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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
五章 全ては幻と消える
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共同戦線

 四体のネムレスに取り囲まれた雄介と宮代葉月。二人は同時に動き出し、宮代葉月は巧みに二体のネムレスを絡み取り、ゲートで一時的に他の場所へと連れていった。

 これでここに残されたのは雄介と二体のネムレス、そして瀕死のユウスケ。先程よりかは状況が良くなったものの、依然として雄介が不利なままだ。先手を打った雄介のパンチや蹴りといった攻撃はネムレスにかすりもせず、雄介の攻撃のリズムが崩れた所に、二体のネムレスは同時にナイフを用いた反撃に出てくる。扱っているナイフは通常の形状とは異なり、三日月のように曲がっている為、普通のナイフ攻撃ではあり得ない角度からの切りつけや突きが、目まぐるしく繰り出されていく。

 見る見る内に傷が増えていくが、それ以上に集中力が削がれていき、それによってナイフによる傷が深くなってくる。再生能力で治そうにも、ネムレス達は完治する暇を与えてはくれない。


(強い、なんてもんじゃない! 宮代葉月のお陰で二体に減らせたが、俺では一体だけでも手に余る相手だ…! あのナイフさえ何とか出来れば、この状況も少しはマシになると思いたいが!)


 ネムレスのナイフをどうにか奪えないか試してみるが、雄介の予想よりもネムレス達はナイフを巧みに扱い、逆手に持っていたナイフの持ち手を瞬時に変え、雄介の動きに合わせた最適格の攻撃を仕掛けてくる。

 【打つ手なし】とは、まさにこの状況を指す言葉だ。このまま雄介は疲弊していき、ネムレス達によって切り裂かれ、心臓をくり抜かれてしまうだろう。これは予想ではなく運命であり、雄介自身もそう思っていた。

 だからこそ、雄介は一部の望みに賭けていた。ネムレスによって蹂躙される運命の、その先について。

 というのも、雄介は自身の再生能力がどこまでの物か未だに把握出来ていなかった。能力に目覚めた初めの頃は、心臓を抜き取られるか、潰されれば絶命すると思っていたが、雄介は全身粉々の状態から再生出来た経験が二度もあった。

 そこで、雄介は唯一と言ってもいい勝ち筋を考え付いた。それは相手に自分が死んだと思わせ、油断した所を素早く殺す。俗に言う、死んだフリだ。

 しかしこの作戦には三つの不安点がある。一つは、意識が目覚めるまでの時間。二つ目は、意識が戻ってすぐに行動に移せるかどうか。三つ目は、ネムレス達が雄介の能力を雄介以上に熟知している可能性。

 一つ目に関しては、傷を完治させずに、あえて意識だけを戻すだけなら短時間で済む可能性がある。

 二つ目に至っては、雄介自身もそうだが、ネムレスの位置にもよるので、こちらは完全に運次第であった。

 肝心の三つ目だが、雄介はこの不安点を頭の中から抹消した。相手が自分の能力を知っているかどうか考えていては、そもそもこの作戦が成り立たない。だから雄介は三つ目の不安を抹消し、ネムレスが自分の能力を完全に把握出来ていないものだと決めつけた。

 

(上手くいくか? いや、上手くいく! じゃなきゃ終わりだ!)


 意を決し、雄介はヤケクソ気味にネムレス達に反撃し始めた。当然ネムレス達は雄介の攻撃をいなし、足と腕をナイフで切り裂き、ナイフを雄介の顎元へ突き刺して顔を上げ、がら空きになった胴体の心臓部分にナイフを突き刺した。綺麗に雄介の心臓は抉り取られ、その瞬間、雄介の意識は失われた。

 ここで、雄介にとって嬉しい事実が分かった。心臓を取られて間もないというのに、雄介には既に新しい心臓が出来ていたのだ。前のめりに倒れた為、ネムレス達には心臓が再生されたのは見えておらず、雄介の意識も予想よりも遥かに早く取り戻せていた。

