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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
五章 全ては幻と消える
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優しさに触れて

 雄介と宮代葉月はネムレス達を倒し、二人の創造主であり、元凶であるユウスケを見下ろしていた。両腕は関節が外れており、流れる鼻血が腫れた顔を赤く染めている。もはや、ソレは創造主というような大きな存在ではなく、踏み潰せば死んでしまいそうな蟻のように、小さな存在に見えた。


「もうお前の駒はいない。お前を味方する奴なんて、いないんだ」


「ぅぅ…!」


 流れる涙が顔に付着した血に彩られ、赤い涙となって頬を伝っていく。偶然にもその赤い涙が、今のユウスケの心境を物語っていた。

 ユウスケが涙を流していたのは、自分が作った戦闘用のネムレスを壊された事でも、全身にとめどなく走る激痛でもない。

 雄介と宮代葉月…この二人の関係に、嫉妬していたからだ。どちらもユウスケ自身が作った存在で、元々の用途も存在理由も全く違う別人同士だ。北崎雄介はユウスケが外の世界で生きる為に作った器。器たる北崎雄介にユウスケが入るまでの警護をする為に作った宮代葉月。お互いが深く干渉せず、分かり合う事など不可能な存在だと思っていた。

 しかし、そんなユウスケの考えを目の前にいる二人は否定していた。お互いを助け合い、認め、確かな繋がりをも築いている。仲の良い友人ではない、愛し合っている恋人でもない。この二人は、体を別にしながらも、一つの存在として生きている。北崎雄介がいるから宮代葉月がいて、宮代葉月がいるから北崎雄介がいる。

 ユウスケはそんな二人の関係に、嫉妬し、恨み、悲しくなった。

 

「……どうして」


「ん?」


「どうして……僕は、ただ…外に……誰か一緒にいてほしかっただけ、なのに…」


「ッ!? てめぇ!!!」


 ユウスケが溢した言葉。その言葉に、雄介は激怒した。


「一緒にいてくれたじゃねぇか! お前を怖がらず、一人の人間として…お前に名前をつけてくれた人間がいたじゃねぇか!!!」


「……北崎」


「そうだ! あの男だけはお前に優しく、人として接してくれただろ!? お前を弟のように可愛がってただろ!? それなのにお前は、お前が殺したんだぞ!!!」 


「……そう、だね…僕は、北崎が好きだった……北崎も、僕を亡くなった弟と重ねて愛してくれてた」


「亡くなった?……まさか、ユウスケって名前は…?」


「君の記憶には無いんだろうね…ユウスケって名前は、北崎の弟の名前で、まだ北崎が幼い頃に事故で亡くなった子供なんだ……北崎も一緒に事故に遭ったけど、怪我が少なかった。でも弟の方は、酷い怪我を負って、手遅れだった……それから北崎は怪我に恐れを抱いて、誰もが怪我を負わない体を持った世界を夢見ていた……それを知ったのは、北崎を殺した後だった」


「……まさか、俺の回復能力というのは」


「そう。北崎の理想が生んだ能力。それが遺伝したんだろう……もっとも、君はその能力を忌み嫌っているようだけどね」


「それも、他人からの授かり物だったのかよ……俺自身の物なんて、この体には無いのか」


「…その気持ち、それだけは分かるよ。北崎が僕に名前をつけてくれた時は嬉しかった…でも、真実を知った時、僕は酷くガッカリした……結局北崎が僕に優しくしてくれたのは、僕を使って亡くなった弟と話す為だった……フフ、結局僕は、誰からも愛されていなかった。人には、なれなかったんだよ…」


 弱り切り、もはや全てを諦めているように見えるユウスケに、雄介はもう怒りを抱いてはいなかった。憐れみと同情。姿だけでなく、抱えている孤独感すらもオリジナルであるユウスケと同じだった。

 

「……やめだ」


 だからこそ、だからこそだった。ユウスケの孤独を理解出来るのは雄介だけであり、その解決方法を知っているのも、雄介だけであった。

 

「お前の気持ちは、俺にもよく分かる。化け物だと自覚している所為で、自分の本性を見せないように他人を拒絶していた。本当の自分を誰かに知ってほしいという欲望を抱きながら……俺達は、矛盾した存在だ。そして原因は、俺達が持つ能力の所為」


「……そうだね」


「だが、だがな! そうやって引き籠ったままじゃ、何も変わらないんだよ! どれだけ環境に恵まれても、どれだけ完璧な人間になっても、その考えを持ったままじゃ何も変わらない!」


「じゃあ、どうすれば……分からないよ……」


「手を取れ! 差し伸ばせないなら、差し伸べられた手を取るんだ! 恐れや不安に苦しむかもしれないが、それは普通の人間だって同じなんだよ! 何かの原因で突然関係が変わるかもしれない、そんな不安を抱えながらも、人は繋がりを持った人と共に進んでいくんだ!」


「出来ない…僕には、出来ないよ……」


「出来る! 俺に出来たんだ、お前にもきっと出来る! 何回でも、何十回でも、何百回でも試してみようぜ! きっとその中で、お前を理解してくれる存在と出会えるから!」 


 拒絶し続けるユウスケに、雄介は負けじと言葉を重ねていく。ユウスケの気持ちをよく知る雄介だからこそ、ここで引く訳にはいかなかった。

 誰かの為に熱くなる雄介。そんな雄介の姿を一歩引いた所で見ていた宮代葉月は、そんな雄介の優しさに惹かれ、花火大会に向かう電車で覚えた胸の高鳴りをもう一度感じていた。そうして、宮代葉月は気付く。自分が何故、監視対象である北崎雄介にここまで惹かれるのか。それは孤独を抱えた存在に、雄介自身と似た境遇の者に手を差し伸べる優しさからであった。どんなに裏切られ、どんなに失敗しても諦めない、雄介の諦めの悪い優しさに惹かれ、好きになったのだと。

 

「俺の手を取れ、ユウスケ。正直、お前を許したとは思っていない。だがお前が変わる事で、俺はお前に対しての恨みは消えるし、お前だって今までの罪の重さに気付くはずだ。償って、変わって、そして外の世界で生きよう」 


「……僕も」


「ん?」


「僕も…変われるかな?」


「ああ」


「君みたいに、強くなれるかな?」


「別に俺は強くなんかないさ。まぁ、なれるんじゃないか?」


「そっか……じゃあ、信じてみるよ。君を信じて、生きてみるよ」


「そうだ、生きてみようぜ」 


 微笑みを浮かべながら、雄介は手を差し伸ばした。ユウスケは苦悶の表情を浮かべながら、関節が外れた右腕を無理矢理動かし、差し伸べられた雄介の手を掴んだ。

 掴んだ手を伝って、雄介の温かさや優しさがユウスケに流れ込み、その心地よさにユウスケの表情が和らいでいく。


「なんだか、凄く温かいや」


「ま、さっきまであれだけ激しく戦ってりゃ、暑くもなるさ」


「雄介君。多分そういう意味じゃないと思うよ」


「フフフ。おかしな話だ。作った側が、作られた存在に教えられるなんて」


「さぁ、こっから出よう。あーそうだ、その前に関節を治してやるか。ほら、立てよ」


「痛い痛い痛い、痛いよ!」


「ハハハ!」


「……」


「ん? どうした?」


「…なんか、変な感じだ」


「何がだ?」


「なんか、意識が遠く……違う……僕の意識が、広がっていく…?」


 その瞬間、世界は瞬く間に白く染まった。人も街も、空も大地も水も消えた。まるで描いた絵を消したように、全てを【白紙】の状態に戻したように。 

次回


「日常」

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