急成長
雄介は怒りをもって駆けだした。自分勝手な願いから、多数の犠牲者を出し、それらに対して罪悪感を抱かないユウスケに。そして人生を奪い取られる為に生かされていた自分に。それら全てに、雄介は怒っていた。その怒りを乗せた拳を子供の姿のユウスケに、惜し気なく喰らわせた。
「ぐぇぁ!?」
先程までの余裕を持ったユウスケからは想像もつかない、酷くみっともない声を上げて吹き飛んだ。ユウスケが立ち上がろうとした所に、雄介は飛び上がってユウスケの腹部に蹴りを叩き付け、そのまま馬乗りの状態になって、顔面を殴りつけた。何度も、何度も。抵抗しようとする度に床に頭を叩き付け、そしてまた殴り始める。
誰がどう見ても、圧倒的で、悲惨で、とても馬鹿らしい戦いだ。しかし、それを言う者も、止める者も、この場にはいない。
「お前の! 勝手で! 俺は! 俺達は!! 自由に生きられなかったんだぞ!!!」
雄介はユウスケに自分の罪を自覚してもらうように、殴る度に声を荒げた。殺すつもりでいたが、死ぬ直前にでも、少しは自分の罪の重さを理解してほしかったからだ。
しかし、殴られているユウスケは涙と飛び散る鼻血で視界が濁る中、殴りかかってくる雄介の感情が乗った拳を感じ取っていた。空っぽの型に素材を流し込んでいくように、雄介の怒りを全身に駆け巡らせていく。そうすると、次第に雄介に殴られる痛みが小さくなっていき、拳を握る力が確かに増大していった。
力を手に入れたユウスケは、雄介の拳が振り下ろされる前に、雄介の顔を叩いて自分の上から離した。
「ぐっ!? な、なんだ?」
抵抗する力が弱かったユウスケの急な力強さに驚く雄介。振り向くと、ユウスケは自身の体にしがみつきながら立ち上がっていた。
すると、ユウスケの体に変化が訪れた。小さな体は青年の体に成長し、着ていたシャツが筋肉の成長で破れてしまう。成長時の激痛の影響か、肌に血管が黒く浮かび上がり、眼は真っ赤に充血していた。
急激な成長を遂げたユウスケに、雄介はおろか、ユウスケ自身も驚き、そして歓喜した。
「成長……した?」
「はぁ、はぁ、はぁアハハハハハ!!! アッハハハハ!!! で、出来た! 適合出来たぞー!!!」
「どうなってやがる!?」
「君の感情、想いが僕に伝わったお陰さ! 君が僕を想えば想う程に、僕は成長する! より強く、より完璧に! 君のお陰さ、ありがとう!」
「…ふっ、礼なんていらないさ。てめぇから礼なんて言われても、気持ちが悪いだけだからなぁ!!!」
雄介は再びユウスケに殴りかかった。しかし、その拳は簡単に受け止められ、顔面に一発パンチを喰らわされた。
(強ッ!? さっきまでとは、まるで別人の…!?)
よろめきながらも体勢を整えたのも束の間、素早く間合いを詰めてきたユウスケのパンチとキックの連撃を喰らい、更に投げ飛ばされた挙句に、胸に蹴りを振り落とされた。
「グギィィ!?」
胸の骨が砕け、一瞬の解放感を感じた次の瞬間、眼が飛び出る程の激痛が爆発した。激痛で顔を歪める雄介を見下すユウスケは、背筋がゾクゾクとする快感を覚え、もっと感じる為に何度も蹴りを振り下ろす。
砕け散った骨が回復しても、すぐに振り下ろされた蹴りで再び砕け散り、雄介は何度も地獄のような激痛に襲われる。
「痛いか? 痛いよな! 君は人間を使って作ったから、痛覚はおろか、人間と同じ感覚があるからな。生きたい気持ちと死にそうって絶望が同時に来る気持ちはどんなだい?」
「アガッ!? ギグィッ…て、てめぇに、言っても、分かんねぇよ!!!」
胸の骨が治り切る前に雄介は飛び起き、激痛を感じながらユウスケに殴りかかった。やはり簡単に避けられ、がら空きになった脇腹にパンチを当てられてしまい、そこからまたパンチとキックの連撃を喰らってしまう。
まるで風に煽られる旗のように為すがままにやられてしまうが、その最中で雄介はチャンスを見計らっていた。
(一撃一撃、意識が吹っ飛ぶ程の威力だ。だが奴は力を手に入れたばかりで、まだ力を上手く使えていない。必ずどこかで隙を見せる。殴った時に出来た唇の傷が治っていない所から見るに、奴は俺と違って再生能力が無い。隙を見つけ、そこで一気に叩き込む!)
