃねぇぞ!?」
「僕の事が嫌いになったの!? そうなの!?」
「アタシらの事忘れるとか…アタシ、何かやっちゃった?」
一斉に4人に詰め寄られる雄介。その最中でも、雄介は4人のそれぞれの言葉をキーワードに記憶を探るが、やはり目の前にいる4人の事は記憶に無かった。
それだけではない。この街や景色といった目に見える物、更には自分の事すら、雄介の記憶には無かった。
唯一あるのは、自分が【北崎雄介】であるという事だけ。
「状況を整理したい。君達の名前と年齢、僕との関係を教えてくれ」
自分の名前だけしか憶えていない事が不可思議だという事は明白であった。そこで雄介は4人の詳細を聞き出し、少しでも手掛かりを得ようとする。
4人は自分達が知っている雄介とは少し…いや、大分違う様子に戸惑いながらも、一人ずつ自己紹介をしていく。
「なんだか分かんねぇが…俺は道雄 昇。歳はお前と同じ16で、お前とは幼稚園からの長い付き合いだ!」
「僕はマモル。住処 マモル。16歳で、雄介君とは中学校の時に仲良くなったんだよ?」
「アタシはレイカ。16で、あんたとは小学校からの付き合い」
「私は空野 恵美。みんなと同じ16歳で、雄介とは幼馴染でお隣さん」
一通り自己紹介を聞き、雄介は再び自分の記憶を探り出した。目を閉じ、暗闇の中にあるはずの記憶を見つけようとするが、過去の記憶などどこにも存在していなかった。
「……駄目だ。何も無い」
「そ、そんな…」
「おいおい、冗談も程々にしてくれよ!?」
「君達だけじゃ駄目だ。学校、だったか? そこに連れていってくれ」
「で、でも、今日初めて行く学校だよ? いや受験の時に来たけど、学校に行っても何も思い出せないと思うよ?」
「その時は別の場所に行く。とにかく、自分の身に何が起こっているのかを知りたいんだ」
「あんた、どうしちゃったのさ」
「知る必要があるんだ。ここがどこで、自分の身に何が起きているのか。頼む」
この不可思議な状況を知る為にも、雄介は4人に深々と頭を下げる。自分達が知っていたはずの雄介の豹変っぷりに気持ち悪さを覚えながらも、4人は雄介の頼みを快諾した。
雄介をつれ、学校に辿り着いた一行。新学期、そして入学式というだけあって、沢山の学生達が校庭に溢れかえっていた。早くも部活に勧誘する先輩や、不安に押し負けそうになる者、再会を喜び合う者達。誰もが高校生活を意識していた。
そんな中、雄介は彼ら彼女らを観察し、校舎の外観や校庭の隅にある小さな庭を見ていた。すれ違いざまに顔や体を凝視していく所為か、見られた生徒達は男女問わず、雄介の事を気味悪がっていた。
「……あいつ、間違いなく嫌われたな」
「アタシ、あいつと縁切りたくなってきた」
「で、でも! ほんとにどうしちゃったのかな、雄介君。確かに元から不思議な人っていうか、底が見えない人だったけど、今日は一段と…」
「心配ね。入学式が終わったら、私達で病院につれていきましょ。ほんとに何かの病気にかかっちゃったかもしれないし……って、ヤバい! 雄介が先に校舎に入っちゃった!」
「追え! 追わなきゃ俺達の青春がここで終わる可能性があるぞ!」
「ひ、ひぇぇぇ…!」
「ちょっとあんたら! 目に見えて追いかけたら私達も同じだと思われるでしょ!?……あー、もう! 雄介、あとで絶対にパフェ奢ってもらうわよ…!」
他の人達とは違う不安感を覚えながら、4人は先に校舎へと入っていった雄介を追いかけていった。
その頃、雄介は既に1階から3階の教室内を見漁り、最後に残った屋上へと来ていた。屋上には誰もおらず、独り、雄介だけがこの広い屋上に立っていた。
意識が目覚めた時からある違和感と記憶の欠如。雄介は自分の手を眺め、それが自分の手だと理解するのと同時に、何故か自分の物ではないと疑ってしまった。
「なんだ…一体、なんだっていうんだ……」
ふと、屋上の壁に置かれていた大きな鏡が目に入った。鏡は使い古されており、鏡に映る雄介の姿は、鏡についていた汚れでよく見えなかった。雄介は鏡へと近付き、鏡についた汚れを出来るだけ落とし、近い距離で自分の姿を眺めてみた。
鏡に映った自分を見て、やはり違和感を覚えてしまう。鏡という物を使ったからか、その違和感は目で見た時よりもハッキリとしていた。
「自分の体……でも、別の誰かのようにも思える……北崎…雄介……北崎雄介?」
なんとなく口に出した【北崎雄介】という自分の名前。しかし、その【北崎雄介】という名前が引っかかった。頭の中が蠢くようにザワつき、自分にとって大事な記憶の欠片が思い出せそうになる。
目を閉じ、もう一度暗闇の中を探り出す雄介。【北崎雄介】という名前を頼りに、暗闇の中を探り回っていくと、唐突に暗闇にノイズが走り、ゆっくりと静まっていくノイズから、一人の男の姿が思い出されていく。髪が白い事を除けば、その男の容姿は、自分と同じであった。同じではあるが、別人でもあった。
そして思い出す。自分は【北崎雄介】という存在ではない事に。
「……そうだ。僕は、北崎雄介じゃない。あれは僕が作った存在だ…何故、僕は自分を北崎雄介だと思い込んでいた?……分からない。どうなってるんだ?」
断片ではあるが、自分が【北崎雄介】ではなく、【ユウスケ】である事を思い出せた。しかし未だ不明な点が数多く存在し、それらを解明する為、ユウスケはゲートを通って雄介に会いにいこうとする。
「……ゲートが、開かない? 繋がりが断たれているのか? いや、そんな事は…!」
ユウスケは屋上の中心部分に立ち、右腕を伸ばして雄介を強く想った。だが、やはりゲートは開かない。
そんな所に、遅れて恵美達が屋上に辿り着き、屋上で右腕を伸ばして苦悶の表情を浮かべるユウスケを見て、息が止まった。言葉をかけようにも喉に引っかかり、話しかける事すら出来ない。
しばらくして、大きく唾を飲み込んだレイカがユウスケに声をかけた。
「……雄介。なに、やってんの?」
「ゲートが開かない!」
「ゲ、ゲート?」
「くそっ! どうなってる!? ここは一体どこだ!? 何が起きてる!?」
「あー………とりあえず、さ……病院、行く?」
【人物紹介】
空野 恵美
・16歳 褐色肌の活発な少女 ユウスケとは幼馴染の関係
道雄 昇
・16歳 筋肉質の男子 ユウスケとは幼い頃からの関係
住処 マモル
・16歳 気弱な男子 ユウスケとは中学からの関係
レイカ
・16歳 高嶺の花と不良の中間にいる少女 ユウスケとは小学校からの関係
次回
「新世界」