 目を少しだけ開き、ネムレスがどこに立って、どの向きを見ているかを目と耳で観察していく。雄介の心臓を抉り取ったネムレスはウットリと心臓を眺めており、もう一体のネムレスはユウスケの方へと歩いていくのを確認した。手足の感覚が戻り、雄介は大きく息を吸って、そして作戦を決行した。

 背を向けて雄介の心臓を見ているネムレスの背後に忍び、ネムレスの口を手で塞ぎながら、ネムレスが持っていたナイフで心臓に深く突き刺す。ネムレス達に言語能力が無いのか、断末魔を上げる事はなかった。

 一体目を片付け、おまけにナイフを手に入れた雄介は、もう一体のネムレスも同じように背後から暗殺しようと静かに近付いていく。


(ここだ!)


 間合いを十分に詰め、確実に暗殺出来る位置についた雄介は、勝利を確信してネムレスに背後から飛びかかった。

 しかし幸運は続かず、殺気を感じ取ったネムレスは振り返りざまに裏拳を放ち、雄介はその攻撃を喰らってしまう。バランスを崩した雄介に素早く近付いてくるネムレス。雄介もなんとか体勢を整えてナイフを使った攻撃を仕掛けるも、慣れない武器を扱った攻撃、しかも特殊なナイフの為、普通に攻撃するよりも隙が多くなってしまう。

 その為、すぐにナイフを持っていた右腕を切り裂かれ、胴体の中心部分にナイフを突き刺され、ネムレスはこのまま首元にまでナイフで切り裂いていこうとする。

 しかし、その途中で雄介にしがみつかれ、ナイフを持った手を動かす事が出来なくなる。ネムレスは雄介を離そうとするも、強くしがみつかれ、おまけに突き刺したナイフが雄介の肋骨に引っかかり、簡単には抜けなくなっていた。

 これが最後のチャンスと思った雄介は、ネムレスにしがみついたまま、ネムレスの首に噛みついた。戦闘用として作られたネムレスといえども、人の形をしている以上、普通は抵抗感で強くは噛めないが、雄介は思いっきり噛んだ。

 噛んで、噛んで、そして喰いちぎった。口の中が鉄の風味がするドロッとした液体で一杯になったが、雄介はその液体を口から溢れ出しながら、また噛んだ。そうして続けていく内に、少量の液体と生っぽい何かが喉を通っていき、それが人の血と肉だと理解した時には、既にネムレスの頭と胴体は離れ離れになっていた。


「ぅっ…ペッ、ペッ! おぇ、うぉぇぇぇ……」


 まるで二日酔いに苦しむ大人のように吐き続ける雄介。そのタイミングで、別の場所で戦っていた宮代葉月がゲートを通って帰還し、雄介が嘔吐している場面に出くわした。


「え? ちょ、ちょっと雄介君!? どうしたの!?」


「ちょ、ちょっと…うぉぇ!? ゲホッ、ゲホッ!……ぅぅ」


「一体どうしちゃったっていうの―――あー、なるほど……帰ったら、美味しい物でも食べに行きましょ。何がいい?」


「今は食べ物の話しないで…オエッ!?」

 

「私的にはね~、中華料理かな? 少し離れた場所にあるけど、そこのお店の料理が美味しくって! 特にチャーシューが―――」


「今は肉の話しないで!? 分かってて喋ってるだろ!?」


「ごめんごめん!」


「ったく…あー、少しは楽になってきた……で? そっちは?」


「もちろん殺したよ、思ったより時間掛かっちゃったけど」


「よし……それじゃあ、あとは」


 二人は倒れたままのユウスケのもとへ近付いていき、怯えと悔しさを混ぜた表情を浮かべるユウスケを見下した。


「ゲームセットだ、神様さんよ」

次回


「優しさに触れて」

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