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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
五章 全ては幻と消える
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再会

 オリジナルの島から旅立った雄介は3日間海に漂流し、流れ着いた浜から途方もない距離を歩き、背の高い木が立ち並ぶ森の中で足を止めていた。決して迷った訳ではない。研究施設までの道は感覚的なものだが、確かに雄介は分かっていた。

 しかし、辿り着いたのはこの森の中。研究施設はおろか、人工物があるとは到底思えない、自然そのものだ。

 

「ここで合っているはずだ……まだ何か、俺が思い出せない何かがあるのか?」


 考えてみるが、そもそも感覚でここまで来たので、思い出したとしてもそれは感覚的なものとして思い出され、明確な形としては出てこない。

 

「…ま、気長に待つか。あのガキには、急いで殺しに来いとは言われてないしな」


 雄介は、傍に立つ木を背にして座り込んだ。ここまでの道を休む事なく進んできて疲労感も溜まっていたのもあってか、瞳を閉じた瞬間に眠りに落ちた。

 眠りに落ちた雄介の周囲からは鳥の鳴き声や、風で揺れる木々の音が、眠っている雄介の体や心を癒す。

 しかし、その音に混じって、雄介の眠りを阻害する音が一つ、ゆっくりと近付いてきているのを雄介は聴き取った。瞳を閉じたまま、意識だけをハッキリとさせ、その音が近付くのを待つ。

 徐々に音が近付くにつれ、その音が人の足音だと理解し、地面を踏む音が軽いところから、近付いてきているのは女性だと雄介は判断した。足音は雄介のすぐ傍で止み、雄介はその女性が自分に手を伸ばしてきているのを感じ取る。 

 女性の指が自分の頬に触れる直前で雄介は動き始めた。体を素早く起こしながら、伸ばしてきた女性の手を掴み、そのまま勢い任せに女性を押し倒して馬乗りになる。


「……宮代、葉月?」


「…久しぶり、雄介君」


「何故ここに?」


「ねぇ、帰りましょ? きっとみんな会いたがってるわ」


「質問に答えろ。何故ここにいるんだ?」


「長い間、あなたを見失ってた。ねぇ、帰りましょ?」


「どうしてそこまで俺を帰らせようとする? 何か知ってるのか!?」 


 雄介の質問を拒絶し続ける宮代葉月の言動から、雄介は自分が目指している研究施設について彼女が何か知っていると直感した。今まで雄介に対し、隠し事をしていなかった宮代葉月。そんな彼女が自分に何かを隠している事を知り、雄介は怒りと悲しみを覚えた。その感情に憑りつかれたように雄介の体が動き、右腕で宮代葉月の首を圧迫するように押し込む。

 

「雄介、くん…雄、介……」


「……ッ!?」 


 宮代葉月の苦しむ表情や、か細い声を耳にし、雄介は自我を取り戻した。慌てて宮代葉月の上から離れ、感情で動いてしまう自分の弱さに苛立つ。


「ゲホッ! ゲッホ…!」


「また俺は……はぁ」


 咳込む宮代葉月の姿を見て、罪悪感を覚えた雄介は大きく溜め息を吐いた。数秒悩んだ後、雄介は宮代葉月の傍に近寄り、彼女に手を差し伸べた。


「すまなかった」


「…大丈夫、平気よ」


 宮代葉月は雄介の手を取り、雄介は彼女を立たせようと引っ張った。その時、手を取った方とは逆の手に何かが握られているのを雄介は視界の端で捉えた。その手は宮代葉月が立ち上がる程に前に出て、握っている何かを雄介に当てようとしてくる。

 それが何なのか理解する前に、雄介は宮代葉月の手を払い、その何かが自分に当たる前に後ろへ下がって距離を取った。

 後ろに下がって改めて宮代葉月の姿を見ると、彼女の手にはアイスピックが握られていた。その凶器から視線を上に向けていくと、さっきまで笑みを浮かべていた宮代葉月の表情から感情が失われていた。つまり、宮代葉月は雄介を刺すつもりで、雄介の油断を誘う演技をしていた。


「…本気で、刺そうとしたな?」


「…」


「ますますあんたが怪しく見えてきたよ…何か知ってるんだろ? 研究施設の事…いや、俺の事も」


「お願い、雄介君。ここから離れて、家に帰りましょ?」


「俺に帰る家なんて無い。待っててくれた人も……今、いなくなった」


「…どうして…どうして、変わってしまったの? 誰に変えられたの?」


「変わったのは自分の意思だ。変えられたのは、自分に似たガキの所為だけどな」


「……あなたをこれ以上、進ませる訳にはいかない。あなたの記憶から、必要な記憶を削り取る。もしかしたら、全て失うかもしれない。でも安心して? いつだって私があなたの傍にいてあげる」


