オリジナル
今回から三人称になりました。あとサブタイトルもそうですが、章タイトルも変えました。
色々と変更してしまい、申し訳ございません。
第二隔離室の【オリジナル】が目覚めた。既に死人となったオリジナル【百瀬桜】を蘇らせる、倫理に反した研究は、立案者である百瀬華美をはじめ、研究員一同、生涯の全てを注ぎ続けていた。
そして、8月1日。遂に彼らの悲願は達成された。一度は死んだ人間を再び現世に呼び戻したのだ。この愚かで歓喜な成功に、研究員達は資料を空に舞いあげて感動する…はずだった。
『現在、オリジナルは地下三階にまで侵攻中です! 第三部隊は壊滅! 至急応援を―――』
「どうした、応答しろ!? くそっ!」
目覚めたオリジナルは、自身の生みの親である百瀬華美を殺害後、研究施設内に配備されていた特殊部隊を蹂躙しながら、地下へと進んでいた。通信室にあるモニターから、オリジナルの現在の状況を確認しようとするも、オリジナルの姿が映る瞬間にカメラを破壊されてしまう。薬により強化された兵士30人で構成された特殊部隊も、既に全体の4分の1もの死者が出ていた。
パニック状態となった通信室内。そこへ、黒いコートを羽織った40代後半の男が、扉を蹴り開けて入ってくる。
「これは一体何の騒ぎだ!」
この男の名前は百瀬隆文。百瀬家の当主であり、死んでしまった百瀬華美の夫である。
「隆文様!? いや、実は―――」
研究員の一人が隆文に事態の説明をしようとした矢先、モニターに映った自身の娘である、オリジナルの姿を目にしてしまう。
その瞬間、隆文は目を大きく見開いた。周囲の騒々しい音が消え、無音の中、モニターに映る自分の娘から目が離せなかった。
カメラの存在に気付いたオリジナルが、モニター越しに隆文と面会すると、表情を動かさないままカメラを壊し、モニターに砂嵐が流れる。
「……なぜ…どうして、アイツが動いているのだ…説明しろ!!!」
「ヒッ! さ、桜様は、我々の研究によって蘇りました…!」
「だがずっと成果は無かったじゃないか!!! それがどうして!!!」
「の、能力者が、協力をしてくれたお陰で…!」
「能力者? あの車椅子の男の子か? そんなまさか…他にもいるというのか、アイツのような化け物が…!」
「協力者である北崎雄介君は驚異的な再生能力の持ち主で、桜様の機能停止されていた体内の組織を彼から移植しました…お陰で、桜様はもう一度目を覚ます事が出来たのですが…」
「アイツの能力は自身の肉体にも影響があるはずだぞ!? だが映像に映っていたアイツは無傷だったぞ!?」
「お、おそらく、雄介君の能力が遺伝されたと思われます…!」
「余計な真似を!!!」
「あがぁ!?」
キレた隆文は、説明をしていた研究員を拳銃で撃ち殺した。しかし、通信室にいる他の研究員は気にもせずに事態の収束に努め、拳銃を撃った張本人である隆文も特段気にする事無く、慌ただしく動き回る研究員達を押しのけながら、とある場所の前で足を止めた。
その時、通信室内にいる全員が隆文の方へ視線を向けた。隆文の前にある装置は、第一隔離室のロックを制御する機器である。
オリジナルが隔離されていた場所は第二隔離室。しかし別の場所にも、隔離室は存在し、それはオリジナルである百瀬桜のクローンが保管されている第一隔離室である。
「あの化け物は周囲の物体を破壊する能力者だ…特殊装備では歯が立たない…ならば!」
「し、しかし! 第一隔離室に隔離しているクローン達は、まだ制御出来てはいません! 成功例はたったの一体しか!」
「オリジナルといえども、自身のクローンである存在、そして圧倒的な数には勝てまい! 好都合な事にオリジナルは第一隔離室付近にいる!」
「隆文様!!!」
「これで全てにケリがつく!」
一人の研究員が止めに入ろうとしたが、既に遅かった。隆文は第一隔離室のロックを解除し、中で眠っているクローン29体全てを目覚めさせた。
その頃、第一隔離室付近にまで近付いていたオリジナルは、目の前に現れる特殊部隊を破裂しながら、自身が押している車椅子で放心状態と化している雄介に話しかけていた。
「さっきはごめんなさい。目覚めたばかりで言葉を思い出せなかったの。ようやく会話が出来る程度には戻ってきた。改めて、はじめまして雄介。私は百瀬桜…いいえ、オリジナル。こっちの方が、前の名前よりも好きになれそう」
「…」
「あなたのお陰で、私はこの能力をリスク無しで扱う事が出来る。これでようやく、私の復讐が叶えられるよ。ありがとう、雄介」
「…」
「復讐を終えたらどうしようか。どこか二人で静かに暮らせる場所にでも行く?」
「…」
「フフ。体は治せても、心の傷は治せないみたいね。いいわ、待っててあげる。あなたは特別だから」
そう言って、オリジナルは雄介の真っ白になった髪に触れ、精神的にダメージを負っている雄介を愛おしく撫でた。
血に塗れた道を進んでいくと、明かりの無い道の先から、オリジナルのクローンである女の子が暗闇の中から続々と姿を現した。人工的に造られたクローン達は、オリジナルよりも暗い赤眼を持っており、調整前の体の為、皮膚や体の一部がどんどん剥がれ落ちていく。
「アイツ」
「オリジナル」
「ワタシタチノ」
「オリジナル」
「コワシテ」
「ワタシタチガ、オリジナル」
ノイズが混じった声でクローン達は行動を伝達していき、オリジナルと同じ能力を使用した。29体分の能力の威力や範囲は凄まじく、一瞬の間に地下三階から地上にかけての約1000mが消滅した。その影響により施設内では大きな揺れが起こり、ほぼ全ての電子機器が沈黙してしまう。
「ぐぅぅ…!…この威力、クローン達だな! やったのか!?」
隆文は通信室内にいる研究員達を撃ち殺し、嬉々として通信室から出ていく。所々ヒビや穴が出来た通路を気にもせずに走り、施設の受付場へと赴く。
受付場に着くと、床全体が陥没しており、巨大な穴が出来ていた。
「やった…やったやったやったやったぞぉぉぉぉ!!! 遂に俺は、過去から解放されたんだぁぁぁぁ!!! アッハァ!!! アハハハハ!!!」
巨大な穴を見て、オリジナルもクローンも、自身の妻である百瀬華美が消え去った事に、隆文は声を荒げながら歓喜した。
「あんな化け物として産まれた奴を娘だと思ってたまるか!!! 例えクローンだろうが、俺には今の桜さえいればそれでいい!!! アイツも他のクローンも、そして華美も死んだ!!! これで俺は、ようやく鬱陶しい過去から解放され―――」
両腕を高く掲げた所で、隆文は破裂した。死んだ事を理解出来ぬまま、再びの絶望と過去が戻ってくる事を知らぬまま、死ねた。
穴の底から瓦礫が浮き上がり、形成された足場の上には、オリジナルと雄介がいた。二人はクローン達の能力によって確かに消滅したが、雄介の能力である驚異的な再生能力によって、再び肉体を宿して生きていたのだ。
オリジナルは雄介を抱え、形成した足場を歩いていって出口へと向かっていく。扉を開けると、長い眠りから覚めた事を祝福するかのように、陽の光が二人を照らす。
「過去は消えて、これで私は自由……私と雄介の、新しい人生が始まる」
次回
「日常」