「どうした! まるで無抵抗じゃないか!」
「グガァ!?」
「もっと楽しませてよ! 僕をもっと強くさせてくれよ!」
(腕を振りかぶった! 大振りのパンチが来る! ここだ!!!)
大きく振りかぶったパンチを雄介は屈んで避け、立ち上がりながらユウスケの顎に掌底を叩き込む。グラついたユウスケは後ろに下がっていき、それに合わせるように雄介は前に進み、脇腹や喉元にパンチを当てていく。
立場が逆になりかけたユウスケは反撃に出ようとしたが、考えなしに振るった拳を避けるのは容易く、雄介は殴ってきた方の腕を掴んで関節を外す。その流れに乗って逆の腕も関節を外し、無抵抗の状態になったユウスケの胴体に拳と肘を叩き込んで、最後に助走をつけた蹴りを放った。
「ガハァ!? ア、ガァ……!」
「はぁ、はぁ、はぁ…! 格闘術を教えてくれた百瀬桜に、感謝だな」
「ぅぅ…い、痛い……痛い痛い痛い痛い痛ぁぁぁぁい!!!」
血を吐きながら絶叫するユウスケ。すると、その声を聞きつけた4人のネムレスが雄介の周囲に現れた。全員黒いレインコートを着ており、深く被っているフードで顔は見えないが、その姿は宮代葉月と酷似していた。
「宮代葉月と同じタイプ……戦闘用って事か」
ネムレス達は袖から半月型の小型ナイフを取り出し、戦闘の構えを取る。さっきまでのユウスケとの激闘以上の激しい戦いになる事を予想した雄介は、着ていたパーカーを脱ぎ捨て、戦う意欲を高める為に両腕をブンブンと振った。
(さて、どうすっか…1対4、しかも武器持ちだ。一人一人、丁寧に相手する事は不可能だろう。多少強引にいくしかない。肉を切らせて骨を断つ……やるしかねえ)
「一人相手に四人なんて卑怯ね。せめてこっちにも武器を渡すくらいしなさいよ」
「ハハ、面白い。同族に説教するなんてさ」
「あら、そう?」
「ああ。だが、これで2対4。少しは楽になるな。頼りにしてるよ、宮代さん……宮代さん? え、なんでここにいるの?」
あまりにも自然に紛れ込んできた宮代葉月の登場に、雄介は遅れて気付いた。というのも、宮代葉月はここに来れないと言っていた。だというのに、宮代葉月は当たり前のように来た。
状況が呑み込めず、困惑する雄介に対し、宮代葉月はとびっきりの笑顔で呟く。
「来ちゃった!」
「来ちゃったって……まぁ、今は説明している暇も無い。手伝ってくれるんですよね?」
「もちろん! 雄介君の幸せは私の幸せ! 雄介君の敵は…私の敵よ」
「ふっ。心強いよ……準備は?」
「いつでも」
並び立つ雄介と宮代葉月。二人はお互いの顔を見て笑みを溢すと、周囲を取り囲むネムレス達に飛びかかっていった。
次回
「共同戦線」




