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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
第一部 一章 食人狂
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図書室にヤンデレはいる

 放課後を迎え、帰る準備をしていた時だった。


(・・・嫌な予感がする)


 予感だけではなく、別の視界で映像が映った。過去の記憶ではなく、これから起こる未来の光景のようだ。

 廊下を歩いていると、僕の顔の横から宮代さんが顔を覗かせ「君を連れてくね?」と言い、そのまま光の無い暗闇の中へと連れ込まれてしまう・・・そんな光景だ。


「・・・いやいや。まさか、そんな事―――」


 きっと考えすぎなのだろうと自分を落ち着かせながら廊下へ出ると、階段から宮代さんが下りてきたのを目にし、言いかけた言葉が喉の奥に引っ込んだ。


(嘘だろ・・・)


 宮代さんの視線が僕の方へ移る間際、丁度教室から出てきた5人グループの前に隠れ、そのまま後ろにいる5人グループに合わせて歩いていく。しばらく歩いていき、階段を下りる5人グループとは反対の三階へ上がる。

 三階に上がるや否や、正面にある図書室に入り、隅っこの本棚に身を隠した。念の為、本棚から適当な本を手に取り、顔を覆い隠すように本を見たフリをする。


(なんとか撒いたとは思うけど、油断は出来ない。僕の姿が見えないと知れば、あの人は学校の隅々まで探すはずだ。この図書室に入って来たら、上手く本棚を利用して図書室から出て、そのまま素早く帰宅しないと・・・)


 しかし、相手は宮代葉月。今までのように計画通りに逃げる事は難しいだろう。こっちの考えは筒抜けで、少し目を離しただけで傍に来ている俊敏さも兼ね備えてる・・・あれ? これ逃げられるの?


「落ち着け・・・別に取って食われる訳じゃない・・・と思いたい・・・」


「あ、あの~・・・」


 後ろから声を掛けられ、思わず肩が跳ね上がった。しかし、宮代さんの声とは真逆の自信の無い声に違和感を感じ、振り向くとそこには本田美也子がいた。


「えと・・・本田さん・・・で合ってるよね?」


「ッ! は、はい! 本田です! 本田―――」


「シッ!」


 いきなり大声を出すものだから、咄嗟に本田さんの口を手で塞いでしまった。


「~~~ッ!!!」


「ご、ごめん。でもここは図書室だから静かに、ね?」


 僕がそう言うと、本田さんは何故か蕩けた表情で頷いた。口を塞いでいた手を離すと、手には本田さんの涎が付いていた。咄嗟に口を塞いでしまったから、驚いた拍子に唾液が口から出てしまったんだろう。


「あ・・・ごめんなさい、私の涎が・・・!」


「気にしないで。元はと言えば僕が突然口を塞いだからだし」


「・・・優しいんですね、北崎君は」


「そんな事ないよ。それで、本田さんは僕に何か用があったの?」


「あ、いえ・・・ただ、一度もここへ来てくださらなかった北崎君が来てくれたので、少し興味が出てしまって・・・」


「たまには本でも読もうと思ってね。本田さんはどうしてここに?」


「私、図書委員なんです。今日は私が担当でして」


 そうなのか、と思いながら本田さんをちゃんと見てみた。三つ編みを肩に垂らし、黒縁の眼鏡が似合う誠実そうな顔立ち・・・なるほど確かに図書委員に相応しい。もし誰かに「本田さんは図書委員ですか?」と問われたら、僕は自信を持って「そうです、彼女は図書館です。」と言える。


「それで、北崎君はどのような本をお探しで? 良ければ私が探してあげましょうか?」


 その時、図書室の扉が開く音が聴こえた。本棚から顔を覗かせて入り口の方を見る・・・宮代さんだ。

 宮代さんは顔を少し上に向け、鼻をクンクンと動かしたかと思うと、僕が隠れている方へ顔を向けた。咄嗟に顔を引っ込めたが、微かに聴こえる絨毯を踏みしめる音が徐々にこちらへ近付いてくるのを耳にし、心臓の動きが加速していく。


