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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
四章 記憶のディスク
37/93

ディスク 1

新章突入



 雄介は暗闇の中にいた。自分の体が見えず、手や足を動かしている感覚があるが、同時に手や足など無い異様な感覚を覚えている。どうして自分がここにいて、自分がどこにいたのか分からない。記憶の喪失、自己喪失にも陥っていた。

 

(僕はどこにいたんだ…僕はどこで生まれたんだ…僕は、誰なんだ…) 


 理解していたはずの自分の事が分からなくなり、自問自答を繰り返す。そうしていく内に、雄介の目の前に銀色の蝶が現れ、雄介を招くようにユラユラと動きながら、暗闇の奥へと飛んでいく。

 突然現れた銀色の蝶を追いかけていくと、銀色の蝶は、暗闇に浮かぶ一枚のディスクの上で消えた。何かに支えられてる訳でも、上から吊られてる訳でもない、不思議なディスクだった。

 雄介がディスクに触れると、ディスクは暗闇の中に入っていき、雄介がいる空間にノイズが走り、やがて空間を形成していった。

 

 真っ白な部屋に、一つのベッドだけが置かれている殺風景な部屋だ。ベッドに座ろうとしたが、そのままベッドを通り抜けていき、床にしりもちをついてしまう。自分の体がベッドを通り抜けているのを目にし、自分がいるこの部屋が、現実のものではないという事を理解する。

 すると、部屋の扉が開き、そこから白衣を着た男と女が入ってきた。女の方は長い黒髪を後ろで纏め、着ている服にシミやシワが一つも無い所から、清潔な印象を受けた。一方、男の方は髪が全く無いのとは裏腹に、口の周りには長い髭が伸びている。女の方とは違い、どこかいいかげんな所がありそうな印象だった。


「流石に殺風景が過ぎないか?」


「ここはホテルじゃないんです。あくまで、被験者を休ませる部屋にすぎません」


「にしてもな~。せめて、本やぬいぐるみぐらいは置いておこうよ」


「…分かりました。検討してみます」


 見た目から受けた印象通り、男の方は親しみやすい人間で、女の方は真面目過ぎて関りずらそうな人だった。

 この二人の会話から、ここが何かの施設の一部屋で、被験者の部屋になる予定の場所だと分かった。雄介は自分の姿が見えているのかを確認する為、二人の前に立つが、どうやらどちらも雄介の事を認識出来ていないようだ。


「…しかし、本当に始まるのか」


「今更何を言っているんですか? この研究の立案者は、他でも無いあなたなんですよ? 北崎先生」


(北崎…僕と同じ、名字だ…) 


 自身と同じ名字な所為か、雄介は北崎と呼ばれる髭の男に少しばかりの親近感を覚えた。


「確かに僕が研究をしていた事だよ。でもそれは、あくまで仮説と空想。つまりはお遊びだったんだ。それがたまたま上の者に興味を持たれて、こうして責任者なんか似合わない役割を押し付けられたんだよ」


「助手になって初日ですが、あなたが責任者に向いていない事は分かりました」


「ハハ…戸田さんも、結構キツい性格の女性だという事が分かったよ…まぁ、仲良くやろう! 僕らが険悪な関係じゃ、これからこの部屋に来てくれる子に気をつかわせてしまうからね!」


 北崎と戸田。性別も性格も違う、一見あいまみえないこの二人の会話に、雄介は思わず笑ってしまった。  

 しかし、雄介はますます疑問に思ってしまう。この二人は何の研究をしているのか、被験者とは誰なのか…どうして自分が、この場にいるのか。


「そういえば、あの子は三日後に来るんだっけか?」

 

「はい。午前10時にこの施設に到着する予定です…北崎先生、資料を見ましたか?」


「流石に資料くらいは目を通すさ。これでも一応、仕事熱心なんだよ、僕は」


「そうではなくて…被験者についての事です」


「え?……あー、そうか。確かに資料を見る限り、難しそうな子だったね」


「性格は極めて内向的で、様々な精神病を患い、特に自閉症が酷く、職員が胸ポケットに入れていた鉛筆が視界に入っただけで暴れたとか」


「その鉛筆が目に入ってきた、と言ったらしいね。しかも味のついた食事は受け付けず、ほぼ無味の栄養食ばかり食べている」


 これから来る被験者の特徴に、北崎は顎に手を当てながら考え込み、戸田はこめかみを人差し指で掻きながら顔をしかめた。


「研究を円滑に進める為には、まずは信頼関係からだね。幸い、あの子についての情報は資料に載ってる…と言っても、実際会ってみると、資料に無い問題点があると思うけど」


「面倒ですね…」


「いや、僕はそう思わないよ。むしろ楽しみだ。資料に載っていない新しい面や、どんなお話をしてくれるのか」


「私は逆ですね。子供って、思い通りにいかないから苦手なんです」


「ハハ…やっぱり戸田さんは、キツいね―――」


 そこで突然、二人は静止し、部屋の中にまたノイズが走った。しばらくすると、また暗闇の中に雄介は立っており、戻ってきた雄介を銀色の蝶が出迎える。

 

(今のは、なんだったんだ? 幻、にしてはリアルだった…それに、何故か懐かしい感じだった)


 さっきまで見ていた真っ白な部屋や、北崎と戸田という二人の人物。記憶に無いはずなのに、そのどれもに奇妙な懐かしさがあった。

 すると、雄介の前を飛び回っていた銀色の蝶は暗闇の先に進んでいき、また雄介を招いているようだった。


(…ここがどこか、あの奇妙な体験に何の意味があるのか…あの蝶についていけば、分かる気がする。何故だか、そう思える)


 自分が今いる場所や状況、蝶が見せる奇妙な体験の意味を知る為、雄介は銀色の蝶を追いかけていく。

次回


「ディスク 2」

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