 宮代葉月はアイスピックを逆手に持ち、前傾姿勢になって戦闘の構えを取った。もはや戦いは避ける事は出来ない状況になり、雄介はパーカーのチャックを開き、動きやすいようにする。

 お互い相手の動きを見計らいながら、宮代葉月は前傾姿勢のまま雄介に体を向けて動かず、雄介は宮代葉月を中心に輪を描くように一定の距離を取って回っていく。

 先に動いたのは雄介の方であった。雄介は地面から生えていた長い植物を引っ張り、そのまま宮代葉月の方へ投げ飛ばす。根っこについていた土が目くらましになり、一瞬だけ自分から視線が外れた隙に距離を詰め、パンチの連撃を繰り出した。

 一発目は宮代葉月の頬をかすめたが、後のパンチは全て躱され、雄介の攻撃のリズムが崩れた所で宮代葉月は一転攻勢に出た。

 アイスピックを巧みに扱い、不規則な動きで突いていく。急所以外なら刺さっても痛いだけで済むが、宮代葉月の攻撃が一度でも自分に通ってしまえば、二度と反撃に出る事は出来ないと雄介は分かっていた。 

 徐々に後ろへと下げられていき、木にべったりと背中がくっついてしまうまで追い詰められた雄介。すぐに離れようとするが、それを許さないと言わんばかりに宮代葉月はアイスピックを突き続け、たまに脇や足に蹴りを放って体勢を崩そうとしてくる。

 宮代葉月の猛攻をいなし続けてきた雄介だったが、脇腹に膝蹴りがクリーンヒットしてしまい、隙を見せてしまった。その隙に宮代葉月は雄介の頭頂部目掛けてアイスピックを振り下ろす。

 すんでの所で雄介は宮代葉月の手首を掴んで止めたが、それを止めると今度は膝蹴りを連続で腹に喰らってしまい、抵抗する力が弱まっていく。


「ぐぐっ…!!!」


「雄介君、諦めて。痛いのは、一瞬だから!」

 

「ぐっ……宮代、さん…やめて…!」


「ッ!?」


 自分に懇願する雄介の弱弱しい声に、宮代葉月は反応してしまった。その所為で力は弱まり、大きな隙を雄介に見せてしまう。このチャンスを雄介は見逃さなかった。

 宮代葉月の力が弱まった事で押し返せるようになり、雄介は押し返すと同時に宮代葉月の後ろへクルリと回り、後頭部に肘を当てた。

 すると、宮代葉月はガクリと大きく体勢を崩し、雄介は彼女を後ろへ投げ飛ばして、そのまま馬乗りになる。アイスピックを持った腕を抑えつける前に左腕を刺されてしまうが、雄介は刺さったアイスピックを抜き取り、大きく振り上げて、宮代葉月の喉元に向けて勢いよく振り下ろした。


『雄介君と逢えて、雄介君の近くに居れて、雄介君を感じられる今、私は生きてきた中で初めて、生きてるって思える…!』


「ッ!?」


 宮代葉月を刺し殺そうとする最中、過去に彼女から言われた言葉を雄介は思い出した。その言葉が枷となり、アイスピックが喉元に突き刺さる前に止まる。


「クッ……グクッ…!!!」


 雄介は血が出る程に強く歯を噛み締め、自分の中にある殺意を抑え込む。


「…ぶはぁ!? はぁ、はぁ、はぁ……!」


 やっとの思いで殺意を抑え込むと、握っていたアイスピックを森の中に投げ飛ばし、宮代葉月の上から離れた。


「馬鹿馬鹿しい……会いたかったはずなのに、今は殺したいと思ってしまった。ほんと、馬鹿馬鹿しい…!」


「雄介君……」


「宮代葉月…俺はあんたを二度も殺す機会があった。つまり俺は、二度あんたに勝ってる。それで、終わりにしよう」


「……フフ。アハハハ!」


「何かおかしな事言ったか?」


「ううん! 雄介君は変わってしまったと思ってたけど…やっぱり、変わってない。その優しさが、何よりの証拠だよ」


「べ、別に優しくなんか……とにかく! 俺は勝ったんだ。知ってる事を話してもらおうか」


「嫌だ。だって、そんな約束してないし」


「は?」


「……なんてね。本当は教えたくないんだけど…雄介君が望む事だもんね……いいわ。私が知っている範囲の事、教える。研究施設への行き方…そして、私の役目も」

次回


「ロールプレイング」

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