少女の願い
オリジナルは空を見上げた。雲一つない、青く輝かしい空を。忘れていた色の美しさに胸がトキメキ、直視出来ない眩しさの陽の光の温かさを身に受ける。
「…温かいな」
眠っている間、つまり死んでいる間、オリジナルは闇の中に閉じ込められていた。母親の異常な愛情によって現世に無理矢理繋ぎ止められ、ただ独り、暗闇の中で誰かが来てくれるのを待っていた。時折聞こえてくる母親の声、怒った口調で悪口を言ってくる父親の言葉に耳を塞ぎながら。
そんな時、オリジナルの体の中に確かな人の温かさが宿った。まるで、自分の中に他の誰かが入って来たかのように。宿った温もりを感じると、自分と同い年くらいの男の子の姿が記憶に浮かんでくる。
その男の子の事を知らなかったオリジナルだったが、浮かび上がった記憶から名前が思い出された。【北崎雄介】。自分の中に宿った温もりは、雄介のものだと理解すると、オリジナルの体は再び動き出し、果てしなく続く闇に、眩い光が差し込んで目覚めた。
「もう一度、こうして青空の下で生を感じられるのも、雄介のお陰」
胸に置いた手の平から感じる高鳴りに嬉しさを覚え、オリジナルは雄介が待つ家へと足を進めた。
家に着くと、二階の窓から雄介が外の様子を虚ろ気な眼で見ていた。オリジナルは周囲の瓦礫を集め、それを階段にして上っていき、二階の窓の前に立った。
オリジナルが目の前に来ても、雄介は表情一つ動かさず、虚ろな眼で前を見ている。窓を能力で壊し、尚も虚ろな眼をしている雄介の頬に、オリジナルはソッと手を当てた。手の平に感じたのは、あの時、暗闇の中で宿った温もりと同じもの。
「雄介」
「…」
「もう喋れなくなっても、動けなくなってもいい。でも、この温もりだけは失わないで。これは私とあなたの、繋がりなんだから」
部屋の中に入り、オリジナルは雄介の横から抱き着き、外の景色を一望する。自然に囲まれ、その先には海があり、人の生活音や声が全く聞こえない。オリジナルと雄介、二人だけの世界。
「ここに来るまでに一ヶ月か…こんなに良い村を見つけられて幸運だった。きっと、神様も私達を祝福してくれてるのよ。私がみんな殺したから、ここにはもう誰もいない。明日までには、この村に残った物も思い出も、全部壊すから…それでようやく、私達だけの世界が完成する」
オリジナルは手を伸ばし、視界に入る村人達が使っていた建物を粉々に壊し、瓦礫となったものを使って、辺り一面に風車を作り出す。
「私、風車が好きなの。人が楽をする為に利用する風車じゃなくて、風でカラカラと鳴る風車。回る速さや、カラカラ音の激しさで、風の感情が分かる気がしてね」
辺り一面に作った風車は、色々な物が混じって歪ではあったが、穏やかな風に煽られて回っていた。穏やかな風の気持ちを乗せた何百もの風車の音は、離れた場所で耳を澄ますオリジナルに届く。
「……優しい音。雄介もそうだと思わない?」
「…」
抜け殻のようになった雄介に、風車の音が聴こえているのか定かではなかった。しかしオリジナルは、雄介が微かに笑っていると勝手に思い、自分と同じ気持ちになってくれた事に、雄介への愛が深まった。
「そう、雄介も。そうなのね、そうなんだ。嬉しいな、私と同じ気持ちになってくれて」
すると、オリジナルは雄介を車椅子から起き上がらせ、背中に背負った。一カ月もの間、何も食べていない雄介の体重は激減して、頬は痩せこけ、痩せた体には骨が浮かび上がっている。力の弱いオリジナルでも簡単におんぶ出来てしまう程に軽かった。
オリジナルは雄介をおんぶしながら外に出ると、風車に囲まれた原っぱの中を歩いていく。
「私ね、弟が欲しかったの。私の孤独を、分かってほしかった…こうやって外を一緒に歩いてくれるだけで良かった。だから今、とっても幸せ」
「…」
「百瀬の血は雄介には流れていないけど、私の中に雄介の血や臓器、全部がある。私と雄介は肉体的にも、精神的にも繋がっている…私達は家族なのよ。特別な…家族」
「…」
「雄介も私も、もう死ぬ事は無い。永遠に二人だけでここに暮らせる。特別な事なんて起こらなくていい。こうして散歩して、一緒に笑って、一緒に眠って、一緒に起きる…そんな、普通な日常でいい」
常人から見れば、二人は人の常識から外れた特異な存在。そんな二人を同族だと受け入れる事など不可能で、オリジナルもそれを望んでいない。自分達の事を恐れるなら恐れてもいいし、敵となって襲い掛かってくるならば破壊するだけ。ようやく掴んだ幸せと運命の人、その両方を誰にも失わない、失いたくない。それがオリジナルの想い。
辺り一面で花のように咲く風車の中、オリジナルは歩く。その背には、自身を孤独から救い出してくれた雄介。
穏やかで小さな幸せに包まれた世界に、仲睦まじい姉弟がいた。
・人物紹介
【人物】オリジナル 女性 年齢16歳 172cm
【外見】ショートカットの黒髪。宝石のルビーのような赤い瞳。美しさと儚さを感じる容姿。
本物の百瀬桜であるが、人間の名前と百瀬の名字を嫌っており、オリジナルと名乗っている。
【過去】母親の重すぎる愛、父親の重圧に耐えかね、10歳の時に能力が開花したが、その強すぎる能力の影響で自身の体が壊れてしまい、死亡した過去がある。
【能力】物体を自由自在に破壊出来るが、その反動で自身の体も破壊されるデメリットがある。雄介からの移植によって、雄介が持つ回復能力が備わり、デメリットが解消された。
更に元々持っていた破壊能力が回復能力に影響され、壊れた物体を自由自在に変化出来るようにもなった。




