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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
四章 記憶のディスク
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ディスク 8

 ディスクの映像が始まると、雄介は鉄製の椅子に座らされ、向かい側には同じような椅子に座るユウスケがいた。部屋の中は薄暗く、二人の間にぶら下がっている電球の明かりは二人だけを照らしている。


「また会ったね」


 雄介との再会に、ユウスケはニッコリと笑顔をうかべながら足をプラプラとする。初めは雄介の存在が認知されていなかったが、もう普通に話しかけられるようになっていた。

 

「まだ思い出せないの?」


「…ああ」


「思い出したくないんじゃないの?」


「…そうなのかもしれない」


 実のところ、雄介は薄々と勘付いていた。今見ているディスクの映像は自身の過去であり、忘れていた記憶の残骸なのだと。

 しかし、それを認めてしまえば、忘れていた記憶の後の、今の自分自身が嘘になってしまう。雄介はそれを恐れていた。

 自分が救えなかった本田美也子、自分と同じく孤独に生きてきた神田理子、自分を弟のように愛してくれた百瀬桜、自分の中にある恐怖を教えてくれた鴉。そして、いつも傍にいてくれた宮代葉月。 

 その誰もが、雄介にとって様々な想いを与えてくれた存在だった。そんな人達からの想いを失う事を恐れている。

 例え今の自分が嘘の自分でも、与えられた想いを失ってしまうというなら、嘘のままでいいと思ってしまう。


「…もういいよ…何も、何も思い出さなくていい…僕は、今の僕のままで」


「駄目だよ。逃げないでよ、僕から」


「お前からは、逃げてなんか…」 


「どうして君だけ外に出れるの? 僕だって外の世界に行きたいのに」


「……僕だって? それって、どういう意味だ? お前は、記憶を忘れる前の僕じゃないのか?」


「そうだけど、そうじゃない。雄介は僕だけど、僕じゃない」


 ユウスケの言葉に、雄介は困惑した。雄介は自分が目の前にいるユウスケと同一人物だと思い込んでいたが、どうやらその考えは間違いだったようだ。頭の整理がつかないまま、ユウスケは雄介に質問をし始める。


「君の名前は?」


「…北崎、雄介」


「それって、ホントの名前?」


「……分からない」


「君の両親の名前は?」


「……分からない」


「小さい頃の思い出は? 小さい頃の写真を見た事がある? 北崎と戸田に見覚えはあった?」 


「……無い」


 当たり前にあるはずのものが、分からない、もしくは無いものばかりであった。


「…いや、一つある。小さい頃の記憶、唯一憶えている。僕の能力だ、再生能力が初めて発症した時の事…そうだ、きっとそうだ! あの出来事が衝撃的過ぎて、それ以外の記憶が薄くなって消えただけなんだ! きっと本当は、他にも思い出があったし、両親の名前だって忘れただけなんだ!」


 半ば強引に自分自身に言い聞かせて作り上げた安堵感で、内から広がる不安感を覆い尽くす。それでも完全に不安感が無くなった訳ではなく、安堵の中に隠した不安感で雄介の体は震えていた。

 そんな雄介に追い打ちをかけるように、ユウスケはどこからともなく一枚のディスクを取り出し、それを空中に投げ、空中に浮かぶディスクから映像が映し出される。

 その映像は、雄介が唯一憶えていた再生能力が発症した時の映像であった。しかしその映像は、自分の記憶とは違う結末を迎えた。

 雄介が憶えていた記憶では、深爪になった爪が元通りに生えてきた記憶であったが、映像に映し出されたのは、深爪のまま、爪の内側から溢れてくる血を見て号泣する自分の姿であった。


「…違う。これは、僕の記憶通りの記憶じゃない…これは嘘だ!」


「そうだよ。これは嘘の記憶だし、君の記憶だって嘘の記憶だよ」


「何、言ってんだ…?」


「もっと分かりやすくしてあげるね」


 ユウスケがそう言うと、映像は別の映像に変わり、今度は鏡に写る雄介の姿が映し出される。鏡に写った雄介には、右腕が無かった。

 すると、雄介の右腕から感覚が失われた。その違和感に気付いた雄介は、自身の右腕に左手を持っていくが、そこに右腕は無かった。


「ぁぁ…うわぁぁぁぁ!!!」


「アハハハハ!!!」


「腕が、僕の腕が、無くなってる!? いや、違う…無くなってた? 元々僕の右腕は、無かったのか? そんな事ない! だって、現にさっきまで確かに……くそっ! どうして思い出せないんだ!!!」


 雄介はあったはずの右腕を思い出そうとしたが、どういう訳か思い出せない。まるで、初めから右腕なんで無かったかのように。


「これで分かった?」


「何がだよ!? 何を分かればいいんだよ、僕は!」


「君の存在が確立された者じゃないって事だよ」


「違う! 違う違う違う!!! 僕は確かに生きてる! 誰かに決められた存在なんかじゃない!」


 すると、また映像が変わり、映像に映った雄介は右腕だけでなく、両足さえも失っていた。その映像と共に、雄介の両足が突然消え、雄介は椅子から転げ落ちて床に倒れてしまう。


「ぐぎぃ……グゥァァァァ!!! ふざけんなぁぁぁぁ!!! ギャアァァァァ!!!」


 羽をむしり取られたトンボのように喚く雄介。その姿を見たユウスケは、純粋に面白がっていた。

 簡単に、当たり前のように、雄介の体や記憶が変えられていく。それは雄介にとって屈辱であった。自分を自分で確立出来ず、他人からは呆気なく変えられてしまう。体も、記憶も。

 

「どうしてだ!? どうしてこんな事をするんだよ!?」


 自分の頭を床に何度も叩きつけながら、雄介はユウスケに尋ねた。すると、無かったはずの右腕と両足が元からあったかのようにあり、自分が五体満足だった事が記憶にあった。

 

「僕をね、殺して欲しいんだ。君も僕を殺したいでしょ?」


 ユウスケの煽る言葉に、雄介は瞬時に立ち上がり、椅子に座っているユウスケの顔面を何度も殴りつけ、細い首を潰す勢いで握りしめた。


「そんなに殺されたいなら殺してやる!!! 今!!! すぐに!!!」


「ア…ガァ………そうだね、その調子だよ」


「ッ!?」


「ここは現実の世界じゃない。ここで僕を殺す事は出来ない。僕を殺したいでしょ? だったら、僕に会いに来てよ。場所はもう分かってるはずだよ、君はディスクの映像の中で観てきたんだから…待ってるよ」


 すると突然、雄介の視界が眩い光に覆われ、空を飛ぶ戦闘機のような勢いで体が上へ引っ張られるような感覚に襲われる。


 その後、背中を強く叩きつけられた感覚を覚え、雄介は現実の世界へと目を覚ました。すぐに能力で酷く痩せ細った今の自分の体を、気を失う前の自分の体に戻し、椅子から立ち上がって外に出た。

 ユウスケを殺す事だけを考えていた雄介であったが、開けた地に無数の風車が並ぶ異様な光景に困惑し、ユウスケに対する怒りよりも勝ってしまった。


「なんだ、この場所? まだ僕は現実の世界に戻ってきてないのか?」


 その異様な光景を見渡していると、風車の群衆の中に立つオリジナルの存在に雄介は気付く。雄介の視線に気付いたオリジナルは、ようやく目覚めた雄介を見て、微笑んだ。


「おはよう、雄介」


「……おはようございます」 

次回から新章です

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