「本田さん。ここに関係者以外立ち入り禁止みたいな個室って無い?」


「え?・・・新刊や古くなった本を保管しておく部屋ならありますけど・・・」


「今日だけそこに入れてください。すぐそこまでストーカーが来てるんです」


「・・・分かりました、こっちです」


「ありがとう」


 本田さんの案内の下、図書室を徘徊する宮代さんに見つからぬように移動していき、鍵が掛かった部屋の扉を開けてもらい、中に入った。

 部屋の中は本田さんが言っていたように、まだ封がされたままの新刊や紐で結ばれてある古い本が置かれてある。


コンコン。


「「ッ!?」」


「すみませーん。少し聞きたい事があるんですけどー」


 宮代さんだ。ここに入る所を見られてしまったのか?


「・・・北崎君、あそこの隅に隠れてください。私が上手く騙してみますから」


 そう言った本田さんの表情は、先程までの自信の無さそうな表情から打って変わって、自信に溢れた表情になっていた。

 僕は本田さんを信じて宮代さんの相手を任せ、部屋の隅で山積みになった本の後ろに隠れて、隙間から様子を伺った。


ガチャ。


「・・・何か御用ですか?」


「お仕事中すみません。ここに白髪交じりの男子生徒が入っていきませんでした?」


「いえ・・・ここには図書委員しか入れないので」


「・・・おかしいな。少し中を見ても?」 


「・・・駄目です」


「別に本を盗もうだなんて考えてないよ。探している人がいないか確かめるだけだから」


 宮代さんは半ば強引に部屋の中に入ろうとしてくる。相変わらず人の話を聞かない人だな。


「駄目ですってば・・・!」


「少しだけですから。ね?」


 本田さんは扉を閉めようとしているが、押し返す宮代さんに力負けして、閉めるどころか、扉はどんどん開いていく。

 少し本田さんに期待していたけど、相手が悪かったな。もう逃げ道も無いし、ここは大人しく捕まって―――


「駄目って言ってるでしょ!!!」


「ッ!?」


 大人しく姿を現そうとした矢先、本田さんが扉を思いっきり蹴って怒号を発した。驚いた、あんなか弱そうな見た目をしているのに、空気を震わせるような怒鳴り声を上げるんだ。


「ここにあなたを入れる理由も意味もありません!!! ここは関係無い人が入れない部屋なんですから!!!」


 本田さんは畳みかけるように怒号を重ねていく。段々と本田さんの事が怖くなってきたな・・・。


「えぇ!? ちょ、ちょっと待って・・・へぇー」


 宮代さんは僕が隠れている場所を一瞬見ると、すぐに本田さんに視線を戻し、柔らかな笑顔を浮かべた。


「・・・分かったわ。ごめんなさい、お仕事の邪魔しちゃって」


 宮代さんが申し訳なさそうに謝りながら一歩後ろに下がると、本田さんは勢いよく扉を閉め、すぐに中から鍵を掛けた。


「・・・」


「あの・・・本田さん?」


「ッ!?」


 隠れていた場所から出た瞬間、本田さんは鬼気迫る表情で僕の方へ振り返り、僕の口を手で塞ぎながら僕を壁に押し付けた。


「まだ声を出してはいけませんよ・・・! あいつがまだ扉の前にいるかもしれないので・・・!」


 本田さんの荒れた息が顔にかかる近さまで迫られ、小声ながらも内に秘めた怒りを帯びた声で僕に忠告してくる。僕はその迫力にすっかり負かされ、静かに頷くと、本田さんの表情に穏やかさが戻り、笑顔を浮かべた。

 しかし、本田さんは気付いていないだろう。僕の目を覗き込むように見開いた眼が、虚ろになっている事に。

 参ったな・・・こんな目に遭うんだったら、大人しく宮代さんに捕まっていた方が良かったのかもしれない。

次回


「ヤンデレがいる部屋で」

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