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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
四章 記憶のディスク
39/93

ディスク 3

 定期検査を行う為に北崎が部屋に入ると、ユウスケの姿が見当たらなかった。すると、部屋からすすり泣く声が聞こえ、その声が聞こえてくるベッドの方へ行き、ベッドの下の隙間を覗き込む。

 そこには身を丸めながら、何かに怯えている様子のユウスケがいた。


「ユウスケ? どうしたんだい?」


「…ヒッ…ヒッ…ヒッ…」


 話しかけてみるが反応は無く、視界に北崎の姿が入っているはずなのに、まるで見えていないようだった。

 北崎はユウスケの様子に困惑しながらも、原因を探ろうと部屋の中を見渡してみる。見渡していくと、部屋の隅に人型のぬいぐるみが転がっているのを見つけた。

 ぬいぐるみを拾い上げると、ぬいぐるみの目玉が強引に千切り取られ、中の綿が目の部分からはみ出している。


(目が…どうしてここだけ千切ったんだ?)


 千切られたぬいぐるみの目玉は、他のぬいぐるみと違い、プラスチックで出来ている。その目には、ぬいぐるみを見る北崎の顔が反射されていた。


(……まさか)


 ぬいぐるみを床に置き、北崎はもう一度ベッドの下を覗き込む。ユウスケは相変わらず泣いたままだ。


「ユウスケ、どうして泣いてるんだい?」


「…」


「なんで、ぬいぐるみの目を引き千切ったんだい?」


「…」


「ユウスケ……分かった。無理に聞こうとして悪かったな」


「……目に」


「え?」


「ぬいぐるみの目に映った僕が…僕を殺そうとしてきた…」


 ユウスケの言葉を北崎は理解出来なかった。現実的に考えて、ぬいぐるみの目に反射した自分に殺される訳がないと。

 そう思った瞬間、北崎はユウスケが来る前に見ていた資料の内容を思い出した。以前の施設で、ユウスケは【職員の胸ポケットにある鉛筆が、自分の目の中に入ってきた】という妄想をしていた。

 今回もそれと同じで、内向的が故に、自分が傷付く妄想が現実に起こったような体験をしたのだろう。事前に資料には目を通していたはずだが、実際目の当たりにすると、常人である北崎が理解するには、難しい問題だ。 


「みんな信じてくれない…考えすぎだって、それは妄想だって……でも、じゃあ…あれはなんだったの…!」


「ユウスケ……よし! ちょっと待ってろ!」


 北崎は床に置いていた人型のぬいぐるみを拾い上げ、滅茶苦茶に千切った。最早、人型のぬいぐるみだと認識出来ない程にボロボロになったぬいぐるみを手に、ベッドの下で丸まるユウスケに見せつけた。


「はぁはぁはぁ…! どうだ、ユウスケ! お前を傷付けようとした奴は、僕がやっつけたぞ!」


 北崎は、わざと息を切らして必死さを見せ、ユウスケの不安を消そうとした。怯える対象であるぬいぐるみをボロボロにし、二度とユウスケに危害を与えられないようにすれば、ユウスケから恐怖が無くなると考えた末の行動だ。

 その行動は正しかったのか、ユウスケはゆっくりとベッドの下から這い出て、ベッドの上に座った。前髪で隠れている目は、北崎が持つボロボロのぬいぐるみを見ている。


「…それ、もう動かない…の?」


「え? あ、ああ! 僕がやっつけてやったからな!」


 ぬいぐるみを壊しただけで胸を張る自分を恥ずかしく思いながら、北崎はユウスケの膝の上に壊したぬいぐるみを置く。

 自分の膝の上に置かれたぬいぐるみをしばらく見つめた後、ユウスケはぬいぐるみを持ち上げ、中から溢れ出ている綿の塊を抜き取った。


「どうだ? もうそいつは、ユウスケに悪い事しないだろ?」


「……うん。そうみたい」


「だろぉ!? こう見えて僕はね、学生時代に空手の通信教育を受けてたんだ! 検定準二級だぞ!」


「…そっか、そうなんだ」


「あ…悪い、僕の昔話なんて面白くないよな」


「そうじゃない…これ、本当にぬいぐるみだったんだって思って。あの時、これが生きてるように見えたから…でも、こうして綿が出てるんだし、やっぱりぬいぐるみなんだ」


 抜き取った綿の塊をぬいぐるみの中に戻し、ユウスケはベッドの上に並んでいるぬいぐるみの列に戻した。


「…僕、ずっと間違ってたんだ。今まで見えたものは全部、僕の妄想だったんだ」


「ユウスケ……そうだよ。でも、それは逆を言えば、君はとても想像力が豊かだって事だ」


「それって、悪い事?」


「いやいや! 良い事さ! 天才的な芸術家やアーティストの多くは想像力が豊かな人が多い。きっとユウスケも、大人になったらそうなるさ」


「でも僕、絵が下手だよ? 歌だって、分かんないし」


「ハハハ! いくら天才だからって、初めから絵が上手いって訳ないし、歌だって歌えた訳じゃない! 努力して、楽しさも苦しさも経験して、天才は天才になるんだ」


「うーん…よく、分かんない…でも、分かんないって分かった。何も知らないよりマシでしょ?」


「もちろん! はは、お前はいつまでたっても可愛い弟だな!」


 そう言いながら、北崎はユウスケの頭を撫でた。ユウスケは、自分が北崎の弟ではない為、北崎の言葉に首をかしげた。その後、北崎も自分が口走った言葉に気付き、一瞬暗い表情を浮かべた後、優しい笑顔を浮かべた。


「…ほんと、可愛い奴だ」


「……頭を撫でられるのって、何だか…嬉しい」


「そうか。なら、もっと撫で回してやる! このこのこの!」


「クヒッ! ヒヒヒヒ!」


 北崎はユウスケの首や脇などをくすぐり、くすぐったくてユウスケは笑い声を漏らす。初めて見たユウスケの笑顔は、どこにでもいる普通の子供と同じ、純粋で可愛らしい子供だった。 

 すると、そこで世界が静止し、ノイズが走って今回のディスクの映像が終わった。

次回


「ディスク 4」

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